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掃き溜めの原石達その3

今回はいつもより短いです

さて、リンスが見つかったので後は彼女達とブンロクを連れてこんな街からはおさらばするだけだが・・・。格子戸をぶち壊そうとしていると隣にもう一つ個室があることに気付いた。


「おーい、ちょいと俺にも話をきかせてくれー」


個室からは妙に軽い声が聞こえる。


「誰だ?」

「私達より先に入ってたおじさんだよ、楽器が得意なんだって」


泣き崩れるリンスをあやすように隣の女性が彼女の肩を叩く。どうやら先に買われてきた女性らしい。


「それに私達にも聞かせて欲しいもんだね、その値段の話」

「それなら聞くまでもねえぞ、本来人身売買はこの国じゃご法度のはずだからな」

「そうなのかい・・・私は銀貨60枚で買われたけど・・・」

「炭鉱で半日働くより安い値段だ、アンタが何をできるかは知らんが・・・普通なら値段をつけるなら少なくとも金貨以上で売りに出されて、そこから働いて自分を買い戻したら労役終了って感じか。そもそも販売が許されるのは犯罪者だけだぞ」


そう言うと子供達に混じって押し込められていた女性数人は驚いた様子だった。


「そんな、私達は捕まるような事はしてないよ!」

「売られちまったらそうはいかねえ、買う側は知らないだろうし知ってたらグルなんだからな。それに口を噤ませようと暴力を振るった所でお咎めもない、なんせ売られる人間は犯罪者なんだからな。犯罪者が自己弁護したところで誰が信じる?しかも大抵そう言うやつは罪が重いんだ」


泥棒程度ならまだ良いが労役に出され労働力として売りに出される犯罪者は大抵が殺人などの重犯罪者だ。さすがに子供なら疑うかもしれないが大人が何か言った所で売られてしまえば後の祭りだ。

買い手がグルだとすればさらに酷い結末が待っているだろう。


「そ、そんな・・・」


自分が待つ運命の過酷さを知ったのか彼女達の表情は暗い。しかしそれは俺がいなければの話だ。


「辛気臭い話は此処までだ、金貨より安く買われたヤツはそもそも従う必要はない。不安なら夜逃げでもして首都に行き、騎士団に通報しろ」

「騎士団が話しを聞いてくれるんですか?」

「騎士団長は俺が良く知ってる。かなり親バカのきらいがあるから子供の被害を中心に報告すれば必ず相談に乗ってくれるだろう。それにもう一度言っとくがそもそも一般人を一般人が売買するのは違法だからな?値段だって馬鹿げてる」


そういうと希望が見えてきたのか女性達は明るくなる。そうそう、やっぱし人間笑顔が一番だ。


「とりあえずリットリオの首都経由で俺は帰るから首都までなら面倒見てやれるが・・・」

「「「「ぜひ!お願いします!」」」


満場一致のようだ。個室からも気が早いが感謝する声が聞こえてくる。


「それじゃさっさとこんな臭いとこからおさらばしよう・・・かっ!と」


格子戸を引きちぎって転がすと皆がおおっと声を上げる。よせやい、照れるじゃないか。同様に個室も蹴破って開けるとガタイの良い兄さん達が数人出てくる。彼らは生活費に困って身売りしたようだが捨て値で買われたことに憤りを感じているらしい。


「とりあえず、男は子供と女性の護衛をしながらついて来い。つまんねえ真似したらぶっ殺すからな」

「任せてくれ大将」「そこまでバカじゃねえよ!」「自由になれるなんて夢みたいだ・・・」


余り頭はよろしくなさそうだがそれでも悪い奴らじゃなさそうなので安心した。いまさらこそっとと言うワケには行かないので一気に大人数になった皆を連れて地下室から脱出した。

さすがに騒ぎになると不味いと思ったのかすんなりと脱出できた。とはいえ出口の近くにいた男には気絶してもらったが。


「兄貴!」


リックス達の元に戻ると出かけ支度を済ませたリックス達と合流する。紹介もそこそこに俺達はブンロクの待つ店へと向かう。


「おーい、どこいってたんだよー・・・その人達だれ?」

「旅の道連れだ、とりあえず急げ、追われてるから」

「追われて・・・えっ?!」

「いいから早くしろ、人手ならあるからさっさとしろ」


ブンロクは急かされるまま荷物を集めていく。そしてそれを手に皆に分散して持たせ、一路首都へと向かう事になった。


「パトロンを得て栄転のはずが・・・一路逃避行になるなんて・・・」


なにやらブンロクがつぶやいているが知らん。俺だってどうしてこうなったか・・・。暗くなる前に俺達はエンゲンの街を出て街道を一路首都へ目掛けて歩いていく。厄介払いなのか彼らが滞納していた税金を俺が肩代わりするとあっさりと街の外へ出ることが許可された。




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