ハガネの怪物
「ようきんさったな旅の者。辺鄙な村だもんで何もないが、ゆっくりしていってくんなはれ」
「ありがとうございます。村長」
「この村に宿はない。うちに泊まっていくといい」
テツは旅をしている。
野を越え山を越え、色んな土地を回り、色んな文化を見てきている。
地図にも載らないこの村を見つけたときは、興奮したものだが……村長の言った通り何もなかった。
「おお、そうだ。旅人さんや」
「なんですか?」
「厠はうちの裏にある。だが夜更けに行くときは必ず誰かと行きなはれ」
「それは何故です?」
「出るんじゃよ。怪物が」
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村は自給自足で、店もない。
大陸の端という、本当に辺鄙な場所に位置しているため、商人がやってくることもないからだ。
だが魔物はどこにでもやってくるものだ。
昔、闇より湧き出た魔物に滅ぼされそうになった時、助けてくれるのが『ハガネ』という怪物。
夜に活動し、朝から夕方にかけて就寝する。
「危険ではないのですか?」
「わしらにとっては危険ではない。だが見慣れぬ旅の者を見れば、魔物と間違えて食ってしまうかもしれぬ」
「重々承知しました」
「それでは、夕餉を用意させよう」
「ありがたい」




