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貴族達の御家事情

そろそろ孤児院に入ってヒューイに挨拶しようかと考えていると向かいから馬車が一台走ってくる。

拵えから見るにどうやら身分の高い連中が乗るような奴だ。俺達がぼーっとそれを見ているとやがて馬車から身なりのいい男性が降りてきた。


「ふむ、此処が例の孤児院か」


執事を伴って現れた男性は孤児院を見るなりそういった。例のといわれてもなにがなにやらといったところだが・・・。


「今日こそ引き取りたいものだ・・・」

「左様でございますな、私めもお世継ぎ様を早く拝みたいものでございます」


どうやら彼らは孤児院の中から誰かを引き取りたいようだ。此方としても彼女達の行く末を考える義務があるためもしも誰かが彼女達のうちの誰かを家族として迎えたいと申し出てくれるなら問題ないが・・・。


「兄ちゃん、あいつらなんだ?」

「わからん、だが子供を欲しがってる家庭があるのは珍しいことでもないんだろうさ」

「でもそういう時って結婚して作るもんじゃないの?」

「家庭の事情ってやつさ、それができない人もいる」


単純に歳を取りすぎて作れない場合もあれば病気で急に、なんてこともありうる。ましてや今はリットリオに悪人の粛清の嵐が吹いたばかり。税の健全化や治安の改善が見られる一方で貴族達の間では分家が壊滅したり酷いとこでは当主と郎党が揃って投獄済みなんてとこもあるとかなんとか・・・。

市民が諸手を挙げて受け入れているとはいえテルミットの諜報では残された貴族達の間では仕事のデスレースが続いており、リットリオ公国の現国王は側近達をフル活用して内政に当たりつつ5人はいるという王子達にまで内政の補助という名目の実地訓練をさせているという。

それゆえに特例としてリットリオでは養子縁組の規制が緩和され、よく言えば実力主義、悪く言えば何処の誰ともつかない連中でさえもが国を支える貴族となれるのだ。


「大事にしてくれるならいいけど・・・どうなの?」

「人によりけりだ、良いやつもいれば悪い奴もいる」


当然ながら碌でもない奴に送り出す事は例え素寒貧になったってできやしない。しかし彼女達が才気に溢れた子供達であるのも事実。それを無駄にはしたくない。


「一応客だろうから俺達は裏口から入ろう」

「わかった」


俺達は人目を避けるように裏口から入る。すると客間で話し合いをしているであろうヒューイと先ほどの男性の話が聞こえてきた。


『彼女を引き取りたい、条件はあまりつけられないが悪い条件じゃないはず』

『そう言われても困るわ、お金に困ってるワケじゃないしウチのトップに無断では決められないしねえ』


どうやらヒューイはあまり乗り気ではないようだ。断り文句に俺を使っているようなのでバレると面倒だ、ここはこっそり知らんふりをして通り過ぎよう。


「あ!おじさんこんにちわ!何時帰ったの?」


明るい声が聞こえる。言うまでもなく可愛い子達の声だ。しかしタイミングが悪い。


「ねえねえ!お土産はー?」

「お土産は忘れちまった、その代わり新しい友達を連れてきたぞ」


そう言うと俺は後ろにゾロゾロと着いて来ているリックス達を紹介する。


「こんにちわ!私サリア!貴方は?」

「お、俺はリックス、よろしく、こっちは俺の弟達だよ」

「すごい!お兄さんなんだ!」


子供らしい些細な事を大げさに言う癖が出て急速にお互いの距離が縮んでいく。言ってる間にチビ達と孤児院の子供達は先ほどより大きな一団となって元気にはしゃいでいる。これなら彼らが仲間はずれにされる事はないようで一安心だ。


「ふぅ・・・後は機を見てバックレるか」

「何処へ?」

「ぬっ!?」


思わず変な声が出てしまった。嫌な予感をビンビンさせながらいやいや振り返ると先ほどの男性とヒューイが俺の後ろに立っていた。


「貴殿が此処の責任者でございますな?養子縁組についてお話があります!」

「責任者なんだからアンタも話に混ざりなさい、ちょうどいいから」


二人にがっしり腕を掴まれて俺は客間へ連行されていく。


「さて・・・それで、養子縁組といったが?」


観念してソファに腰掛けて話を聞く事にする。男性はどうやら地方で領主をしているギュンター家の当主、オットー・キッテル。ギュンター家と言いつつ苗字が違う辺りに厄介ごとの匂いがプンプンする。


「はい、私の姓と家の名の違いからおおよそ見当がついているかと思いますが・・・先日の一斉摘発に際して我が家からも加担したものが居たと言う話で」

「しょっ引かれちまったのか?」

「いえ、正確には私の叔父に当たる前当主の友人がですが・・・叔父も思う所あったのか毒を呷ってしまいまして・・・」


恐らく友人を諭せなかった事を悔いての事らしく高潔な人物ではあったのだろう。しかしながら叔父は未婚で跡継ぎはおろか妻すら居ないため当主が不在。しかも弱り目に祟り目で叔父の郎党からはバッチリ内通者が居たとの事で叔父が自害したため家そのものに関しては処分済みということで犯人を検挙する事で解決したのだが・・・。


「誰も居ないということで今は私が代理を、幸い私には息子が居ますのでキッテル家には跡継ぎがおります、ですがギュンター家には跡継ぎに適当な者が居なくて困っております」

「しかし失礼だが子供を絶望視するほど歳を取ってるようには見えないが?」

「妻は体が弱く、息子を産めただけでも奇跡だと医者からは言われておりますので・・・」


お産は命がけ故に奥さんには残念ながら第二子は望めないらしい。第一子で命がけとなるとおいそれとはつくれんわな。



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