転生して冒険者になった者どもよ
最近、冒険者ギルドに新しい風が吹いたと話題になっている。
有望な新人が集まり、グループを組んでランクを上げているそうなのだ。
まあ若いやつにありがちな思い上がりだ。ただただ調子に乗っている。
今が上手くやっていけてるからと言って、すぐにランクを上げてしまって自身に見合わないクエストで死んでしまうなんて馬鹿なオチになりそうだな。
それを止めるのがギルドの仕事だ。
「おいマーカス。ルーキーどもが来たぜ」
「ああ、わかった。会議室だな? 今行く」
この男は私の補佐をしている。
十数年来の付き合いだが、未だに名前を知らない。
真の名前を知られると呪術師に呪われる可能性があるため、基本的に名乗らないか偽名を使うのが基本だ。
会議室に入ると、いかにもな勇者スタイルの男、魔術師っぽい男、露出魔みたいな女の三人組がソファに座っていた。
「あんたがギルド長か。突然呼び出して何のご用件で?」
「そうだ。俺たちは何も悪いことはしていない。呼び出される理由がわからない」
さて、若僧どもに現実を教えよう。
それが俺の責務であり使命なのだから。
「俺が冒険者ギルドの長、マーカス・フリッター。とある神の命令によりお前ら転生者を指導することになっている。残念ながらこれは強制だ、悪いな」
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冒険者ギルドは本部を中心に、各地に支部がある。
本部で働くようなやつは、所謂エリートばかり。その働きに応じて給料の額が桁違いであり、ここに就職すれば将来安泰。
つまりギルドの長を務めている俺は、一言で表すと高給取り……なのは当然。
数年前に魔王という怪物を倒したという報が広まり、有名人というか現存している偉人である。
子供向けの絵本には『勇者マーカスの冒険譚』なんてものがあるくらいだ。
俗にいう勝ち組なのだが、魔王を倒した際に神様のお告げとやらを拝聴した。
その内容は『これからも君みたいな転生者が現れるけど出来るだけ死なさず生かしといて。あっ、冒険者になりたい奴ばっかり送るから庶民には現れないよ。んじゃよろしく』……とまあ恐ろしくフレンドリーで、とんでもない命令だった。
それから俺はギルド長になり、書類とにらめっこする日々が始まったというわけだ。
…………とまあ回想終了。現実に戻ろう。
「はぁ? 何言ってんだギルド長さん。転生者ってなんのことだ?」
「そーよ。私たちは普通の冒険者です」
「あー別に違っててもいいよ。その場合でも指導はするから。じゃあ早速いってみよう」
集団テレポートを使用して、この世界の端の大陸に飛んだ。
テレポートなんて、こいつらには初めての感覚だろう。
周囲の風景が変わっただけで、滅茶苦茶驚いている。
「なんだよこれ……聞いてないぞ!」
「いや、お前らを転生させた神も知らなかっただろうよ。俺みたいなチートがいるなんてな」
「チートだと⁉」
「卑怯だわ!」
魔王もチートだったけどな、と心の中で呟きつつ指導に入る。
「まずは死の恐怖を味わってもらう。次の生はないとしっかり認識してくれ」
幻術を使い、地獄絵図を見せる。
開始5分くらいだと耐えていたが、10分経過したころには全員発狂していた。
喉をかきむしって『殺してくれ』と叫んだり、地面をのたうち回って「コナイデコナイデコナイデェコナイデ……」と息継ぎしてないのに言葉が紡がれたりと。
20分くらいで止めると、正気に戻った彼らはガタガタと生まれたての小鹿のように震えていた。
「そんじゃ次は……」
「もうやめてくれ! おかしくなる!」




