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ドラゴンの庭

魔法使いとドラゴン

作者: 笹月美鶴
掲載日:2026/02/18

 この世界はドラゴンの庭ほどしかない。

 はるかな山々、広大な草原、巨大な街。

 そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。

 世界は、ドラゴンの庭なのだ。


 これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。

 魔法使いは困っていました。

 それはそれは、とてもとても、困っていました。


 彼の目の前には大きなドラゴンがいて、じっと彼を見ています。

 彼は王国一の魔法使い。

 王国のみならず、世界に名をとどろく偉大な魔法使い。


 でも彼の力はけして生まれ持ったものだけではありません。

 たゆまない努力の結晶。

 今も絶やさぬ訓練のたまもの。

 その日も彼は魔法の鍛錬に没頭していました。


 そんな彼の前に降り立った巨大なドラゴン。

 さすがに彼の魔法をもってしても、しょせんは人間。

 人がドラゴンに勝てるでしょうか。


 大勢いれば、なんとかなるかもしれません。

 でも、彼は一人。

 どうしてドラゴンに勝てるでしょう。


 最後のあがきと腹をくくり、自分が使うことのできる最強の魔法をドラゴンにおみまいします。

 それをドラゴンはひょいとよけて、飛んでいく魔法の軌跡を見つめます。

 魔法の光の反射のせいでしょうか、その目はとても、キラキラして見えました。



 お師匠様、僕を弟子にしてください



 魔法使いの頭に直接声が響きます。

 これは、ドラゴンの声?

 魔法使いはその言葉の意味をすぐには理解できず、そして理解できたのちも、困惑します。



 弟子になりたい? 私の?



 はい、そのとおりでございます

 どうか僕に魔法を教えてください

 


 ドラゴンが魔法使いをまっすぐに見て答えます。

 どうやらドラゴンは魔法を学びたいらしい。

 正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいです。

 けれど、ひ弱な人間ごときがドラゴンの頼みを断ることができるでしょうか。

 それがたとえ、偉大な魔法使いであっても。


 その日から、ドラゴンは魔法使いの弟子になりました。

 ドラゴンは魔法使いから熱心に魔法を学びます。


 けれど、ドラゴンに魔法の才能はありませんでした。

 強力なブレスを吐くことはできても魔法を使うことはできなかったのです。


 でもドラゴンはあきらめず、魔法使いに魔法の教えを乞います。

 魔法使いも仕方なく教えます。

 何年も、何十年も。


 やがて魔法使いに、寿命がきました。

 ドラゴンに比べれば人の寿命など、ほんの一瞬だと思うほど短いもの。


 死の床についた魔法使いにドラゴンが言います。



 師よ、あなたを食べてもいいですか?



 魔法使いは驚きます。

 でも、それもいいかと思いました。


 自分は王国一の魔法使い。

 王国のみならず、世界に名をとどろく偉大な魔法使い。


 老いさらばえた躯を皆にさらすより、あとかたもなく消え去れば人々の心に残るのは勇ましき我が姿のみ。

 ドラゴンの腹に収まって生を終える。それもまたすばらしいことではないか。



 あなたは偉大な人間です

 あなた死んだら、その偉業を人は称えるでしょう

 でもそれは、わずかな時間でしかない

 あなたの偉大さをもっと広めたい

 長く、長く、人々に知らしめたい

 だから僕はあなたになりましょう

 そしてこの命つきるまで、あなたの力を世界に知らしめましょう



 魔法使いにはドラゴンの言葉をすべて理解することができませんでした。

 ただその言葉に、自分への深い愛を感じました。



 お食べ

 私の愛弟子



 魔法使いは熱い湿った空気に包まれて、世界が闇になりました。

 でもそれは痛くもなく、苦しくもなく、安らかなものでした。


 魔法使いを食べたドラゴンの体が小さくなっていきます。

 その姿はやがて偉大な魔法使いとそっくり同じになりました。

 魔法使いの魔力を吸収し、ドラゴンは魔法使いになりました。



 自分の力で魔法を使ってみたかったけど、無理だったな



 ドラゴン、いえ、新しく生まれ変わった魔法使いははあっと息を吐き、お腹をやさしくさすります。

 そしてキラキラした瞳を王都に向け、歩き出しました。



 お師匠様の力を、偉大さを、もっともっと皆に、世界に、伝えていこう

 お師匠様の名が永遠となるように!




 あなたの街にもいませんか?

 人でありながら長い時間を生きる魔法使いが。


 それはもしかしたら、ドラゴンなのかもしれません。

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