世界を救うのは臆病者?
なんて変わりのない日常なのか。
中学、高校ときてフリーター。
貯金が増えていくだけの毎日だ。
そりゃ人間だから欲はある。
しかし使えない。
――自分は生来の臆病者である。
横断歩道を歩く時には左右確認のあと手を挙げて渡り、テストの見直しを三回は行い、ガスの元栓を閉めたか不安になれば仕事中でも帰宅する。
異常なほどだが、これが自分の通常運行なのだ。
「おい、どうしたそこの兄ちゃん。しけた面してるけどよ」
客引きか、最近ここらも都会のように様変わりしてしまった。
たちの悪い人間も比例して増えている気がする。
「おいおいおい、無視しなさんな」
客引きにしてはしつこい。
まばらに人が通っているのに、自分だけを狙うとは。
「この不景気で誰が笑顔でいられるんだと言いたいんだが」
「そうかい、それじゃあ例えばだ」
一息、置かれた。
「世界を変えたいとは思わないかい?」
「世迷言はうんざりだよ」
「あーっ、ちょっと待った。悪かった、言い方が悪かった」
この口ぶりからして、客引きではないのか。
しかし去ろうとすると呼び止められる。
「ちいとばかしお願いがあるんだ、着いてきてくれ」
そう言うと男はすぐ後ろにあった建物への扉を開けた。
よくよく見てみるが、店の看板などは見当たらない。
本当に客引きではないようだが、中に入ると仲間がいて脅されても困る。
相手の領域ということは、罠は仕掛け放題だ。
「その建物には入れない。用事もあるし」
「話はすぐ済む。ただあんまり他人に聞かれたくないだけだ」
まいったな、逃がす気もないのか。
仕方ない、入るか。
護身用のスタンガンをポケットに入れておいて良かった。
建物に入ると、狭い部屋に案内された。
部屋にはソファと、テーブル。それのみだ。
「まま、座った座った。話はマジなんだから」
「どうだかな」
警戒は止めない。
信用できるかどうかは見極める。
「……まぁ信じてもらうしかないんだけどもね。兄ちゃん、この世界の裏って知ってるかい?」
「世界の裏?」
SFか? ファンタジーか?
生憎と文才は俺にはないぞ。
それに漫画家でも映画監督でもない。
「勿体ねぇ、素質はあるのに。それじゃあ裏の世界へご招待だ」
驚く暇もないまま、落ちた。
黒い穴が足元にあると気付いた時には、もう落ちていた。
落とし穴だ。
「こことは異なる世界……ガーデンへようこそ!」




