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「あー気持ちよかったぁ」

「そうか」


リオが頭からリネンの布をかぶって部屋に戻ると、木の椅子に座り書類に目を通していたギデオンが顔を上げた。

紫の瞳と目が合い、今さらながらに失礼なことをしたのではと慌てる。


「あのっ、ごめん。今さらだけど、俺が先に入ってよかったの?」

「なぜ謝る?別に構わんが。俺が入れと言ったんだ」


ギデオンが書類を机に置き、上品な動きで首を傾けた。

その優雅な動きに思わず目が釘付けになったリオは、アンの鳴き声で我に返る。

ちょっと!男に見とれてどうすんだ俺!しかも苦手な騎士だっつーのに…。


「どうした?」

「い、いや別に。ギデオンも入る?俺が浸かった後だけど」

「ああ、入る。ここの湯は常に循環されているから問題ない。リオ、俺が出てくるまで逃げるなよ」

「わかってるよ」


ふっ…とギデオンが笑った気がした。表情に変化はないけど、かすかな動きで感情が読み取れるようになってきたと思う。俺ってすごい!

すごくどうでもいいことだけど嬉しくなって、アンを抱いてソファーに座り、頭に乗せていた布で小さな黒い身体を拭く。

ギデオンが立ち上がり、俺の傍を通り過ぎる時に髪に触れた。

思わず肩をビクつかせて、「なに?」と振り仰ぐ。


「やはりこちらの色の方が似合っている。それにまだ濡れている。よく拭くように」

「大丈夫、すぐに乾くから」

「リオは大ざっぱだな」

「ふふん、そこが俺の良いところだよ」

「ははっ」


アンの身体を拭いていた手を止めて、リオは扉の向こう側へと消えたギデオンの後ろ姿を見つめた。

え?え?笑った?口開けて笑った?すごくかっこよかったんだけど?女の人が見たら惚れちゃうよ?あ、もしかしてモテすぎて困るから無愛想にしてるとか…それはないか。冷めた性格ぽいもんな。

アンに手をぺろぺろと舐められて、ようやくリオは視線を扉からアンに移した。


「どうした?腹減ったか?もう少ししたら食事が届くと思うから、待ってような」

「アン!」


アンは賢い。絶対にリオの言葉を理解している。

リオはアンの背中をわしゃわしゃと撫でながら、魔法で乾かした。ついでに自身の髪も乾かす。用意されていたリネンの布が素晴らしい高級品で、あっという間に水分を吸収してしまう。だからほとんど髪の毛は乾いていたけど、いつものくせで魔法を使った。


「こんな高級品、一度も使ったことなかったから、つい癖で乾かしちゃった。人のいる場所では魔法を使わないよう気をつけないと」


ソファーに寝転びアンを腹に乗せて呟いていると、「何を気をつける」と声がして飛び起きた。

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