闘技場!!!
中央には三人が居る。いずれも若い男。両手をパンと音を立てて合わせると離した手から風が噴出し、此方に激しい突風となって襲い掛かる。
「ぐわっ!?」
「ぎえっ!」
突風の標的となった二人が早速脱落する。掲示板から察するに『光のグロウ』と『熱剣のクワラン』らしい。吹き飛ばされ、グシャッっと嫌な音を立てて壁に叩きつけられると直径二メートルほどのクレーターを作った。
魔法か、ルールには書いてなかったが・・・。
そこにきて俺はしまったと思った。
「ルールブックもってない!」
ローマのコロッセオとかと同じ感じかと思っていたがもしも違ったらどうしようか・・・。そう思っていると中央の三人が再び魔法を放とうと手を合わせている。
「とりあえず防御防御と。」
あれしきの魔法は今の俺にはそよ風だが露骨に防御しないのはマズイ。ここはとりあえず防御に徹しようか。
そう思い中央の三人に集中していると不意に俺の鼻先を斧が通った。あっぶな!
「しつこいゴリラだ。」
上体を反らして二発目の斧を回避すると俺は犯人に言う。斧の主は禿げたゴリラことレインゲイ。
斧のスピードはなかなかだがコイツは単調なヤツだ。
「俺を怒らせるとマズイぜ!」
「怒るとどうなる? ゴリラが悔し泣きしたって同情はもらえないぞ。」
「ぶっ殺してやる!」
わかりやすいくらい真っ赤になったゴリラを相手に俺は悠々と戦闘体勢に入った。力任せだけの攻撃が俺にあたるもんか。体を前後に曲げて斧を避けると周りから歓声が上がる。どうやらコイツの実力は折り紙つきらしいが・・・。
「ゴリラ、そろそろ反撃するぞ。」
「なに・・・ぐっ!」
横薙ぎの斧をしゃがんでかわすと俺はゴリラの股と肩に手をかけて豪快に持ち上げた。そしてそのまま勢い良く地面に叩きつける。俗に言うボディスラムだ。
「うっがぁ・・・!」
鎧を着込んでいて地面は土だが投げ技は辛い。
しかもコイツ受身を失敗したみたいだ。後頭部を押さえてもがき苦しんでいる。
『すげー!甲冑を着た男を投げたぞ!』
『斧がかすりもしないなんて信じられない!』
観客の反応の上々。こりゃいいや。久々の大舞台に気分が高まる。ここじゃ空手とかよりレスリングの方が向いてるだろう。
俺はゴリラの両足を掴んで派手に振り回してやる。
「うおっ・・・うわああああああ!」
ゴリラが情けない声を上げながら振り回される。体重は100キロを上回っているが今の俺の体には造作も無い。
俺はそのままくるくると回りながら辺りをうかがう。
ヒューイは善戦してるな、かなり余裕が見える。
中央の三人はヒューイの様子を伺いつつ火を使う魔法使いと鞭を持った闘士と戦っている。風使いの三人はおそらくチームだろう、二つ名が被っていたのはどうやらそのためだ。
「三人も連れ合いがいたんじゃ場が白けるぜ!そうら!」
俺はゴリラを真上に放り投げると蹴りを入れ、ゴリラを三人の死角へと吹っ飛ばした。
「きゃっ!ちょっとあぶないじゃないの!」
「スマーン!」
ゴリラがヒューイを掠めて風使いの中へ突っ込んでいく。
体勢が崩れたのを好機と見たのか炎の魔法使いと鞭使いが追撃に移った。
しかし風使いも手馴れたもの、今度は素早く散開すると俺達を囲むような陣形を組んで三人で大掛かりな魔法を発動させようとしている。
「範囲魔法を使う気よ!」
言うが早いか竜巻が俺達を飲み込むように発生し始める。
「ヤバイ!魔法の詠唱がはじまっちゃったわ!」
ヒューイは焦っている様子だ。
周りを見るとビーストテイマーと炎のクラウンも少なからず焦りを覚えているようだ。
「さて、俺達台風の中だ、仲良くやろうぜ。」
「ふざけてるのか!この魔法が完成したら俺達は死ぬかもしれんのだぞ、どうして冷静でいられるんだ!」
「そうなのか? 俺達を閉じ込めてるようにしか見えんが。」
「いいか、あの竜巻はだな・・・。」
そう言うと竜巻の円周が徐々に縮まり始めた。
「ああ、なるほど! こうするわけ!」
一回りずつ円周が小さくなっていく。風に触れたところは巻き上げられて地面に叩きつけられていく。竜巻の高さは5メートルは越えているだろうか。
「所詮風は風だろ!」
試しに拳大の石を拾って投げつけると石は竜巻の壁に当たるなり吹き上げられて地面に叩きつけられた。
「弾き返す力があるのね。」
「このままじゃあ俺達はおしまいだぜ!」
「炎でなんとかならないの?」
「勢いが増すだけだ。」
あれこれと皆で相談する間にも徐々に狭まる竜巻の壁。そんなとき、俺の頭にアイデアが浮かんだ。
「モノは相談だが、ビーストテイマーに相談がある。」
「私?」
表情を隠していたがどうやらヒューイみたいななんちゃってじゃなく正真正銘の女性らしい。
「あんたなんか失礼なこと考えてなくって?」
「気のせいだ。」
すかさずヒューイが眉間に皺を寄せて詰め寄ってくる。
それを受け流しながらビーストテイマーに協力を願う。
「俺が今から竜巻に突っ込むからお前の鞭を俺の体に巻いて俺の体の制御を頼みたい。」
「・・・無茶苦茶いうのね。」
「あら、そうかしら、でも私そういうの嫌いじゃないわよ。」
ケープ越しに呆れ顔のビーストテイマーにヒューイがにやりと笑って賛成してくれる。
俺のアイデアとはまず鞭で俺の体を引っ張り竜巻に予想外の場所に飛ばされるのを防ぎ、そのまま竜巻の範囲外に逃れたところで魔法を詠唱している三人をしとめるというもの。
「詠唱が一人でも止まったら魔法はキャンセルされるんだよな?」
「ええ、間違いないわ。」
「なら、もうやらない手はないな。」
そう言うとビーストテイマーはしぶしぶと言った様子で鞭の先端を俺の体に巻きつける。何でもこの鞭は篭めた魔力の量で長さを調節できるのだとか。
「さて、いっちょ行くか!」
「失敗したらどうするの?」
「笑って誤魔化せ!」
ビーストテイマーの何度目かわからない呆れ顔に見送られて俺は竜巻の壁に突っ込む。
「うぉ・・・わぁあああああああああああ」
体が縦横に振り回され視界が揺らぐ。眼が回りそうになるのを堪えながら体が浮く感じに身を任せてあたりを見回す。