女の子に迫られて困っています
自分の歌が聴こえている。
歌声はアニメのキャラクターのような作った声で、鼓膜を刺激している。
自分にとっては不愉快な、嫌悪するような声音。
そんな声を有難がる人間がここには多い。
ここは声で大半のことが解決する世界だ。
自分の声が不快でも、生きていけているのだから問題はあまりない。
この声は、かなり上等なものらしい。
なにせ、道端で歌を歌えば金を投げる人がいるくらいだ。
不満という不満があるとすれば、自分が自分の声を嫌いなことだ。
この世界に転生させた奴は、きっと性根がひねくれているやつに違いない。
生き抜く術を、苦痛に感じさせるのだ。
それは呼吸するたびに肺が痛むようなもの。
日々の生活でさえ、辛くて苦しい。
そういうものになっている。
そして今日も、稼いでいる。
今日は、月に一度行われるコンサートだ。
この声は嫌いだが、生きていくためだ。
それに歌うこと自体は嫌いではない。
「ご清聴ありがとうございました」
歌い終わると、まずは一礼する。
そうすると司会が出てくる。
「エレナ・イントナの『儚い夜』でした。
これで本日の公演は終了です。気をつけてお帰りください」
ああ、今日も終わった。
安堵の笑みを浮かべると、観客たちからは拍手の音が響く。
きっと前世でいうところの、アイドルのように見えているのだろうか。
踊りこそしないが、上等で飾り付けられた服を着ている。
見目も平均よりは上だと自負している。
舞台裏に戻ると、三人の顔がこちらを見つめていた。
その内の一人が飛び掛かってくる。
「最高の歌声でしたわ、お姉さま!」
「ええ、ありがとう」
亜麻色の髪をした、目元のほくろが特徴的な少女。
アルセ・ルリーナという。
私をよく慕ってくれている。
実の妹がいるのだが、なぜかお姉さまと呼んでくるので手に負えない。
言っても聞かないのだ。
「……最後の一節、やや音程が高めだったように思います。エレナさん」
「あら、そう」
村で同時期に生まれ、苦楽を共にしてきた女の子。
リン・エントナ
昔は仲良しだったのに、なぜこうも嫌われたのか……。呼ぶときに毎回『さん』ってつけられるし。
藍色の髪がよく映えている、細顔の美少女だ。
「いやぁ、あれは工夫だったんじゃないかなぁ? エレナのセンスはピカイチだからねぇ」
セレス=マクリール
外国の生まれで、前世で例えるならアメリカ人のようにデカい。体の各所が出たり引っ込んだりと、グラビア女優なような方だ。
どうやらハーフらしい。むこうでは珍しいという金髪なのもそのせいだ。
ちなみに、この中では最年長。
外国の学園を飛び級しこちらの国に来たという。
と、個性豊かな面々なのだが……問題がある。
「ねえ、お姉さま? このあとワタクシの部屋にきて夜のお勉強をご一緒に」
「フン、エレナさんは疲れているのよ。疲れを癒すためにわたしとお風呂に入るんだから」
「いやいや! ここは各自解散でいいんじゃないかな? あっ、エレナ。あとで話があるから部屋にきてよ! 怪しいことはしないよぉ」
皆優しいのだが、どうやら自分のことが好きらしい。
この世界では自分、女なんですけど?




