鴉涸らす殻守
「ぅやあ! こんちわっ!」
気が付くとなぜか、体育館の中心に立っていた。
壇上では道化の姿をした美少年がステッキを振るっている。
「早速だけど君! 今から僕のお手伝いをしてもらいますっ!」
「え、あの」
「ダイジョーブ! 権能はあげるし、時間制限アリだけど死なない体にしてあげるからっ!」
「権能? なんの話をしているんだ。ここは一体どこなんだ」
「君のお仕事はただ一つ! これから送り込まれる世界をメチャクチャに搔きまわすだけっ!」
うーん? 権能を与えられて世界に送り込まれて、その世界をメチャクチャにする?
要約するとそうなるが、意味がよくわからない。
「成功したらご褒美も差し上げます。それでは異なる世界へレッツゴーッ!」
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「む……?」
暗転していた視界がハッキリしてくる。
尻もちをつく形で、高いところから落ちたんだろう。
「場所が違うな」
周囲の光景は、ひたすらに続く荒野だ。
木の一本すらなく、大地は少しひび割れている。
砂を払いながら立ち上がり、ふと思いついた。
じっとしていても始まらない。
とにかく歩いて誰かを探そう。
と、決心した途端に地面になにかが突撃した。
風を切る音がなかったし、直撃した瞬間にようやく何かが降ってきたと理解できた。
だが今更異常な事態には驚くまい。
「いったーい、どこよここ? ん、あんた誰?」
落ちてきたのは肌色の服とズボンを着ている女性だった。
「いや、そっちこそ誰だ。俺は気が付いたらここにいたんだけど」
「カノンって呼んでー。はい名乗ったから次そっちの番」
「俺はノワール。種族は悪魔だ」
「悪魔? なにそれふざけてんの?」
心外な。人は認識能力が甘いとは知っていたが、これほどとは。
察するに、この身から発するオーラも視認できていないようだ。
「いや、いい。人と悪魔の判別すらできん下等種族に興味はないしな」
「なにそれ、中二病? 見た感じ中学生か高校生よね」
「確か人間社会の学校という場所のことか。契約する際に何度か訪れたことがある」
「うわー真正だわこれ。ここまでRPできてるなら中二の神様も文句ないでしょうね」
やはり人はよくわからんな。
悪魔とは思考が違うということか。
「まあいいわ、よくわかった。それでここがどこかわかる?」
「いや、俺もどこからか落とされたようでな……見たところ空には何もないんだ」
「使えないわねー、なんかないの? 悪魔なら、そうね。翼とか?」
「翼か」
上空に魔力的な物体は視認できないが、俺より高位の存在なら隠蔽の技法を駆使し完全に隠し通すことも可能だろう。
肉体で触れると解除される種類の技術もある。悪くない案だ。
「一理あるな。では少し飛び回ってくる」
「え? 無理しなくてもいいの……よ…………」
久しく出したな。この羽根は。
漆黒の色と形状が、鴉を想起させるのであまり使っていなかったのだ。
「はは、本当に生えてる。なにこれ夢?」
「カノンといったか? 世界は広いぞ。知らないことだらけだからな。だが矮小な人の身は全てを知れないだろう、脆弱なものだな。寿命というものがある」
さて、どうしたものか。
一通り飛び回るが、何かが隠されているような雰囲気はない。
移動速度が速いので飛んで行ってもいいのだが……。
「おい、少し手伝え。今からあちらへ飛ぶから左に建物がないか見張れ。俺は前と右を見る」
「あの、待って。ごめん、これ現実だよね? 理解が追いついてない」
「貴様の理解など」
なう(2023/05/08 00:16:07)




