迷宮の罠 あなたに秘密はありますか?
不思議な風景だった。
のどかな村、穏やかな森、緩やかに過ぎていくであろう自然の風景。
そこの一角、視界の端に捉えられたのは灰色の塔。
村人に聞くと、
「ああ、ありゃ、びっくくらい? とかなんとかいう異国の兄さんが建てたもんだ。儂の祖父あたりの代に建てられたそうだ」
「あれね、びっくらいの塔。今じゃ子供の遊び場でねぇ、私の世代だと皆がよくそこで遊んだものよ」
「塔の中はなぜか明るいんだ。村長の息子として調べたことがあるから知ってるんだよ。あれは所謂セイキの発明だね」
「え、塔のことが知りたいの? 今から行くんだ、お姉さんも来なよ!」
どうやらそこまで危険ではないらしい。
このごろ流行っているというカードゲームで遊んでいた子供が誘ってくれたので、行くことにした。
「お姉さんはなんていうの?」
道中、私のことを聞かれた。
そんなに聞きたいなら、というと。
「やっぱいいや」
……薄情なものだ。
「え、いや。うそうそ。聞きたいから、だから泣かないでお姉さん」
グスッ、私の名前はラビアストメイル。
異国からきた、『摩訶不思議研究院』の一員だよ。
今日はこの村の端にある、不自然に建った塔を研究しにきたんだ。
名前は非常に長いので簡略化してくれて構わない。
「かんりゃくか?」
簡単にしてくれていいよってことだ。
「じゃあ……ラビィちゃん!」
ラビィ? ラビット? ウサギ?
私の髪は金色だからゴールデンラビットだな。
「それも名前?」
いや、これは違うよ。っと、着いたね。
眼前には雲を突き抜けんばかりにそびえ立つ塔があった。
まるで、以前訪れたバベルの塔のようだ。
装飾は所々に施されている。だが劣化はしていないようだった。装飾の文字に欠けすらない。
文字は遠い昔の言葉だろうか。
旧カタナストリア王語なら読めるのだが、形から察するにこれは旧アレクセイライダスペル真語に似ていた。
「ここから入るんだよ!」
塔の入り口はなぜか非常に狭かった。
私の膝から下までしか隙間がない。
子供ならやすやすと通れるが……
「ラビィちゃんなら通れるよ」
少ししゃがめばいいだけだが、それでも少々狭いものだった。
子供だけ来る場所であり、大人がこない理由はそこだろうか。
「階段があってね、上と下にあるの。下は行っちゃだめ」
へえ。
そう言って私は『下に続く階段』を降りた。
次の瞬間、何か踏んだと思ったら、降ってきたものが頭頂部に当たった。痛い。
頭に炸裂したのは……タライ?
こんな子供騙しの罠にひっかかるなんて。
罠だらけということか。
「それ痛いんだよね。だから行ったのに」
探索者として負けていられない。
この塔は必ず攻略(研究)する。
塔よ、お前は私を怒らせた。




