スゴイ組み合わせ
徳平は、岩羽につれられて、メモに書かれた場所に着いたのだが、そこは、強盗ジケンがあった、銀行のすぐ前のビルであった。
そのビルの窓からは、ジケンのあった銀行を、ひと目で見ることができる。
「いくつかの候補の場所のなかで、どうもこの銀行と、その周辺が、ワタシとしては、一番アヤシイとおもってるんですよ」
「なんでまた?」
「ジケンの犯人は、そのジケンのゲンバにもどるっていいますしね」
「ソレはそうかもしれないけど。でも君のことだから、そんなアイマイな理由だけじゃないんじゃない?
いくつかあった候補地から、あえて、まず第一に、真っ先に、この場所を選んだっていうのは、なにかしら、君のなかでの理由というか、かんがえがあったとおもうんだけどね、オレとしては」
「なんでそうおもうんです?」
「君が、なんの当てもなく、つまり、なんの裏づけもなく、無意味な行動をおこすなんていうことは、チョットかんがえにくい」
「なんか徳平さん、えらくワタシのことを、過大評価してませんか?」
「そんなことはないけど」
「そうですね、ここをまず第一に、真っ先に選んだっていう理由を、あえてコトバでいうとすれば」
そういうと、岩羽はすこしのあいだ、なにやら思案顔でかんがえていた。
彼女のなかで、おそらく、それなりのハッキリした理由があるのであろうが、ソレを、たにんにもわかるように、コトバでいうとなると、やはり、アタマのなかで、それらをまとめ、整理するひつようがあるのであろう。
数分後、どうやら、かんがえがまとまったのであろうか。岩羽は、その理由にを話しはじめた。
「そもそも、こんかいの一連のできごとは、この銀行が発端になってます。この場所で、この街ではありえないような、異能のチカラを持っていない、たんなる一般人による、銀行の強盗ジケンがおきた。
これだけでも、十分、この銀行の周辺に、注目していいとおもってるんです」
「たしかにソレは、岩羽さんのいうとおりだろうね。そもそも、この銀行で、あの強盗ジケンがおきたからこそ、オレたちは不審におもった。それで今、こうしてふたりして、この場所にいるワケだし」
「でもまあ、それだけでは、今げんざい、ワタシたちが、あえてこの場所にいるっていう理由には、なりませんよね」
「だろうね。おかしい点がある場所だとはおもうけど、今こうして、ふたりして、ここにいるべきだ。っていう理由にはならないか」
「ワタシとしては、この場所は、さいしょのキッカケというか、はじまりの場所なので、イロイロと、気になる場所ではあるんですが。
じゃあ、なんでワタシが、この場所について気になるのか。この点について、アレコレかんがえてみたんですよ。
すると、コレもまあ、ワタシの憶測にすぎないんですが、犯人が、この場所をえらんだのには、なにかしら、理由があるんじゃないかとおもったんです。
たしかに、『ケイサツの捜査能力を見る』っていう、動機・狙い・もくてきが、あったんだろうとはおもいます。
でも、ソレだけだったら、わざわざ、銀行をえらぶひつようはない。もっとほかに、テキトウな場所で、テキトウなジケンをおこせばいじゃないですか」
「たとえば、たにんをあやつってケンカさせたり、傷害ジケンをおこしたり、モノをぬすんだり、あるいは、銀行以外の場所で、強盗ジケンをおこすとか?」
「そうなんですよ。でも真犯人は、あえてこの場所で、つまり、銀行でジケンをおこした。
ソレにはやはり、なにかしら理由があるとかんがえたほうが、シックリくるといいますが、腑に落ちるといいますか」
「う~ん、あらたまってそういわれると、たしかに、そのとおりかもしれない」
徳平は、岩羽の洞察力というか、観察眼のするどさというか、頭脳の明晰さに、あらためておどろかされてしまう。
(この子は一体、どこまでものごとが見えているんだろう)
「ワタシなりに、その真犯人が、あえてこの銀行で、強盗ジケンをおこしたのであろう理由を、つまり、ここでジケンをおこさなければならなかった。っていう理由について、アレコレと、かんがえてみた結果、『この場所が、今後も重要になると、かんがえたからではないか』とおもいました」
「今後も重要になる?」
「そうです」
「ソレは一体、どういう」
「つまり、あの強盗ジケンをおこしたあとも、犯人はこの場所で、なにかしらアクションをおこすというか、行動をおこすんじゃないかと」
「でも、ケイサツ沙汰になったんだから、用心ぶかいであろう真犯人が、この場所に近づくとは、おもえない気もするけど。
もしもこの場所が、犯人にとって重要だったら、ケイサツを呼びよせるようなことはしたくないだろうし。
それに、一旦ジケンがおきた銀行だったら、その後もケイサツが、この銀行をマークするというか、注目するだろうし。
もっといえば、強盗ジケンをおこされた銀行がわも、今後は、警備を厳重にするだろうから、犯人にとって重要で、かつ、今後も利用すべき場所だったら、犯人としてはやりづらくなり、マイナスになる気もするけど」
「たしかに、フツウならそうです」
「この街だったら、こういうフツウのかんがえは、かならずしも、あてはまらないか」
「そうなんですよ」
「そもそも、真犯人が、ニンゲンの意識やキオクを、じゆう自在にあやつって、コントロールできるんだったら、フツウの常識的な意見やかんがえ、はんだんなんてのは、なんのイミもないか」
「フツウのかんがえや、常識があてはまらない以上、そういうものを無視して、コチラとしても、かんがえるひつようがあると感じました。
ですので、ワタシも、今徳平さんがおっしゃったとおり、『じぶんが今後も重要とおもう場所に、あえてケイサツを呼びよせたり、ケイサツの注目をあつめたり、銀行がわの警備を、厳重にさせることはおかしい』っていう、常識的な意見やかんがえ、はんだんを、一旦、アタマから消したんです。
そもそも、ニンゲンの意識をあやつれるんだったら、そんなことは、なんの障害にもならないでしょうから。
ソレに、異能のチカラを持っていない、たんなる一般人の犯行っていうカタチにすれば、ジケンなんて、すぐ解決してしまうでしょうし。
ケイサツも、この銀行について、今後も、つよい警戒をするとはおもえないんですよ。
たぶん、銀行がわも、しょせんは、ただの一般人の気まぐれな犯行とかんがえて、すこしのあいだは、警備を厳重することはあっても、おそらく、すぐ元どおりになるでしょうし。
もっといえば、ニンゲンの意識をあやつれんるんだったら、ケイサツや銀行員の意識をあやつって、『強盗ジケンがおきた銀行だから、今後は、警備や警戒を厳重にしよう』なんて、おもわせなければいいんですから」
「そうなんだよね。だから、じぶんが重要とおもう銀行で、強盗ジケンをおこしたところで、その後も、支障がないっていうことになる」
「ですから、強盗ジケンを、あえてこの場所でおこそうとかんがえたとき、支障になるような理由は、ほとんどなさそうなんです。
そうなると、じゃあ真犯人は、この銀行で、一体なにをかんがえているのか。もっというと、どういう利用価値があるとおもっており、なにをしようとしているのか。コレが気になるところです」
「銀行の特徴といえば、たんじゅんにかんがえて、おカネがあつまるところになるか。
そもそも、銀行強盗っていうこと自体が、銀行にあつまったおカネを、ムリヤリ奪うっていう行為だし。
銀行の価値というか、特徴っていうのは、ヤッパリ、おカネがあつまる場所っていうのが、まず第一にアタマにうかぶけど」
「ソレはワタシも賛成です。おそらく犯人は、おカネがあつまる場所だからこそ、この銀行を重要視している。そうかんがえると、ムリがない気がします」
「じゃあ犯人は、銀行にあつまったお金を、奪おうとしてるとか?でもそうなると、なんで異能のチカラを持ってない一般人に、強盗ジケンをおこさせたのか。っていう点が、チョットわからなくなる。
ホントウに、銀行にあつまったおカネを奪いたいのなら、チャントした異能力者をあやつって、強盗ジケンを成功させるだろうし」
「銀行にあつまったおカネが欲しいっていうのは、おそらく、そのとおりだとおもいます。
でも、そのおカネを、どうやって手にいれるのか。その方法・やりかた・手法については、強盗っていう、短絡的なものじゃないかもしれません」
「というと?」
「そもそも、たとえ異能力者をつかって、銀行からおカネを奪ったとしても、奪われたおカネの番号とかがバレてしまえば、そのおカネをつかうことは、カナリむずかしいでしょうし。
つまり、手にいれたのはいいけど、どこかで足がつくキケン性がある。それに、いくら異能力者をつかったとしても、強盗が成功するっていう可能性は、ヤッパリ、ひくいんじゃないかとおもいます。なぜなら」
「なぜなら、タイホするケイサツのがわに、異能力者がいたり、あるいは、異能力者の協力者がいたら、ヤッパリ、しっぱいするかもしれない。たとえば、斎藤だったり、岩羽さんだったり」
「そうなんです。いくらなんでも、銀行強盗っていうのは、短絡的すぎるというか、安直というか。
おそらく、用心ぶかいであろう真犯人が、そんなたんじゅんで、安直で、キケン性やリスクのたかい方法をとるとは、ワタシにはおもえません」
「となると、たんじゅんに、銀行にあつまったおカネを奪うっていう線は、ないかもしれないか」
「そうおもいます。銀行にあつめられたおカネを、犯罪行為をおこなって、チカラづくで奪うっていうのは、ヤッパリ、キケン性やリスクがたかいというか、しっぱいする可能性がたかそうですし」
「じゃあ真犯人は、この銀行に対して、どういう利用価値があるとおもっていて、なにをしようとしてるのか」
「コレは、あくまでもワタシの憶測なんですが、銀行にあつめられているおカネ自体ではなくて、そのおカネをあずけてるニンゲンだとか、あるいは、銀行が融資したり、投資している企業とかが、狙いかもしれません」
「なるほど、たしかに銀行は、おカネをあつめているんだから、この街にいる金持ちがわかるだろうし、ソレに、『どんな会社があって、どの会社が儲けてて、業績がいいのか』なんてことも、銀行だったら、すぐにわかるか。
ということは、真犯人は、銀行にあずけられたおカネ自体ではなくて、そのおカネをあずけてるニンゲンだったり、投資したり、融資してる会社のほうが、狙いっていうことになる」
ここまでいって、徳平は気がついたのである。こういうことが狙いであり、動機・もくてきであるならば、この銀行のニンゲンをコントロールしてしまえば、そういう情報など、いくらでも手にはいるのだ。
そうなれば、金持ちであったり、業績の良い企業というものが、すぐわかる以上、そのニンゲン・会社と接触して、あいてを洗脳してしまうことだって、カンタンにできるであろう。
「真犯人が、犯人をあやつって、銀行をおそわせたのは、ケイサツの捜査能力を見るだけじゃなく、強盗ジケンの最中なら、そのドサクサにまぎれて、銀行が持ってる情報を、奪いやすいかもしれない。
もっといえば、ジケンが解決したあとに、銀行は、おカネ以外で奪われたモノがないか、ほかにもなにか被害・損害がないか、おそらく調べるはず。
つまり、銀行のなかは、しばらくゴタゴタするだろうし、銀行の持ってる情報を記載した資料とかも、無事かどうか、かくにんすることになる。
で、そのときに、あやつってるニンゲンがいれば、その情報をぬすんだり、コピーすることは、やりやすいかもしれない。『強盗ジケンがあったらか、情報や資料をかくにんしている』とでもいえば、まわりのニンゲンも、あやしまないか。
ん~、この真犯人は、なんていうか、ものごとを、底の底まで掘りさげて、徹底的にかんがえぬくというか、用心ぶかいというか、なかなかシッポをださないタイプかもしれない。
チョット変ないいかたになるかもしれないけど、君と、よく似てる気がする」
「ワタシにですか?」
「そうなんだよね。表面上のことだけでは、真意やホンネがわからないというか、ホントウの動機・もくてき・狙いが、すぐわからないというか。
しばらくあとになってから、『そういうことか!!』って、わかるとでもいえばいいのか」
「ワタシは、そんなことはないですよ」
「いや、そんなことはあるとおもうよ。この真犯人は、岩羽さんと、似たような一面があるかもしれない。でもまあ、あくまで一面だけだろうけど。
それで、真犯人と、よく似た一面があるかもしれない岩羽さんとしては、この真犯人のホントウの狙いというか、動機・もくてきというか、真意やホンネみたいなものを、チャント見ぬいてるんじゃないの?」
「ハッキリとしたことはわかりませんが、あくまでも、ワタシの推測ですが、この真犯人は、銀行を支配下に置くことで、この街のなかで、けいざい状態の良いニンゲンや、企業なんかの情報をあつめて、さらに、そういうニンゲンや会社を、じぶんのコントロール下に置こうとしてるかもしれませんね。
そうなると、異能力者の個人情報データをあつかう施設で、異能力者の情報を手にいれて、さらに、銀行からは、けいざい状態の良い富裕層のお金持ち、業績の良い企業の情報なんかも、すでに手にいれてる可能性が、たかいってことになります。
こうなっちゃえば、たくさんの異能力者を、じぶんのチカラで支配することができますし、お金持ちや、業績の良い企業のニンゲンを支配して、じぶんにたいして、みずからおカネを差しださせる。っていうことだって、できちゃいそうです。
もっといえば、ケイサツかんけい者まで支配してるのなら、じぶんが捕まるキケン性やリスクも減りますよね。
なにせ、この街の治安機関までも、抑えてるっていうことになりますので。
「君のいうことが、もしもホントウだったら」
「ホントウだったら?」
「この真犯人は、この街の支配者になりかねないか。ホントウのイミでの支配者というか、王様というか、カンゼンな独裁者になれそうな気がする」
「そうですね。たしかに、そのとおりだとおもいます。ホントウのイミでの支配者といえそうです」
「そうなると、たしかにオレたちにとって、まったくの無かんけいとはいえないかもしれない。
そういうニンゲンが、もしも、この街の独裁者になったら、オレたちも、ヒドイ目に遭いそうな気がする」
「だとおもいます。特に、さっきもいったとおり徳平さんは、すべての異能力者にとって、キケンなそんざいになりかねないですし。
なにせ、異能のチカラを無効化してしまうっていうのは、異能力者のそんざい理由や、そんざい意義や価値そのものを、カンゼンに消しちゃいそうですから」
「ソレをいうんだったら、岩羽さんの方こそ、そうなるんじゃないの?物体や物質のうごきだったり、異能のチカラのうごきを、じゆうにあやつれるなんていうのも、真犯人にとっては、十分すぎるほど、脅威やキケンになるだろうし」
「どうなんでしょうか。じぶんのことは、良くわかりませんよ」
「ソレは、オレもおなじだよ」
(この子のいうとおりだったら、オレは無かんけいだから。とは、いえそうにないか)
と、徳平は、こうおもうのだが、ソレと同時に、ココロのどこかで、「チョット大げさというか、ホントウにこんなことが、ウラでおきているんだろうか」というギモンもまた、持ってしまう。
いくらこの街が、世間一般の常識やら、法律やら、ルーツやらと、かけはなれているとはいっても、あまりにも、げんじつ離れしすぎているというか、実感が湧かないのだ。
岩羽にいわれるがまま、今この場所にきてはいるのであるが、「本心から、岩羽のいっていることを、すべて鵜呑みにし、信じている」というワケではない。
(この子のいってることが、ホントウにしろ、ハズレてるにしろ、従っておいて、損やもんだいはないか)
ここでふと、徳平は気がついた。
「今まで、岩羽さんのハナシを聞きながら、オレも君のいうとおり、このまえの銀行の強盗ジケンには、ウラでニンゲンをあやつってる真犯人がいる。そういう前提でハナシをしたり、かんがえてるんだけど。
しょうじきなところ、そんなニンゲンが、ホントウにいるのか。っていうギモンも、まだ持ってるんだよね」
「それはそうだとおもいますよ。ワタシだって、100%の確信があるワケではないですし」
「でも君だったら、たとえ100%の確信とまではいかずとも、あるていど、たかい確信がなければ、わざわざこうして、オレを巻きこんでまで、動こうとはしないとおもうんだけど、どうだろう」
「たしかにあるていど、ワタシのなかでは、そういう可能性がたかい。っておもってます。
だからこそ、徳平さんのおっしゃるとおり、こうして、イロイロとかんがえたり、うごいたり、徳平にそうだんして、巻きこんでるともいえますし」
「となると、君は一体、どういう理由で。まあ、ハッキリとした根拠や証拠はないにしても、なにを理由にして、真犯人がいることを、つまり、そのそんざいを確信したのか。っていうことになるんだけど。
今まで聞いた、君の想像というか、推理というか、そういう仮説・かんがえが、アタマにうかんだからっていうのは、わかるんだけど。
でも、ソレだけだったら、君が何度もいってるとおり、たんなる想像で、憶測にすぎないんだよね」
「そうですね」
「でも、たんなる想像や憶測だったら、君がここまでうごくっていうのも、チョット違和感というか、不自然さを感じるんだよなあ」
「そうですか?」
「ものごとを、先の先まで見とおすというか、ものごとのウラを、底の底まで見ぬくようなタイプの君が、弱い確信だけで、ここまでうごくとはおもえない」
「なんか徳平さん、ワタシのことを、すごく過大評価してませんか?」
岩羽は、わらいながらいった。
「いや、コレは過大評価じゃなくて、しょうじきなオレの感想なんだよね。じゃあ、君は一体、なにを理由にして、真犯人のそんざいを、あるていどのつよさでもって、確信してるのか。
いいかたをかえれば、なにをキッカケにして、真犯人のそんざいに気がついたのか。っていうことになるんだよね。
こんなことをかんがえてたら、チョット気づいたことがあるんだけど」
「なんですか、気になるじゃないですか。いってくださいよ」
「あの銀行の強盗ジケンがおきたとき、岩羽さんは、あのゲンバにいたんだよね。
そのとき、異能のチカラを持ってない、たんなる一般人なのに、このジケンをおこしたことに、つよいギモンを感じたはずだよね。
それで、もしかしてそのときに、あの犯人たちが、ダレかにあやつられてるのを感じたとか?
だって、君の持ってる異能のチカラって、ほかのニンゲンが、異能のチカラをつかったときに、そのチカラのながれだったり、おきたできごとや現象、効果とかを、感じることができるんだよね?
だったら、まさに、あの強盗ジケンがおきたっていう、そのときに、もしかして君は、あの犯人たちにたいして、ソトからダレかが、異能のチカラをつかってるのを感じたんじゃないの?」
徳平がこういうと、岩羽のカオから、えがおがきえた。
「おどろきましたよ、徳平さん、なんでわかったんですか?」
「いや、今まで君から聞いたハナシを、一個ずつ、アタマのなかで整理したら、こういうことがうかんだんだよね。
仮説っていうほど、大げさなことじゃないかもだけど、こうかんがえてみると、今までの君の発言だったり、行動やふるまいのナゾが、解けるかなっておもえる」
「そうなんですよ。徳平まさんのおっしゃるとおりなんです。べつにコレは、隠してたワケじゃないんです。
ワタシ自身、チョットだけそういうことを、あのジケンの犯行ゲンバで、感じただけなんです。
だから、ワタシ自身のなかで、ハッキリと言語化というか、コトバになってなかったんです。だから徳平さんに、コトバにして言えてなかっただけなんです」
「ヤッパリそうか」
「さっき徳平さん、ワタシのことを、ものごとの先の先まで見とおすとか、ものごとのウラのウラまで見ぬく。とかいってましたけど。
ワタシにいわせれば、徳平さんの方こそ、そうにおもえますよ。ワタシのアタマのなかを、見ぬくというか、見とおすというか。
おっしゃるとおりなんですよ。ワタシが、真犯人のそんざいに気づいたというか、意識するようになったのは、銀行強盗ジケンがあったとき、犯人たちにたいして、ナニモノかが、異能のチカラをつかったことを、チョット感じたからなんです。
つまりあのとき、異能のチカラのながれを感じたんです。でも、そのだんかいでは、今ほどハッキリとしたことまで、アタマになかったんですよ。
だから、このことを、ハッキリと意識はしておらず、認識することができていなかったんです。ホントウに、なんとなく、感じただけなんです。
でも、異能のチカラを持ってないニンゲンが、ジケンの犯人らしいのに、なぜ異能のチカラのながれを感じたのか。
コレがずっと、アタマなかで、引っかかってました。それで、コレがキッカケになって、ウラであやつるニンゲンに、つまり、真犯人のそんざいの可能性に気がついたんです。
あの強盗ジケンの犯人たちにたいして、ナニモノかが、異能のチカラをつかっていた。
つまり、あの犯人たちにたいして、異能のチカラがながれているのを感じた。コレを無視することは、できないとおもいました。
それで、あのジケンのあと、犯人たちが、ヤッパリ、異能のチカラを持ってない、たんなる一般人だとわかったとき、じゃあ、あのとき感じた異能のチカラは、一体なんだったのか。と、こういうギモンが湧いてきたんです。
この点を、深く掘りさげてみると、もしかして、ニンゲンの意識やキオクをあやつって、コントロールするようなチカラじゃないか。っておもったんで」
「それで、今にいたると」
「おっしゃるとおりです」
「はぁ~、ヤッパリ君のほうこそ、名探偵じゃないか」
徳平は、目のまえにいるニンゲンの、異常なまでの洞察力や、観察眼のするどさに、タメ息をだしてしまった。
「ということは、今の岩羽さんのハナシを聞くかぎり、コレはもう、憶測や想像じゃなくて、カナリたかい確率で、銀行の強盗ジケンからつづく、一連のながれのウラには、ヤッパリ、真犯人がいるんじゃないの?
オレとしては、もうコレは、根拠や証拠がないから、憶測だとか、想像だとかとは、おもえそうにない」
「いや、でもまだ、100%の確信までは持てませんよ。ヤッパリなにごとも、ハッキリとした証拠や確証、裏づけがあってこそ、はじめて確信が持てますから」
(真犯人よりも、君のほうが、よっぽど用心ぶかい気がするが)
「いずれにせよ、徳平さんも、こんかいの件にかんしては、協力してくれるっていうことで、いいんですよね?」
「ここまできたら、オレには無かんけいだとは、もういえそうにない。たとえ、今のところは無かんけいだとしても、いずれはなにかのカタチで、じぶんにたいして、火の粉が降りかかってきそうだし。ソレも、けっこうな確率で。
だったら、君のいうとおり、今のうちに、なにかしら、手を打ったほうがいいんじゃないか。っておもうよ。火事になる前に、火の粉はカンゼンにけしておきたい。
ちなみに、参考までに聞くけど、今げんざい、君からみて、あの銀行のなかで、異能のチカラがつかわれている感じはする?」
「ええ、じつはさっきから、チョット感じてるんですよ。あの銀行のなかにいるニンゲンにたいして、ダレかが、異能のチカラをつかって、なにかしらの影響力を、行使してる感じがします」
「つまり、なにかの異能のチカラのながれを感じると」
「そういうことになります」
「じゃあヤッパリ、今までいった、君の推測というか、推理はあたっていそうだ
「どうでしょうか、まだ確信は持てませんが」
(あくまでも用心ぶかいというか、慎重というか)
「じゃあさっそく、徳平さんの持ってる異能のチカラを、あの銀行にたいして、つかっていただいて良いですか?」
「了解、司令官どの」
「司令官って、なにいってるんですか」
と、岩羽はわらいながらいった。
「いや、コレは半分くらい、ホンキというか、ホンネなんだけどね。ここまできたら、オレは、君の指示にしたがう気きでいる。だからまあ、司令官っていうことだよ」
こういうと、徳平は、目のまえの銀行にむかって、意識を集中しだした。彼の持っている、「✕0」の異能のチカラをはつどうさせた。
「今、あの銀行にたいして、チカラをつかったよ」
「ということは、もうあのタテモノのなかは」
「そう、カンゼンに、異能のチカラがつかえない状態になってる。チカラをつかおうとしても、そのチカラは、すぐに打ちけされて、なんの効果も現象もおきないはずだよ」
「アリガトウございます」
ふたりが会話をしながら、銀行を見ていたら、入口から、お客が何人か、あわてたようにして、ソトにでてきた。
「たぶん、あのヒトたちは、徳平さんのチカラで、真犯人の洗脳が解けたんだとおもいます。
だから、用事もないのに、なんでじぶんがここにいるのか。とおもって、いそいで帰っていったかとおもいます」
「だろうね。でもコントロールされてるニンゲンが、そのコントロールが解けたんだったら、かれらにたいして、異能のチカラをつかってあやつってたヤツも、つまり真犯人も、じぶんの異能のチカラが無効化されて、何人かのコントロールが解けたっていうのを、カンづいたとかんがえていいよね、たぶん」
「ワタシもそうおもいます。だから今ごろ、相当あわててるとおもいます。もしかしたら、なにか異常があったとおもい、理由・原因を知るために、このゲンバにやってくるかもしれません。なにせ、犯人はジケンのゲンバにもどるっていいますし」
「っていうか、今の状態だったら、君がそう仕向けたっていったほうが、いい気もするけど」
「そういえるかもしれません」
ふたりが銀行を見ていたら、とつぜん、ひとりのニンゲンが、走って銀行のまえにやってきた。そのニンゲンは、銀行を凝視していた。
「あ!!」
と、岩羽は小声で叫んだ。
「どうした?とつぜん叫んで」
「今あの銀行の前にいるニンゲンが、銀行にたいして、異能のチカラをつかってます!!チカラのながれを感じます」
銀行の前に走ってきたニンゲンは、銀行のほうを凝視しており、ウロウロと、落ちつきがないようすであった。
そして、そのニンゲンのうしろに、またひとりのニンゲンが走ってきた。そのもうひとりのニンゲンを見たとき、岩羽と徳平は、おたがいに、カオを見あわせた。
「斎藤だ!!」
「斎藤さんですね!!」
ふたりは、ほぼ同時に叫んでいた。
「徳平さん、チカラのながれを見るかぎり、あの銀行の前に、さいしょにきたニンゲンが、斎藤さんにたいして、チカラをつかっている感じがします。っていうことは、あのヒトが、真犯人の可能性がたかいですよね。
で、ちょうどつごうよく、こうして真犯人と斎藤さんが、ふたりとも、おなじ場所にいる。
おそらく斎藤さんは、一連のジケンのウラにいる、真犯人のそんざいに気づいたからこそ、ああしてあやつられて、コントロールされてるんだとおもいます。
ということは、あの状況下で、斎藤さんの洗脳が解けるっていうのが、一番手っとりばやい、解決策になるんじゃないでしょうか?」
「たしかに!!」
「そこでおねがいなんですが、徳平さん、あの銀行だけじゃなくて、あの真犯人にんにたいしても、『✕0』のチカラをつかえません?
そうすれば、斎藤さんにたいして、チカラをつかうことができなくなりますよね。だったら斎藤さんも、正気にもどるんじゃないでしょうか?」
「了解、司令官どの」
そういうと、徳平は、斎藤にたいしても、自身の異能のチカラをつかったのだ。
その瞬間、斎藤は立ちどまり、なにやらジロジロと、まわりのようすを見わたしはじめた。
そして、じぶんの目のまえにいる真犯人のほうを、ジッと見ているようすであった。
ソレと同時に、真犯人も、ひどくあわてたようすであった。そして、斎藤にたいして、なにやら指示をだしているようすである。
つぎの瞬間、斎藤が、その真犯人にじぶんの手をむけて、あいての肩にさわった。すると、その数秒後、真犯人は、身うごきがとれなくなった。
「どうやら斎藤さん、洗脳が解けて、目のまえにいるニンゲンが、銀行の強盗ジケンの黒幕で、じぶんのことをあやつってた、真犯人だと認識したようですね」
「みたいだね。アタマの回転のはやいアイツのことだから、とっさのこの状況でも、目のまえにいるニンゲンが、どういうニンゲンか、わかったんだろう」
「徳平さんのチカラで、あの真犯人は、じぶんの異能のチカラが、銀行にたいしても、斎藤さんにたいしても、まったくつかえなくなってしまって、あわてたんでしょうね」
「ちなみに、斎藤が今、つごうよく、目のまえにいるニンゲンが、じぶんをあやつってたニンゲンだと認識したから、じぶんの圧縮・圧迫のチカラをつかって、あの真犯人を捕らえたようだけど。
でも、もしも斎藤が、『じぶんが洗脳されている』っていうこと自体を、認識することができず、目のまえにいるニンゲンが、真犯人だと気づかなかったら、どうするつもりだったんだい?
斎藤がパニックになってるあいだに、逃げられた気もするけど」
「そのときは、ワタシのチカラをつかって、あの真犯人の身うごきを止めちゃいますよ」
「どうやって?」
「ワタシのチカラをつかえば、あの真犯人のまわりの空気のながれをあやつって、まあ斎藤さんの圧迫・圧縮に近いですが、空気のカベをつくって、身うごきが取れないようにしよう。とかんがえてました」
「なるほど、抜かりはないワケか」
ビルから眺めていた徳平は、内心、チョットおどろいてしまった。なぜならば、取りおさえられた真犯人のカオを見ると、なんと、徳平が、あの銀行の強盗ジケンを目撃したとき、ゲンバで話したニンゲンだったのだから。
(あのとき、銀行のまえで、オレと話したあのニンゲンが、真犯人だったのか。
たしかに、あの場所だったら、銀行のなかにいる強盗犯に近いから、ヤツラをあやつりやすいか。
それにしても、彼女のいうとおり、犯人は、ホントウにゲンバにもどってきやがった)
こうして、なんだかあっけないほどに、一連のジケンの黒幕である真犯人は、取りおさえられた。だがしかし、ここで徳平は、あることが気になってきた。
「ちなみに、あの真犯人を取りおさえたのはいいとして、今後、どうあつかうのか、かんがえてある?
そもそもケイサツは、あの銀行の強盗ジケンは、たんなる一般人の犯行だとおもってて、黒幕の真犯人がいるなんて、まったくかんがえてないんだよね?
それに、たとえソレに気づいてたとしても、そもそも証拠がまったくない。だから、容疑者としてタイホなんてできないだろうし。
もっというと、たとえタイホすることができても、ニンゲンのキオクや意識を、じゆうにあやつれるんだったら、カンタンに脱獄しそうな気もする」
「おっしゃるとおりなんです。ですからあの真犯人には、ある施設にはいってもらいます」
「施設?ハナシが見えないんだけど」
「実は、こんかいみたいに、ケイサツが対処・対応することができないような、つまり、既存の司法機関や治安機関が、対処・対応することができないような、異能力者による犯罪・トラブルがあったとき、その犯人の異能力者を収容する施設が、この街にはあるんです」
「なにそれ、初耳なんだけど」
「そうだとおもいます。ワタシもソレを知ったのは、ごく最近なので」
「なんで君は、そんなことを知ってるんだい?」
と、ここまでいって、徳平は気がついた。岩羽が今まで、ケイサツに協力しており、異能力者がおこした犯罪やトラブルがを、解決する手伝いをしていたことを。
「そうか、君はたしか、今までに、ケイサツの捜査に協力したことがあるんだよね。だから知ってるのか」
「そうなんですよ」
「ん、待てよ。っていうことは、おなじようなことをしてた斎藤も、その施設を、知ってるってことになるのか」
「そうなります」
「ということは、斎藤はこのまま、あの真犯人を、その施設に送るはんだんをする可能性がたかい。ともいえるワケか」
「そうなんですよ。でもまあ、念のため、今から斎藤さんにデンワして、コチラがはあくしてる、一連のことをつたえようかとおもいます。
斎藤さんが知ってることを、コチラとしても、知っておいたほうが良いでしょうし」
「つまり、答えあわせをすると」
「そうです」
「ちなみに、岩羽さんて、斎藤のケイタイって知ってるワケ?」
「今まで、あまり接点がなかった方なので、ここにくるまえに、シゴト場のれんらく網で、かくにんしておきました」
「ぬけ目ないね」
こういうと、岩羽は、斎藤のケイタイにデンワをかけた。ビルから見ていると、斎藤は、ポケットからケイタイを取りだした。
すこしのあいだ、岩羽は斎藤と、デンワでハナシをしていた。
「ヤッパリ、ワタシたちの想定はあたってたみたいです。斎藤さんも、あの銀行の強盗ジケンを不審におもって、じぶんで調べてたら、あの真犯人のそんざいに、気がついたらしいです。
ですが、真犯人ほうが、先に手を打ったようで、斎藤さんを、洗脳してしまったようです。
それで斎藤さんも、あの真犯人は、ケイサツにわたしてもムダだろうっていうことで、異能力者を収容する施設にデンワして、引きとってもらうそうです」
「すべて、君の読みどおりになったってワケか」
「そんなことはないですよ」
そうこうしているうちに、斎藤かられんらくをうけた、その収容施設とおもわれるクルマが、斎藤のまえに停まった。
そして、クルマのなかから数人のニンゲンが降りてきて、なにやら拘束具のようなモノを取りだして、真犯人のカラダに取りつけた。
そのようすを見ていた徳平にたいして、岩羽はせつめいをしだした。
「あの拘束具は、異能のチカラを抑えつける、機能やはたらきがあるそうです。
ですから、あの拘束具を身につけちゃえば、真犯人は、もう異能のチカラをつかうことはできません」
「ということは、オレはもう、じぶんの異能のチカラを解除して良い。ってことだよね?」
「そうなります」
この岩羽のコトバを聞いて、徳平は、みずからの異能のチカラを解除した。
「はぁ~」
つかれたのであろうか、徳平は、おおきなタメ息を吐いた。
「おつかれさまでした。徳平さんのおかげで、えらくカンタンに解決することができましたよ」
「どういたしまして。しょうじきなところ、オレはそんなに、大したことはしてないんだけどね」
「そんなことないですよ。もし徳平さんがいなければ、斎藤さんの洗脳を解くことができず、もっと手まどったはずです」
ふたりが話しているあいだに、クルマは真犯人を載せて、走りさっていった。そして斎藤は、ふたりがいるビルのほうにむかって、あるいてきた。
「さっきのデンワで、斎藤さんに、ワタシたちが、このビルから見ているとつたえましたら、コッチに会いにくるといってました」
そう岩羽がいった数分後、斎藤は、ふたりのまえに現れた。
「こんかいはたすかりましたよ。おふたりのおかげで。面目ないことに、じぶんが洗脳されちゃあ、どうしようもないですね。
あやうく、犯罪の片棒をかつがされるところでした。アリガトウございます」
「オレはほとんど、なにもしてないよ。岩羽さんが、こんかいのことに気がついたから、オレは、その手伝いをしただけだし」
「いやいや、徳平さんの異能のチカラがあったらこそ、こうやって、スンナリ片づいたともいえます。
それにしても、徳平さんと、岩羽さんのコンビですか、すさまじいというか、とんでもないというか、スゴイ組みあわせですよね」
(斎藤も、えらく大げさにいう)
「斎藤さん、さっきデンワでもお聞きしましたが、あの真犯人は、異能力者の収容施設に送られるんですよね?」
「そうなる。もうコレで、悪さはできないだろうね。異能力がつかえない器具を、身につけられた状態のまま、徹底的に、調べられるだろうね。
施設には、ほかの異能力者もいるし、異能のチカラの研究者もいる。だから、洗脳のチカラを持ってるとつたえた以上、ソレを警戒するだろうし。
だから、もうあの真犯人は、異能のチカラをつかって脱獄するなんてことは、まず不可能だとおもうよ」
こういうと、斎藤は、徳平にたいして話しかけた。
「それじゃあオレは、しょくばにいきますね。なんせ、急にひんぱんに休んだもんですから、シゴトが溜まりまくってるはずですし。ソレを、すぐやらないとマズイですので。
それに、上司や同僚に、いちおう詫びもいれとかないと」
斎藤は、シゴト場にむかっていった。
「じゃあ、ワタシたちも帰ります?」
「そうしよう」
こういうと、ふたりとも、おたがいの社宅へ帰っていった。