リオとコスモス
ある朝のことだ。
朝食を食べていた時に外が騒がしかったから、カーテンを開けて窓の外を見た。
全てが燃えていた。
家が、木々が、何もかもが火の手をあげている。
だから最低限の物、宝物などを持って逃げた。
倒れている人を、助けを求める人を放って。
そうして走り着いた先は、丘の上。
この国を一望できるくらい高い丘。
そこからの景色は――
――全てが、燃えていた。
その後、どうなったのかはあまりよく覚えていない。
崩れ落ちて、その場で泣いていたと思う。
しばらくして、同盟国だった隣国の救助がきて助けられた。
生き残りは10人もいない。それくらいひどかった。
何が起こったのか。何が原因だったのかさえ、わからない。
友達、両親、国。失ったものが多すぎた。
それから一年、俺は生きている。
今のところ体に異常はない。
普通の人間、健康体である。
国から与えられた家に住み、国から与えられた金で生活している。
大金ではないが、かなり多い。
間違っても子供一人に与える金額ではない。
その金額が公表されていたからか、よく虐められる。
やり返す気は起きない。やり返してもまたやられる。
それが良く理解できているからこそ、苦痛だ。
齢13にして一軒家に住み、国から補助を受けて、普通に生活している。
仕事はしているし、国からの補助金には手をつけていない。
なのに虐められる。
そこで俺は他に理由があるのではないかと思い、調べた。
そして最終的に、ある噂に辿り着いた。
『隣国が滅びたのは、ある魔術実験が失敗したせいらしい』
『その魔術実験は非人道的なもので、人から人へと伝染る病気だという可能性もあったとか』
この噂のせいだ。
勿論、事実無根である。火災で病気になるなんて聞いたことがない。
これだと確信した俺は、どうするべきか悩んだ。
噂というものは形がなく、手のうちようがない。
だから新しい噂で塗りつぶすことにした。
数週間後、国からの補助金を受け取りに来ないのを不穏に思い、国の兵士が一人家に派遣された。
そこには元々置いてあった家具しかなく、まるで家出したような…………。
「出て行った、のか?」
少し寂しげに呟く兵士は、机の上にある書き置きを見つけた。
そこにはただ一文、『旅に出る』と。
「ここが嫌だったのか。あの子たちは」
兵士はただ、いなくなった事実だけを国に報告するしかなかった。
『よそ者たちがいなくなった』という噂が広まり、結果的に彼の目的は達成された。
その行動に意味がない終わり方であったが、彼はそれに気付いているのだろうか?
彼の名は、リオという。
普通だけど、どこかおかしい、少年だ。




