私たちは、雨を啜り草を食む。
まあ、最初は動きのあるシーンがないとね。
インパクトが大事だよ。惹き込む力を見せなくちゃ。
「えっ、なんだ? ここは?」
そんでもって、主人公がいきなりボスと戦うのは鉄板だね。
覚醒して勝つのもお約束。
「牛の化け物! よくもやってくれたな!」
それから近くの村の人に見つけられて、モンスターを倒したと言ったら感謝されると。
宴が始まり、村人総出だ。
「ようこそ旅の者。ミノタウロスをよくぞ討伐してくださった」
「ハハハ、なんか照れるなぁ」
「ささ、どうぞ一杯」
なんだかんだで村に住み着き、同い年の女の子といい感じになって、その女の子が理不尽に殺される。
これほどテンプレでわかりやすい展開はない。
「よくもシェリーを生贄に……俺は許さない。この国を、国王を!」
それから彼は旅に出る。
国を憎しみ、滅ぼすために。
復讐劇は滑稽だからこそ面白い。
チートを持つ彼を止められる者は誰もいない。
森に棲む吸血鬼でも、廃村の涸れ井戸魔女でも、王国の騎士団長でも、世界一の剣豪でも、彼は止められない。
「お前ら、邪魔だよ。雑魚は道を開けろ」
そこで一人の女性と会う。
同じ旅人、食料が底を尽いてしまった彼女を助けざるをえない。
助けた後、事情を知った彼女の説得に彼は考えを改める。
「貴方は優しい人です。でも今は心が黒いだけ」
「そうだ、目の前が見えなくなっていた。俺は一体、今まで何を……」
「きっと白く戻れます。だから一緒に旅をしましょう。人との触れ合いが貴方には不足している」
そしてハッピーエンドじゃあつまらない。
もっと世界の根幹に関わるようなエピソードが欲しいよね?
「魔王が復活?」
「ええ、私は巫女。予言の巫女。その予言では貴方が唯一魔王を倒せる勇者なのよ」
「だから俺に近づいたのか? 魔王を倒してもらうために今まで全部偽りの…………」
「違う。私は」
「もういいっ!」
彼は再び旅に出る。
女性不信になりながらも、路銀が底を尽き、地に臥せた時。
声が掛けられた。
「お困りですか?」
「食料がないのですか、それは難儀なことです」
「よければ私が提供しましょう」
「この程度の事に恩を感じないでくださいね」
「当然のことですから」
そこには彼女がいて、初めて出会った時の台詞を語る。
彼は彼女が返した台詞を、そのまま語る。
「いいえ、結構です」
「私にはまだ力があります」
「この身の精魂尽き果てるその時まで」
「他人の助力は受けません」
「これは決まりではなく覚悟です」
そう。
場所や情景は違えど、彼と彼女は惹かれ合う運命にあるのだ。
そうなるように操作されている。
だからこそ識っていた。
「私の名はアレク」
「私の名はセレネ」
「施しは受けません」
「それでは貴方は死んでしまいます」
「それは定めです。運命という名の」
「ではここにパンを置いていきます。これは私が食べられなくて捨てたものです」
「あなたは……」
「これは施しではありませんね」
その後、抱き合った二人は笑い合い。
仲直りを果たした。
そして同棲してから数年後、子供ができた。元気な男の子だ。
「お前の名はアレクサンダー。俺の意思を継ぎ魔王を倒すものだ」
そこで彼の物語は終わる。
魔王に辿り着くことなく、ただの魔物に殺されたのだ。
「と、なるとでも思ったかい? アレクくん」
貴方は誰だ。
「僕は神様だよ。この世界における全てを掌握している」
おお、神よ。脆弱なこの身で魔王に出会うことすら敵わなかったことをお許しください。
「そういうのはいい。うるさい。単刀直入に言うと、これから君は転生する」
転生、というと?
「死んだ今、君の魂を僕が招いたからここにいられるんだ。本当ならとっくに天上へ還ってる。ああ、君は息子と同世代に生まれたことになっているから」
お待ちください。何が何やら……
「低学歴に説明してもわかるわけないだろ。下位世界の住人が神の言霊に雑音をいれるな」
…………。
「……さて、説明を再開しよう。今から君は転生する。赤ん坊にだ」
………………。
「そこで君はアレクではなく、アレキサンダーという名になる」
……………………。
「息子と共に魔王を倒せ」
…………神よ。
「なんだ?」
ありがとうざいます。
「先に言っておこう。これは自分自身のための行いだ。君が感謝すれど僕には感謝される謂れはないね」
いえ、でも、言わなければならぬと思いました。
「まあいい。最後に一つ神託を授けよう。
剣を探せ。聖なる剣エクスカリバー。その剣が魔王の暗黒障壁を破れる唯一の武器だ」
では、行ってまいります。
「よろしい、行け。漆黒大陸の彼方に聳え立つ魔王城に。聖剣握りし勇者こそが魔王打倒の秘訣なり」
はっ!




