ブートキャンプ!
「全員済んだか?よろしい、では今から貴様らに教育してやろう、軍隊がどういうものかを」
初回、先ずは行動するための組織、小隊を結成する。六人一組で行動し、一門の砲を管理運営してもらう。そしてそれ以前に軍隊として集団行動を行えるように訓練する必要がある。
「まず第一に上官の命令は絶対だ。俺、連隊長、大隊長、中隊長、そしてグループリーダーである小隊長の順番に命令は強い。これはお前たちの人数をフル活用するにはどうしても必要だ。なぜならお前ら個人の能力なんぞ正規兵の集団行動の前には無力、カスに等しいからだ」
砲兵という兵器を効率よく動作させる為には連携が必要だし、一門だけが動いても意味がない。先ずは集団としてどれくらい動けるかと、個人の能力の助長が必要だ。六人一組を作らせ、全員に並ばせる。
まずはお手本として打ち合わせを済ませたダークエルフ達に実践してもらう。
「まずは人数の点呼の仕方からだ。一列に並んで右から順番に俺の号令に従って番号を数えていくんだ。では端から始めるぞ、点呼開始!」
「整列!番号1!」「2!」「3!」「4!」「5!」「6!」
「全員、揃いました!」
流石は歴戦の勇士である。まあ、元々前倒しで訓練を施していたから当然か。教官を育成したいので今回は6人のダークエルフ達にも参加してもらおう。砲はともかく基礎教練は彼女達もこなせるだろう。
「さて、それでは今度はお前達に一組ずつ行うぞ!点呼開始!」
すると俄かにざわつき、誰が音頭を取るのかで揉めている様子だ。
「早くしろ!こんな簡単な事も出来んようでは兵士は務まらんぞ!」
俺が叫ぶと一人が前に出て声を上げ、それに釣られて皆が並び順番に声を上げていく。
「せっ整列!番号1!」
「2」
「3」
「4」
「5」
「5・・・6!」
「間違えるな!このウスノロ!」
「ぐはっ!」
俺は言い間違えた奴を見つけるとすぐさま鉄拳教育を開始する。
「たかが番号と侮るな!点呼に応じない兵隊は脱走扱いになるから覚えておけ!脱走は重罪だ!死刑を基準とする!」
死刑という言葉に一同は静まり返る。殴られた獣人はキョトンとしていたがやがて死刑という言葉が恐ろしくなったのか慌てて立ち上がり番号を言い直した。
「点呼に応じなくていい兵士は死んだ兵士と怪我と病気で動けない兵士だけだ!頭に叩き込め!」
「「「「「はい!」」」」
それから点呼を一通り終わらせる間に5人も殴る事になってしまった。少ないほうだろうか。
「五人もマヌケが出た事は口惜しいが仕方ない、誰しも最初はマヌケの洟垂れだ!だがこの教練を終える頃には洟垂れを卒業している事を期待する!次は体力鍛錬に移行する!小隊毎に整列!」
失敗すれば俺が容赦なく殴る事と殴られた奴が全員もんどりうって倒れる威力である事を見せ付けたのでサボる奴は居ないだろう。
「よし、それではこれから小隊でこの馬車を押して走ってもらう。試射場の端から端までを全速力でだ。小隊単位で連携して運べ、もっとも遅いものには休憩は無いぞ!」
俺はそう言うと古びた馬車を小隊分に用意し、そこに革の袋を用意する。
「教官殿、土嚢に土が入っていませんが・・・?」
「いいところに気がついたな。貴様らが行うのは土嚢に土を詰めるところから始める。馬車には鍬やシャベルが用意されているだろう?馬車のスタート位置の直後ろを掘って土を革袋に詰めて馬車に乗せて試射場を往復して帰ってくるんだ。全員が帰ってきたら次のステップに移る、分かったら作業開始!!!」
俺の怒鳴り声に弾かれるように皆は走り出し、鍬やシャベルを使って土を詰め込み始める。土を掘るというのはかなりの重労働だ。鍛錬次いでに砲陣地の設営に必要な技能も磨かせておこう。
「よっしゃ!一番乗り!」
20分後、やはりタケクラが混じったチームが一番か。リーダー選定にも迷いが無かったしタケクラの馬力は凄まじいからな。走るスピードも抜群だ。そこから何分か前後してそのほかの小隊も皮袋に土を詰めきって馬車を走らせる。ただこの試射場は広いからなホントに端から端は時間が初日には広すぎるので片道五キロほどだ。それでもばてないといいが。
一時間後にタケクラの小隊が一着。ダントツの早さでゴールした。元の場所を探して待機するように伝える。その後大体20分を前後して全ての小隊が帰還した。
「それでは次に皮袋に詰めた土を掘った穴に戻して馬車を片付けろ!終わったものから整列して待機!程度の悪い者は腕立て20回だ!」
疲労困憊といった様子の連中だが疲れた体に鞭を打って皮袋の中身を戻していく。その中で終わったものから整列して待機する。小隊が幾つか腕立てをする羽目になったが地面は今朝と同じく固く均された。
「よし、では午前の部を終了する!昼食を挟んでから午後の部を開始するのでそのように!解散!」
俺の一言に漸く一息つけたとばかりに皆は倒れこんだ。畑仕事をしているとはいえやはり穴掘りは堪えるのだろう。しかしこれは準備運動に過ぎないのだ。