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本当にそうだ。村にいた頃に、デックと全裸で川で泳いでいた。子供だったけど。旅の途中で宿に住み込みで働いていた時にも、同僚と一緒に風呂に入った。その時は恥ずかしいなんて微塵も思わなかったのに。どうしてギデオンに見られることは、照れるんだ?
リオは再び首を傾げる。
この城に来てから、初めて知る感情が多くて戸惑ってばかりだ。しかもこれだ!という答えがわからない。でもまあ、嫌ではない感情だし構わないのだけど。
ふいに首がこそばゆくなり、リオは肩を竦めた。ギデオンの指が首に触れたのだ。
「なに…」
「ここに針の跡があった。気づいてすぐに解毒薬を塗ったのだが、あまり効かなかったな」
「でも結果助けてくれたじゃん。ありがとう。俺はいつも助けてもらってばかりだ」
「そんなことはない。俺の方こそ、大いに助けてもらっている。リオが来てから深く安眠でき、体調もすこぶるいい」
「深く安眠してるのに、俺がいなくなったら起きるの?」
「そうだ。だから俺からは決して逃げられないぞ」
「こわ…」
「なにがだ」
「でもさ、いつかは結婚するだろ?その時までには、俺がいなくても眠れるようになった方がいいよ」
「善処する」と言って、ギデオンがふい…と顔を逸らした。
一瞬拗ねているように見えたけど、そんなわけないかと息を吐く。なぜだか、自分で言った結婚という言葉にモヤモヤとする。モヤモヤの原因を探るけど、全くわからない。
「それでだ」とギデオンが顔を戻して口を開く。
「首に刺された薬の成分は、ゲイルが調べてすぐにわかった。睡眠と催眠だ。睡眠薬は入手しやすいが、催眠薬は難しい。ケリーがどうやって入手したのか、詳しく調べる必要がある」
「そうなんだ」
「リオ、解毒薬を塗ってはいるが、効果のほどがわからぬ。まだ薬が残ってるかもしれない。ここ数日は、必ず誰かのそばにいて、一人で行動することは謹んでほしい」
「うん、わかった。気をつけるよ」
「それで、ケリーとの話の内容は…」
リオはギデオンに話した。アンが自分にだけ懐かなく、触れようとした手を噛みつかれそうになり腹が立ったというケリーの建前の話を。
魔法の話はしなかった。ケリーが昔に不思議な力を持った人物と会ったという話もしなかった。魔法のことを知られてはいけない。勘づかれてもいけない。だからケリーが城から追放されたことは、ありがたかった。
ケリーと二度と会ってはならない。彼はわかっている。確信している。リオが不思議な力を、魔法を使えるということを。




