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妖精狩りのカラス

PM.10:25



「ふあ、ああ」


街中の広場に面した、背の高い建物に一つの人影があった。

背格好や、声調子から言って14、15歳といったところか。


欠伸をしたあとの軽く寝ぼけたぼんやりと広場を見下ろす目元は黒い仮面で覆われ、同じく黒いフード付きのマントを着ている。見る者が居ればまるで、死に神のようだと言うだろう。



「ちょっと、クロウ!!仕事中に気が抜けるような欠伸しないでよ」



不意に、耳に届いた声にクロウと呼ばれた人影は広場に向けていた視線を上げた。


「おお、わりぃわりぃ。どうにも眠くてな。」



だが、視線をむけた方向には誰も居ない。

いや、正確には月明かりに溶け込むようにひとの形をした何かがぼんやりと見えるのだが、いまいち判然としない。



「クロウが眠いなら、僕はもっと眠いよ。昼間は僕が仕事していたんだから」



声の主は、呆れたようにつぶやいたが、クロウはどこ吹く風で、建物の屋根の上で足をぶらぶらさせた。



「ったって、眠いもんは眠いんだよ。まあ、でも耐えられ無いってわけでもないし。別にお前はそこで寝ててもいいんだぜ?レイヴン」



「それ、分かって言っているだろ。」




姿がはっきり見えたなら、確実に目が据わっていると分かるような、じっとりとした声で聞けば


「いやいや、別に?良く言うだろ?寝不足は、思考回路阻害の要因になるし、お肌の大敵だし、明日の仕事に差し支えがあっては、大変だ。さっさと眠ることをおすすめするぞ。弟よ」



胡散臭い、物言いにレイヴンは更に溜め息しかでてこなかった。


「はあ……。大体、今僕がここで寝たら絶対クロウは大暴走するだろ?」



その言葉に、レイヴンの居る方向から目を反らして口笛を吹く。


「ぷしゅーヒュー」


ただの風船から空気が抜けるような音に、レイヴンは頭を抱えたくなった。



「ていうか、こんな夜中に口笛吹くんじゃありません!!蛇がよってきたらどうするの!!」



「うっせ!!お母さんかお前は!!」



何だか、ただの兄弟喧嘩の様な感じになって来たところで、クロウの動きがぴたっと止まった。



「クロウ?」


「しっ!!」


レイヴンの発言を制して、建物の屋根に身を潜める。



タッタタッタッタタンタンタタタッタタッタッタタンタンタタ



四足歩行の動物の物にしてはおかしく、またこの時間出歩いて居るような大人がたてるにしては軽すぎる足音が、広場に近づいて来る。


何より、異常なのは辺りに広がる臭気だ。


その臭いは酷く生臭く鉄錆臭い。

鼻が曲がるようなその臭いに、クロウは眉間にシワを寄せた。


「ちっ!!もう食餌した後か」



軽く舌打ちをしたあと、クロウはレイヴンの居る方向に手を伸ばす。


「今回は、どんな武器使うの?」



「大鎌。」



間髪入れずに応えられた言葉に、レイヴンは苦笑を漏らした。



「クロウは、本当に大鎌が好きだね。」


「まあな。それも有るけど、やっぱ命を奪うからな。それっぽくしないと」



「了解」



伸ばされたクロウの手に、レイヴンはそのぼんやりとした手を重ねた。



パアアアッ


月明かりに似た光が辺り広がり、一瞬後にはクロウの手の中に巨大な鎌が握られていた。



「ん、バッチリ。」

一度クルンと回してから、クロウはその身を宙に踊らせる。


タッタタッタッタタンタンタタダンッ



スキップするような足音が途中で止まり、足音の主はその場から横っ飛びで離れた。



ヒュガッ



僅かな風切り音と共に、気付かなければそのまま進んで居たであろう地面が削れる。


「ちっ!!やっぱ良い動きすんな。今日だけで何人喰ったことやら………。おい坊主、一応聞くがその口の周りの赤いもん、ケチャップじゃあ無いよな?」


「ちがうよ?もっといいもの。あかくて、あかくて、あったかくて、おいしいものだよ」


あっさりと答えた、その言葉は幼くそしておぞましい。








足音の主は五歳にも満たない子供の姿をしていた。だが、それが子供であろうはずがない。

口の周りは真っ赤に汚れ、着ている服も元の色が分からない位、赤黒く濡れそぼっていた。





「そう、かよっ」



言質を取ったクロウは彼我の差を一瞬で詰め、大鎌を振り抜く。


ギャリッという音をたて、クロウと子供の姿をした何かの間に火花が散る。


シャッ



「っとお!!」



間髪入れずに、繰り出された攻撃を危なげなく避けたクロウは、一端距離を置く。



「んー、武器は爪か。結構な硬度だな。毒とかは、どうだ?レイヴン。」



『毒は、無いと思う。でも、直接触れるのはダメだ。』



先程までは、確実に耳に届いていたレイヴンの声は今では、クロウの頭の中にしか響かないようになっていた。


「毒は無いのに何でだ?」



『あの手、血まみれ過ぎ。あと、爪の間ってばい菌沢山居るんだよ?あんなのに触れたら、ばっちいじゃんか』



……子供みたいな理由である。

あと、若干母親のようでもあるとクロウは思った。


「んん。でもまあ、分かった。なるべく触れないように気をつけるかな。」



「ねぇ。お兄ちゃんなにひとりでしゃべってるの?」



クロウが、レイヴンと喋っているのが分かるわけもなく、今度は子供の方から距離を縮められた。



「おっと」


一瞬にして、さらにのびた爪を顔をそらすことで避けたが。頬がほんの少し切れてしまった。


「ってえ」


『ああもう。いってるそばから!!さっさと決着つけて、家帰るよ!!速く消毒しなきゃ。』




「へいへい、了解」

軽くそう言って、クロウは自分の頬を流れる血を左手で拭う。


拭った血をそのまま、右手に持った大鎌に這わせると鎌が青白い光を放ち始め、その光は刃先から伝わり、柄に広がりそしてクロウに宿った。


「んー。大体五分って所か」



小さく呟き、子供の姿をした敵に鎌の刃先を向ける


クロウに宿った光を見て驚愕の表情を浮かべた敵は


「何で…………?それは、かあ様の……。まさか違う嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ううううううううううううううううううううううううううううううううああああああああああああああああああ!!!!!?ぼくは、かあさまにみすてられてられてなんかいないいいいいいいいいいいいいいい!!」


ゲシュタルト崩壊を起こしていた。

その顔はグシャグシャの泣き喚く子供その物で、だからクロウは


「ああ、そうだな。母上いや、アーガンティ女王陛下はお前たちの事を見捨ててなんかいない。」


鎌を構えたまま、静かにその言葉に応える。


涙まみれになった子供の姿をした敵が顔を上げ、しかしその目はクロウを捉える事は無かった。



「ただ陛下は、愁いているのさ。今の自分たちの世界を。」


いつの間にか背後から響くその声に、いつの間にか首筋に当てられた鎌の刃に、敵は絶望し、受け入れる。



「さあアウフ、夢から覚める時間だ」

そう宣告し、鎌を手前に引く。


それだけで、アウフと呼ばれる敵の時間も、クロウ達の今日の仕事も終わりを告げる










筈だった

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