掃き溜めの原石達
俺の言葉をどう受け取ったのか。リックスはなにやら不思議な物を見るような目で見ている。
「なんだ、気色悪い」
「いや・・・アンタ見たいな人見た事なくてよ」
「そうか?ま、俺みたいな色男はそういないからな」
そう言うとリックスは噴出した。その笑顔は年齢相応の屈託のない笑みだった。守りたい物、守られてきたもの。そして俺がこれから守って生きたいものだ。
「リックス、お前はどんな事が不幸だとおもう?」
「なんだよ突然・・・」
「真面目な話さ」
「そうだな・・・メシを食いそびれた時とかかな」
子供らしい返答に俺は思わず笑みを浮かべる。今はまだ難しい事を考える年じゃないってことか?まだまだ子供だ。そんな子供が、勉強もできず、小さな子供をかばって荒事を生業としている。
「これはあくまで俺の考えで、おそらく皆が皆感じる事だとは思うが・・・俺は誰も居ない事だと思う」
「誰も居ない?」
「そうさ、どんなに悪いヤツも、良いヤツも、誰かが居ないとダメなんだ。ふと立ち止まった時、倒れた時、誰も居ない。誰も・・・そんな時に感じる孤独こそ俺は不幸なんだと思う」
損をしても、怪我をしても、そして死ぬ時でさえも。誰かが居ればそこに意味が生まれる。
感傷的な喜劇や悲劇だったり、復讐のような憎悪の終わりや始まり。そして次代に託す希望の始まりであったり・・・。しかし孤独に消えていく事には何の意味もない。
「どんなに強い人間も、いつしかふと立ち止まる時があるんだ。そんな時、誰かが傍に居なかったら・・・人間は時にあっけないほど容易く壊れる、それほど孤独は恐ろしい」
「・・・そういうモノなのかな」
「そうさ、お前が居る事でチビ達は恐らく生きていけている。貧しくてもやさしい言葉をかけてくれる人が居ればそれだけで人間は頑張れるのさ、例え物理的な限界はあってもな」
「俺が・・・」
「そして知らない内にチビ達がお前の活力になっていく。人はそれを強さと言うのさ」
ポケットに手を入れて歩き続けるとやがて汚さが一際酷くなってくる。
「くせー、此処がエンゲンの街の一部とはな・・・」
「住民は皆知ってるよ、税金がバカみたいに高くて仕事があるヤツはいいが、仕事が無くて税金が払えないヤツは追いやられる」
マフィアが蔓延ってた首都と一緒じゃねえか。いや、公的な連中が手を出してる分こっちのほうが悪質だ。とんでもねえ。日本人の感覚を度外視しても劣悪な衛生環境に鼻が曲がりそうだ。こんなとこで人間が生活してるなんて信じられん。
「ブンロクの出発に合わせて此処を出る準備をした方がいいだろう、汚い程度なら良かったがこりゃ酷すぎる」
うだるような熱気、ホテル街の輝き。だがその下はどす黒いドブのような世界が広がっている。
仕事がないヤツ、おそらくつけないヤツだろう。そんなヤツは表通りを歩く事すらできない。そしてそれを看過し助長する騎士達。そしてその影響を受けて捨てられる子供達。
「リックス、今回はお前達だけしか助けられんが・・・」
そんなのがある事が許せん。いつかつぶしてやる。
「いつか此処を故郷だと胸を張って言えるようにしよう」
「・・・うん」
「長い戦いになるが・・・俺は今まで負けた試しがないから安心しろ」
そう言うと俺達は互いに笑う。男同士の約束の笑みを。そうやって汚い路地をごみを踏み越えて移動すると・・・。一軒のバラックがあった。
「ほー、此処がお前の城か?」
「城ってほど良いもんじゃないけどな」
錆びの浮いた鉄板や古びた板などで継ぎ接ぎされて建てられたバラックの周りに子供達が何人かいる。
皆が集まってなにやら遊んでいるようだ。そんな子供達もリーダーのリックスが帰って来たのに気付いたのか笑顔で走りよってくる。人数は5人ほど。
「兄ちゃん!お帰りー!」
「兄ちゃんおなかすいたー」
「兄ちゃん!」
リックスの周りを囲むようにしてはしゃぐ子供達は俺が居る事にようやく気付いたのか慌ててリックスの後ろに隠れる。
「おじさんだれ?」
「おじさんは酷いな、君らのお兄ちゃんの友達だよ」
「そうなの?」
「そうだよ、それで、今日は大事な事があって来たんだ」
しゃがんで子供達に目線を合わせる。こんな場所で育ったとは思えない純粋な瞳に俺は思わず笑顔になる。
「おじさんのところにこれから行かないか?そこで勉強して文字と数字の数え方を覚えるんだ」
「お兄ちゃんも一緒?」
「もちろんさ、勉強するのはお兄ちゃんもだからな」
そう言うと皆顔を見合わせ、そしてリックスへと視線を移す。これくらいの子供には自分の意見よりリックスの意見が気になるんだろうな。
「少なくとも此処より良い場所らしいから行きたいヤツはついて来いよ!」
「「「「うん!」」」」
リックスがそう言うと子供達は元気に頷く。するとそこでリックスは突然顔色を変えた。
「おい、リンスが居ないぞ!何処だ?!」
「リンス?」
「女の子だ、まだ5歳くらいなんだけど・・・まさか誰かに連れて行かれたのか?!」
そう言うとリックスは慌ててバラックの中に走りこんだ。俺が続いて中に入るとバラックには銅貨が何枚か入った袋があった。これが意味する事・・・考えたくもないが・・・。
「人買いか・・・」
俺の言葉にリックスの顔色が真っ青になる。




