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円紋ソレイドノイド

 其処は白という色をそこらじゅうに塗りたくったような部屋だった。この病院の個室は無駄に広い。

 部屋の隅に置かれたベッドの横に座ったノイドは、ソレイドの様子を伺っていた。





 ――世界が終わるとしたら、最後に何がしたい?


「そうだなぁ、とりあえず童貞捨ててからがいい。それから美味いものを食って家族と一緒に死ぬってのはどうかな」


 ――随分と呑気だね。


「現実的な話じゃあないからな。今の日本……っていうか世界のどこにいても死ぬ可能性はあるわけだし、そうそう上手くいくはずもないけど」



 無言のまま数分が経過する。

 両者とも窓の外の桜を眺めながら、過去を振り返った。



 ――あの時ね、本当に死ぬかと思ったんだ。私の世界が終わったと思った。


「……円紋を見せてくれ。それがお前の傷跡なら、俺は見る権利があるはずだ」



 ベッドから上半身を起こした少女、ノイドは着ていた白い服をはだけさせた。

 鎖骨から臍のあたりまで細い線が彫られており、それに密着するように腹には綺麗な円があった。

 円には幾何学的な模様が描かれている。



「それが円紋か。俺みたいな奴のためにお前は……」


 ――気にしないで。貴方を救えたのだから私はいいの。


「許してくれるのか?」


 ――元々、貴方恨んでないかいないから。全部私が私の欲望のためにやったことだから。



 重苦しい雰囲気だ。好まない空気だ。

 そんなことを思った瞬間、突風が部屋を抉った。

 開かれた窓から入り込んできた風が、花瓶や小物を凄まじい勢いで薙ぎ倒していく。



「なんだ!?」


 ――敵襲ね。そろそろとは思っていたけど。



 窓の外に目を遣ると、ニヒルな笑みを浮かべた20代半ばに見える男が手をひらひらと振りながら口を開いていた。

 その風貌は……ドラッグをキメてキメて極めた狂人、と表現するしかないほどに個性的だ。



「はぁ~ろぉ~う。ごきげんようっ! こないだはよくもやってくれたなケキャキャキャキャ!」

「お前は……!」

「円紋回収にきましたぁ~あ!」


 ――貴方……いえノイド、よく聞いてちょうだい。この男は逆恨みから私を殺して円紋を奪おうとしている。私は今戦える状況下にない。


「ああ、わかってる。今度は俺が助ける番だ!」

「おっとぉ、もしかしてもしかしなくてもそこのガールちゃんはバトれないカンジ? 喉がイカれちまったから紋の力で念話飛ばしてるだけだよなぁ! 襲っちゃうヨ? 襲っちゃえ~!」



 俺は彼女を庇うように移動し、窓へと小石を投げつけた。

 当然のように窓は割れて、破片が床に落ちる。



「や~い、まとはずれぇ~…………え?」

「調子に乗るなよ。これでも俺は魔術師なんだ」

なう(2023/05/08 00:15:23)

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