表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「命乞いした腰抜け」と汚名を着せられた魔王、その瞳で真実を暴く ~「無能」と捨てられた逸材たちを最強へと導き、誠実な国造りを始めます~  作者: ぼん
第一部:再始

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

第12話:「王の再起と最初の一歩」

 ゼノリスは、カイロと並んで森の中を歩いていた。


 足元の枯れ葉が、ガサッガサッと乾いた音を立てて砕ける。


 二人の足音が重なり合い、森の静けさの中に溶けていく。木々の間を吹き抜ける風が、葉を揺らして優しい音を奏でている。鳥たちの高く澄んだ声が時折聞こえてくる。


 木漏れ日が、二人の道を照らしていた。光の筋が木々の隙間から差し込み、地面に斑模様を描いている。歩くたびに光が揺れ、影が動く。暖かい日差しが、ゼノリスの肩に触れている。


 隣を歩くカイロは、静かに前を見つめていた。その横顔には迷いがなく、確固たる意志が宿っている。歩く速度は一定で、足取りもしっかりしている。足枷を外された今、カイロの歩みは自由だ。


 ゼノリスは、静かに口を開いた。


「カイロ」


 カイロが、ゼノリスを見る。


「はい」


 ゼノリスは前を向いたまま、言葉を続けた。


「まずは拠点を整え、力を蓄える必要があります。君の力を貸してください」


 カイロは少しの間、黙っていた。だが、その沈黙は躊躇ではない。言葉を選んでいる沈黙だ。やがて、カイロは静かに答えた。


「承知しました。それが主の望む『正しさ』であるなら」


 その声には、確かな決意が込められていた。ゼノリスは、わずかに微笑んだ。この青年は、本当に私についてきてくれる。その事実が、ゼノリスの胸を温かくした。


 二人は、さらに森の奥へと歩を進めた。


◇◇◇


 森が、少しずつ変化していく。


 木々が密になり、光が減っていく。先ほどまで明るかった森が、徐々に薄暗くなっていく。木漏れ日の筋は細くなり、地面を照らす光は弱まっていく。空気が、ひんやりとしてくる。湿り気を帯びた空気が、肌に触れる。


 ゼノリスは、カイロに語りかけた。


「大森林の奥深くに、人の目を逃れた集落があると聞いた事があります」


 カイロの足が、わずかに止まった。驚いたのだろう。だが、すぐに歩き出す。


「……集落、ですか」


「はい。隠れ里と呼ばれている場所です」


 ゼノリスは、かつて聞いた話を思い出していた。魔王として君臨していた頃、配下の者たちから聞いた話。


 大森林の奥には、人の目を逃れて暮らす者たちがいる。追われた者、逃げた者、捨てられた者。そういった者たちが、ひっそりと暮らしている場所があると。


「隠れ里……」


 カイロが、その言葉を繰り返す。


「そこは、どのような場所なのでしょうか」


 ゼノリスは、答えた。


「詳しくは分かりません。ただ、人族の支配を逃れた者たちが、細々と暮らしていると聞いています」


 カイロの表情が、わずかに変わった。希望がその瞳に宿ったように見えた。


「……そこを、拠点にするのですか」


「はい。もし、その集落がまだ存在しているのなら」


 ゼノリスは、前を見つめた。森の奥。まだ見ぬ場所。そこに、隠れ里があるはずだ。


「ただし」


 ゼノリスは、言葉を続けた。


「その集落がどのような状態かは分かりません。もしかしたら、既に滅んでいるかもしれない。あるいは、我々を受け入れてくれないかもしれない」


 カイロは、頷いた。


「……ですが、行く価値はある、と」


「はい。少なくとも、人族の目が届かない場所です。そこで力を蓄え、準備を整える。それが、今の私たちにできることです」


 カイロは、静かに答えた。


「承知しました。ゼノリス様がそう仰るのであれば、俺はついていきます」


 その言葉には、迷いがなかった。ゼノリスは、カイロの横顔を見つめながら感謝した。


「ありがとう」


 ゼノリスの胸に、確かな手応えがあった。一人ではない。もう、一人ではない。共に歩む者がいる。それが、どれほど心強いことか。


 二人は、森の奥へと歩き続けた。木々の間を抜け、獣道を辿り、ゆっくりと、だが確実に進んでいく。


◇◇◇


 森が、さらに深くなった。


 光がほとんど届かなくなり、周囲は薄暗い。木々の幹は太くなり、根が地面を這っている。苔が生え、湿った匂いが漂っている。土と木の匂い。腐葉土の匂い。生命が循環している、森の匂い。


 ゼノリスは、歩きながら考えていた。


 拠点を作る。力を蓄える。それが第一歩だ。だが、それだけでは足りない。


 カイロは優秀だ。だが、一人では限界がある。私自身も、まだ魔力が完全には回復していない。


 もっと、仲間が必要だ。


 私についてきてくれる者。私を信じてくれる者。そして──私が救うべき者。


 世界には、まだたくさんいるはずだ。才能がありながら、正しく評価されていない者たちが。無能だと蔑まれ、捨てられた者たちが。だが、その中には、磨けば輝く原石がいる。カイロのように。


 私は、そういった者たちを見つけ出し、救い、導かなければならない。


 それが、私の使命だ。


 ゼノリスは、隣を歩くカイロを見た。カイロは、静かに前を見つめて歩いている。その横顔には、確固たる意志が宿っている。


 この青年のような者が、もっといるはずだ。


 人族の支配から逃れ、森の奥に隠れている者。あるいは、まだ人族の手の中で苦しんでいる者。そういった者たちを、一人ずつ救っていく。


 それが、私がすべきことだ。


 ゼノリスは、静かに口を開いた。


「カイロ」


 カイロが、ゼノリスを見る。


「これから、私たちは多くの者を迎え入れることになるでしょう」


 カイロは言葉を選ぶように間を置いた。やがて、静かに答えた。


「……ゼノリス様が救うべき者を、俺も共に迎え入れます」


 ゼノリスは、微笑んだ。


「ありがとう。君の力が、必要です」


 カイロは、頷いた。その目には、決意が宿っていた。


 二人の足音だけが、静かに森に響いていた。


◇◇◇


 二人は、黙って歩き続けた。


 もう、言葉は必要なかった。ただ、前を向いて歩く。それだけで、十分だった。


 ゼノリスの心に、静かな決意が宿っていた。


 私は、もう一度立ち上がる。王として。いや、王などという肩書きは、もうどうでもいい。ただ、正しい者が正しく評価される世界を作る。


 才能ある者が、その才能を発揮できる場所を作る。誰もが、自分の価値を認められる国を作る。


 そのために、私は戦う。


 そのために、私は仲間を集める。


 足音が、森に響く。二人の足音が、重なり合って一つの音になる。乾いた葉を踏む音。枝を踏む音。土を踏む音。


 森は、静かだった。鳥の声も、風の音も、遠くで聞こえるだけ。二人を包み込むのは、深い静寂。だが、それは孤独の静寂ではない。共にある者同士の、穏やかな静寂。


 ゼノリスは、カイロの横顔を見た。この青年は、もう迷っていない。確かな足取りで、私の隣を歩いている。


 ゼノリスは、心の中で呟いた。


 まずは、隠れ里を見つけよう。そこを拠点とし、力を蓄える。そして、一人ずつ、仲間を増やしていく。


 二人の歩みは、止まらない。森の奥へ、奥へと進んでいく。木々の間を抜け、獣道を辿り、一歩ずつ、確実に。


 やがて、森がさらに深くなった。光がほとんど届かず、周囲は暗い。湿った空気が、肌にまとわりつく。遠くで、獣の鳴き声が聞こえる。


 だが、ゼノリスは恐れなかった。


 カイロがいる。共に歩む者がいる。そして、これから出会う者たちがいる。


 ゼノリスは、前を見つめた。


 まずは、隠れ里だ。そこから、すべてが始まる。


 ゼノリスとカイロは、森の奥へと歩き続けた。木々の影が二人を包み込み、やがて薄暗い森の中へと溶けていく。だが、二人の歩みは続いている。止まることなく、前へ、前へと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ