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合縁奇縁

途中で何度か村に寄ってから宿泊し、そのたびに装いを改めていったので思わぬ出費となったが男も女もチビッ子もなんとかまともな旅行者くらいの見た目になった。


「兄ちゃん、ホントにもらっていいのかい?」


リックスの言動がこの旅行中にずいぶんと柔らかくなった。汚いシャツとズボン姿のリックス達も今は平均的な庶民の服装にランクアップし、これなら貧民街で乞食一歩手前の生活を送っていたとは思えない。

しかも綺麗にして始めてわかるが皆育ちの割には上品そうな顔立ちをしており、エルビンが貴族の養子にしようと思うだけはある。特にリックスとリンスはその中でも見た目が一番いい。


「かまわんよ、あの格好だと俺が怒られるからな」


冗談めかして言うが事実このままぞろぞろ連れて入ったら即効で連行される。あたかも奴隷商人かのような格好だからな。そんな馬鹿馬鹿しい理由で捕まる位なら酔って暴れた方がマシだ。


「でも俺お金持ってないし・・・」

「持ってないのは他の連中も一緒だろ、それに大人はともかくお前らはどうせ俺が面倒見るんだから一緒だ一緒。後で買うか今買うかの差だ」

「そうなのかな・・・」

「そう思うなら早く大きくなれ、大きくなって働いて返せ。その頃にゃチビ達もお前さんのお手伝いができるようになるさ」


遠慮がちなリックスを宥めながら馬車を進ませると首都へと到着する。門をほぼフリーパスで通り抜けると騎士の一部から挨拶を受けながら街を進んでいく。活気は出かけた頃から変わっておらず熱気を放ちながら皆が笑顔を浮かべている。そんな首都の規模や賑わいにチビッ子だけでなく大人も目を輝かせながら馬車に揺られている。


「おー、旦那じゃないか!店に金落としてってくれよー!」

「旦那!可愛い子いるから寄ってってよ!」


色町から客寄せに来ている連中からも知られているのか時々お誘いの声が掛かるが断腸の思いで遠慮しておく。テルミットの耳に入ったらどうなるかわかったもんじゃないしな。


「兄ちゃんは人気者だな」

「まあな」


リックスがどこか自慢げに俺に言う。まるで自分の事みたいな顔をしてるのがなんとも可愛らしい。

この子、男に生まれたのはちょっと損だったんじゃないか?まぁ、じきに大きくなって生意気になるんだろうが・・・。そう考えて馬車を動かしていると孤児院が見えてきた。するとイメージと違うのか女性の一人が驚いた様子で此方に尋ねてきた。


「もしかしてあのおっきな屋敷が孤児院ですか?!」

「ああそうだ、元は貴族の邸宅だったそうだが(無理矢理)譲ってもらった」

「そうなんですか・・・凄いですね」


内装は悪趣味な成金趣味に変えられてしまっていたが今はどうなんだろうか?ヒューイがいるので悪い事にはなっていないだろうが。


「到着・・・っと。着いたぞ、一人ずつ降りてくれ!」


馬車から降りて一人ずつ降りるように指示すると子供達が元気に飛び出してくる。それを一人ずつ受け止めて降ろしてやると嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「さて、一応此処が終点だ。皆どうするかは個人的な問題になってくるがどうする?」


子供達は孤児院で預かるのは規定路線だが添え物で付いてきた大人たちは孤児院で面倒見るワケには行かない。


「俺達は力仕事なら得意だから問題ないぞ、此処は仕事もたくさんありそうだしたくさん稼げそうだ」


筋肉質の男達はそう言うとこれから就ける仕事の事を思い、元気を漲らせている。エンゲンがどうかは分からないがリットリオは今が好景気の真っ盛りなので働き手の需要が高まっている。

力仕事をする人間はいつも募集している状態なので直ぐにでも仕事に就けるだろう。


「私達は元々裁縫とか機織をやってたからそういったお仕事に就けると思います、踊り子はさすがにもうできないかもしれないけど・・・」


エンゲンでは元々機織の技術が綿々と受け継がれていたらしく紡績や裁縫、そして糸や布の良し悪しを見抜く技術を持っているし宿泊先で作った簡単な刺繍もなかなかの出来栄えで動物や騎士を象った刺繍などは子供にも人気で精巧なものだった。


「そうか、まあ短い旅だったがなかなか面白い旅だったよ」


そう言うと皆は笑顔を浮かべて頷いてくれた。こうした経験ができるだけでこの小旅行にも価値があった。


「さて、後は餞別を渡してお別れだ」


大人たちに最後に残った金貨と里で作った木でできた首飾りを渡し、別れの言葉をつむぐ。


「大将、俺ァ・・・アンタに助けられたこと絶対忘れねえからな!困った事があったら俺に声かけてくれよ!」

「ああ」

「此処までの心づくしを頂いてなんと言えばいいのか・・・でも、ありがとうございます。今はこれだけしかいえないけれど何時か私達も恩返しさせてください」

「ああ、期待せずまってる。長生きするつもりだから気長にな」


俺がそう言うと皆一頻り笑い、そしてうっすらと目に光るものを湛えながら彼らは手を振り、そして雑踏の中へと消えていった。きっと彼らはこの地で全うに生きていけるだろう。

言いようのない希望を感じながら俺は子供達と一緒に彼らを見送った。





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