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閑話・お姫様とドラゴンのお話

「てやー」

「おっと、まだまだ甘いぞ」


十年以上前のことだ。まだアレクシアとフランツが皇太子殿下とは無関係の私生児だった時代。夫婦間の仲は良好だったが皇太子殿下と奥方の結婚には幾多の困難が待っていた。そんな時に俺が出会ったのはまだまだ幼く可愛らしいアレクシアだった。


「剣の道は一日にしてならずだ、とことんやろう」

「うん!」


小さな頃から活発だったアレクシアに皇太子殿下のパーティで出会った俺は国王陛下の口利きもあって彼女の面倒を見る事が何度かあった。貴族から腫れ物のように扱われる彼女を見かねての事だったのだろう。人に物を教える事などそのときは余りに久しぶりで結構熱が入った記憶がある。長期滞在で何ヶ月も逗留した際に出会った事は貴族社会に飽き飽きしていた俺にとっても幸運だった。

そしてなにより純粋で熱心な彼女は教える側にとってもとても楽しく、教える側としては彼女ほど教え易い者もいなかったと思う。


「剣はこう受けて、こう返す。理屈じゃなく体で覚えるんだ」

「はいっ!」


受け、流し、捌く。斬る、突く、薙ぐ。構える、踏み込む、振り下ろす。単純な型稽古から掛かり稽古まで連続して行う内に騎士の目に止まった。


「なにやら不思議な剣をお使いになるとか・・・一手ご教授願いたい」


騎士達は大身の出も多かったにも関わらず剣に熱心で鍛錬に熱心だった。それ故幼くして両手に豆を作りながら頑張るアレクシアに好意的に映ったようだ。最初は憐れむ者も多かったが次第に彼女の熱心さに心を打たれ、徐々に仲間が増えていった。


「それでは・・・きぇーっ!」

「こうきたら、こうっ!」

「なんと!・・・ぐぇっ?!」


手加減したとはいえ彼女は若干六歳にして騎士の剣を捌き反撃する事ができるようになっていた。


「木剣でなければ死んでいた・・・いやはや子供の成長というのはどうして早いですな」

「いえ、今度は本気を出してもらっても捌けるようになってみせます!」

「はっはっは!恐ろしいですな、此方も鍛錬は怠りませんぞ」


窓の外から見守る視線が増え、鍛錬に加わる騎士が徐々に増えた事でアレクシアの問題が徐々に浮き彫りになっていった。


「ゲオルグ将軍、彼女をこのまま私生児として埋もれさせるのはよろしくないのでは?」

「おお、リットナー団長殿もそう思うか・・・国王陛下も皇太子殿下も心を痛めておられるが・・・」

「うぅむ、貴族の馬鹿者共が皇太子殿下とリッチモンド男爵令嬢の恋を快く思っていない様子だ」

「お陰であの兄妹は器に見合わない境遇で屈辱の日々を過ごしておられる」


軍・騎士団の間で皇太子の結婚問題についてちょっとした運動が起こる。奇しくも俺が行方知れずになっていた期間での出来事である。


「いっその事アダムスター伯の息子に嫁がせてはどうか?」

「ワシも考えたが先の遠征の折に行方知れずになってしまったとか・・・」

「領地も今大打撃を受けてそれどころではないだろう」


将軍達も内政の事ゆえに歯がゆい思いをしていた。そんな時である。俺は偶然にも陛下と接触する機会があったのだ。それはフィゼラー大森林に国王陛下が向かう際の出来事である。

サマル王国では何年かに一回魔物を狩りにいく王族の催しがあり、軍と連携して物事を行う演習のようなものだ。その際に森の魔物を頭から齧っている俺と出くわした。

感動の再会と行きたかったが魔物感満載のシーンだったので勘当の再会となるところであった。


「お前さんは・・・まさかヴォルカンか!」

「グルル・・・解ってくれて嬉しいです陛下」


一度何食わぬ顔で離れた後四苦八苦して人化し現れた俺を一発で見抜いてくれたがその当時人化できるのはまだ数時間が限度だったため人里に下りることが出来なかったのだ。


「ガランドの奥方がドラゴンの子を産んだと言われていたがホントにドラゴンだったとはな・・・」


陛下もびっくりしたようだがそれ以外に特に驚いた様子が無かったのに此方が驚かされたの今でも鮮明に覚えている。国王の胆力とはこれほどのものなのだろうか。


「ま、そこでウロウロしていては何れ良くない事が起こるやも知れん。ワシの趣味で作った農場へ来い、デカイ倉庫があるからそこなら大丈夫だろう」


それからというもの俺は一時フィゼラー大森林を離れて国王陛下の管理する秘密農園で番犬代わりに居候する事になっていた。それからはドラゴンの姿で農園をウロウロしていたが・・・。やがてアレクシアと二度目の出会いを果たすのだった。


『あれは・・・アレクシアか』


トボトボと歩く彼女を見かけたのはある春の昼下がり。なにやら思いつめたような表情で歩いていた。

麗らかな日和に似合わない悲しげな彼女に俺はドラゴンである事を忘れて話しかけていた。


『アレクシア』

「えっ?だ、誰ですか?!」

『私だ、お前の背後にいるぞ』

「えっ!あっ!・・・ドラゴンさんです!すごい!」


驚くより喜んでいた。胆力は祖父譲りだろうか。


『何故悲しそうな顔をしていた・・・春の日和に似つかわしくないぞ』


俺がそう尋ねると彼女は表情を暗くしてぽつりぽつりと話始めた。









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