ドワーフ達とブンロクと その2
今回は短いです
集まったドワーフ達に俺は一から馬車に搭載していくものを提案していく。
「まず最初にサスペンションを搭載したい」
「サスペンション?」
羊皮紙に俺はまずサスペンションの基礎となるバネの説明から入る。
「物事には元に戻ろうとする力があるってのは皆わかるよな?」
「難しい言い方だな」
俺はそう言うと工房に落ちていた薄い鉄板を二つに折り曲げる。二つ折りにした薄い鉄板はちょうど折れて俺が手を離すと口を開けるようにV字になる。
「これが元に戻ろうとする力って奴だ、これのお陰でコイツはこの形になる」
「これがサスペンションってやつとどう関係があるんだ?」
「わかんねえか?コイツの二つ折りになるまでのこの幅と固さの分だけ衝撃を吸収してくれるのさ」
指を置いてパクパクとさせると皆理解したのかふーむと考え始める。
「確かにコレなら馬車の揺れをかなり軽減できるかもな」
「そうさ、これがサスペンションの基礎の基礎である板バネだ、折った数だけ吸収できる衝撃は強くなる・・・が分厚くなるしバネそのものが固くなる。もっと簡単にすりゃ板を重ねる事でも代用できるはずだ」
「たしかそんなのを王族の馬車で見た気がするな」
そう言うとドワーフの一人がぱぱっとイラストを描いてくれる。それは板バネを弓なりに逸らして作った板バネを上下に並べたもの。
「コレとは違うタイプのを作りたいんだ、こういうのわかるか?」
最初に作ったのはボギー式と呼ばれる戦車に使われていたタイプのサスペンション。整地されたところの少ないこの世界では普通の馬車よりこういったトラクター的なものが役に立つのではないかと思う。
「難しいかもしれねえな・・・このバネが特に作れるかわからんぞ」
らせん状に伸びるバネを見てドワーフは眉間に皺を寄せた。
「焼けた鉄を巻いて行く方法はどうだ?」
「うーむ、そうなると叩かずに粘りを出せるかだな・・・」
「まずは板で模型を作るところからやってみようか」
しかし流石は職人、あっという間にあれやこれやと技術の論議が始まる。
「よっしゃ、じゃあそっちは馬車の足回りを頼む。その設計図どおりに作れるかどうかをいろいろ試してみてくれ」
「おう、やってみる」
「ブンロクはこっちだ、違うものがある」
「わかった」
議論が白熱するドワーフ達から離れて俺達は別の部分を考える。ブンロクに考えてもらいたいのは主に機関部だ。ブレーキにアクセル、そして左右に車輪を動かすハンドル操作。そして動力を伝えるギアだ。
「ドワーフ達に作ってもらってるのはあくまで車輪の部分、これも重要だが俺が考える物にはブンロクの技術が不可欠になるはずだ」
「うーん、確かにこれは師匠の作ってたからくりと似たような構造だな・・・試しに幾つか作ってみるけど何時になるかわからないよ」
「解った、とりあえずこれは宿題にしとこう。先ずは俺はあの助けた人達を首都にいる友人達に預けることにするか」
技術とは一朝一夕でできるものではない。しかしこれができれば馬車よりも早く、パワーのある乗り物ができるはずだ。挽獣の居ない集落にも交通手段が増えて交易が容易になる。時間はかかるが馬を育てたりするより遥かに時間的コストは少なくなるだろう。その分ゴンゾたちの仕事は増えるが。
「とりあえずブンロク、コレだけの金をお前に預ける。金が必要になったら此処から捻出しろ」
「わかった・・・っておもっ!黄金じゃないか・・・!」
テルミットがなにかと俺に金を持たせるので使い道に困っているのだ。渡されるたびにヒモになったようで心苦しいが渡されたからにはこういった投資に使っていかなきゃ意味が無い。延べ板で渡されても困るかもしれないがな。
「技術開発には金が掛かるし模型だけじゃわからないこともある。俺が頼む最初の仕事だ、使い切るくらいのつもりで試行錯誤してくれてかまわん」
「わかった、任せてくれ大将!」
最初は戸惑っていたブンロクも初めて名指しで頼まれた仕事なのか張り切って取り組んでくれるようだ。
「っと、そうだ、とりあえず馬車を借りてこないとな」
これ以上徒歩で歩かせるのは可哀想だ。俺は宿屋の女将さんに追加で料金を支払いブンロクの荷物とお世話を頼むと笑顔で快諾してくれた。料金も宿泊料だけでいいといってくれたので大助かりだ。
リックス達はめいめいが食事を取ったりしていたので出発はすぐにでも可能とのことだった。俺は皆に了承をとった後にエンゲンの街から大型の馬車と馬を買って戻り、皆を乗せて首都へと向かうのだった。