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名探偵

「オレも、岩羽さんの意見に賛成だね。そもそも、あのジケンがおきたこと自体が、どうにもおかしい。違和感をおぼえるし、不自然きわまりない」

「ヤッパリ、そうおもいますよね?」

「それで、この点を掘りさげていくと、たんじゅん明快な、シンプルなギモンがでるんだよなあ」

「ソレって、ちなみになんですか。カナリ気になります。おしえてくださいよ」

「君のことだから、たぶん、とっくにカンづいてるとはおもうんだけど」

「でも、さっきもいったとおり、まったくべつのニンゲンが、おたがいに、独自にかんがえて、おなじ意見・けつろんに達したんだったら、ソレはカナリ、信憑性がたかいというか、しんじつや真相に、近いんじゃないかとおもうんです。

 ですから、ワタシとしては、徳平さんがカンづいたっていう、たんじゅん明快な、シンプルなギモンを聞いてみたいです」

「そこまでいうなら、べつに、隠すようなことじゃないからいうけど」

「ええ、隠すことじゃないなら、ぜひおしえてください」

 そこには、先ほどまでそこにいた、えがおの美人ではなくて、聡明な洞察力・観察眼をもっているのであろう、名探偵のようなカオをした岩羽がいた。

(この子はたまに、こういうカオをすることがある。えらくアタマが切れるというか、頭脳がフル回転してるというか)

 明晰さ、聡明さを感じさせる、岩羽のカオつきを見ていると、じぶんのほうが年上でありながらも、徳平のほうが、圧倒されそうになってしまう。

「それで、徳平さんが感じたっていう、たんじゅん明晰な、シンプルなギモンっていうのは、一体なんなんですか?」

「いやね、なんで犯人たちは、そもそも、この街のことを、なにも知らなかったんだ。っていうことなんだけど。

 今の世のなかで、この街のことを、なにも知らない。っていうニンゲンなんて、ホントウにいるのか。っていうハナシなんだよね。もう十分すぎるほど有名になってるし」

「それはまた、ハナシの一番根っこというか、根底の前提条件にかかわるようなギモンですね。でも、じつはワタシもおなじで、このことが気になったんですよ。

 この街に住んでるのは、異能のチカラを発現したヒトたちであり、二ホンぜんこくから、このチカラを持ったヒトたちが、この街にあつめられてくる。

 このことを、なにも知らないっていうニンゲンが、そもそも、今の二ホンにいるのか。っていうのが、チョット不自然というか、違和感をおぼえるというか」

「そうなんだよ。オレもその点が気になるんだよね。あのジケンの犯人たちが、何人いたかは知らないけど。でもまあ、単独の犯行じゃなかった。

 つまり、ひとりでの犯行だったら、そのひとりの犯人が、たまたま、この街のことを知らなかった。異能のチカラのことを知らなかった。

 ということも、もしかしたら、ありえるかもしれない。だけど、複数のニンゲンが、あのジケンをおこした。

 ということは、つまり、その複数のニンゲンぜんいんが、この街のことを、なにも知らなかった。ということになる。

 でも今の日本で、そんなニンゲンが、そうつごうよく、複数あつまるっていうのも、チョットどうかとおもってね

 しょうじきなところ、カナリの違和感というか、不自然さを感じざるをえない」

「徳平さんとワタシが、おたがいに、おなじことをギモンにかんじた。不自然さ、違和感をおぼえた。

 コレってもしかして、ハナシの肝というか、核心を突いてるかもしれませんね。

 そもそも、複数のニンゲンが、皆が皆、この街のことを、なにも知らなかった。ということ自体が、どうにもおかしいですよね、ヤッパリ。

 ケイサツが持っていた、犯人たちの音声データを聞いてみたとき、その犯人たちは、ホントウにこの街のことを、つまり、この街にいる、異能のチカラを持ったニンゲンのことを、まったく知らないようすでした。

 そもそも、あの状況のなかで、ホントウは、異能のチカラのことを知ってるのに、知らないフリをする。つまり、ウソをつくっていうのも、カナリおかしいですよね。

 犯人たちにしてみれば、そういうウソを、つかなければならない。っていう、理由や動機はないですし。

 かれらは、予想以上にはやく到着したケイサツにたいして、カナリ焦ってたいというか、パニックになっていました。

 ですから、ウソをつけるヨユウなんて、そもそも、ないように感じました。

 ウソをつけるヨユウもない。それに、ウソをつかなければならない。っていう、理由や動機もない。

 だったら、あの銀行のなかでの、犯人たちのパニックのようすは、ウソ偽りのない、かれらのホンネを示しているとおもいます

「オレは、そのケイサツが持ってる音声データっていうのを、聞いたワケじゃないけど。岩羽さんのいうとおりだとおもうよ。

 ああいう、おおきなジケンのゲンバで、予想以上にはやく、ケイサツがきたんだったら、ウソをとりつくろうヨユウなんて、おそらくないだろうし。

 でも、もしホントウに、そういうウソをついてるんだとしたら」

「ついてるんだとしたら?」

「ホントウは、この街のことを、つまり、異能のチカラのことを知っているのに、『オレたちは、ソレを知らない』っていうことを、銀行にいるニンゲンや、ケイサツにたいして、そのことを知らせたかった。っていうことになる。

 でも、じぶんたちが、ケイサツにタイホされる。っていうリスクを冒してまで、そんなことを、イチイチ知らせたいとおもう、理由や動機なんて、それこそ、あるとはおもえん」

「そうなんですよ。ワタシもそうおもいます。徳平さんのおっしゃるとおり、そういう狙い・もくてきだったら、ウソをつくかもしれません。

 でも、そんなウソをつくために、じぶんたちが犯罪をおかして、タイホされるようなリスクを負うなんて、フツウのかんがえや、常識をもってるニンゲンだったら、まずおもわないでしょうし」

「そう、フツウならね」

「そうなんです。フツウだったら、そういうことはありえない。コレは、ワタシも徳平さんと、まったくおなじ意見で、同感なんです。でも」

「でも?」

「でも、よくかんがえてみたら、この街のそんざい自体が、そもそも、フツウじゃないですよね。

 ですから、フツウじゃないことだって、十分、起こりうるんじゃないかって、おもってしまうんですよ」

「フツウじゃないことでも、起こりうるねえ」

「そうなんです。異能のチカラのことを、前提条件にいれないんなら、こういう、フツウじゃないことは、無視していいとおもうんです。

 ですが、この街では、異能のチカラを持ってるニンゲンがいる。だから、フツウの一般社会のモラル、常識、ルールとかが、そのままのカタチでは、通用しないじゃないですか。

 フツウの世のなか・社会だったら、ありえないようなことだって、この街では、十分ありえるとおもいますし。

 ワタシ自身、この店の空気や温度をあやつって、つごうよく、ほかのニンゲンを、店のソトに追いだしてますよね。

 こういうことって、フツウだったら、ゼッタイにありえないはずです。この街のソトだったら、ゼッタイにありえない。

 でも今げんざい、ワタシ自身が、こういう、ありえないことをやってるんです。

 フツウの社会だったら、ゼッタイにありえないことを、あたりまえのように、やってるんです。

 だから、フツウにかんがえて、こういうことは、ゼッタイにありえない。という選択肢も、すぐ消してはダメなんじゃないか。っておもってます。

 そういう、フツウだったら、ゼッタイにありえない。という選択肢も、カンゼンにウラが取れるまでは、つまり、根拠・証拠がかたまるまでは、ありえるかもしれない。ってかんがえて、のこしておくべきじゃないか。とおもいます」

「そういわれると、そうかもしれないけど。岩羽さん、ずいぶんかんがえこんでるね。

 それだけ、こんかいのジケンのことが、気になってる。っていうことなんだろうけど」

「そういわれると、たしかに気になってますね。ワタシ自身が、ジケンの解決にかかわった。っていうのはもちろんですが、それ以上に、どうにも、ウラになにかあるんじゃないか。っていう気がするんですよ。

 なにか、隠された意図や狙い、もくてき・動機・理由とかが、あるんじゃないかっていう」

「それこそ、探偵みたいなことをいうね」

「そうですね、なんだか探偵にでもなった気分です。でもまあ、ここはあえて、探偵になった気分でいようとおもいます。

 なんだか、ノドに引っかかったホネみたいに、ハッキリとしたことがわかるまで、どうにも、気分が落ちつかないんですよね。

 だからイロイロと、かんがえてしまうんですよ。フツウの常識でかんがえたら、まずありえないことなんですが、ああいう状況のなかでも、じつは犯人たちが、ウソをついていたんじゃないかとか。あるいは」

「あるいは?」

「ウソをつかされてるとか」

「ウソをつかされてる?っていうことは、ダレかほかのニンゲンが、あの犯人たちに、ウソをつかせてた。っていうことかい?」

「ええ、そういうことも、ありえるのかも。っておもいます。たにんをあやつる異能力者だって、さがせばいるかもしれませんし。

 こういうことも、選択肢にいれてみると、ああいうパニックになった状態のなかでも、あの犯人たちが、ウソをついている。っていう可能性は、十分に成りたつんですよね」

「たしかに、ほかのニンゲンを、自由にあやつれる。っていうことまでかんがえたら、そういうことまで、前提条件にくわえたら、あの犯人たちが、ホントウは、この街のことを知ってたけど、知らないフリをした。と、こういう可能性も、カンゼンに、否定することはできないか。

 ちなみに、ケイサツの音声データを聞いたといってたけど、ソレを聞くかぎり、犯人たちは、ウソをついてるように感じかったんだよね?

 そうなると、ハナシがまた最初から、ふりだしにもどるようで悪いんだけど、たんじゅんに、ダレかにあやつられて、ウソをつかされている。という仮説とは、チョット矛盾するようにおもえるんだけど」

「おっしゃるとおりなんです。あの銀行のなかの、犯人たちのやりとりを聞くかぎり、かれらはホントウに、本心から、パニックになっているように感じました。

 いくらなんでも、あんなにうまい演技が、ああいう、せっぱ詰まった状況のなかで、できるとはおもえないんですよ。

 ですから、徳平さんのおっしゃるとおり、ハナシが矛盾してくるんですよ。でも、こういうこともふくめて、さらに掘りさげてみると」

「ほりさげてみると?」

「チョット極端ないいかたですけど、あの犯人たちは、この街のことを、つまり、異能のチカラを持ったニンゲンのことを、ホントウは知ってるのに、知らないことになってるとか」

「知らないことになってる。っていうのは、チョット表現がむずかしそうだけど。違ういいかたをすると、ホントウは知ってたけど、キオクをけされたり、変えられたりして、わすれた状態になってるとか?」

「そうですね、徳平さんのおっしゃった表現のほうが、より正確だとおもいます。

 ホントウは知ってたんですが、なにかしらの異能のチカラをつかわれて、わすれたり、キオクをけされたりして、知らない状態になった。ということも、十分ありえる気がします」

「あるいは、わすれてないし、キオクもけされてないけれど、あの犯人たちは、一挙手一投足まで、すべて、ダレかにコントロールされていた。っていうことも、可能性としてあるかもしれない」

「そうですね、ワタシもそうおもいます。その可能性も捨てきれない」

「まあ、ここでいくら話しあっても、掘りさげてかんがえてみても、憶測にすぎないんだよね、しょせんは。

 ホントウのことをかくにんするのは、まず不可能だろうし」

「たしかに、ここでいくら話しあったり、検討してみたところで、ホントウのことはわかりませんよね。

 でも、もうチョットだけ、このことを、調べてみたいとおもってるんです。ワタシは」

「なんでまた?」

「気になるからっていうのが、その理由なんですけど。なんでこのジケンが、こんなにも気になってるのか。じぶんでも、よくわからないんですよ。ただ」

「ただ?」

「こういう、違和感というか、不自然をおぼえるようなことのウラには、なにかおおきなことが、隠れてるような気がするんです」

「ミステリーや、推理小説の読みすぎっていう気もするけど」

「それもあるかもしれません。ワタシは、『名探偵がかつやくする、いかにもナゾを解く』っていう感じの推理小説とか、けっこうスキなので。

 そのせいか、じぶんが気づいた違和感や不自然さとかを、放置しておきたくないんですよ。

 ソレを放置しておくっていうのは、どうにもキモチがワルイというか、なんというか」

(アタマが良いっていうのも、つかれるのかもしれない)

 じぶんが気になった、違和感・不自然さのあることを、放っておくことができない。という岩羽のことを、徳平は、すこしだけそうおもった。

 じぶんだったら、たとえなにかに気がついたとしても、それ以上、深く掘りさげることはない。ともおもうのだ。

 もしも、じぶんにたいして、直接的に、深くかんけいすることであれば、たしかに徳平も、イロイロと、根ほり葉ほり、堀りさげてかんがえたり、調査をするかもしれない。

 だがしかし、今げんざいの時点・段階で、こんかいの銀行強盗のジケンは、じぶんにたいして、ほとんどかんけいのないことである。

 そしてソレは、岩羽にとってもおなじことであろう。なにせ、ジケンはもう、解決しているのだから。

 にもかかわらず、岩羽は、このジケンについて、「さらに掘りさげて調べたり、かんがえたい」というのである。

(放っておいてもいいけれど)

 徳平としては、じぶんにたいして、直接かんけいのないことである。そのために、この件について、もうこれ以上、深くかかわろうとはおもえない。

 だがしかし、目のまえにいる岩羽のようすをみていると、「オレはもう、この件にはかかわらない」と、どうにもいえそうにない。

(彼女のいいかたからすると、どうやら、『彼女にたいして協力する』ということを、オレの口からいわせたいらしい。

 まあいい。こういうカタチでかかわったのも、なにかの縁か。そもそも、オレがあのジケンのゲンバを目撃したこと自体が、なにかのカタチで、オレとかかわりがある。ともいえるか)

「そんなにこのジケンのことが気になるんだったら、オレも、なにか手つだおうか?」

 徳平がこういうと、岩羽の表現はパッとあかるくなり、いかにもうれしそうであった。

「ソレはアリガタイです。ワタシひとりだけでは、チョットうごきにくいというか、大変というか。ダレか手つだってくれるヒトがいればいいな~って、おもってたんですよ。

 もしかして、ソレがつたわっちゃいましたか?」

「なんとなくね」

 徳平は、苦笑せざるをえない。

「じゃあ、善はいそげっていいますから。徳平さん、このあとチョット、付きあってもらっていいですか?

 いっしょに、やってほしいことがあるんですよ」

「このあとに?」

「そう、このあとです」

「ということは、もともと、オレがこの件について、参加することを前提にして、この店に入ったっていうことかい?

 つまり、オレが参加する前提で、このあとの予定を組んでおいた。っていうことになるのか?」

「そのとおりなんです!!さすが名探偵ですね」

(どっちがだよ)

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