トリップもの 未完
書きかけ
幼い頃、両親と行った遊園地。
とても小さく、某ネズミの国と比べるとかなり劣っている。
昔乗った時には安全は保証されていたが、動く度に金属が軋む音がしたのは怖かった。
その遊園地が、今目の前にある。
16歳になり高校生になった時、僕はその遊園地がある街に帰ってきた。
中学校に入学するとき、他県にあったから引っ越していたのだ。
私立のエリート校だったが、結構簡単だった。
通う高校がこの街にあるから、高校の入学式前に街を見て回った。
ちょっと進んだ田舎程度の街。広さもそこそこあるが、殆どは農業に使われている。
山にある神社に参拝したり、ショッピングセンターを見て回った。
懐かしい。
こんな単純な感想しか出てこないのだから、まだまだ自分は子供だと思う。
中学生の頃には、安易な考えで友達を巻き込み先生に叱られたものだ。
それが今ではこんなに立派になって帰ってこれた。
これもそれも、全てはあの小説のおかげだろう。
人生がどれだけ大切で、生きている時間は有限だと教えてくれたのだから。
おっと、思い出に浸っていては遊園地が閉まってしまう。
数年ぶりに乗っていこう。
***
いや、まさかね。
今週にはここが閉鎖されるとは思っていなかった。
人が全く来ないので、オーナーが見限ったらしい。
今日ここに来られて良かった。
備え付けの自販機で、ジュースを買って一口飲む。
「……ふぅ」
人心地ついたところで、時間を確認する。
まだ夕方だが、早めに帰ろう。
帰る途中、大手チェーン店やデパートが建ち並ぶ辺りを通った。
「あ」
昔、ニチアサのおもちゃを買ってもらったおもちゃ屋だ。
開いているな、よし久々に入ってみよう。
扉を押し開けると、こういう店特有の臭いが鼻をつく。
そうそう、この臭いだ。
「いらっしゃい」
店主はいないようだ。若い青年が店番をしていた。
この不景気に、よく営業していられるなと感心した。
店内は昔のおもちゃから、最新のゲームやカードゲームまで取り揃えていた。
昔やっていたな、カードゲーム。
買おうと思い、三つのパックをレジに持って行く。
「400…………456円になります。袋に入れましょうか?」
「いえ、いいです」
ワンコインで支払い、お釣りを受け取る。
パックを鞄に入れて、外に出た。
「ありがとうございましたー」
あの青年の声だ。
まるでコンビニエンスストアみたいだな。
時代の流れには着いていっているのだろう。
さあ、早く家に帰らないと。
ここから歩いて数十分だし、急ごう。
***
着いた時には、日が暮れていた。
お母さんが心配していなければいいが。
「ただいま」
ごく普通の、ありふれた住宅街の中の一軒家。
屋根は赤く、庭は狭い。
特徴はそんなところか。
自分の部屋は二階にあるので、早速向かう。
「おかえりー」
階段を上がっている途中で声をかけられた。
声ではなく、足音で気付いたのだろうか?
今更返事をする辺り、うちの親はいい加減だ。
放任主義ってことなのかな? まあその方が自由にできていいから嬉しい。
部屋に入ると、ダンボールの箱とベッドと勉強机とタンスとテーブルがあった。これは中学の時に買った物だ。
取りあえず、買った物を取り出す。
カードゲームなんて久し振りだ、ハサミで開けよう。
昔は手で開けていたが、あれではカードが痛む。
パリッと音が鳴るのはいいが、傷が付いては台無しだ。
最悪折れるし。
カード本体を下げて、パックのカードが入っていない部分をハサミで切る。
感想として一言述べよう。今のカードは進化しすぎていた。
昔見たものも混じっていたが、殆ど理解できない。
とりあえず開けた物はテーブルに放置して、次のを開ける。
これもよくわからない。まあ、する気はないからいいんだが。
コレクションくらいならいいだろう。
最後のパックは、若干重い気がした。
キラキラに光るカードは、重い事が多い。
そのせいで店にグラム単位で量れる測量器まで持って行く人が現れたくらいだが、対策はされているのだろうか?
そんなことを考えながら、開封した。
「おお!」
なんか凄くキラキラしていた。
傾けると光が反射して、金色に光り輝いている。
どんな価値があるのか、ネットで調べてみよう。
上手くいけば小遣いに変えられる。
そう思い、スマホでカードの名前を検索する。
「おお…………」
このパックだけ少し昔に発売されたものだったようだ。
どうやら、僕がカードを手放した頃に発売されたらしい。
そして、超高かった。
一枚の値段が2万円。
……ニ、ニマンエン!?
「とっ、とりあえずスリーブ!」
ダンボールの中からカードを保護するプロテクターを取り出し、カードに被せる。
これで安心できた。
目に見える傷一つ付いても、売った相手にもよるが文句を言われる可能性があるのだ。
まあ、普通にカードショップで売るか。確かこの街にもあったはずだ。
一応効果を読んでみるが、さして強そうではない。
多分、新発売のカードと組み合わせると強いとかだろう。
こういうのはよくある。
明日売ろう。
そう予定を決めて、ベッドに転がった。
歩き回った疲れが出て、睡魔に負けてしまった。
晩ご飯まだ食ってない……けど…………まあいいや。
***
帰ってから寝落ちして気持ち良く寝ていた。
はずだったのだが……
強い衝撃が腹を襲った。
「うぐっ!」
あまりの痛さに目が覚めた。
仰向けだった体を起こそうとすると、覆い被さって乗ってきた。
すぐに手首が掴まれて、慌てて口を開く。
「だっ……!」
誰だ。
そう言いかけるが、口を何かで塞がれた。
続いて足に体重を掛けられて動けなくなってしまった。
「抵抗しないで…………」
聞いたことがない声だった。
女だということはわかる。
「じっとしてて……」
カーテンを閉める前に寝てしまったので、いつもは遮られる月の光が室内に射した。
深夜三時。僕を襲ったのはかわいい女の子だった。
その女の子は、アニメみたいな二次元のキャラクターを現実に現したような姿をしている。
どこかで見たような気が──
──思い出した! 昨日当てたレアカードのクリーチャー!
いや、でも。非現実的すぎる。
何が起こっているんだ。
思考がフリーズしたまま、目の前の女の子と見つめ合う。
──そして、女の子が口を開いた。
「これより、契約の儀を行う。
汝、我を永遠に手放すことを禁ずる。
汝、我と永遠に戦い続けること。
汝は我の一部。我は汝の一部。
互いを信じ、互いを愛し、互いの全てを共有する。
互いの思いが通じるまで、契約は続く。
──今此処に契約は完了した」
閃光。
その契約の儀を終えられた瞬間、部屋が光で満ちあふれた。
目を開けていられないどころか、目を腕で覆いたいほど赤く熱い。
身体が軽くなり、感覚が失われていく。
意識を失う直前、声が聞こえた。
──これで、ずっと一緒だよ。
ああ、なんだ夢か。
そう信じて、僕は気絶した。
***
「目が覚めたら知らない平原にいるんだがどういう状況?」
思わず声に出してしまった。
いや、理解不可能すぎてもうね、狂っちゃいそう。
(とりあえずサバイバルに備えよう。まず木を手で砕いて棒を造り、そこから斧やピッケルや鍬に錬成……って出来ないよな)
世の中、ゲームの知識ではどうにもならないこともある。
そのことを実感していると、前の方から荷車みたいなのが走っていくのが見えた。
舗装されていない場所だからか、揺れる音が大きい。
声を出しても気付いてくれないだろうから、姿を確認してもらうしかない。
と、追いかけようとすると荷車が止まった。
急いで荷車のもとに駆けつけると、そこには車輪の壊れた馬車が。
え、もしかして……。
馬車の中から現れたのは、おっさんだった。
すげえ、ガチムチ初めてみたよ。
「おいそこの坊主、時間があるなら手伝ってくれや。見てのとおり車輪が壊れちまった。取り替えるから、それまでこの馬車支えててくれねえか? 礼はするからよ」
そういうことなら喜んで!
と言いたいが、僕にこの巨大な馬車を持ち上げる力はない。
「ん、んん? おめえさん人間か?」
「に、人間ですよ」
なにを言っているんだこの人。
人間以外ありえないじゃないか。
「いや、その角をみる限りは人間じゃねえと思うんだが……」
角? はは、まさか僕に角なんて…………
頭頂部の髪の根本から毛先までを撫でるように手を滑らせる。
うん、やっぱり角なんてないよ。
「そこじゃねえ。耳の上あたりだ」
「うわホントにあった!」
どういうことだ。
僕は確かに人間のはずだが……?
「まあ、魔族でも人間でもいいか。車輪取り替えた後に事情を聞こう」
「……はい」
***
車輪を取り替えたあと、馬車に入らせてもらった。
馬車は木組みに何重も布が重ねてあるらしい。
「見て驚くなよ……」
どういう意味なんでしょうか?
流石に、中には奴隷となった幼女たちがアニキと慕われるロリコン男にメチャクチャ○○○○○されている展開ではないだろう。
□□□□□もあるかもしれない……ゴクリ。
中に入ってみると、予想に反して広かった。
どれくらい広いかというと、小学校の体育館並。
とにかく広いそのスペースには、六人の住人が居た。
「ここは空間の神の手によって拡張されているのさ」
口をあんぐりと開けている僕を尻目に、解説を始めるおっさん。
空間の神? 知らないよ。
なにこの非現実的状況。
てかこの人達誰だよ。大方仲間なんだろうけど。
「じゃ、そこの椅子に座ってくれ。茶でも淹れよう」
あっ、はい。
「んで、どこから来たんだ?」
「日本という場所です」
「ニホン……聞いたことがないな。お前ら知らないか?」
六人が全員首を横に振る。
「別名なんですが、大日本帝国、ジャパンというのもあります」
「俺ぁ商人やってて大陸中を渡り歩いたが、生憎と聞いたことがねえ」
その時、六人の内の一人が呟いた。
「……ジャパーン?」
部屋で目を閉じて座っていた青年が、片目を開いてこちらを怪訝そうに見やった。
「お、知ってるのかラゼン」
「エイルの滝近くの村で、故郷がジャパーンという男に会った」
「そっ、その人たちは今どこにいるんですか?」
「……知らない」
ラゼンと呼ばれた青年がそう言い終えた時、部屋の片隅に置いてある鐘が鳴り出した。
「敵襲だな。お前ら出るぞ」
無言で全員が立ち上がり、馬車の出口へ向かう。
「坊主、滅多に見れない光景が見られるぞ。外に出て見ろ」
「はい?」
「いいから。損はしねえよ」
2014年12月10日7時19分投稿




