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ザンナルの最期

巨星堕つ。ザンナル帝国は遂に最後の堤防を失った。民と貴族と王族を結びつける最後の鎖が断たれ、関係は急速に悪化した。元より人情は分かっても政情のわからない軍人達ばかりではお話になるはずもなく。


「皇帝は国民を小麦に変えるのか!」

「奴隷の次は俺達農民を売りに出すんだろ!」

「皇帝は人の皮を被った悪魔だ!」


農村部では『皇帝がわが身可愛さに国民を売り、小麦に変えている』という情報がまことしやかにささやかれ、飢えに苦しむ彼らの敵愾心に火をつけた。


そして最後にとどめを差した者がいた


暴徒を鎮圧に向かった騎士団が襲撃した屋内の人間の中に獣人がいた。当然ザンナル帝国には獣人は奴隷として含まれてはいたが。ただ、その者に奴隷の印はなく・・・ヴォルカンの国の商人として活動していた事が明らかになった。翌日、ザンナル帝国が聞いた事もない国から宣戦布告が発布された。そして各地の農村の住民を束ねた彼らの進軍は農民達の反乱と共同し各地で騎士団を打ち破った。

中でも黒い毛並みの狼人族が率いる突撃隊は新兵器の大砲のみならず白兵戦に置いても抜群の働きを見せ、『黒騎士』の異名をとった。


「我が王家も此処で終わりか・・・」


皇帝は一人静かにつぶやいた。騎士達は皆一人として逃げる事無く強敵に立ち向かい、そして倒れていく。


「父上、お逃げください。逃げて再起を!」


そういって励ます息子の声も遠い。皇帝として君臨したこの数十年の間に国はすっかり荒廃し、他国に頼り、そして今その頼った他国に滅ぼされようとしていた。


「駄目じゃ、ワシが逃げては生き残った者にいらぬ災いを招く。逃げるならお前が逃げろ」

「しかし!」

「もうよい、それにお前はもう息子として振舞う必要もないのだ・・・我が娘よ」


そう言うと皇帝は息子の帽子を取った。すると長い髪がこぼれるように滑り落ち、肩甲骨辺りまでの長い髪が顕わになった。


「でも、いけません。せめて、せめて最後くらい父上と一緒に・・・娘として・・・」

「ばか者・・・ばか者が・・・」


その日、ザンナル帝国皇帝が住まう宮殿は焼け落ち、皇帝以下の数十名は宮殿と運命を共にした。

戦後、名もなき国は正式に国名を発布する。

場所は変わってリットリオ公国首都。王宮にて伝令が走り回っていた。


「陛下!ザンナル帝国が滅亡いたしました!」

「なんと!それでは相手の国はなんというのだ!」

「それがこの字に覚えがなく、どうにも古代文字であると考えられます」


堂々たる筆跡、毛筆で描かれた文字は二文字で『扶桑』と書かれていた。


「その字、確か見覚えがあります。そしてその字にも。私にその字を教えてくださった老人は言いました。かつて大国を前に勇敢に戦い大海原と大陸を暴れ回った強靭にしてその歴史は二千年を超える永きに渡って栄える国・・・その国は太陽の下にありと自らを誇り、大いなる和を以って国をおさむる国だと。その字はかの国の旧き名を冠した国ということでございましょうや」

「まるで神話の国だな・・・してこの『扶桑』という文字はどのように読むのだ?」

「は、正しくはフソウと読みます。かの国は大いなる和という意味でヤマトとという別名もあるとか」

「うむぅ・・・しかしザンナルとは互いにいがみ合う仲であった。その新しき国とは上手くやっていけるといいのう」


リットリオは新興国『扶桑』に対し友好的な政策を取るべしと大臣を集めて会議を行った。サマルに関しては父親経由の根回しにより最小限の影響に抑えたもののひと悶着はありそうな雰囲気であった。




「大将!やったな!俺達が大国を落としちまったぜ!」


名もなき国改め新興国『扶桑』は戦勝ムードに浮かれていた。ヴォルカンの指導とドワーフの技術力によって作り上げられた野砲の威力は屈強な騎士を吹き飛ばし、密集陣形を過去の物にした。

また攻城砲『長門』の活躍により首都を囲む要塞郡はめちゃくちゃに破壊されザンナル帝国の民達に『龍の咆哮』と呼ばれ恐れられた。

ザンナル帝国跡地には扶桑国の旗が随所に翻り、建国の祝いとして農村部には大量の小麦とアンダラの苗が振舞われ農村部は虎口を逃れ徐々に備蓄へと考えをシフトさせていく事となる。


「さて、国をおさむるに当たって必要なのは食い物と安全と文化だ。これを充実させていこう」


ヴォルカンは過剰になりつつあった軍学校の生徒から六千人を抽出し警察隊を結成。現地の人間からも有志を募って警察隊を騎士団の代わりに各地に派遣した。服装は大正浪漫溢れる学ラン風の服装で統一した。騎士と違い鎧よりも遥かに安価で揃え易く志願者に負担させても問題なかった。また制服パワーとも言うべきか獣人が多数を占めるにも関わらず人間に大層ウケが良かった。

今のザンナルの子供達の憧れは一に砲兵連隊、二に歩兵連隊、三に警察隊だ。教養も叩き込んだ者達を選んだのでバカにされることもなく商人のボッタクリや違法な商売は彼らの嗅覚によって未然に阻止された。

今回の戦争は後に『フィゼラー戦役』と呼ばれフィゼラー大森林の開拓から始まった獣人解放戦争として人々の記憶に刻まれる事となる。




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