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アクション

 ふたりが、異能力者の個人情報データをあつかう施設をおとずれてから、一カ月も経つか、経たないかのことである。ふたりのしょくばで、チョットとした異変があった。

 ソレは、「斎藤が最近、シゴトを休みがちになっている」ということである。

 斎藤は、アタマが切れてシゴトができるし、また、たかいレベルの異能のチカラを持っており、異能力者としても、上位にはいるニンゲンである。つまり、一目置かれるそんざいであった。

 そのために、「斎藤が、シゴトを休みがちになっている」ということだけで、しょくばのなかで、チョットとしたウワサになってしまう。

(斎藤が、シゴトを休みがちっていうウワサを、最近よく聞くけど、それだけでウワサになるのは、フダンから、いかに注目されてるか。っていう、証拠といえるか)

 徳平が、このようなことをかんがえながら、残業が終わり、つくえの上を片づけていたら、しょくばのデンワが鳴った。

(こんな時間に、ダレだ?)

 デンワにでたら、岩羽からであった。

「徳平さんですか?よかった、まだのこってたんですね。まだいるかもっておもって、チョットと内線で、デンワさせてもらいました」

「ちょうどこれから帰るところなんだけど、なにかあった?」

「いえ、シゴトのことじゃないんですけど。徳平さん、斎藤さんのウワサって聞きました?」

「え~っと、最近、斎藤がシゴトを休みがち。っていうヤツ?」

「そう、ソレです」

「チョット小耳に挟んだていどだけど。ソレがどうかした?」

「大したことじゃないんですが、チョット気になることがありまして。デンワだと話しにくいので、今から、そちらのヘヤに行ってもいいですか?

 せっかく帰ろうとしてるところ、引きとめるようで、もうしワケないんですが」

「べつにかまわないよ」

 デンワの数分後、岩羽がやってきた。

「すいません、徳平さん。帰るのをジャマしちゃって」

「ぜんぜんいいって。で、さっきのデンワでいってた、気になることっていうのは、一体どういうことかと」

「ホントウに、どうでもいいことかもしれないんですけど、ヤッパリ気になるっていうか、チョット引っかかるっていうか。そういう部分がありまして。

 ソレで、徳平さんの意見を聞きたいというか、ワタシ自身も、じぶんのアタマのなかを整理して、まとめたいとおもって、デンワしちゃいました」

「そういうことを言うっていうのは、もしかして、このまえの、あの銀行強盗ジケンにかんけいしてるとか?」

「もしかしたら、そうかもしれません。でもまだ、そこはしょうじきなところ、ワタシ自身も、良くわかっていないんです。

 ワタシが気になってるのは、斎藤さんのことなんです」

「斎藤のこと?」

「ええ」

「さっきいってた、斎藤が最近、シゴトを休みがちっていうナシ?」

「ソレです」

「う~ん、オレはとくべつ、気になることはないかな。べつに、アイツだってニンゲンだから、なにか事情や用事ができて、シゴトを休みがちになることも、たまにはあるだろうし」

「もちろん、ソレはワタシも、そうおもいます」

「じゃあ斎藤の件の、なにがそんなに気になるんだい?」

「いえ、斎藤さんが、シゴトを休みがちっていうのは、徳平さんのおっしゃるとおり、べつだん、おかしなことじゃないとおもうんです。

 ただ、今まであまり、シゴトを休んだことがない斎藤さんが、とつぜん、休みがちになるっていうのは、チョットした違和感というか、それまでとの違いですよね。

 でもまあ、これ自体は、たしかに、おかしなことじゃないとおもいます。ニンゲンですから、シゴトを休まなければならないような、なにかの用事が立てつづきに起こるっていうことも、十分ありえますし」

「そうそう、冠婚葬祭とかね。特に葬式は、いつ、ダレが死ぬかなんてわからないから、事前に予定が立てれない」

「ワタシもそうおもいます」

「じゃあ斎藤の件は、一体なにがそんなに気になるのか」

「さいしょはワタシも、斎藤さん、冠婚葬祭とかが、急にかさなったのかな。とおもったんですよ。

 でも、だったら、それこそシゴトを休む、ハッキリとした理由があるワケで。

 つまり、『ソレを理由に、シゴトを休む』っていうことを、しょくばの上司や同僚に、ハッキリいうはずですよね」

「だろうね」

「でも斎藤さん、冠婚葬祭で休むとはいってなくて、あくまでも、『一身上のつごうです』っていう理由で、この一か月間、何度もシゴトを休んでるらしいんですよ」

「へ~、ハッキリとした理由をいわずに?」

「そうらしいんです」

「アイツらしくないなあ。そんなことをすれば、しょくばのなかで、じぶんの評判が悪くなるのに。

 アイツの上司だって、いいカオをしないだろうし。そのていどのことが、アイツにわからんワケないのに」

「そうなんですよ。斎藤さんらしからぬ。というか、あのヒトらしくないというか。どうにも、不自然な感じがするんですよ」

「でもまあ、このこと自体は、たしかに、チョットした不自然さがあるとしても、そんなに、あらたまってかんがえなければならない。っていうことじゃあ、ないとおもうんだけど」

「たしかに、そういわれちゃうと、そのとおりなんですよね。ワタシもそうおもいます」

「じゃあヤッパリ、そんなに気にするひつようはないんじゃないの?」

「さいしょは、ワタシもそうおもったんです。でも、斎藤さんと、おなじ部署のヒトに、斎藤さんが休みがちっていうハナシを、聞いてみたんです。

 そうしたら、斎藤さんが、急に休みだしたのって、あの施設で、ワタシたちと会ってからなんですよ」

「ソレって、異能力者の個人情報データを見にいった、あの施設のこと?」

「そうなんです。どうもワタシたちが、あの施設で、斎藤さんと会った翌日に、斎藤さんは、とつぜんシゴトを休んだそうなんです。で、その後ひんぱんに、シゴトを休むようになったと聞いてます」

「ん~、ソレはたしかに、チョット気になるというか。たんなる偶然ともいえそうだけど、でも偶然にしては、チョットできすぎという気もするか」

「ですよね。やっぱり徳平さんも、そうおもいますか?」

「いやまあ、チョットそういう気がするかも。っていうだけなんだけど」

「でも、ヤッパリ偶然にしては、チョットおかしいですよね?ワタシたちと会った、その翌日から、とつぜんシゴトを休みがちになるっていうのは」

「たしかに、あらたまっていわれると、そのとおりかもしれないけど。どうなんだろうか」

「ワタシも、とくべつになにか、ハッキリと、おかしいとおもってるワケじゃないんですよ。

 ただ、こういう些細でちいさくても、違和感や不自然さっていうのは、どうもウラっかわに、なにかしらおおきなことが、隠れてるんじゃないかっておもってるんです。

 特に、この街では、異能のチカラを持ってるニンゲンがいるから、フツウの常識でかんがえたら、まずありえないようなことだって、十分ありえますし」

(常識でかんがえたら、ありえないことねえ)

 徳平も、岩羽のコトバを聞くと、たしかに、そのとおりとおもってしまう。だがしかし、かといってソレが、「斎藤がシゴトを休みがち」という一件と、一体どういう因果かんけいがあるのであろうか。

「もしかして、岩羽さん、斎藤の件について、なにか、おもうところでもあるとか?

 まあ、仮説といったら大げさだけど、前に、あの施設で斎藤と会ってから、シゴトを休んでることについて、なにかの仮説というか、想定というか、理由・原因をおもいついたとか?」

 徳平の発言は聞くと、岩羽は、すこしだまってしまった。彼女はフダン、アタマの回転がはやいために、あいての発言にたいして、すぐにコトバを返すことができる。

 そのためか、いつもならば、ポンポンとコトバがでてきて、会話が止まることはない。

 それなのに、すこしだけ、ほんの数秒ていどだが、だまってしまったのだ。

(ん?なんだ?この沈黙は)

 すぐにコトバが返ってこないという、岩羽らしくない状態に、徳平はすこしだけ、違和感を感じた。

(もしかしてオレは、なにか重要なことをいったのか?)

 ほんのすこしの沈黙のあと、岩羽はしゃべりはじめた。

「ホントウに徳平さんて、ワタシのアタマのなかを覗くというか、アタマのなかで、重要とおもってるけれど、なかなかコトバにだしていえないようなことを、先まわりしていいますね。

 アタマのなかにあるんですけど、言語化されてないようなことを、スパッと言ってくるというか」

「いや、そんなつもりはないんだけど。たんじゅんに、岩羽さんのハナシを聞いて、理づめで一個ずつ、積みあげていったことを、いってるだけなんだけどね」

「いえ、それでもコッチとしては、チョットだけ、ドキリとしてしまいますよ。

 アタマのなかに、概念としてはあるけれど、言語化されておらず、コトバになっていないことだから、なかなか、クチにだしていうことができないんです。そういうのって、かなりモヤモヤするじゃないですか。

 でもソレを、ほかのヒトからいわれると、ヤッパリ、かなりドキリとしますよ」

「そういうものかなあ」

「そういうものですよ」

「ちなみに、岩羽さんのアタマのなかにあるっていう、そのかんがえ、せっかくだから、どういうものか、聞かせてほしいんだけど」

「う~ん、ワタシもいいたいんですが、いかんせん、うまくアタマのなかでまとまっていないというか、言語化されていないというか。

 ですので、ほかのヒトにたいして、コトバでうまくいえないというか」

「なるほど、だったオレが理づめでかんがえたことを、一個一個、言ったほうがよいかもしれないか」

「そうですね。そのほうが良いかとおもいます。ですので、徳平さんのかんがえたことを聞かせてください」

「なんかオレ、岩羽さんの代弁者みたいになってる気がする」

 徳平がそういうと、岩羽はすこしおかしかったらしく、チョットわらってしまった。

「そういわれると、たしかに徳平さん、わたしのアタマのなかにあることを、代わりにいってくれるわけですから、ワタシの代弁者っていうのは、あたってる気がします。ウマイことをおっしゃるんですね」

「代弁者っていういいかたが、ウマイかどうかはしらんけど、オレが想像すると、まずさいしょに、なんで岩羽さんが、こんかいの斎藤の一件に、ここまで興味を持ってるというか、気になってるのか。っていう点なんだけど、そもそも岩羽さんて、斎藤と、ほとんど接点がないんじゃないの?」

「そうなんです。私生活では、接点なんてまったくないですし。シゴトでも、ときどき、チョットかかわるていどです」

「それなのに、なんで岩羽さんは、こんかいの斎藤の一件について、ここまで気になっているのかっておもうと、チョット違和感というか、不自然さみたいなものを感じる。

 ろこつにいってしまうと、『ここまで興味をもたなければならない』っていう、動機や理由が、チョット弱い気がする。

 まあたんじゅんに、岩羽さんが、斎藤のことが大スキで、つよい好意を持ってるんなら、ここまで興味を持ったり、気になったりする動機や理由に、なるかもしれないけど。

 前にどこかで、岩羽さんから、斎藤のことがニガテだって、チラッと聞いた気がするんだよね」

「そういえば、前にどこかで、そんなことをいったかもしれません。アタマの回転がはやくて、シゴトがすごくできますし、それに、異能力者としてのレベルもたかい。

 たしかに、スゴイ方とはおもいますけど」

「いっしょにシゴトをしたり、話したりすると、チョット取っつきにくいというか、コミュニケーションが取りにくいというか」

「そう、そうなんです。っていうか、そういうことを、スラスラいえるっていうことは、徳平さんだって、斎藤さんのことを、チョットはニガテとおもってるんじゃないですか?」

 岩羽がわらいながらそういうと、つられて徳平もわらってしまった。なぜならば、そのとおりなのだから。

「まあ、斎藤がニガテっていうことは、置いておくとして」

「置いておいて、いいんですか?」

 と、岩羽はわらいながらいう。

「置いとくしかないんじゃないの?」

 徳平も、わらいながらいってしまった。

「岩羽さんは、斎藤とは接点がほとんどない。そして、斎藤のことを、とくべつ大スキでもない。

 とすれば、じゃあなんで、こんかいの斎藤の一件について、ここまで興味を持ったり、気になってしまうのか。

 こういう前提条件に立ってかんがえてみると、その理由や動機として、なにがあるのか。

 イロイロとかんがえてみたんだけど、じぶんにたいして、ほとんどかんけいがない、あるニンゲンのことについて、つよく興味を惹かれたり、気になってしまうのは、たとえば、じぶんのアタマのなかに、なにかしらの想定・仮説のようなものが、あるからなんじゃないか。とおもってね。

 ニンゲン、じぶんのなかで、そのものごとや対象について、なにかしらの想定や仮説みたいなものがあれば、ソレがはたして、ホントウにただしいのかどうか、あたってるのかどうか。っていうことを、かくにんしたくなるだろうし」

「なるほど、そういわれると、たしかにそのとおりですね。じぶんのことですが、こうして、ほかのヒトからズバッといわれると、納得してしまいます。

 そうなんですよ。斎藤さんの一件について、じぶんのなかで、チョットだけモヤモヤしてて、ぐたいてきではないかもしれませんが、たしかに仮説という、想定というか、『こういうことなんだろう』っていう、かんがえがうかんだんですよ。

 それで、コレがうかんでからなんですよね~。斎藤さんの一件について、妙に気になりだしたのは。

 じぶんにたいして、ほとんどかんけいがないヒトですし、とくべつ大スキってワケでもなくて、むしろ、チョットだけニガテなヒトなのに」

「そうなってくると、岩羽さんのアタマにうかんだっていいう、その仮説というか、想定っていうものが、どういうものか気になってくるんだけど。コレばっかりは、オレじゃわからないし」

「う~ん、コレもしょうじきなところ、うまく言語化ができていないというか、コトバになっていないというか。

 だから、うまくいえる自信がないんですよ。でも、あえていえば」

「あえていえば?」

「まえに話したとおもいますが、ニンゲンの意識やら、キオクをあやつるような異能力者が、もしも、この街にいるとしたら。っていう件です」

「そういえば、そんなことを話したっけか。で、ソレが一体、どういうカタチでかんけいしてくるのか」

「うまくいえませんが、あの銀行強盗ジケンの犯人たちが、もしも、ほかのダレかに、キオクやら、意識やらをあやつられて、ああいう犯罪をおこしたっていう、前に話してた仮説がただしいんだとすれば」

「ただしいんだとすれば?」

「斎藤さんも、おなじような目に遭ってるかも。っておもっちゃったんですよ」

「あの斎藤が?」

「そうなんです」

「あの斎藤が、そういう目に遭ってるかあ」

「コレはあくまで、ワタシの勝手な想像にすぎないんですけどね」

「でも、岩羽さんの想像が、もしもホントウにあたってるとしたら」

「あたってるとしたら?」

「この街のなかで、異能力者として、上位のクラスにはいるであろう実力をもった、あの斎藤ですら、意識やら、キオクやらをあやつられて、コントロールされてる。っていうことになるんだよね」

「そうなんですよ」

「となると、そのニンゲンは、まあ『真犯人』といってもいいだろうけど、その真犯人は、どんでもないヤツ。ってことになるとおもうんだけど」

「ワタシも、そうおもいます」

「だよねえ」

「でも、このワタシの勝手な想像が、もしもあたってるんだとすれば、あの斎藤さんレベルの異能力者ですら、じゆうに、キオクや意識をあやつれるんだったら、異能のチカラを持っていない、ただの一般人を対象にすれば、それこそ、もっとじゆう自在に、スキ勝手にあやつることができそうですよね」

「たしかに」

「つまり、異能のチカラを持っていないであろう、あの銀行強盗ジケンの犯人なんて、いともカンタンにあやつってしまって、コントロールできちゃう気がします」

「だろうね~。ただの一般人なら、カンタンにあやつってうごかして、銀行強盗くらい、カンタンにやらせそうな気がする。でもそうなると」

「そうなると?」

「ホントウにそんざいしてるかどうかも、まだぜんぜんわからないけど、その真犯人の動機・もくてきが、イマイチわからないんだよね。

 なんの動機・もくてきで、犯人たちをあやつって、銀行強盗っていう大それたジケンを、なんでわざわざおこしたのか。この点が、よくわからない」

「そういう前提条件に立ってみると、あのジケンの動機・もくてきは、たしかに、良くわかりませんね。

 イロイロとかんがえだしたら、キリがなくなるんですけど。でもまあ、あえてかんがえてみたんですよ。

 ソレで、コレはチョット、飛躍したかんがえになっちゃいますけど。あのジケンをおこすこと自体が、その動機・もくてきだったとか?」

「ジケンをおこすこと自体が、動機・もくてき?」

「ええ、でもまあコレは、あくまでも、なんの根拠もウラけもない、たんなる想像にすぎませんが」

「ちなみに、その想像っていうのは、どういうことになるか。もうチョット、くわしく聞いてみたんだけど」

「う~ん、ワタシもしょうじきなところ、ぐたいてきにいえるかどうか、あまり自信がないんですが」

「アイマイでもいいから、話してくれない?」

「わかりました、ソレでいいのであれば」

 こういうと、岩羽はすこしのあいだ、なにやら、かんがえをまとめているようすであった。そして、話しはじめた。

「あの銀行でおきた、強盗ジケン自体が、どうにも、良くわからないんですよ。この街で、なにも異能のチカラを持ってないニンゲンが、つまり、たんなる一般人が、ああいう、大それたジケンをおこした。

 でも、そんなことは、はじめっかから、しっぱいすることが目に見えていた。わかり切ってたはずなんです。

 で、しっぱいすると、さいしょから、わかり切ってたのであれば、あの犯人たちを、ウラであやつってたのであろう真犯人は、まあホントウに、そんなニンゲンがいればのハナシになりますが。

 その真犯人の動機・もくてきは、銀行をおそって、おカネをうばうことじゃないのかも。とおもいます。

 しっぱいするっていうこと自体が、じぜんに、わかり切ってるのであれば、あの強盗ジケンが成功する。という前提条件で、その動機・もくてきをかんがえることは、矛盾しますから。

 それで、じゃあほかに、どういうことが、かんがえられるかというと」

「かんがえられるかというと?」

「あのジケンをおこしたことで、どういうリアクションや反応が起こるのか。あるいは、どういう対処・対応をするのか。ということを調べるのが、動機・もくてきだったのかも。っておもいます」

「つまり、あのジケンをおこしたのは、ソレが成功することを狙ったんじゃなくて、しっぱいしてもいいから、ああいう大それたジケンを引きおこして、この街が、もっとぐたいてきにいうと、この街のニンゲンが、どういうリアクションや反応をおこすのか。

 あるいは、ケイサツが、どういう対処や対応をするのか。ソレを知りたかったていうこと?」

「ええ、そういうことになります。こういうことを、もっと掘りさげてみると、もしかしたら、真犯人自身が、じぶんの持ってる異能のチカラの、ウデだめしをしたかったとか」

「ウデだめし?」

「コレもカンゼンに、ワタシの想像にすぎないんですが、前にもいったとおり、この街には、ニンゲンの意識やキオクを、じゆうにコントロールするっていう異能力者は、どうやら、いないみたいです。

 あの施設にあった、異能力者の個人情報データを見るかぎり、おそらく、そんなニンゲンはいないはずです。

 でも、まだこの街に、やってきたばかりのニンゲンだったら、あのデータに載っていない。っていうことだって、十分ありえるはずです。

 それに、じぶんのもってる異能力を、じつは隠している。っていうことだって、十分ありえます。

 あるいは、もっと前に、この街にやってきたとしても、うまく異能のチカラをかくしている。

 そういうニンゲンまでふくめれば、その対象者は、もっとひろまりますけど。

 こういうタイプのニンゲンが、ホントウにいるんだとすれば、今までは、大っぴらに、じぶんの持ってる異能のチカラを、つかうことがなかった。っていうことになります」

「なるほど、そうなると、最近、この街にやってきたばかりのニンゲンをしらべても、その真犯人は、みつからないかもしれない。

 しばらく前にやってきて、異能のチカラを隠してる。っていう可能性までいれれば、その対象者のかずは、カナリ増えるか」

「そうなんです。で、その真犯人は、まだこの街に、やってきたばかりにしろ、あるいは、ずっと前にやってきてたにしろ、じぶんの持ってる異能のチカラを、今まで、チャントつかうことがなかった。

 コレはたんじゅんに、つかうひつよう性がなかったのか、あるいは」

「あるいは?」

「まだつかいこなせてなかったのか。っていうことになりそうです。それで、まだつかいこなせていなかったのなら、最近になって、どうにか、つかえるようになってきた。

 そうなると、じぶんの持ってる異能のチカラをつかって、一体、なにができるのか。とかんがえるのは、ニンゲンであれば、しぜんな感情な気がします」

「たしかに、じぶんが異能のチカラを持ってる。ということを知って、かつ、ソレをあるていど、つかいこなせるようになったんなら、ソレをつかって、じぶんに一体なにができるのか。っていうことを、知りたいとおもうのは、ごくしぜんな感情な気がする」

「ですよね。ワタシだって、このチカラがあると知ったときは、どんなことにつかえるんだろう。っておもいましたし」

「だろうね」

「それで、もしも、この想像があたってるんだとして、その真犯人が、ああいうジケンをおこしたんだったら」

「おこしたんだったら?」

「その真犯人は、じぶんの持ってる異能のチカラにたいして、つよい自信を持ったんじゃないかとおもいます。

 なにせ、銀行強盗っていうのは、けっこうな大ジケンじゃないですか。なのに、真犯人であるじぶんは、捕まってない。

 その上ケイサツは、このジケンを、たんなる一般人の犯罪として、すぐにショリしてしまった。そのウラに、異能力者がいるっていうことを、どうやら想定していない。

 ということであれば、『この街のケイサツが持ってる捜査能力っていうのは、タカが知れている』と、はんだんしそうです」

「そういえば、ケイサツはあのジケンを、異能力者の犯行じゃなくて、異能のチカラを持ってない、ただの一般人の犯行だと、マスコミに発表してたっけ」

「ええ、それにワタシが、あのジケンのあと、ケイサツに問いあわせをしても、やはり、おなじことをいってました。

 ケイサツは、こんかいのジケンを、バカな一般人が、この街のことを、なにも知らずにおこなったものだ。

 と、こういう意見を持っていました。もうこれ以上、このジケンについて、深く掘りさげる気はなさそうです」

「なるほど」

「それで、もしも真犯人が、コレを知ったとすれば、やはり、『この街のケイサツの捜査能力は、大したことない』とはんだんしても、おかしくないとおもいます」

「その真犯人が、ホントウに、ニンゲンの意識やら、キオクやらを、じゆうにあやつれるんだったら、ケイサツのかんけい者をあやつって、このジケンについて、ケイサツが、どうはんだんして、今後、どういう対処・対応をするのか。っていうことを、聞きだすのはワケないだろうし」

「そうなんですよ。ニンゲンを、じゆうにあやつれるんだったら、そういうことまで、カンタンにできちゃいますからね」

「ん~、もしもホントウに、そういう異能のチカラを持った、真犯人がいるんだったら、これから先、この街は、イロイロとゴタゴタというか、トラブルが多発するかもしれない」

「ワタシも、ソレはまったく同感なんです」

「もしもこの想定があたってるなら、この真犯人は、モラルとか、道徳とか、社会のルール・秩序とかを、チャントまもろうっていう意識が、ほとんどないっていうことになるか。

 なにせ、じぶんの持ってる異能のチカラをつかって、ウデだめしで、ああいう、大それた犯罪をおこしたんだから」

「そうなんです。この想定が、もしもホントウにあたってるなら、この真犯人は、じぶんの持ってる異能のチカラのすごさに、気がついたってことになります。

 その上、この街のケイサツは、じぶんのことに、まったく気づいてないワケですし。

 だったら、これから先、本格的に、じぶんの持ってる異能のチカラをつかって、もっとイロイロなことを、つまり、おおきなジケンや犯罪行為を、たくさん引きおこそう。ってかんがえたとしても、おかしくなさそうですよね」

「たしかに」

「そういうことをかんがえてたら、あの斎藤さんが、どうやらすこし、最近変わったようすだと聞いたものですから。

 もしもですよ、その真犯人が、じぶんのチカラに自信を持ったとすれば、異能のチカラを持ってない、一般のニンゲンだけじゃなくて、『異能のチカラを持ってるニンゲンも、じゆう自在に、あやつれるんじゃないか』ってかんがえたとしても、おかしくないじゃないですか」

「で、斎藤が、そういう目に遭ったと」

「かもしれません。あくまでもコレは、ワタシの想像にすぎません。でも、もしもホントウに、あの上位レベルの斎藤さんまで、その真犯人に、意識やらキオクを、じゆうにコントロールされてるんだったら、コレはチョット、由々しき事態になりそうな気がします。

 あの斎藤さんまで、あやつられてしまったんなら、レベルのひくい異能力者なんて、もっとカンタンにあやつれるはずですし。

 しかも、斎藤さんよりレベルの下の異能力者なんて、この街に、たくさんいるはずですから」

「だろうね。斎藤クラスのレベルのニンゲンを、じゆうにあやつれるんだったら、ほかの大多数のニンゲンなんて、いともカンタンに、コントロールされる気がする。

 それにしても、もしもそうだとすれば、なんでまた真犯人は、斎藤に目をつけたんだろうか。ほかにも異能力者なんて、たくさんいるはずなのに」

「たとえば、接点を持ったからとか?」

「接点?」

「ええ、斎藤さんも、ワタシとおなじようなことをかんがえて、真犯人のそんざいに気がついて、探っていたとか?」

 こういわれて、徳平はハッとしてしまった。

「だから斎藤は、あの施設にきてたのか!!」

「ワタシも、そうおもったんです。あのジケン自体、カンタンに片づいたじゃないですか。

 なのに、なんで斎藤さんは、あの施設にいたのか。チョットだけ、ギモンだったんですよ。

 あの施設の職員は、斎藤さんは、強盗ジケンにかんけいして、ケイサツと共同で、異能力者の身辺調査をするために、あの施設にきた。といってましたよね?

 でも、良くかんがえてみたら、ケイサツはあのジケンを、たんなる一般人の犯行とみなして、ウラに異能力者がいるとは、どうも、かんがえていない。

 それなのに、なんで斎藤さんは、なんでわざわざ、あの施設に行って、異能力者の個人情報データを見ようとおもったのか。しかもケイサツから、依頼文書までだしてもらって。

 それに、あのジケンがおきたとき、徳平さんはさいしょ、ワタシじゃなくて、斎藤さんが、このジケンの解決に、一枚噛んでるとおもいましたよね?

 斎藤さんの持ってる異能のチカラだったら、ああいうジケンの犯行を制圧するのに、とても適してるんですよ。

 だから、ケイサツはさいしょ、ワタシじゃなくて、斎藤さんのほうに、協力依頼をだしたのかもしれない。

 でも、ケイサツが途中で、斎藤さんではなくて、ワタシのほうに、協力依頼をだすことにした。

 つまり、斎藤さんにだした協力依頼を取りさげた。こうもかんがえられそうです。

 もしも、コレがホントウだったら、斎藤さんとしては、なんで急に、じぶんへの協力依頼がなくなったのか、不審に感じるとおもうんです。

 それで、ケイサツにたいして問いあわせたら、こんかいのジケンの犯人は、異能力者じゃなくて、一般人の犯行だと聞かされた。

 しかも犯人たちは、この街のことをなにも知らず、異能のチカラのことも知らない。

 だったら、斎藤さんのチカラでなくても、十分に対処・対応ができる。なにかの異能力者だったら、ガスがタテモノに充満しだしたとき、異能のチカラをつかって、なにか、キケンな行動をおこすかもしれませんし。

 でも、この街のことも、異能のチカラのことも、なにも知らない犯人だったら、そうはいかない」

「だろうね。異能のチカラがそんざいしている。っていうことを、まったく知らないんだったら。

 でも、そうなると、チョット違和感というか、不自然におもえる点がでてくるんだけど」

「どういう点がですか?」

「なんでケイサツは、あのジケンが起こる前のだんかいで、『犯人たちが、この街のことも、異能のチカラがそんざいしていることも、まったく知らない、ただの一般人だと知ったのか』っていうことかなあ。

 もっといってしまえば、たとえ一般人だとしても、斎藤の異能のチカラををつかうほうが、一番手っとりばやいんだよなあ。それなのに、なんで斎藤への協力依頼を取りさげたのか」

「ワタシも、ソレはチョット変かなっておもったんです。でも、良くかんがえれば、真犯人が持ってるのであろう、異能のチカラをつかえば、なんとでもなりそうです」

 こういわれて、徳平は、ハッと気がついたのである。

「つまり、ケイサツかんけい者を、真犯人があやつったと」

「ええ、そういうことも、十分かんがえられます」

「なるほど、ケイサツかんけい者をあやつって、『銀行の強盗ジケンの犯人が、異能のチカラを持ってない、ただの一般人』という情報を知らせた。

 その上、フツウにかんがえれば、この街で、異能のチカラを持ってないニンゲンが、そんな犯罪をおこすのはおかしいと、その情報を、まず疑うはずだけど、あやつってしまって、疑わないようにした。

 その上、サイトウを、ジケンから外すように仕向けた」

「そうなんです」

「う~ん、よくそんなことまでアタマがまわるよね、ホントウに」

「もちろん、ハッキリとした根拠や裏づけが、あるっていうワケじゃないんです。

 チョットかんがえすぎかも。っていう気もします。でも、こういう風にかんがえると、ツジツマが合うような気がするんです。

 で、もうチョットいうと、真犯人が、ケイサツかんけい者をあやつって、斎藤さんを、ジケンの解決から外した理由のひとつに、ウデだめしをしたかったから。っていうのも、あるかもですね」

(ウデだめしをしたかったから?それでなんで、斎藤を外すことになるのか、良くわからないが)

 と、徳平は、このようにおもったのであるが、すこしかんがえてから気がついた。

「つまり、上位レベルの斎藤が、ジケンが発生した場所にいると、犯人をあやつって、銀行で強盗ジケンをおこさしても、すぐ制圧されてしまいかねない。

 こうなると、真犯人は、じぶんのコントロールする能力を、十分ためせないってこと?」

「そうです。そうおもえるんです」

「はあ~、なるほど。ソレがもしもホントウにだったら、この真犯人は、なんというか、おそろしく用心ぶかいっていうか、慎重っていうか」

「ええ、ワタシもそうおもいます。もしも、この想定があたってるとしたら、じぶんは、けっして人前にでてこない。

 そして、たにんをウラから、じゆう自在にあやつって、犯罪だとか、ワルイことを、やりたいほうだい。っていうことになりそうです」

「小説や映画じゃあるまいし、そんなことは、げんじつのセカイではムリだよね。ニンゲンって、そうカンタンにあやつれないものじゃない。

 でもたしかに、異能のチカラをつかえば、そういう、ゴラクさくひんのなかにでてくるような、真の黒幕みたいなことも、げんじつてきに、できるかもしれないか」

「そうなんですよ。小説や映画、あるいは、マンガなんかにでてくるような、じぶんは一切人前にでることなく、オモテにでてこず、あんぜんな場所にいて、カゲにかくれている。

 そして、ほかのニンゲンを、じゆう自在にあやつって、犯罪だとか、ワルイことをして、おカネを手にいれたり、じぶんのもくてきを達成する。

 そういう、ほんとうのイミでの黒幕みたいなことが、できてしまうかもしれないんです。

 じぶん自身は、けっして火の粉がかからない、飛んでこない位置にいる。つまり、ドロをかぶらない位置にいる。

 そして、リスクやせきにんは、じぶんがあやつったほかのニンゲンに、すべて押しつけてしまう。

 で、じぶんだけは、リスクもせきにんもとらず、利益やメリットのみを手にいれる。

 ほんらいだったら、こういう、プラスの一面だけを、つごう良く切りとって、ソレだけを手にいれるっていうのは、ゼッタイに不可能なはずなんですけど」

「その、ゼッタイに不可能なはずのことが、もしかしたら、ホントウに、できてしまうかもしれない」

「そういう可能性だって、十分にありえませんか?」

「ありえる気がする」

「この、いるかどうかもわからない真犯人ですが、もしも、今までいったことをかんがえていて、この想定があたってるとすれば、もしかしたら斎藤さんも、ワタシとおなじようなことを、かんがえたのかもしれません。

 だから斎藤さんも、イロイロと、こんかいの強盗ジケンについて、不審におもった。

 そして、ウラに異能力者がいるかもとおもい、ワタシたちが会った、あの施設で、個人情報データを見たのかもしれません。ですが、該当者がいなかった。

 でも、真犯人のほうが、斎藤さんのうごきに感づいてしまった。そして、じぶんの持ってる異能のチカラについて、自信をふかめた真犯人が、斎藤さんもあやつれるかどうか、ためしてみたら、できてしまった。

 と、こういう可能性も、あるんじゃないかとおもいます」

「・・・・・・」

「その真犯人が、斎藤さんを、じゆうにあやつることができて、コントロールしている。と仮定をしてみると、コレは、チョットというか、相当ヤバい状況かもしれませんよね」

「つまり、この街のなかで、上位クラスの実力をもった、異能力者である斎藤までもが、その真犯人の、あやつり人形になっていると」

「そういうことになります。じぶんの持ってる異能のチカラの実力に、自信をふかめた真犯人が、上位クラスの実力を持った異能力者である、斎藤さんを、ホントウに支配してしまったんなら、『もっとレベルのひくい、たくさんいるほかの異能力者たちを、じゆうにあやつってやろう』と、かんがえるかもしれませんし。

 それに、そもそも、上位クラスの斎藤さんを、じゆうにあやつって、コントロールすることができるんだったら、『斎藤さんの持ってる異能のチカラを、その真犯人が、じゆうにつかえる』っていうことにも、なっちゃいますよね」

「そうなると、コレはチョット、というか、カナリ物騒な状況になるかもしれない。

 あの銀行で強盗ジケンがおきたとき、この街で犯罪行為をおこすなんて、なんてバカな犯人だろう。っておもったんだけど、そうとはいえなくなるかもしれない。でもそうなると」

「そうなると?」

「その真犯人は、なにを仕出かすんだろうね?」

「さすがにそこまでは、ワタシもわかりかねますが、いかんせん、これらはすべて、ハッキリとした証拠や裏づけ、確証があっての想像ではないので。

 でも、もしもコレがあたってると仮定すると、この真犯人は、カナリ大それたことだって、実行しかねないかとおもいます。

 なにせ、モラルも道徳も、ルールも常識も、一切まもらないようなニンゲンでしょうから」

「たとえば?」

「なんか、コドモじみた発想かもしれませんが、世のなかや社会を支配して、じぶんのおもいどおりにする。とか」

「コドモじみた発想というけど、十分ありえるかもしれない。ニンゲンを、しかも、上位クラスの異能力者ですらも、じゆう自在にあやつれるんだったら、そういうコドモじみたことだって、ホントウに、できるかもしれない。

 つよい権力や、たくさんおカネもってるニンゲンを、じぶんの異能のチカラで支配すれば、それこそ、世のなかや社会を、じぶんのじゆうに、おもいどおりにするっていうことも、あながち、不可能じゃなくなりそうだし」

「ワタシもそうおもいます」

「だとすれば、その真犯人は、この街のソトにでていって、じぶんのチカラをつかって、権力者や大金もちを、支配するっていう行動にでるかもだね」

「う~ん、たしかにそうかもしれませんが。ワタシとしては、ソレは、もっと先のだんかいかとおもっています」

「というと?」

「いずれは、そうしようとするかもしれませんが、まずはやはり、この街で、ソレを実行していくのではないかと」

「う~ん、いわれてみれば、たしかにそのとおりかもしれない。なによりもまず、この街には、異能のチカラを持ったニンゲンが、ぜんこく各地からあつまってる。

 ということは、つまり、この街にいれば、異能力者を、カンタンに、すぐみつけることができる。

 だから、その分だけ、異能力者を、たくさん支配することができるってワケか」

「そうなんです。斎藤さんクラスの異能力者ですら、じゆうにあやるれるんだったら、ほかの異能力者なんて、もっとカンタンに、あやつることができるはずですし。

 でも、そのためには、どういうニンゲンが、どこに、何人いるかっていう、異能力者にかんする情報がひつようですよね。

 ということは、真犯人は、あの施設が持ってる、異能力者の個人情報データを、欲しがるとおもうんですよね。

 たしか、あの施設のソトからは、あのデータを閲覧することができないはずですから。

 まあでも、施設の職員をあやつってしまえば、そのデータをコピーすることなんてことは、カンタンにできるでしょうし」

「ということは、つまり、あの施設にいた職員は、もうすでに、真犯人に支配され、あやつられてる可能性があると」

「ええ。ですから、あの施設には、もういかないほうが良いかとおもってます。ウカツに行ってしまえば」

「行ってしまえば?」

「極端なハナシになりますが、ワタシたち自身が、その真犯人の持ってる異能のチカラで、支配されてしまうかもしれませんし」

「・・・・・」

(そんなことまでかんがえてるのか、この子は)

「岩羽さんが、ここまでイロイロとかんがえたってことは、そもそも、ここ一ヶ月くらいのあいだに、ぐたいてきにいえば、斎藤が休みがちになったときから、イロイロと調べた結果じゃないの?

 でないと、こんなことまで、かんがえれるとおもえないんだけど」

「じつは、まあ、今ままで言ったことがアタマにうかんだので、あれからチョットだけ、調べてはみました。

 もちろん、さいしょは、こんなバカげたことは、いくらなんでもないだろう。とおもっていたんですが。

 でもいちおう、ワタシのおもいすごしだろうとおもって、調べてみたんですよ。

 ちなみに、以前に徳平さんと、あの施設にいって、異能力者の個人情報データを見たときに、チョットした違和感というか、不自然さを感じた点があったんです」

「ソレは、どういう違和感だった?」

「ワタシの持ってる異能のチカラっていうのは、ものごとのうごきをあやつる。っていうものなんですが、ぐたいてきに、くわしいことまではわかりませんが、あのデータが、うごかされたと感じたんです。

 というよりも、コピーされたんじゃないかと。うごきをあやつれるから、『その対象に、うごきがあった』っていうことも、すこしなら、わかるときがあるんです。

 それで、あのデータを見たとき、そのデータに、なにかうごいた感じがするかどうか見てみたら、どうも、コピーを取ったような感じがしたんです」

「そんなことまでわかるの?」

「あくまでも、そういう感じがした。っていうていどです。ぐたいてきで、こまかいことまではわかりません。

 それで、あのときに、『なんでこのデータを、コピーしたんだろう』って、チョットだけ、ギモンにおもったんです。

 でも、そのときは、さすがに今言ったことまでは、アタマになかったんですよ。

 でも一旦、こういう仮説というか、かんがえがアタマにうかんだら、真犯人が、『じぶんがあやつって、操作したい異能力者を知りたいから、データをコピーした』っていう発想が、アタマにがうかんだんです。

 それで、この一か月間のあいだに、あの施設に、もう一度行ってみたんです。そしたら、ワタシたちが行ったときに対応してくれた、窓口の職員が、いなかったんです。

 っていうか、以前に行ったときよりも、職員のかずが減ってまして。それで、そのことを聞いてみたら、そこにいた職員が、『最近、シゴトをひんぱんに休むヒトがおおくなって、こまってるんだよ』といってました」

「だからさっき、あの施設には、もういかないほうがいい。っていったのか」

「そうなんです。あやつられてる可能性があるニンゲンが、あの施設に、何人もいるんであれば、ウカツにあそこにいってしまえば、ワタシ自身が、あやつられれてしまう。っていうリスクやキケンもありますので」

「上位クラスの斎藤でさえ、あやつられてるんだったら、そのリスクやキケン性を、カンゼンに否定することはできないか」

「ほかにも、念のため、ケイサツのほうにも、この一ヶ月くらいで、なにかおかしなことだとか、変化したことがないか、イロイロと、聞いてみたんです。

 そこは、ジケンの解決に協力してる手前、あいても、ワタシを無視することができなかったんでしょうね。イロイロと、最近の治安状況とかを、おしえてくれました」

「なにかわかったことはあった?」

「どうも、この一か月くらいのあいだに、銀行の強盗ジケンみたいな、大それたことはおきていませんでしたが、どうも、こまごまとしたジケンが、妙に多発してるといってました。

 少額のおカネがぬすまれたり、役所や会社で、重要な書類やデータが紛失したり、コピーされたり、持ちだされた形跡がある。などです」

「う~ん、そこまでしらべてたとは」

「それで、そういうことを総合すると、どうも、それらのちいさなジケンが、まったく無かんけいに、バラバラにおきてるとは、チョットかんがえにくいのかなと」

「なるほど」

「まあコレも、ワタシの推測にすぎないんですが。でも念のため、もうチョット、深く掘りさげてしらべたり、かんがえたりしてみると、それらのちいさなジケンには、どうも、共通点のようなものがあると感じたんです」

「たとえば?」

「ケイサツのほうが、そのちいさなジケンの犯人を、なかなか、捕まえることができていない。っていう点です。

 すこしは捕まえたみたいなんですが、その犯人を取りしらべてみると、犯人自身が、その犯罪をおこなったときのことを、良くおぼえてないようなんです。

 さいしょはケイサツのほうも、罪をみとめたくないから、しらばっくれてるんだろうと疑ってかかり、きびしく取りしらべをしたり、くわしく捜査して調べたらしいんですよ。

 でも、どうもホントウに、その捕まった犯人たちは、じぶんがやったはずのことなのに、支離滅裂なことや、矛盾したことをいったり、あるいは、間違ったことを、おぼえているような感じだったそうです。

 そしてソレは、あの銀行の強盗ジケンの犯人たちを、取りしらべたときとも、特徴が一致してるといっていました」

(よくもまあ、ここまでアタマがまわるもんだ)

 徳平は内心、岩羽のアタマの回転のはやさや、直観のするどさにたいして、舌をまくおもいであった。

 そんな徳平の内心のおどろきなど、気にしないように、岩羽はハナシをつづけた。

「もっといってしまえば、真犯人は、じぶんのウデだめしのために、あの銀行で、強盗ジケンをおこしたのであれば、もしかしたら、あの犯行ゲンバにいたかもしれませんね」

「え?ソレは一体、どういうこと?」

「ウデだめしをしたのであれば、その成果がどうなったのか。ホントウに、うまくコントロールできているのかどうか。

 こういうことを、じぶんの目で、直接見て、たしかめたいとおもったとしても、おかしくはないでしょうし」

「ということは、オレもいたあのゲンバに、真犯人が、いたかもしれないってことになるか」

「そうなりますね」

「ということは、チョット過剰な反応になるかもしれないけど、あのジケンのゲンバにいた、オレも岩羽さんも、真犯人に、カオを見られてるかもしれないと」

「そういう可能性も、なきにしもあらずです」

「だったらオレも、カンゼンに無かんけいとはいえないか。もしも斎藤や、あの施設にいた職員を、すでにコントロールして、支配してるんだったら、このヒトたちから、オレと岩羽さんのことを聞いてるかもしれない。

 斎藤にいたっては、おなじ職場のニンゲンんだし。あの施設にいた職員も、銀行の強盗ジケンのあと、ソレにかんけいして、異能力者の個人情報データを見たいといって、ケイサツからの依頼文書までだしたオレたちのことを、おそらく、おぼえているだろうし」

「そうですよね、それに、もっといってしまえば、ケイサツかんけい者すらも、すでに何人か、コントロールしているのであれば」

「何度か捜査に協力したっていう、岩羽さんのことを、その支配されてるケイサツかんけい者が、話してるかもしれないと」

「そういう可能性もあります」

 ここにきて徳平は、ふと気になることがでてきた。

「ジケンのあった翌日、岩羽さんもあそこにいて、オレにたいして話しかけてきたよね。

 もしかして、そのときにはすでに、こういうことが、アタマにあったとか?

 だからわざわざ、解決したジケンのゲンバにいたとか?」

「いやまあ、じつはソレも、すこしだけありました。とはいっても、そのだんかいでは、今ほどハッキリとした想像は、アタマになかったんですけど。なんとなく、違和感というか、不自然さをかんじたので。

 それで、もしも黒幕というか、真犯人のようなヒトがいたら、良くいうじゃないですか。犯人は、ジケンのゲンバにもどるって。だから、チョット見にいったんですよ」

「はあ~、そんなことをかんがえてたのか」

 徳平は関心してしまった。目のまえにいるニンゲンが、一体どれだけの頭脳を持っているのか。

 ということについて、チョットした畏怖というか、恐怖のようなものすら感じてしまった。

「真犯人が、もしもそんざいしていて、ソイツが、ウデだめしをした。その結果を、じぶんの目で直接かくにんするために、あの銀行強盗ジケンのゲンバに見にいったかもしれない。

 だったら、ゲンバを目撃したオレも、そのゲンバで、ガスのながれをコントロールした岩羽さんも、真犯人のスガタを、どこかで見てるかもそれない。

 ぎゃくにいえば、コチラがわも、あいてに見られてるかもしれない。こうかんがえると、まったくの無かんけいともいえない。

 斎藤ですら、コントロールしてるかもしれないっていう、その真犯人が、オレや岩羽さんのことを意識して、調べだしてもおかしくない。だったら」

「だったら、ワタシたちのことも、その異能のチカラをつかって支配して、コントロールしようとおもたったとしても、まあフシギじゃないかもしれませんね。チョット飛躍しすぎなかんがえかもしれませんが」

「ちなみに、もしもこれらの想定があたってるとして、岩羽さんとしては、どうしたいとおもっているのか、チョット気になるところだよ。

 ここまで調べたり、かんがえてるっていうことは、無視してしまおうとは、おもってないように見えるけど」

「そうですね。ワタシとしては、じぶんが住んでいて、はたらいてもいるこの街で、あまり物騒なことや、トラブルめいたことを、おこされたくないっておもってます。

 ワタシはけっこう、この街のことを、気にいってるんですよ。徳平さんは、どうおもいますか」

「そこはオレも同感かなあ。じぶんが住んで、はたらいてるこの街が物騒になって、トラブルや犯罪がふえて、治安が悪化するような状態は、ゴメンこうむりたい。

 でも、そうおもったからといって、オレたちに、なにかできるってワケじゃないでしょう」

「そうでしょうか?」

「いや、オレはそうおもうんだけど。オレたち自身、ケイサツってワケでもないし」

「でも、そのケイサツが、どうも、まったくなにも警戒していないし、気づいてもないようですよ」

「そりゃまあ、そうかもしれないけど」

「だからこそ、ワタシたちも、チョットはうごいたほうがいいかな。っておもうんですよ」

「そういわれても」

「ワタシとしては、どうやら、徳平さんの出番かなと、おもってるんですけれど」

「オレの?」

「そうですよ。正確にいうと、徳平さんが持っているっていう、異能のチカラの出番かなと」

「オレの持ってる?」

「ええ。徳平さんの持ってる異能のチカラって、たしか」

「✕0」

「ですよね。『あらゆる異能のチカラの効果やうごきにたいして、ゼロをかけてしまって、無効化する』っていうものですよね?」

「いちおうね」

「ソレって、もしかしたら、とんでもないチカラを持ってる、スゴイ異能力なんじゃないんですか?」

「どうだろう。じぶん自身で、なにかの現象や効果を引きおこす。っていうチカラがないんだよね。

 そうじゃなくて、ほかのニンゲンが、つまり、ほかの異能力者が、その異能のチカラをつかって引きおこした現象や効果を、数字にゼロを掛けたみたいに、なかったことにする。っていうものだから。

 つまり、オレ自身は、この街のなかにいる異能力者のなかでは、どうも、別枠でのあつかいというか、カテゴライズされてないというか」

「たしか徳平さんは、異能力者の実力を測ったり、分類するためにおこなわれる、順位づけから外されてるんですよね?」

「そうそう、そういうのから外にいるんだよね。だから、異能力者のなかでは、あぶれているというか、ナカマハズレにされてるっていうか」

「でもソレって、いいかたを変えれば、ほかの異能力者では、なにも対処や対応ができないっていう、特殊なチカラともいえませんか?

 チョット極端ないいかたかもしれませんが、『異能のチカラを持った、異能力者たちが、束になっても敵わないヒト』とも、いえる気がしますけれど」

「ソレはチョット、大げさにいってる気がするけど」

「いえ、ワタシとしては、大げさとはおもえないんですよ。だって、異能のチカラによって引きおこされた結果や現象を、なかったことにする。

 っていうのは、あるイミで、こういう異能のチカラにたいする、アンチテーゼというか、ワクチンとでもいうか。

 特殊なチカラを持っている異能力者たちを、ただの一般人のようにしてしまう。ということになりますし。

 コレって、異能力者のことを嫌っていたり、なんとかして、つぶしたいとおもってるニンゲンからすると、なんというか、特効薬的な効果を持ったチカラだ。っていういいかたも、できる気がするんですよ」

「アンチテーゼに、特効薬的なチカラか。ずいぶんたかく評価してくれてるみたいだけど。

 じぶん自身としては、なにか特殊な現象や効果とかを、つくりだすことができるワケではないし。

 つまり、一般人と、おなじようにシゴトをして、せいかつすることしかできないワケだから。

 このチカラがあったから、なにか役に立ったり、プラスになったようなことって、ほとんどないんだよなあ」

「たしかに、ほんにんからすれば、そういう見方になるかもしれません。でも、第三者のたちばから見ると、徳平さんの異能のチカラっていうのは、なんていうか、カナリおそろしいチカラともいえますよ。

 さっきいったように、あらゆる異能力者が、束になっても勝てないんじゃないかっていう、そういう恐怖というか、警戒心を持ってしまうような」

「どうだろうか、ヤッパリじぶんでは、なんともいえないんだけど」

「でもヤッパリ、徳平さんの持ってる異能のチカラは、つかいかたによっては、この街にいる異能力者にとって、カナリの脅威というか、恐怖の対象になる気がします。

 たとえば、こんかいのジケンの真犯人が、なにかの野心・もくてきを持って、異能力者たちをあやつって、コントロールして、かれらを支配しようとしたとき、まず真っ先に、そのジャマになるというか、脅威となりうるのは、徳平さんじゃないかって、ワタシはおもってるんですけれど」

「過大評価というか、過剰評価のしすぎだとおもうけど」

 徳平としては、じぶんの持っている異能のチカラのことを、岩羽が、「どうも過大に、過剰に評価しているのではないか」とおもうのであるが、ここでふと、気がついた。

「ん?つまり、今の岩羽さんの仮説やかんがえ、想像があたってるんだったら、その真犯人は、オレのことを、ジャマなヤツとおもうかもしれない。と、こうなるワケだよね?」

「ええ、その可能性が、あるかとおもいます」

「だったら、オレの近くいれば、その真犯人が、なにかのカタチで近寄ってきたり、接触してくるかもしれない。っていう想定も成りたつワケか」

「そうなりますね」

「だからキミは、こうしてオレに、何度も話しかけてきたとか?」

「あ、バレちゃいました?」

 岩羽は、わらいながらいった。

「まさかとはおもうけど、あのとき、銀行の強盗ジケンの翌日、あのゲンバで、わざわざうしろから呼びかけて、オレに話しかけてきたのは、こういうことも想定してたからとか?」

「その時点では、今ほどハッキリとしたことまでは、かんがえてはいませんでした。

 でもまあ、なんとなく、いままでいったようなことが、アタマのなかに、ボンヤリとですが、バクゼンとしたものがあったので。

 そうなると、こんかいのジケンのカギをにぎるのは、つまり、キーマンとなるのは、徳平さんになるんじゃないか。っておもったんですよ」

「・・・・・」

(どこまで先のことを見こしてるんだ、この子は)

 先ほど岩羽は、この街にいる異能力者や、異能のチカラをつかって、なにかおこなおうとしているニンゲンにとって、「徳平のそんざいが、脅威や恐怖の対象となる」といったのであるが、それ以上に、徳平としては、岩羽にたいして、恐怖のようなものを感じてしまった。

「キミはオレのことを、異能力者や真犯人にとって、脅威や恐怖の対象になりうる。

 といったけど、オレにいわせれば、キミのほうがよっぽど、かれらにとって、脅威や恐怖の対象になるとおもえるけど」

「そんなことありませんよ」

「どうだか」

「いずれにせよ、ワタシとしては、こんかいの一連のジケンやできごとにとって、カギをにぎっており、キーマンとなっているのであろう、徳平さんの協力を得るのは、ひつよう不可欠なんじゃないか。っておもってるんですよ

 どうです、もうチョットだけ、ワタシと付きあって、調べたりしませんか?」

「っていうか、岩羽さんの想像があたってるんだったら、オレは、その真犯人とやらにとって、脅威や恐怖の対象になるんだよね?

 だったら、このままジッとしていたら、『その真犯人に、なにをされるかわからない』っていうことが、かんがえられるじゃない。

 つまり、このままなにもしなければ、オレ自身にたいして、けっこうなキケンが降りかかってくるかもしれない。

 だったら、オレとしても、じぶんの身をまもるためには、なんとかして、『その真犯人とやらが、ケイサツに捕まった状態にしなければならない』って、そうかんがるしかないじゃない。

 つまり、今の君の協力の依頼を、ことわれるような状態じゃなくなったんだよなあ」

「ですよね」

「まさかとはおもうけど、ここまでオレがかんがえることを想定して、今までハナシをしたとか?

 というよりも、オレが協力をせざをえない。というカタチになるように、ハナシのながれを、持っていったんじゃないだろうね?」

「どうでしょうか」

 岩羽は、わらいながらいう。

「ここまできたら、君のいうとおり、というか、君が仕向けたながれのとおり、協力するしかないよね。とくべつに、オレにできることがあるとはおもえないけど」

「そんなことないですよ。徳平さんは、そこにいるだけも、十分すぎるほど効果がありますよ」

「いるだけで?」

「そうですよ。なんてったって、『徳平さんの近くにいる』っていうこと自体が、安全につながるんですから」

「オレの近くにいること自体が、安全になつながる?」

「ええ」

「イマイチ、いってる意味がわからないんだけど」

「だって、徳平さんの異能のチカラって、あらゆる異能のチカラの効果や現象を、無効化して、ゼロにしちゃんうんですよ。

 っていうことは、異能のチカラをつかって、なにかの犯罪だとか、ワルイことをしようとしてるニンゲンからすれば、『徳平さんにたいしては、そのチカラをつかって、なにかを仕出かすことができない』っていうことに、なるワケじゃないですか」

「そういわれれば、たしかに、そうかもしれないけれど」

「だからこそ、ワタシから見れば、徳平さんの近くにいる。っていうこと自体が、安全につながるんですよ」

 岩羽にこういわれて、徳平は気がついた。

「つまり、岩羽さん自身が、その真犯人に、洗脳されるようなキケンをふせぐ。っていうこと?」

「そうなんですよ。たにんのキオクやら、意識をあやつれるかもしれないっていう、その真犯人も、すべての異能のチカラを無効化して、ゼロにしちゃう徳平さんにたいしては、ウカツに手をだせないはずですし。

 だからこそ、徳平さんの近くにいるっていうことは、ワタシにとって、安全につながるんですよ」

「岩羽さんの持ってる、物体や物質のうごきをあやつったり、コントロールする異能のチカラがあれば、真犯人が、岩羽さんにたいして、異能のチカラをつかおうとしても、そのチカラを、跳ねかえしてしまえる気もするけど」

「たしかに、ワタシ自身が、ソレをハッキリと、意識することができていれば、そういうことも、可能になるかとおもいます。

 ですが、いつ何時、どんなタイミングで、どういうカタチで、ワタシにたいして、洗脳みたいなチカラをつかってくるか、わからないんですよね。

 意識してれば、たしかに、跳ねかえすことができるかもしれません。でも、無意識のうちに、つまり、ワタシがまったく無防備な状態で、気づかれないうちに、そういうことをされてしまえば、ワタシ自身が、『今げんざい、意識やキオクを支配され、コントロールされている』っていうこと自体に、気づけない可能性があります。

 そうなってしまえば、いくらワタシのチカラでも、跳ねかえすことは、できないはずですし」

「なるほど。ほんにんが、まったく気づかないうちにやられたら、どうしようもないか。

 それに、意識やキオクを支配されてれば、そのほんにんは、『じぶんが今、ほかのニンゲンにあやつられて、コントロールされてる』っていうこと自体に、気づくワケないだろうし」

 徳平にとって、「じぶんの近くにいることが、安全につながる」という岩羽のコトバには、ウソ偽りがないようにおもえた。

「ということは、チョットうがった意見というか、かんがえになるけど、岩羽さん自身が、この真犯人に、目をつけられるかもしれないっていう、自覚がある。と、こういうことだよね?

 さっき、オレの『✕0』のチカラが、真犯人にとってキケンであり、目をつけられて、ねらわれる可能性がある。

 といっていたけど、おなじように、真犯人にとっては、岩羽さんのそんざいも、やはりキケンだし、脅威や恐怖の対象になり、目をつけられるかもしれない。と、こういう可能性も考慮している。

 だからこそ、無効化する『✕0』、つまり、数字にゼロをかけるような異能のチカラがひつようであり、その近くにいるべきだ。と、こういうかんがえに至ったっていうことで、合ってる?」

「そのとおりですよ」

「だったら、なんで真犯人が、岩羽さんのそんざいを危険視して、脅威や恐怖の対象とおもうのか。

 っていうことになるんだけど、ソレはつまり、岩羽さんが、今までケイサツの捜査に協力してるし、その上、この前の銀行強盗ジケンの解決にも、一枚噛んでる。

 そういうイミで、真犯人が、岩羽さんのことを、危険視するっていうことだろうか」

「どうなんでしょうか」

「あるいは、岩羽さんの持ってる、物体や物質のうごきをあやつれるっていう、異能のチカラ自体を、キケンとはんだんしたからかもね」

「う~ん、どうなんでしょう。まあ今まで話したこと自体、ハッキリとした、めいかくな根拠や証拠、裏づけがあるワケではないので」

「そうなんだけどね。ちなみに、断片的で、すくない事実や情報から、ここまでイロイロとかんがえてるのはスゴイし、大したものだとおもうんだけど。

 じゃあ、これから先、どうすればいいのか。っていうことも、すでになにか、かんがえてるとか?」

「いちおう、すこしですけど」

「オレとしては、今まで聞いたことが、もしもあたってるとしても、じゃあこれから先、オレたちが、どうすればいいのか。っていうのが、サッパリわからないんだよね。しょうじきなところ。

 なんせ、その真犯人がいるとしても、どういうタイプのニンゲンで、どこにいて、なにをしてるのか、っていうことが、なにも情報がないし、わからないんだから。

 もしも、その真犯人とやらが、オレや岩羽さんのことを、危険視してて、コチラにたいして、なにかしら、危害をくわえようとしてるとしても、コチラとしては、『どういうタイプのニンゲンが、いつ何時、どこで、どんなカタチで、コチラにたいして、なにをしてくるのか』っていうことがわからないと、じぜんに対策が取れないし、ふせぎようがない気もするんだよね」

「ええ、おっしゃるとおりだとおもいます。たしかに、あいての出かたをうかがおうとしても、おそらく、やりようがないかとおもいます」

「だよね」

「だから、ぎゃくにコチラのほうから、行動をおこすというか、アクションをおこして、あいての出かたをうかがうほうが、良いかとおもってます。

 コチラがアクションをおこせば、あいてがなにかしら、リアクションをおこしてくる可能性がありますし。

「コチラから?」

「そうです」

 と、岩羽はキッパリと言い切った。

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