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花弁

庭には多種多様な花が咲き乱れていた。

この地域は温暖な気候で、温室などなくてもよく育つ。

ここから北にいくと、氷の結晶が降る国があるらしい。

いつか行ってみたいけど、今は無理そうだ。

と、眺めていると庭を任されている使用人が近づいてきた。


「見事なものでしょう?

ここまでの規模で植物を育てているのは、広い世界といえどここだけ。時折研究者が訪れ、珍しい花を購入されることもあります」

「ちょっとヨイチ!お嬢様はそいつに……」


そう、私は客人の夜の相手をつとめている。

なのでフラウが止めたのだ。


「し、失言でした。切腹してお詫びします」


突然、切腹すると言い出した。私はあんまり気にしてないけど、皆表情を凍らせているな。


この男はヨイチ・スギクニ。

極東のヒノモトという国から来たという。

元々は、父がヒノモトで侍だったヨイチを気に入って連れて帰ってきたのが始まりだったと聞いた。

実際に自分で腹を切ったことがあるが、なぜか生きている不思議な人物だ。

そんな人も、今は花園の管理者だ。


「切腹はおやめくださいヨイチ様、今は治癒士が不在です」

「それは治癒士がいたら切ってもいいって言ってるようなものよ、セバス様」

「大変失礼しました!切腹は許されないためこれを!」


ヨイチは手近に植えていた花を丁寧に摘み、どこからか取り出した鉢に綺麗に活けた。

あたりの手際の良さに感心してしまった。

こんな金持ちの家に雇われているのだから、もちろん腕は一級品というわけだ。

性格に難アリとしても。

とりあえずお礼を言う。


「受け取るわ、部屋に飾ろうかしら」


セバスが執事を呼び、運ばせる。

フラウはメイドに置く場所を指示。

素早い連携だ。



と、そう思っていると門の方が慌ただしい。

どうやら主不在の屋敷に誰かが来たようだ。


「あの馬車、見た事のある家紋ね」


たしかあの花は赤色の……なんだったっけ?


「椿、でありますね」

「そのとおりですフラウ様、ツバキはヒノモトの国やその周辺が原産地です。それが家紋となると、この国では貴族の位相当の権力者」

「ほっほっ、以前一度だけ目にしたことがあります。家名はアズマ家でしたかな?」


門衛が話しているが、お互い苛烈に言い合っている。

穏便に済むと良いのだけど。

声が大きくて、ここまで話が聞こえてくる。


「何人も怪我人がいるんだ!入れてくれ!」

「なんと言おうと、許可できん!」


御者が門衛と怒鳴りあっているが、平行線を辿っている。


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