テルミットと孤児院でのお話 その3
それからはエルビンがテルミットのワーカーホリック癖を知っていたのか見抜いていたのか二人で話しあわないと進まない案件を絶妙に残していた為二日に分けて仕事をするように調整してくれていた。さすが年の功だ。
なので俺達は今日の残りをエルビンが帰ってくるまでヒューイと共に子供達の面倒を見る事に。
「あそぼー!」
一人が言うが早いかわらわらと子供達が集まってくる。広い庭には畑などが作られているがそれでも子供達が走り回るに十分なスペースが整っている。
「よーし、じゃあ今日はなにするかな・・・」
「だるまさんがころんだやりたい!」
俺が何をするかと考える間も置かずに子供達からさっそくリクエストが飛ぶ。
「だるまさんがころんだか、よし、やるか」
「だるまさんがころんだとはなんですか?」
「ん?そうか、テルミットは知らないんだな。ようし、では『だるまさんがころんだ』がなぜ出来たかをお話しようじゃないか」
唐突なお話タイムだが子供達は好奇心に満ちた目で俺に視線を向けてくる。うん、こりゃ面白そうだから適当なこと言おう、どうせ異世界の話だしわからんだろ。
「昔、あるところに高名な騎士『ダー・ルマサンガ』という騎士がいた・・・ある時彼が訪れた土地に恐ろしい魔物が現れたのだ、その魔物の名こそ『コロンダ』という」
話し始めると皆は静まり返って俺の話に耳を傾ける。
「コロンダは恐ろしい魔物で魔法を使うことができ、どんなに素早く近づいても吹き飛ばされてしまい近づけない。ルマサンガも何度か挑んだが魔法に邪魔されてしまい近づくことも出来ない、それ故に正面から挑むのは無謀と判断した。しかしルマサンガもただ手をこまねいていたわけではない、弱点を見つけたのだ」
「弱点?」
「そう、弱点だ、それも致命的な・・・な。コロンダは素早く動く物に反応できるがその一方で動かない物は動物か植物か、もしくは人間かどうかも判断できなかったのだ」
それ故にルマサンガは一計を案じる。それはコロンダを囲んで反対側から声を掛け、コロンダが反対方向に目を向けた瞬間に移動し、コロンダが視線を戻したら立ち止まって動かない。それを繰り返す事で遂に彼らは己が剣の届くところまで近づくことができたのだ。
「ルマサンガは己の剣の一撃の下にコロンダを仕留めた。その際の一撃は背中をバッサリと切り裂いた。それ故に『だるまさんがころんだ』ではコロンダ役の人の背中から触れると勝ちなのだ」
動いたらスタート地点に戻されるのはコロンダに見つかって魔法を浴びせられるからであり、コロンダ役がお決まりの言葉を叫ぶのはその故事に準えてということにした。
「へー、すごーい!」
「私も知りませんでした!旦那様は博識ですね!」
子供達に混じってテルミットまでもが目を輝かせている。うーん、此処まで好評だとなんだか良心が痛むぞ。
「よ、よし!なら俺がコロンダをやるから皆でだるまさんがころんだをしよう!ルマサンガになれた奴にはなにかご褒美を用意するぞ!」
そう言うと子供達は興奮したようにはしゃぎまわってスタート地点を作り始める。テルミットも連れて行かれているが本人が楽しそうなのでスルーしよう。子供に好かれるのは良い事だ。此処で顔を覚えてもらえば学校を始めた時に有利に働くだろう。
「だーるまさんが・・・ころんだ!」
早速スタートすると子供達ははやっているのか初回から引っかかる子供が多い。ちゃっかりテルミットも引っ掛かっているな。
「ははは、最初からこんなに引っ掛かってちゃ何時終わるかわからんぞー」
結局言葉とは裏腹に結構手ごわい子供達も多く複数の子供にタッチされた。約束通り子供に木製のペンダントを作ってあげる事にする。コボルトの形と剣と盾の形、本とペン形に削ったペンダントを作ったところコボルトのペンダントが一番人気だった。
俺が作っているのを見ていた子供達が参加したがり途中から工作教室のようになり皆がテルミットや年長組の指導の元木彫りに挑戦した。皆思い思いの作品を彫り上げ、ヒューイが砥石を入手してきて木のささくれや荒いところを擦るように指示すると子供達は自分達の作品に文字通り磨きをかけていった。
「素直な可愛い子達ですね」
日は傾き空はとっくに茜色から夜に変わるころ、漸く子供達の遊んで攻撃から解放された俺達はエルビン達との打ち合わせを軽く済ませるとテルミットを連れて俺は闘技場へと戻る。そんな中、彼女は夕日の眩しさに目を細めながらそういった。
「ああ、良い子達だ」
この二日間でテルミットも大分リフレッシュできた事だろう。そしてあの子達が巣立ち、闘技場に来れば彼らが闘技場を盛りたてて行く新しい歴史となる。まあ、闘技場に限った話では無いが。
今は読み書きそろばんとエルビンが教える商売の話くらいだが魔法や工芸を教えていけるようになるといいなぁ。
「小さな子達に囲まれてはしゃいだお陰かなんだかすっきりしました」
「そりゃ良かった、文字ばかりみてると老けるからな」
「もうっ!老けてなんかいませんからね!」
「ふふ、失敬失敬、テルミットは深窓の姫君だったな。それでは我等の城へと帰りましょうかお姫様?」
「うふふ、そうね、帰りましょう、あの部屋に戻るまでは貴方は私のナイトですよ?」
「了解しました、なんなら部屋までと言わず時計が12時を指すまでお供しますとも」
大げさに身振り手振りを加えておどけながら帰る道、テルミットがただただ笑顔で居てくれたことがなによりだった。