ブラックボックスガール 未完
書きかけ。
4話分くらい。
黒い。
其れを表現するのには、その一言で足る。
其れはまるで、鴉のように黒く。
其れはまるで、夜のように黒く。
其れは箱の形をしていた。
何をしても傷つかぬ。
何をしても動じぬ。
何をしても何の効果もない。
そんな箱だ。
其れは年月を追う毎に。
其れは日に日に。
少しずつ、少しずつ。
その黒い箱は。
ヒトの形をとっていった。
幾千年。
幾万年。
幾億年。
幾兆年。
どれほどの時間が経ったのだろうか?
その時に、其れは完全にヒトの形をしていた。
背丈は平均的な小学3年生と同じ程度。
胸は少しだが膨らみ始めた程度。
髪は腰まで伸びていた。当然の如く、色は黒である。
箱の時と同じで全身の色は黒い。
皮膚も、唇も、爪も、全てが。
しかし、其れは完全にヒトだった。
そして、立ったまま硬直していた其れの心臓から。
徐々に、徐々に。
白が広がっていった。
其れは肌の色。
其れは少しずつヒトに、人間に近づいていった。
──しばらく経つと、其れは完全に肌がヒトの物になっていた。
しかし、首までは肌の浸食が迫っているのに、顔は以前と同じで黒のままである。
そのまま、また幾年か過ぎた。
暗い部屋の真ん中に硬直していた、元箱は、未だに首から上が黒いままだった。
その時、其の部屋に光が射した。
部屋の扉が開かれたのだ。
顔に光が当たると、其の顔に白が首もとから浸食を再開した。
そして其れは、ヒトになった。
其れは目を開くと、目の前に居る、恐らく扉を開けた者に向かって言った。
「……え?」
それを聞いた目の前の男は、急いで部屋から出ようとした。
其れは、部屋から出ようとしたのを阻止するように、部屋
に即席の結界を張った。
男は額を結界に強く打ち付けると、「イテッ!」と呻いた。
「……鴉之?」
その言葉を告げた途端、其れは男の元へ足早に駆け出した。
すると、なぜか男は震えだす。
「助けて喰われたくない」と、ブツブツと呟きだしていた。
其れはしゃがみこんでいた男の顔を小さな両手で掴むと、自分の顔を見るように向けた。
「ヒッ!」と酷く怯えた様子で声を上げていたが、其れにはなぜ目の前の男が怯えるのかわからなかった。
「鴉之か?」
其れが問う。
少しした後、男は頷き、肯定し頷いた。
「解 」
其れが唱えた途端、結界が解かれる。
「お主、名はなんという?」
男はこう答えた。
「鴉之、狼牙」
暫しの沈黙が流れる。
顔を掴んだまま、其れは男の目を見つめたまま言った。
「我の名は鴉之神楽。
今回も世話になる」
其れは笑顔だった。
その笑顔を見て緊張が抜けたのか、男が崩れ落ちた。
何がなんやらといった様子だ。
それを見て、仕方なく其れは口を開いた。
「我は、未来からやってきた。よろしくな、狼牙」
既に其の部屋に射していた光は、橙色に変わっていた。
夕焼けの暖かい光だ。
其処には笑顔を浮かべる少女と、状況が分からず困惑する男が見つめ合っていた。
俺はついこの間まで、平凡な生活を送る普通の男子高校生だった。
しかし、その『この間』に、親から離れの開かずの間に行けと言われ、誕生日プレゼントがあるからと、上機嫌になった俺は行ってみた。
何をくれるのかな~? と思いつつ、期待を膨らませて扉を開く。
──あれ? 幻覚かな?
部屋には、全裸の金髪少女。
しかも美が付く少女だった。
お袋、親父。
いくらなんでも、誕生日プレゼントに幼女を思春期真っ盛りの息子にプレゼントするのは如何なものだろうか?
嬉しくないことはない。
むしろ嬉しい。
今までもらったプレゼントの中でも、ベスト1、2を争う。
しかし、俺は両親からロリコンだと思われているのだろうか?
これは由々しき事態だ。
早急に誤解を解かねばなるまい。
とりあえず誤解を解く為に、この部屋から出よう。
いつ国家権力の手の者がこの部屋に突撃してくるか分からんからな。
この美少女は、可哀想かもしれないが放置しておこう。
そう判断して、回れ右。
勢いよく部屋から出ようとすると、額にゴチンッ! と壁に当たったような感触があった。
痛い。
この痛みは……通りすがりのガタイがいいボクサーに殴られたくらいに痛い。
とにかく痛い。
何に当たったのか確認しようと目の前を凝視するが、何もない。
恐る恐る、手で振れてみると、透明な壁のようなものがあった。
右側の壁にも腕を伸ばして触ってみるが、そこにも透明な壁があるようだ。
どうやら、俺は閉じ込められたようだ。
お袋、親父。
もしかして、事を成すまでは部屋から出られないとかないよな?
目の前の幼女を孕ませるような行為は出来るだけしたくないんだけど。
本音は? と、聞かれたら、勿論即答で『YES! YESYES!!』と答えるだろう。
だが、国家権力のご厄介になるわけにはいかんのだ。
そうした葛藤を頭の中で繰り広げていると、全裸美少女が呟いた。
「……鴉之?」
なんで俺の名字知ってるの?
「鴉之か?」
再度問われる。
とりあえず無言で頷いとこう。
うーん、せめて逆レ○プ展開は勘弁して頂きたい。
思わず「喰われたくねぇ……」とか口から漏れちゃった。
そしたら顔掴まれて、見つめ合った。
目を見て、殺されるかと思った。
綺麗なおめめしてますね。
思わず、「ヒッ!」って声あげちゃった。
いや、殺すなよ?
「解」
なんだ? 呪文?
中二病なの? 設定がよく分からんね。
「お主、名は何という?」
「鴉之、狼牙」
うわあああ。
やっちまった。
フルネーム一言で自己紹介とか、コミュ障かっ!
気まずい沈黙が空間を支配する。
やっべぇ気まずすぎるわ。
「我の名は鴉之神楽。
今回も世話になる」
今回、も?
もしかして、頭がヤバい子なの?
中二病って解釈も、あながち間違ってなかった?
とにかく殺されないのは分かった。
それだけで、体の力がフッ、と抜ける。
脱力感半端ないな。
てかめっちゃ笑顔やん?
美少女の笑顔っていいわぁ……
ついつい見とれてしまった。
「我は、未来からやってきた。よろしくな、狼牙」
その時、少女に夕日の光が射した。
其の姿はまるで神。
さしずめ、『夕日を浴びる美少女の図』といった所か。
とにかく、そんな事を考えていたが状況が全く分からない。
この少女の中二病をなんとかしたい衝動に駆られるが、今は我慢だ。
情報交換しようじゃないか。
そう決意した俺は、とりあえずこの少女とまともなコミュニケーションをとることにしたのだった。
「えっと……何処から来たって?」
「此処とは異なる世界。『未来』即ち『平行世界』」
「……名前は?」
「鴉之神楽」
「スリーサイズは?」
「…………訊くな、スケベ」
「うっ! ……好きな食べ物は?」
「羊羹、煎餅、饅頭、漬けも……」
「ストップ! 日本の食べ物が好きなのは分かったから! ちなみに俺も煎餅好きです! 特にしょうゆ味が!」
はい、絶賛質問中です。
話してみて分かったが、どうやら中二病を拗らせすぎているようだ。
「狼牙、とにかく親御さんに会わせてくれ。挨拶がしたい」
「えっ? あっ、うん」
やっべぇ、美少女に呼び捨てにされた。
なんか嬉しいぞ。
ひとまず、お袋と親父がなんでこんなことをしたのかは、直接聞けば済むことか。
挨拶したいならさせるか。挨拶って大事だよね。
◇
「あの、儂はあの部屋の中を見たことないから分からんのだが……」
「私は16歳のときに一度しか入ったことないわねぇ。しかもそのときは箱しかなかったし。
うちの息子はまさか俗にいうロリータコンプレックスなのかしら?」
「いや、本当にこの子しかいなかったから。あとロリコンじゃないです。信じて下さい」
はい、絶賛この少女のことを両親まで知らなかったとです。
悲しいとです。
ロリコン扱いとです。
あの後、部屋から一緒に出て、居間に行ったんだ。
居間に入るなり、親父がびっくり仰天といった様子でいきなり、
「母さん、うちの子が少女を誘拐してきたぞ! ひゃ、ひゃくとーばん!」
って叫びながら携帯電話を取り出した。
折りたたみ式の携帯を、流れるような動作でボタンが押されていくのは、流石我が父と言ったところかな。
危うく通報されそうだったよ。
慌てて物理的に止めさせると、お袋が台所で昼飯でも料理していたのか、包丁を持ったままドタドタと走って居間に来た。
そして居間の障子を勢いよく開き、少女を目が捉えると開口一番に、
「あの部屋にはでっかい黒い箱が三個あっただけなのに! しかもお札で封印されてたはずなのにって、なにこれ!? この子めっちゃくちゃかわいいじゃないあんた達けっこゲフゥ!」
突然、美少女がお袋の腹を殴った。
今絶対に『結婚』って言おうとしてたな。
恥ずかしいから、そういうの言わんでほしい。
てか、『ゲフゥ』はないだろ。
そして現在、居間のちゃぶ台で4人が腰を落ち着けていた。
そうして冒頭のロリコン扱いである。
断言しよう、これは酷い。
「やっぱり現代の茶は不味いな」
茶を啜りながら美少女が言っていたが、現代ってどうゆうこと?
まさかお袋が言っていた箱とは、海底に沈む100年前の棺桶に入っていた、石仮面を被って吸血鬼となった金髪の青年の話か?
「我は鴉之神楽。過去と現在と未来を知る、ブラックボックスだ」
はい、中二設定乙ですー。
「我こと『ブラックボックス』は、この家に代々伝わる『黒い箱』と呼ばれていたはずだが、狼牙は母上から聞いておらぬのか?」
「お袋、どうゆうこと? 説明プリーズ」
この家を所有していたのは、母の家筋である鴉之家だ。
ちなみに親父は、田中という名字だった。
それを聞いたときは、心底今の名字で良かったと思った。
田中はないわぁ……あっ! 全国の田中さんすいません! でも田中にはなりたくなかったです!
古くから代々子孫に受け継がれてきたこの家は、さっき行ってきた離れ以外は、100年ほど前に新しく建て直されているらしい。
この家に代々伝わるってことは、お袋は何かを知っているはずだ。
俺はただの中二病だと思うけどね。
「なんか昔お婆ちゃんがそんなこと言ってたような……テヘ、忘れちゃった」
「馬鹿者っ! なんで今回の貴様は忘れておるのだ! 以前の貴様はしっかり石版を受け渡されていたぞ!」
「今回ってなんだよ。あと、もの凄く古びた石版なら、裏の倉庫に入っていたよ。なんで知ってるんだ?」
昔、小学生の時に面白半分で入った覚えがある。
確かに石版が入っていたが、全く読めなかった。
当時は「こだいごだぁー、せいきのだいはっけんだぁー」なんて言ってたな。
「あぁもう、まどろっこしい! こうなったら一から説明してやる!」
「「「是非ともお願いします!!!」」」
そろそろ、この神楽とかいう少女に付き合うのも疲れてきてたので、嬉しい提案だった。
いや、中二病が感染したら困るしね。
「まず、我は何度も生前の記憶を継ぎ蘇っている。転生者だ」
「転生者?」
本やインターネットを見ない親父には分からないようだ。
あれだろ? 異世界転生で俺TUEEEEEだろ?
なんだよ、その中二病の典型的なパターンは……
「我、鴉之神楽は、この世界を救いに蘇っている」
一同ポカーン。
いや、開かずの間から突然現れた美少女が転生者で世界救うとか……
現実的にありえないから。
「我は未来と過去。全ての世界において生きていた。そして、その世界に我が存在した証としていつも生前に遺したのが……」
そこまで言ったこの少女の目は、死んでいた。
ふと横を見ると、いつの間にか両親まで聞き入っていた。
そして、悲しそうな声音で少女は告げた。
「……前述した石版と、私の分身だ」
「それは一体どういうこ……」
そのとき、家の裏手から爆音が鳴り響いた。
微かに地響きもしている。
「な、なんだぁ!?」
「今回も、か…………」
少女の表情は引き締められており、とても直前まで泣いていたとは思えぬ真剣さだった。
「話は後だ。狼牙、着いてこい。狩りだ」
「えっ?」
「ご両親は、我が居った部屋に居てくれ。あの部屋には結界があるから、奴らは入ってこれぬ」
少女以外は、皆呆然としており、三人とも思考が追いつかなかった。
「まあ、こう言っても聞かぬのは知っておるがな。保険だ、保険。
とりあえず、閉じ込めさせてもらうぞ。」
知っている? 保険? 閉じ込める?
何処に? と聞こうとした途端、少女の腰まで伸びていた黒髪が、重力に逆らって少し浮いた。
そして少女が何かを唱えた。
「『其れ、幽閉せよ』」
唱えられた呪文は、狼牙が逃げようとした時に張られた結界と同じものだった。
だが、そのときとは存在感が違った。
触れるのもおこがましいような、そんな気配がした。
狼牙はこの結界が何なのかは分からないが、本能的に察していた。
──これの中に居るお袋と親父は、何があっても絶対無事だ、と。
「さて、では、化け狐退治と参ろうか」
ニヤリと笑みを浮かべる少女の言葉に、状況が理解できない狼牙は頷くことしか出来なかった。
鴉之の家の裏には、開けた空き地がある。
しかし、塀で囲まれているので、人間は入ることが出来なかった。
そして、そこに二匹の狐がいた。
一匹は子供で、体が小さかった。
そして親の狐は人間の女性の姿をしていたが、耳と尻尾は狐のそれだった。
「極上の、生娘だあ! アハハハハッ!」
子が狂気にまみれた声で笑う。
その笑い声だけで、空き地の草花が枯れ、木が徐々に朽ちていく。
「もっと、もっとちょうだぁい……」
もう一匹の狐の目の前には、下校中に狐に気絶させられた少女が横たわっていた。
制服は所々破れていて、そこからは内臓が見えている。
「まあ待ちな。あたしの番だよ。さあて、次はどの部位から肉を……」
そのときだった。
結界で守られていた、目の前の家から、突然強大な力が現れるのを感じた。
「これは……?」
家を覆っていた結界が突然強化された。
そこらの妖怪では破れなかったものが、数千年を生きる大妖怪にしか破れないものに変化し、その中から何かが出てきた。
その出てきた何かは大妖怪どころではない。
最早妖怪を逸脱した、バケモノだ。
狐は悟った。
勝てない。それ以前に、このままでは戦闘にすらならない。
そう思考を落ち着けた二匹の狐は、急ぎ目の前の生娘を喰らった。
──うまい。
命一つを奪い、狐たちが思ったのはその一言だけだった。
既にそこには、血塗れになった少女の衣服が遺っていただけだった。
「ちっ! 遅かったか!」
突然現れたのは、ニンゲンの姿をした少女だ。
しかし、狐達はそのか弱そうな少女の力を察していた。
そしてそれが分かっていながらも、その少女が内包している力に狐は気圧された。
──まだ勝てない。処女の体一つでは足りない。百は要る。こいつに殺される。
狐はそう決断し、その場を去ろうとした。
しかし、少女の髪の毛から『気』を放たれた。
あの少女が撃ち出していたのだ。
その『気』は、圧縮されていた。
これでもかというほどに小さく縮められていた。
それが親の狐を襲った。
そしてその瞬間、狐は確信した。
このバケモノを喰らえば、大妖怪を越えた妖怪になることが。
少女の撃ち出していた『気』の塊に、指の先から『狐火』を生みだし当てた。
しかし、その膨大な力の塊の勢いは止まらない。
親の狐は、仕方なく体を横に傾けて避けた。
「なあ、狐よ」
避けた後、『気』は後方へ飛んでいった。
避けた直後、少女が話しかけてきたのだ。
「お主の手伝いをしにきた」
そのとき、子の狐が自分の後方に居ることを完全に忘れていた。
そして、膨大な『気』を圧縮された塊が、子に直撃した。
子の狐には何も起こらなかった。
あれだけの密度の『気』が当たったというのに何も起こらないという異常に、親狐はただただ驚いていた。
いや、驚くことしかできなかった。
直後子狐の様子が急変する。
全身が光に包まれ、その光は膨れ上がる。
膨れ上がった光が人の形になると、足下から徐々に光が霧散していった。
光が全て消え去ったそこには、ニンゲンの姿となった子狐が四つん這いで鼻息を荒くしていた。
それは完全に人間で、親のように狐の耳も尻尾もなかった。
「炎尾も、ほれ」
炎尾というのは、恐らく狐の名前だろう。
少女の髪からまたもや『気』が放たれた。
しかし、今回のそれはスピードが半端ではなかった。
音速の域に達しているそれは、親狐に避ける暇すら与えなかった。
「キャウッ!」
親狐も光に包まれるが、耳と尻尾だけだった。
次第に光が消えて、見た目は完全に人間となっている。
「か、からだが……」
親狐は、泣いていた。
それは悲観の涙ではなく、歓喜の涙。
子供を抱き、幸せそうにしていた。
「は?」
そこで声を出したのは、鴉之狼牙。
目の前の光景が信じられないようだ。
実は最初からこの場に居たのだが、それは置いておこう。
「よしよし、ではニンゲンになってもらった所で…………死んでもらう」
それは唐突に起こった。
狐の親子の周囲に、火の玉が浮く。
「少し殺気を放っただけなんだけども……流石は炎尾か。狐火で結界を張るとはな」
「お前、なんで、私の、名を、知ってる?」
「この光景は何度も見てきた。お主らへの対処法は熟知しておる」
神楽は目を閉じた。
そして腕をしならせ、狐の方へ振るう。
勿論、かなりの距離があるので届かない。
だが、しかし。
「神楽流腕術式《伸長》」
腕が、伸びた。
その長さはぴったり狐へ届くほどだった。
まるで骨がないかのような動きだ。
「《九尾》九重」
親の狐はそう唱えると、尻尾が九本生えた。
そして、九人に分裂した。
分身となった狐は屈んで腕を避けたが、少しは届いていたようで服が破けた。
相変わらず姿が女性なのに、服が破けると……
あとはお察しの通りだ。
「なんだこれっ!? エロっ!」
俺はそう叫んだ。
こんな異次元に俺は生きていた記憶はないぞ?
ていうか、心臓がある部分になにか刺青があるぞ?
ハートマーク? とにかく綺麗な模様がその中に描かれていた。
「あれが妖怪の証だ。よおく見ていろ。妖怪退治をな」
神楽の髪が逆立ち、目の前の空間が割れる。
凄まじい音が鳴り響き、思わず耳を手で抑える。
「キャアアアア!」
狐たちは人間よりは耳が良いのだろう。
耳を閉じても、聞こえるようだ。
その証拠に、悲鳴を上げている。
なんかエロい。
「くっ」
人間の俺でも、耳を塞いでいても聞こえないことはない。
微かに聞こえる不協和音に、歯を食いしばって耐える。
目の前の断裂した空間は、紫色と赤色を混ぜたような色をしていた。
その空間に神楽が腕を突っ込み、何かを取り出す。
それは一本の刀だった。
柄は赤く、鞘は黒い。
刀身は恐らく、綺麗な銀色に光り輝いているだろう。
『妖刀《影渡》』
耳を塞いでいるのに、神楽の声が聞こえた。
空間は未だに開いたままである。
『思考を直接繋いでるから、声は出さなくても聞こえるぞ。言いたいことだけ相手に聞こえるから、考えていることが相手に伝わるということはない』
なんだそのチートは。
『まあ、これが何度も転生した者の力だ。信じてくれたか?』
てか、この状況どういうことなの?
自分には理解不可能です。
『後で懇切丁寧に教えてやるわい』
2014年12月10日7時33分投稿




