ザンナルと名も無き国の進展
「どわっはっはっは!そうかそうか!皇帝陛下ならびに将軍達がワシを推薦とは!」
グンヅル騎士団拠点にてカイゼル髭の偉丈夫が大声で笑っていた。厳つい鎧に身を包み腰に大剣を下げた姿は威圧感たっぷりであり、ニコニコとしてはいるがこれが怒り顔に変わったのを想像するだけで恐ろしいものだ。
「はっ!閣下が率いる開拓団は乾民500、奴隷1000との事です。ですがよろしいのですか?」
「うむ、奴隷を使わねばならんのは癪だがワシとてバカではない、奴隷達は保障が少ない代わりに税を納めない。納税もほとんどが土地の使用料ということで乾民の方が市民税がある分税を沢山払っている」
「それゆえに彼らを乾民に引き上げて税を負担させよとの事でしたね」
「うむぅ、そうだ。甚だ不本意だがワシとて皇帝陛下の恩情を受ける身、それゆえに身を立てることが叶ったゆえ奴隷共にもその機会は与えられねばならぬ」
「普段ならいざ知らず彼らにとっても千載一遇のチャンスですから粉骨砕身努力するでしょう」
副官はどうやら貧農の出らしく今回の政策にいたく感動している様子だった。ゲオルグも皇帝と将軍達の慧眼に感服しつつも表情を一変して牙のような歯を見せて眉間に皺を寄せた。
「しかし陛下や将軍閣下にご足労をさせるとは政治家連中も大した事はないな、やはり国は陛下とそれをお支えする我等軍人によって政はなされるべきだのう」
「ええ、前回の暴動は酷いモノでしたしね」
「近衛隊を私物化するとは許しがたい所業よ!禁固刑で済ませたのは一重に陛下の御厚情だが・・・叶うならワシが直々に八つ裂きにしてやりたいくらいだ」
政治家の大半は更迭され、反抗的なものは投獄されていた。中でも近衛隊を動かした大臣は禁固刑の中でも重刑の財産没収のおまけ付きであった。しかしながら大臣は政務に長らく携わった功績から処刑は免れ、なおかつ親族への処罰も回避された。当初の発表に民衆は憤ったが皇帝自らの『臣民は貴賎貧富奴隷に至るまで法の下の平等である』という言葉により収束し、帝国法に照らし公職追放の投票を行った事で国民は納得した。
しかし出獄したところで命の危険が付き纏うので書記として厳重な監視の下労役についていた。
ゲオルグは皇帝の慈悲深さに感服する一方不満も感じていたが自分に政務の担当能力が無い事などを鑑みて一歩引いた立場から物を見る事にしていた。
「まあよい、奴隷達も土地持ちになれると思えばやる気も低くはあるまい。食料の補給さえ確保できれば成果を出すのも難しくあるまいて」
「そうですね、ですが国境付近の村は不作に苦しんでいるようで・・・そういえばフィゼラー大森林には獣人達の国があるとサマル王国の商人から聞いた事があります」
「なに?それは本当かね?」
ゲオルグにさまざまな要素がもたらされる中で着々と計画は進められていく。
時間はさかのぼって二ヶ月前。
「できたっ!榴弾の完成じゃーッ!」
三日間の徹夜の末にヴォルカンの集落では着々と大砲が完成しつつあった。榴弾は弾頭の先端に簡単なメカニズムと風と火の魔法陣を仕込んだ本体を作り、着弾の衝撃で魔法陣が作動し爆発する仕組みになっていた。試射の結果も良好であり、不発の確率も泥濘の軟弱地にでも撃たない限りそうそう起こらない優秀なものだった。
「よっしゃ!こちらも完成じゃ!」
フランキ砲で試射を行っていたヴォルカンの元にドワーフ達が大砲を車両で牽引して現れた。
「これは・・・!凄いな!やっぱり凄いな!」
当初口径は9センチであったがドワーフ達が閉鎖機を完成させてからはさまざまな口径の砲が試作されており、対人用の9センチ砲から威力と射程を極限まで増大させた25センチ攻城砲が試作されていた。
「ロマンが溢れている!我等の権威を示すかのような物だ。量産は9センチ砲に絞りはするが・・・完成形を三門は欲しい」
「へっへっへ、大将はわかってますな!取り急ぎ9センチ砲は30門を目処に生産を開始することにして試作品を訓練用に融通しますよ」
この世界ではもはや未来的な閉鎖機を備えた大砲はブンロクの協力により歯車による仰俯角の調整なども可能であり、車両での牽引なども考慮した品となっている。
「さて、これからは狼・狐・コボルトの垣根なく戦ってもらうとするか・・・お優しい領主の顔をしばらくお休みにせねばならんな」
開発というのはとても心が躍るものだった。しかしながらヴォルカンはともかく末端の兵士や端から見ていただけの獣人達にこの玩具を扱いこなす事は難しいだろう。そうなればやる事は一つしかない。
「帝国陸軍仕込みの練兵を施し、国防軍を設立するか」
その昔、前世で人間だったころ士官学校を出て座学はイマイチだったが実地で培った技術がある。それに獣人達は皆集団行動に優れた者ばかり、やって出来ない事は無い。ただ地獄を見てもらう事にはなるだろうが・・・。
「しかし今は先に寝るか・・・徹夜ばかりじゃ体に悪い」
後に全土に轟く精強な砲兵部隊の産声が刻一刻と近づいていた。




