テルミットと孤児院でのお話 その2
漉きが必要だがこれも問題なかった。鉱山で金を探すのに使う目の細かい漉きがあった、捨てずに持っていたコボルト達から借り受ける。大なべも問題なく調達できた。大人数で生活していたので大なべの数も多かったらしい。
「さて、これからこの木の皮を剥きます」
先ずは雁皮の皮を剥き、片っ端から鍋に張った熱湯に突っ込んでいく。そして鍋が一杯になったところでソーダ灰を加えてさらに煮る。
柔かくなったところで取り出し、作業台を持ち込んでその上に置き、擂り粉木棒でドカドカ叩いて繊維を解していく。途中から合流したヒマなエルフ達にもこの作業に参加させどんどんと皮を剥いては煮るを繰り返し、そして煮れた皮を叩く。
次に俺はパピルスの作業に入る。パピルスは和紙よりも行程が少ないのでこちらも手早く済ませる。
パピルス紙の作り方は皮を剥いた茎の部分を均等の厚さに切って叩いて二ミリほどの厚さにしてから水につけておく。此方も数が多いので手分けして行い、水を張った大桶に三つほどできた。コレを六日間ほど置いておかなければならない・・・多分。そして数日漬け置きしたその繊維を格子状に並べて布で挟み、重しを乗せて水分を取りつつ圧縮させて乾燥させるとパピルス紙になるのだ。
一段落したパピルスを他所に俺は解されてうずたかく積まれた雁皮の繊維の山をさらに細かくして水の中へとドボドボ入れていく。そしてかき混ぜていくと徐々にドロドロになっていくので粘り気のある物は入れなくても大丈夫なようだ。デカイ桶の中で漉き桁にそれを注いで均等な厚さになるように調整していく。子コボルト達も面白半分にやっているがなかなかどうして上手いもんだ。
そして出来上がった紙を一枚ずつ戸板に乗せて重ねていき、桶が空になったので重ねた紙のその上にもう一枚板を被せて重しを載せる。コレで何日かかけて重しを増やして水分を抜いた後平たい物に貼り付けて乾燥させれば紙の出来上がりだ。
これが上手く行ったらコボルト達とエルフ達の合同で製紙工場を作る事にしよう。余ったパピルス紙と和紙で売り出したら売れるんじゃなかろうか。うーむ、金の匂いがするぞ。
「さて、作り方はこんなもんだからヒマならじゃんじゃん作っていってくれ、ある内はソーダ灰を、無くなったら灰に熱湯を注いで一晩置いた上澄みの液体を使うようにしてくれ」
「わかりました!」
「わーい、つくるぞー!」
エルフとコボルト達は俺と子供がやっていた手順を思い返しながらどんどんと作っていく。瞬く間に作業用の工房・・・というより工場の基礎が作られ始めていたので心配は無いだろう。
紙は消耗品なのでいくら作っても問題ない・・・はず。彼らの生産能力がいかほどかによるが、一概に造り過ぎないと言えないところが辛い。
そういえば木材に使っている木の皮とかどうしてるんだろうか、考えたらわざわざ集めなくてもそこから原材料が取れたのではと考えるとアレだがついでにその事もエルフ達に教えておく。
そこから一日だけ寝泊りして後のことを一端彼女達に任せたあと俺は闘技場まで戻る。するとどうやらテルミットは帰ってきていないようで事務屋たちは膨大な資料を整理し終えて漸く人心地といったところ。
明日も足止めすることと来週から週二日でテルミットが別の仕事に行くので実質二日の休暇ができる事を伝えると彼らから手をとって感謝された。
「ありがとうございます!ところでオーナーはどんな事をするんで?」
「孤児院の子供に読み書きを教える仕事だ、午前中だけやって後は休暇で孤児院の子供と遊ぶかしてもらおうかと思っているよ」
「わかりました、それなら俺達も安心だ・・・よろしく頼みます」
彼らの言葉に頷いて返すと俺は今度は孤児院へと向かう。とりあえず一日目は休めただろうが二日目はどうなっているだろうか?
「よーす、どうよ?」
「大体計画は固まりました、えっと紙の方はどうなりました?」
孤児院を覗いてみると広間が教室になっていた。懐かしい学校の格好が出来上がっていてなんとなく嬉しい。広間にはテルミットしか居なかった。どうやらエルビンは孫と出かけているらしい。
「一、二週間は様子見だ、その間はスマンが手持ちから出してくれ」
「分かりました、在庫にはまだまだ余裕がありますし大丈夫だと思います」
紙の完成にはまだもう少し時間が掛かる。一番早いのはどっちかな。しかしまるで学校かなにかだな。
此処で読み書きや商売のイロハを学べば将来に何かしらの役に立つだろう。
「此処で学んだ子供達の内の何人かは闘技場で働くかもしれないな」
「そうですね・・・」
小さな机に腰掛けて見るとはじめての空間にも関わらず強烈な郷愁の念に駆られる。小さな頃は退屈で仕方なかったあの空間も今こうして似た様な雰囲気の場所に来るだけで懐かしく、戻れるものならと考えてしまう。
「仰げば尊し、わが師の恩・・・か」
「なんですかそれ?」
「学校を卒業する生徒が学校を振り返って恩師に感謝の念を抱くという歌の歌詞さ」
手に入り易いのか木を削って作ったペンやインク壺が並んでいる。ここから彼らの学び舎が産声をあげるのだ。感慨深いものがある。