テルミットのお話と企業改革!
サラサラと羊皮紙に予定を書き込んでみる。
・報告連絡相談の徹底
・命令系統の明確化及び一挙集中の現状打開
・仕事の分散、部門化による効率化
・オーナーの秘書の採用
かなり大雑把に考えてこんなもんか。
「これを元に人事を決める部署をまず設立する、此処の人間を管理してる奴は?」
「お」
「オーナー以外だ、次に言うと歯をへし折るぞ」
オーナー以外に言う事がないのかこいつらは・・・。ため息を吐きたい気持ちをぐっと堪えて口元を押さえる事務屋をにらむ。
「古株は?」
「此処に務めて20年経つ人がいます」
「どこにいる?」
「金庫番のオラン爺です、今は地下でしょう」
「なるほど、金庫番ね」
経理を担当させるのはそのオランという老人がよさそうだな。頭の中で人事の候補を加えつつ更に話を聞き続ける。
「人事ってのはどの部署に誰を送るか、誰がいつ休んで、誰が働いているかを管理する人の事だ。人の管理に関してオランなにがしと同じような人間はいるか?」
「えっと、此処に来てオラン爺と同じ位の人がいます。その人は皆とオーナーからの信頼も厚い人だから・・・大丈夫かと」
「なるほど、しかし仲間内とはいえ君は物知りだな?・・・君はエルフ、いやハーフか?」
事務屋は良く見ると女性だった。前髪が長く顔が良く見えないがゆったりした服の下には女性らしい体つきが隠れている事に気付いた。
「なぜ?」
「耳が短いから苦労したんだろう?だが俺の目は誤魔化せないぞ」
エルフ達は血が濃いが時折見た目の身体的特徴が消えてしまう事がある。極々稀なためハーフは人に知られる事は少ないが長命の性質や精霊と会話する素質を引き継ぐので巫女や神官として従事している者も多い。大抵は権力者との落とし子として教会に預けられたり、純愛ながら寿命差ゆえに物心ついた時には流浪の旅の途中で両親かどちらかの親と死別し孤児になってしまったりと自身の出自については悲劇がついて回りやすい。
「隠すつもりはなかったんです・・・」
「気にするな、俺から見れば純粋な種族何ぞ居ないようなものだからな」
ほぼ女性しか生まれないエルフ達にとって同種族の結婚というのは非常に恵まれているといっていい。それに美麗で聡明な彼女達を欲しがる権力者達も多いので血筋を辿ると中世ヨーロッパよろしく王家の血筋なんてことも珍しくない。そして血が混じった王家は物理的に滅ぼされるまで長命かつ頑健に育つわけだ。妻としてももちろん妾として囲おうとしても全然不思議じゃない。
極端な話女児の可能性が高いとはいえ頑丈かつ長命で美麗な子供を設けられると言うことで便宜の代わりに嫁いだ者も歴史の影にちらほら見える。
「お前はハーフだがそれでなにか誰かに劣るのか?」
「え?その、別に・・・」
「お前がハーフであることで誰かに迷惑をかけたか?」
「いえ・・・」
「ならいいじゃないか、胸を張れ、俺が許してやる」
悪戯代わりに口から魔力で風を起こし、前髪を開いて顔を見えるようにする。おそらくは人間としては老年の年齢なのだろうが前髪の下の素顔はまだ幼さすら残るあどけない少女のそれだ。
「ひゃっ・・・」
「隠すな、お前は紛れも無く俺たちの同胞なのだからな」
紙を挟んでいたピンを引き抜いて彼女の髪に挿し前髪で顔を隠せないようにした。もうちょっといい物にしてやろうかと思ったが無かったので我慢してもらおう。
「あの、これ・・・」
「ほっとくと前髪で隠そうとするからつけとけ、もし髪留めがあるならそれをつけろ」
そう言うとあきらめた様子で彼女は俺が行う構造改革に従事することに。するとやや遅れてテルミットが慌てて仕事場に入ってきた。
「だ、旦那様!一体なにを?!」
「仕事エルフに休暇を取ることを覚えさせようとしている。それと、ちょっと恥ずかしがりながら言う旦那様ってのは素敵だな。もう一回頼んでいいか?」
「え?素敵だなんて・・・じゃなくて!」
アウロラなら誤魔化せるんだがどうにも彼女は違うらしい。
「人事と経理を新設して仕事の効率化を図るぞ、オランという老人が経理担当に適任かもしれん」
「そうですか、私の為にありがとうございます。それとリルル髪型変えました?」
「えっ、そのあの・・・」
「そのほうが素敵ですよ、リルル」
「そうですか?えへへ・・・」
事務屋の女性はリルルというらしい。褒められて照れてやがる。可愛い。
「休暇返上が許されん環境にせんとなあ・・・お前みたいに切り上げてこられると困る」
「ホント大丈夫ですから」
「このままだとお前が婚期を逃したキャリアウーマンみたいになっちまうだろ・・・ワンマンは過ぎると組織も脆弱になるしな。それにお前、子供とかできたらどうするつもりだ?まだ先だが確定事項だぞ?夫婦の営みって奴があるしな」
そういわれて初めて休暇を何の為に取らせたいか理解できたらしく耳の先まであっという間に真っ赤になった。こ、こいつ・・・。