王都へ行こう。 その2
しかも後二人娶る予定とはいえこれらは運命によって決まった相手なのだ。彼女達も受け入れてくれたし、今まではそう問題も起こらなかったが・・・。普通は嫌なモンじゃないのかなぁ。
いくら此処の世界が恋愛結婚の少ない時代とはいえ一方的なのは気に入らない。サマルもリットリオも国王は奥さん一人っきりだし一夫多妻なのもどう思われるかなぁ・・・不安だ。
馬車を停めて休憩中に俺はそう考える。
(今更、俺の妻になってよかったか?なんて聞けないし・・・)
「あの人なんで悩んでるんでしょうか?」
「さぁ?でもなんか結婚について悩んでる感じがします!」
「その心は?」
「女のカンです!」
頭を抱える俺を他所にそんな事をヒソヒソ話している三人を見て俺は考えるのを辞める事する。とりあえずこの三人に関しては考えるだけ無駄だ。あとテルミットはなんでこういう時だけカンが鋭いんだよ。
宿についたら覚えてやがれ。三人とも寝かさないからな。そう心に誓いつつ俺はアダムスター領に戻ってきた。
「お帰り、バカ息子よ」
「おう、ただいま。バカ親父」
領に足を踏み入れたと同時に狩猟スタイルの親父と出くわした。ハンチング帽が死ぬほど似合わないな。
「あのお方が旦那様のお父様ですか?」
「ああ、紹介するよ。俺の妻達だ。正式に結婚式は挙げてないがな」
「ほほぉ、こりゃまた別嬪さんばかりじゃないか。お前も隅に置けんな」
スケベ親父だがこういうところばかりは純粋に喜んでくれているようでうれしい。
「アウロラと申します、粗野な部分も多いでしょうがよろしくお願いします。辺境伯様」
「なに、私も元はぺーぺーの騎士だ。気にしないでくれ。そんなことより息子をよろしくお願いしますよ。どうにも一人で突っ走るきらいがあるから」
「ええ、もちろんです」
アウロラはそう言うと笑顔を浮かべる。ダークエルフは父親を知らない者も多いので新鮮なのだろう。
「辺境伯様、テルミットと申します。生来出不精故にご挨拶が遅れまして申し訳ありません」
「はっはっは、そう固くならんでください。先ほども申しましたが元は平の騎士で礼儀作法など付け焼刃、気品とは程遠いのだから」
テルミットも笑顔を浮かべると頭を下げて俺の後ろに立つ。
「最後になりましたが、私シロナと申します。辺境伯様のお噂はかねがね・・・私も辺境伯様と奥方様に負けないくらい仲良くしていきたいです」
「噂などといわれると恥ずかしいですな。ですが息子の事をそう思ってくださるならば此方から何か言う事はありますまい」
礼儀正しく頭を下げたシロナ。しかし父親に会えて嬉しいのだろうか尻尾が忙しなく揺れている。そして何より義理とはいえ娘が増えた親父の目が輝いている。俺達全員男だったからな。
「此処で泊まって行くなら久しぶりにウチにきなさい、アガーテ、母さんも待ってるから」
「分かった、そう言うなら寄ってくよ」
そう答えると親父は満足そうに頷くと短弓を携えて走り去っていった。騒がしいのにアレで獲物が仕留められるんだろうか。そしてしばらくすると護衛らしき領内の騎士達が息を切らしながら親父が走り去っていった方向へと足を引き摺るようにして続いていった。もうちょい引き留めればよかったかな。
「あ・・・若・・・・おかえり・・・なさ・・・い・・・・お前ら・・・あのお方が・・・」
「キツイなら無理して喋んなくてもいいぞ」
「お・・・おっす」
何人かは俺に挨拶をしていってくれた。長らく留守にしていても覚えてくれているのは嬉しい。
それは他の場所を通るのも同じだった。故郷というのは言い表せないよさがあるものだ。
「あ、若!お帰りなさい!今回はどれくらい滞在なさるんで?」
「王宮に行かないと行けないからそう長くは居られないな」
「それは残念・・・それじゃあ帰りにでもゆっくりしていってください」
「ああ、そうさせてもらおう」
「凄い人気ですね・・・」
「ええ、廃嫡してもらったと言ってましたがそれでもこんなに人気があるなんて凄い」
テルミットとアウロラは住民に口々に声を掛けられているヴォルカンを見ながら自慢げになる一方で少し不安になっていた。
「弟さんは聡明な方らしいですが、此処で見る限りでは人気の程はちょっと怪しいですね」
「そうね、一家揃ってウケが良い領主ってのも珍しいけどお父君と旦那様の人気が高すぎる気するわ」
シロナもそう呟き、アウロラもそれに賛同する。古今兄弟で人気の差が出ると跡継ぎで問題が起きる。人気者が跡継ぎでなかった場合皆が不思議に思うからだ。
ヴォルカンは若い頃から頭角を現し、皆を率いて何かをするのが得意で対する弟のヴァルターはどちらかと言うと深窓の君子といった感じで見た目は可愛らしいがどこか頼りない感じだったとか。
「心配ですねえ」
「ま、それでも旦那様の弟君ですし会う機会もあるでしょうしその内わかりますよ」
三人は領民笑顔で迎えられるヴォルカンに遅れないように彼の生家へと足を向けた。




