授業中2時間目
一限目の数学が終わり、二限目の古典の授業が始まった。
朝から頭を使う科目の後、おじいちゃん先生の優しい音読が重なり、数分も経つと皆の頭が机に沈んでいった。
昨日はいつもより早く寝て、十分な睡眠を取れた。
普段の僕ならすぐに眠ってしまって見られないこの光景に、自然と体がポカポカと暖まってくる。
カーテンの隙間からは、心地よい春の風と、空高く昇る太陽の光が差し込んでいる。
ふと、『あの子』の席を見ると、満開の桜のような笑顔で小さく手を振られた。
慌てて目を逸らす。
ゆっくりと視線を戻して、手を振り返す。
まさか起きているとは思わなかった。
顔がじんわりと熱を帯びる
胸の奥で心臓がドクンと跳ねた。
さっきまで心地よかった春が夏に感じられる。
鞄が小さく揺れる。
まさかと思い、机の下でスマホをこっそり開くと、未読メッセージが一件。
「私たちだけだね、起きてるの。」
あの子からだった。
「そうだね。」
さっきの驚きが残っていて、つい素っ気ない返信になってしまう。
だが、そんなことを気にしていないかのように、すぐに返信が届いた。
「さっきの数学は特に難しかったからね。私も君を見るまでは寝ちゃうところだったよ。」
第二の衝撃が僕を襲う。
どういう意味なんだと頭をフル回転させるが、おこがましい妄想ばかり浮かんでしまい、思考が止まる。
あの子の顔を見ようとすると、こっちを見ていて、
首のコリを解すように回した。
ポキッと小さく鳴った。
誤魔化せたか分からないが、震える手で慎重に返信を打つ。
「どういう意味?」
無意識に指が動いた。
慌てて消そうとするが送信ボタンに触れてしまいストレートに聞き返してしまった。
「いつも真っ先に寝てるからさ、驚いちゃって」
想像していた返答とはまるで違っていて、肩の力が抜けた。
僕は適当にスタンプを送り、スマホの電源を切って鞄に放り込んだ。
腕を枕にして顔を伏せる。
「少しはいい思いさせてくれてもいいのに。神様のいじわる。」
さっきまで心地よかった風が、肌寒く秋のように感じる。
その風に運ばれたように、空が曇っていく。
気づけば先生の音読は終わり、チョークが黒板を擦るカツカツという音が教室に響く。
顔を上げて、ペンを持ち、ノートに書き写す。
走り書きの文字がノートに並ぶ中、ふと、『あの子』のスマホがまだ机の中にあるのに気づいた。
慌ててスマホを取り出して未読メッセージを確認しようとしたが、手が止まる。
もし何も来ていなかったら、絶対に落ち込んでしまう。
でも、来ていたら返さずにはいられない。
冬の雪道を歩くような、長い葛藤の末、
「僕はただゲームのログインボーナスを受け取るためだし。ついでにメッセージが来てないか見るだけだし」
そんな言い訳をしながら、スマホの画面を開く。
友達に誘われてたまにやるゲームだが、口実にはちょうどいい。
拙い動きでボーナスを受け取り、メッセージアプリを開く。
すると、『あの子』からたくさんのウサギのスタンプが送られていた。
数分前まで連続で送られていたことが、右下の時間表示から分かる。
授業の終わりは近い。
「stop」と書かれたクマのスタンプを送ると、すぐに既読がつき、またスタンプの嵐が始まった。
クマのスタンプで応戦する。
さっきまでの緊張は消え、時間を忘れてスタンプを送り合った。
──だが、急に『あの子』のスタンプが止まった。
気にせず送り続けていると、突然先生に名前を呼ばれた。
「さっきから思ってたんだが、スマホ触ってないよな?」
「いや、あの……」
言い訳が思いつかず
助けを求めるように『あの子』に目をやると──、
片目をつぶって、いたずらっぽく笑っていた。
イタズラに成功した子供の様だった。
僕は観念して、先生にスマホを差し出した。
窓の外には、春の心地よい風が白い雲を押し流していた。
読んで下さりありがとうございました。
誤字脱字がありましたら申し訳ありません。
頭ではシーンがあるのに文章にするのは難しいですね。