違和感と不自然さ
「じつはですねえ。徳平さんのお察しのとおり、こんかいの銀行強盗ジケンの解決には、斉藤さんじゃなくて、アタシが一枚噛んでたんです。
それで、このジケンのゲンバを、徳平さんが目撃したっていうハナシを聞きまして。
アタシとしては、徳平さんが、なにを、どのていどまで気づいてて、知ってるのか。っていうことが、チョット気になりまして。
徳平さんのおっしゃるとおり、アタシとしては、こういうことに、かんけいしてる。っていうことを、あまりヒトに知られたくなかったので。
だって、アタシは一介の平凡なニンゲンで、一般人ですからね。しょうじきなところ、あまりトラブルめいたことは、かかえたくないじゃないですか。平穏なじんせいをおくりたいですし。
それで、徳平さんが、一体なにを、どれだけ、どのていどまで知っていて、気がついてるのか。っていうことを、チョットかくにんしたかったんです。
でも職場で、そこまで突っこんだハナシをするっていうのは、チョットやりづらいじゃないですか。ほかのヒトの目もありますし。
こういうハナシを、ほかのヒトの前でするっていうのは、チョット気がひけるんです。
だから、イザ話しかけようとしても、なかなか、そういうタイミングっていうか、チャンスがなかったんですよ。
こういうことを、アレコレかんがえてみた結果、不自然さがない状態で、つまり、一対一で、直接徳平さんに会って、イロイロと、聞いてみようとおもったんです。
そしたら徳平さんが、ジケンのゲンバにむかって、あるいていくのがみえたので、これはいいタイミングというか、チャンスがやってきたとおもったんです。
まあストレートに、ハッキリと聞くワケにもいかないから、誘導尋問みたいな感じで、話しかけてみようとおもったワケです。だからこのまえ、わざわざうしろから呼びとめて、話しかけたんですよ。
ソレで、イザ徳平さんに話しかけてみたら、徳平さんのクチから、斉藤さんがかかわってるかもしれない。っていうコトバがでたじゃないですか。
だから、コレはいいとおもって、ワタシも、斉藤さんがかんけいしてるかもと言って、相槌を打ったんです。
そしたら徳平さんも、ソレに賛同してくれましたし、アタシがかかわってるとは、どうも気づいてなさそうだったので。これならまあ、だいじょうぶだろう。っておもったんです」
「じゃあオレのかんがえは、いちおう、あたってたってワケだ」
「そういうことになります」
「じゃあなんで今日、またオレに話しかけてきたんだよ。このジケンに君がかかわってると、オレが気づいてない。
と、かくにんしたんなら、またイチイチ、オレに話しかけなきゃならない理由なんて、ないんじゃないの?」
「そうおもいます?」
「そりゃねえ」
「まあリクツでいえば、そうなりますよね。でも、ワタシが徳平さんとハナシをしようっておもうのに、いちいち、リクツや理由なんて、ひつようないんじゃないですか?」
と、なにやらニヤニヤしながら、岩羽はいう。
「リクツや理由がいらないっていうのは、つまり、どういうことなんだろうね」
「まあアタシも、ハッキリせつめいすることはできないですよ。なにせ、今アタシが言ったとおり、リクツや理由なんか、ないんですから。
でも、あえてソレをいうとすれば、今まで、あまり深くハナシをするキッカケのなかった、シゴト先のセンパイと、このまえ、チャントと話すことができた。
だから、コレをキッカケにして、イロイロと、話せるようになったほうがいいかな。っておもったんです。
こうして、おなじ職場にいるっていうのも、なにかの縁でしょうし」
「縁ねえ」
「そう、縁ですよ」
「そういわれたら、そのとおりかもしれない。君のいうとおりだ。たしかに、コレをキッカケにして、イロイロと話すようにしようっておもうのは、不自然じゃないか」
「そうですよ。けっして不自然なことじゃないですよ。むしろ、とても自然なことじゃないですか?縁はたいせつにしないといけませんよ」
「そりゃまあ、もっともな意見だとおもうよ」
「で、こうして縁あって、またお話しすることになったんだから、チョットだけ、アタシのハナシを聞いてくれないでしょうか?」
「そりゃまあ、オレはぜんぜんかまわないけど。で、なんのハナシを?」
「う~ん、こうして立ちながら話すのも、チョットいいにくいので、あのお店のなかで話そうとおもうんですけど、どうです?
あのお店、社割がつかえるんですが、じつは今日、その社割クーポンの期限が切れてしまうんです。
しかも今日は、ふたりで入店すると、ポイントが2倍つく日なんです」
「そういわれれば、そういうキャンペーンがあったっけか。オレはべつにかまわないけど」
「なら、さっそく入店しましょう。今日中に行かないとモッタイナイので、ダレか、いっしょにいけるヒトがいないか、ちょうどさがしてたんです」
「で、ちょうどオレが、君の視界にはいったと」
「そういうことです。あ、さすがに、奢ってくださいなんていわないので、そこはあんしんしてください。
っていうか、ワタシのほうから切りだしたんですかから、ワタシのほうが奢りますよ」
「イヤ、さすがに年下の女子に奢らせるのは気がひける。オレのほうがだすよ」
「そうですか、じゃあ、ご好意にあまえますね。っいうか、なんかアタシが、徳平さんに奢らせるようにしたようで、チョットもうしワケないですけど」
「ワカモノが、そういうことを気にしなくてよいよ」
ふたりは飲食店にはいり、食事をしたのであるが、徳平としては、岩羽の「ハナシをしたいこと」が気になり、食事をしていても、なんとなく、上の空であった。
岩羽のほうは、徳平とは違って、たのしそうに食事をしていた。
「徳平さん、もう食べないんですか?」
「あまりハラは減ってなくてね」
「へー、徳平さんて、もっと食欲が旺盛なヒトかとおもってたんですけど」
なんとも上の空の徳平とは違って、この会話ひとつとっても、岩羽のほうは、実にたのしそうであった。
あいかわらず、岩羽のかんがえがわからないため、仕方なく徳平は、岩羽のたのしそうな食事をながめていた。
「ソロソロかなあ」
「ん、なにが?」
「いや、ソロソロ徳平さんの警戒心が、解けてきたころかなっておもいまして」
「警戒心?」
「そう、警戒心です」
「ソレってつまり、オレが君にたいして、なにか警戒してたっていうこと?そういう風に見えてたって聞こえるんだけど」
「警戒心っていうのがいいすぎだとしたら、チョット身がまえてた。っていういいかたにかえましょうか?」
「身がまえてたといわれれば、たしかに、そうかもなんだけどね」
「あ、ヤッパリですか」
岩羽は、じぶんの推測があたったことに、マンゾクしたようすであった。
「このお店にはいってから、徳平さん、ワタシがなにをいいだすか、気になって仕方がない。
っていうカオをしてましたよ。ワタシの一言、一言を、聞きのがすまい。っていう感でした。
だから、チョットだけ待って、徳平さんのチカラがぬけてから、本題にはいろうとおもったんです」
「ヒトのココロをよむねえ、君は」
「そんなことないですよ、名探偵さんにくらべたら」
「どっちかっていうと、君のほうこそ、名探偵みたいにおもえるけど」
「どうでしょうか」
あいかわらず、上の空である徳平とはちがって、岩羽は実にうれしそうに、この会話をたのしんでいるようであった。
(優等生すぎるイメージがあるせいか、もっと、取っつきにくいヤツかとおもってたけど、こういう、くだけた一面もあるのか)
徳平は、「じぶんがそれまでもっていた、岩羽のイメージというものが、実は、カナリ先入観がはいっており、偏っていたものかもしれない」とおもったのだが、岩羽のほうは、徳平が、そんなことをおもっていることなどおかまいなしに、食事と会話を、実にたのしんでいるようである。
たのしげなようすの岩羽につられて、ダンダンと徳平のほうも、さらに気がぬけてきたのであろうか。岩羽の会話に合わせて、クスクスと、わらってしまうこともあった。
「どうやら、徳平さんも、えがおになってきたことですし、ソロソロ本題にはいろうとおもいます」
「そうしてくれると、オレもアリガタイよ。しょうじきなところ、一体、いつになったら本題にはいってくれるのかと。さっきから、ずっと気になってたんだよね。
もしかしたら今日は、肝心なことをいってくれず、ただ食事をして、しゃべっただけでおわるんじゃないか。っていう気もしてたし」
「え、アタシとただ食事をして、ハナシをするのはフマンなんですか?」
と、イタズラっぽいえがおで、岩羽はいう。
「イヤイヤ、ソレにフマンがある。っていうワケじゃないって。というか、ホントウに意地がワルイよなあ。そんなにからかわないでほしいよ」
「いえいえ、からかってなんてないですよ。ただ、徳平さんの反応がわかりやすいので、ついチョットだけ、イロイロといいたくなるんです」
「オレの反応ってのは、そんなにわかりやすいもんかねえ?」
「ええ、わかりやすいですよ。たぶんじぶんでは、内心やホンネとかを、うまく隠してるつもりなんでしょうけど。
でも、よく観察してると、表情だとか、コトバのトーンとかに、感情の起伏がでてるんです」
「ったく、そっちのほうが名探偵じゃない」
「どうでしょうか」
(どうにも、オレのほうが受け身になるなあ。この子と話してると)
どうやら、岩羽といっしょにいると、フダンのじぶん以上に、あいてに合わせて、うごかされてしまうようである。
だが徳平は、「岩羽に誘導されて、うごかされてる」という状態に、べつだん、不平やフマン、苦痛などを感じていなかった。
それどころか、むしろ、あいてに合わせて、うごかされているほうが自然な状態であり、「ムリがない」とさえ、おもえてしまうのだ。
(それだけ彼女のアタマが良くて、オレのかんがえを先読みして、オレが不快にならない方向に、いつの間にか、誘導してるっていうことか。つくづく優秀な子だ)
先ほど岩羽は、「ソロソロかな」とはいったものの、あいかわらず、本題にはいろうとしない。
じぶんのシゴトのことなど、とりとめもない話題を徳平に振って、その会話をたのしんでいるようである。
(けっきょく、今日はただ単に、食事をして、ハナシをしておわりかな)
徳平が、そうおもっていた矢先、岩羽は、とつぜん言ったのだ。
「よし、こんどこそ、だいじょうぶそうです」
「ん、なにが?」
「たにんに、ぬすみ聞きされるキケンは、もうないってことです」
「え?」
「まわりを見てください。今の店のなかには、ワタシたちしかお客がいないので」
そういわれて、徳平がまわりを見てみると、たしかに、彼女のいうとおりであった。
「もしかして、コレを待ってたってこと?」
「そうなんです」
「なんでまた?」
「たにんには、あまり聞かれたくないことなので」
「・・・・・」
どうやら岩羽は、たのしそうに食べたり、ハナシをしているだけではなくて、まわりのようすを、ぬけ目なく見ていたのであった。
「ん?ということは、さっきのたのしそうな表情も、ぜんぶ演技だったってことになるとか?
まわりのヒトに、食事をして、たのしく会話してるだけだって、おもわせるために?」
そうおもうと、徳平は、なんだかチョットだけ、ざんねんな気がした。あいてが、じぶんとの食事や会話で、たのしそうに、うれしそうにしているのを見るのは、けっして不ユカイではなかったのだから。
「いやまあ、ソレもたしかにあるんですけど。でもたんじゅんに、徳平さんとの会話や食事が、たのしかった。っていうのもホントウですから」
(どうだか。オレが今おもったことを、すばやく察知して、フォローのつもりでいったんじゃないか?)
「いえ、コレはホントウですよ。さっきのたのしそうな感じは、演技じゃないですから」
「まあどっちでもいいよ。それなら演技じゃなくて、ホントウにたのしかったっておもっておくよ」
と、徳平は、苦笑しながらいった。
「そうそう、そうおもってくださいよ。じぶんを卑下しないほうがいいですよ」
「それで、たにんにあまり聞かれたくないことって、一体なんなんだろうね。よけい気になるじゃない。
というか、そもそも、オレたち以外の客が、この店からいなくなる保証なんてなかったんだから、たにんに聞かれたくないハナシをするのに、なんでこの店にはいったんだよ」
「ソレはだいじょうぶです。このお店のなかの空気のながれを、チョットだけ変えたので」
「変えた?」
「そうです」
「どういう風に?」
「ワタシたちのまわりには、変化がないようにしてますけど、ワタシたちの近くをはなれると、温度が急に上がったり、下がったりしてるんです。
ですから、不快に感じて、お店からでていくヒトが、ふえるようにしたってワケです。
さすがに、こうつごうよく、ワタシたち以外のぜんいんが、お店からでていくっていうことまでは、想定してなかったですけど。
お客のかずが、減ればっていいや。っていう感じでやってました。お客のかずが減れば、あとは、ワタシが空気のながれをあやつって、コチラの会話が、ほかのヒトたちに、聞こえないようにしようとしてましたから。
あたりまえのことですけど、ニンゲンの声って、空気をつたわって、たにんが聞くことができますし。
だったら、空気のながれをチョット変えてしまえば、ワタシたちの会話が聞こえなくするのは、そんなにむずかしいことじゃないですので。
でもまあ、ワタシたちが、よっぽど大声でハナシをすればべつですけど」
「ナルホドねえ」
(えがおで食事して、オレと話してながら、こんなことをかんがえてたのか)
「こうして、ほかのお客がいなくなったので、さっそく本題にはいりますね。
徳平さんが、このまえの銀行強盗ジケンのゲンバを見て感じたことで、なにかとくべつ、気になったことってありました?」
「とくべつ気になったこと?」
「そうです」
「んー、どうだろう」
岩羽のしつもんにたいして、徳平は、うまく答えることができなかった。
なんとなく、不自然さや違和感のようなものを、感じてはいたのだが、「ハッキリとめいかくに、コトバにする」ということは、できていなかったのだから。
「チョットうまくいえないんだけど、なんていうか、あのジケン自体に、違和感のようなものを感じたかなあ。不自然さといってもいいだろうけど」
「違和感や、不自然さですか」
「そう」
「ちなみに、どういった違和感や、不自然さだったんですか?できれば、もうチョット、くわしくおしえていただけると、ワタシとしては、うれしいんですけれど」
「くわしくっていわれても、うまくいえそうにないよ。そもそも、うまくコトバでいえないからこそ、なんとなくの違和感や不自然さなんだから」
「そういわれちゃうと、たしかに、そのとおりなんですけど。でもできれば、もうチョットだけ、くわしくおねがいします」
「くわしくねえ」
徳平は、チョット思案顔をして、じぶんのなかにあるかんがえを、整理しはじめた。そして数分後、クチをひらいたのである。
「ぐたいてきにいえるかどうか、チョット自信がないというか、わからないんだけど。
なににたいして、違和感や不自然さを感じたかっていうと、あのジケン自体かなあ」
「ジケン自体にですか?」
「そう、ジケン自体に」
「ソレはつまり、あのジケンのゼンタイというか、おきたこと自体が、おかしいっていうことでしょう?」
「そういうことかなあ」
「徳平さんも、ヤッパリそうおもいますか?」
それまで、ニコニコとえがおだった岩羽は、一瞬だけ真顔になって、そういった。
「え?どういうこと?」
「じつはワタシも、似たようなことをかんがえていたんです。あのジケン自体が、おかしいんじゃないかって」
「つまり、あのジケンがおきたこと自体がおかしいし、あのジケンのないようも、おかしいっていうこと?」
「そうなんです。徳平さんも、おなじようなことをおもっていた。っていうのは、チョット興味ぶかいです」
「なんで?」
「だってそうじゃないですか。あのジケンの解決にかかわったワタシと、まったくかんけいのなかった徳平さん。
このふたりが、ほぼ同時に、似たようなギモンを持った。っていうのは、ちがうたちば・状況にいるヒトが、各々、ちがうルートでかんがえて、おなじ意見・けつろんにたどりついた。っていうことになりますよね。
こういうことって、カナリたいせつだとおもうんです。いいかたを変えると、『ふたつのちがうルートで手にいれた、情報・意見・事実を、比較して突き合わせてみたら、共通点がみつかった』っていうことになりませんか?
なにかの本で読んだんですけど、情報機関ってあるじゃないですか。アメリカのCIAや、旧ソ連のKGB、イスラエルのモサドとかのことです。
こういうインテリジェンス機関って、情報をあつかってるんですが、情報をあつめて、分析したりする機関って、かならず、ふくすうのルートから、情報をあつめるしいんです。
つまり、なにかひとつのものごと・案件、もんだいにたいして、かんけいした事実・情報をあつめるときに、ひとつのルートからだけあつめると、ソレは大抵のばあい、ダレかの先入観、キボウ的な観測、おもいこみとかが、つよくはいったものになってしまう。
だから、偏ってて、ただしいげんじつの状態がわからないらしいんです。
もっといってしまうと、そのひとつのルートのヒトが持っている、解釈や意味合いがつよすぎるから、ひとつの色のメガネで見たものになってしまう。
だから、しんじつや真相がみえない。色メガネをかけて見るセカイは、げんじつと、ちがう色になりますから。
真っ黒なサングラスをかけていると、すべてのモノが、黒くみえるのとおなじですよね。
そういうケースをふせぐために、ふくすうのルートから、事実・情報をあつめる。
そして、それらを比較して、突き合わせて検証して、なにが、どの部分がただしくて、先入観、キボウ的な観測、おもいこみで、まちがっているのか。っていうことを、しらべると書いてありました。
それで、ワタシとしては、このやりかたを取りたかったんです」
「んー、つまり、岩羽さんとしては、じぶんでも、なにかオカシイとはおもってた。
けれども、ソレはもしかしたら、たんなるじぶんのおもいこみや、カン違いかもしれない。
だから、ほかのニンゲンの意見も聞いて、ソレと、じぶんの意見を比較したかった。と、つまりこういうこと?」
「そのとおりなんです。徳平さん、理解がはやくてたすかります。それで、ワタシとしては、このジケン自体にたいして、なんともいえないギモンっていうか、オカシイとおもえる部分があったんです。
でも、ワタシひとりだけが、そうおもってるだけだったら、それこそ、ワタシのたんなるカン違いや、おもい違いっていう可能性もありますし。
だから、このジケンのいきさつを見たっていう、徳平さんの意見や感想、解釈とかを、聞いてみたいっておもったんです。
「なるほどねえ。だから岩羽さんのほうから、ハッキリといわなかったわけか。
もしもこのことを、オレにたいしてストレートに聞くと、オレとしては、岩羽さんから聞いたこと自体が、もうすでに、先入観になってしまう。
そうなると、岩羽さんの意見に影響された解釈やかんがえを、無意識のうちに、言ってしまうかもしれない。
となると、さっきいってた、『ふくすうのルートから、意見や情報をあつめる』っていう効果自体、なくなってしまうかもしれない。と、つまり、こういうことでいい?」
「そのとおりです。徳平さん、理解がはやくてたすかります。ほかのヒトだったら、たとえば、ワタシの高校時代の同級生や、しょくばの同僚だったら、たぶん、こうはいかないとおもいます。
おそらく、もっとクドクドせつめいして、やっとわかってもらえるかどうか。っていう感じです。こういうとき、年上のヒトってたすかります」
「いや、年上のニンゲンのすべてが、こうだとはかぎらんよ。じぶんの経験上、歳を取ってても、ニブイというか、ダメなヤツはヤマほどいたから。
「たしかに、徳平さんのいうとおりですね。わたしも、徳平さんじゃなかったら、たぶん、こんなことを、わざわざいわなかったとおもいます。
ほかのヒトだったら、おそらく、言っても理解されないとおもうので」
と、岩羽は、うれしそうにいった。
「ワタシと、よく似たタイプのヒトがいてくれて、チョットうれしいですし、たすかります」
「よく似たタイプのニンゲンねえ」
「そうじゃないですか。よく似てますよ、ワタシたち。まあ、このハナシはこれくらいにして、さっきもいったとおり、ワタシと徳平さんのふたりが、じぶんでジケンを見て、かんがえてみた結果として、おなじような意見・けつろん・解釈にいたった。ていういうのは、とても興味ぶかいです。
この点は、もっと掘りさげたほうが、いいんじゃないかっておもうんですが、徳平さんは、どうおもいます?」
「掘りさげるねえ」
「そう、掘りさげるんです」
「掘りさげると、なにかがみつかるとか?」
「ワタシとしては、そうおもってるんですが」
「ちなみに、岩羽さんが掘りさげてみた結果として、なにか、気になるものがみつかったとか?」
「どうでしょうか。ワタシとしては、徳平さんの意見のほうを、まずは聞いてみたいんですが」
「なんで?」
「ワタシが先に意見をいったら、ソレを聞いた徳平さんの意見に、先入観として、わたしの意見がはいるかもですので。
それだと、さっきいった、『ふくすうのルートから、事実・情報・意見をあつめる』というカタチにならないかと。
つまり、ひとつの色のメガネだけで見たことになるから、あまりイミがない気がします」
「そういわれると、そうかもしれない」
「ここまでハナシがツーカーでつうじるっていうことは、おたがいが、おたがいのことについて、似たようなイメージや印象をもっていた。
っていうことですよ。それならヤッパリ、ワタシたちは、似た者同士なのかもしません」
「どうだろう。でもまあ、ヤッパリ岩羽さんのいうとおり、まずはオレが、じぶんの意見をいったほうがいいか。
岩羽さんの意見を聞いてから、オレが、じぶんの感想や意見をいったところで、ソレはすでに、先入観がはいったものになるかもだし。
つまり、君のいうとおりっていうことか。なんかオレ、岩羽さんに、うまく誘導されて、かんがえたり、話してる気がするんだけど」
「気のせいじゃないでしょうか」
と、ニコニコしながら岩羽はいった。
「オレが感じた、違和感や不自然さっていうのは、なんでこんなジケン自体が、この街でおきたのか。っていうことなんだよね」
「というと?」
「そもそも論的なハナシになるんだけど、まあコレは、オレの想像がはいってるんだけど、あの強盗の犯人たちは、たぶん、この街に、異能のチカラをつかうことができる、異能力者がいるっていうこと自体を、知らなかったんじゃないか。とおもうんだよね。
だからこそ、異能のチカラを持っていない、一般のニンゲンが、つまり、フツウのニンゲンが、この街で、銀行強盗っていう、大それたジケンをおこすことができた。『ソレをやろう』と、おもうことができた。
この街には、俗にいう、超能力を持ってるニンゲンがいる。そして、この街の治安機能にかんしても、そういうニンゲンが、チャント参加している。
こういうことを知ってれば、ただのニンゲンが、この街で、銀行強盗っていうぶっそうなことを、おこせるワケがない。
そんなことは、コドモでもわかるし、もっといっちゃえば、カナリのバカでもわかるだろうし。
そのコドモでもバカでもわかるような、たんじゅん明快なことが、なんであの犯人たちは、わからなかったのか。っていうことが、なによりもまず、引っかかったかなあ」
「ソレはたしかに、徳平さんのいうとおりですよ。ワタシ自身も、この点が、まず第一に、アタマにうかんだギモン点なんです。
ケイサツから、『銀行強盗がおきるかもしれない。という情報がはいったから、協力してくれ』という依頼をうけたときに、このことが、真っ先にアタマにうかびました。
そもそも、異能のチカラを持ってるニンゲンでも、この街で、大それた犯罪行為をおこすなんていうのは、なかなかできるもんじゃないですし。
ソレで、ケイサツからの依頼があって、あのジケンのゲンバに行ったときに、犯人たちは、異能のチカラを持ってない、ただのニンゲンだと知ったんです。
しょうじきなところ、『バカじゃないのか。このヒトたちは』とおもいました。ホントウの意味でのバカというか、愚かというか」
「だろうね、もしもオレが君のたちばだったら、たぶん、おなじことをおもうだろうし」
「それで、ケイサツの依頼どおりに、ワタシの異能のチカラで、風のながれをあやつって、催涙ガスをタテモノのなかに、犯人たちが気づかないように、すこしずつ、ながしていったんです。
それで、案の定、異能のチカラを持ってない、たんなる一般人ですから、アッサリと、ジケンは解決しました。
しょうじきなところ、ワタシとしては、なんだかんだいっても、実は、あの犯人たちは、なにかしら、異能のチカラを持っているんじゃないかって、ココロのどこかで、うたがってたんです。
でもホントウに、異能のチカラを、なにも持っていませんでした」
「なるほど」
「ジケンが解決したあとも、ワタシのなかに、ずっと違和感というか、不自然さがのこったんです。
だから、ホントウに、この犯人たちは、異能力者じゃなかったのか。ワタシの目には、異能のチカラをつかっているように見えなかったけど、実は、なにかの異能のチカラを、隠し持ってるんじゃないか。と、そういうギモンが、あいかわらずありました。
それで、ケイサツが、タテモノにいた犯人たちの声を、キロクしていたデータを持っていたので、ソレを聞かせてもらったんです。
ソレを聞くと、犯人たちが、パニックになってるようすが、手にとるようにわかりました。どうにもソレは、演技におもえなかったんです。
つまり、この犯人たちは、ホントウに、この街には、異能のチカラを持ったニンゲンがいる。ということ自体を、まったく知らないようでした。
そして、かれら自身も、なにも異能のチカラを持っていない。ということを、ハッキリと確信することができました」
「あの犯人たちが、ホントウに、この街にいる異能力者のそんざいを、まったく知らなかったのかどうか。
ソレと、あの犯人たちが、ホントウに、なにも異能のチカラを持っていないのかどうか。たぶんオレでも、あとから気になるとおもうよ。
だから、あとからわざわざ、ソレをかくにんして、チェックしたっていうのは、しぜんな行動だとおもう」
「アリガトウございます。我ながら、チョット疑りぶかかったかな。とはおもいますが、どうにも、このジケン自体が、違和感というか、不自然さのカタマリにおもえたので。
ですから、ケイサツにムリをいって、犯人たちの音声データを聞かせてもらったんですよ」
「それで、その音声データを聞いてみて、かくにんしたところ、ヤッパリ、ホントウにあの犯人たちは、この街のことを、なにも知らなかった。
そして、かれら自身も、異能のチカラを持っていない、たんなる一般人だった。と、こう結論づけることができたと」
「そのとおりなんです。こうなるとヤッパリ、じぶんのなかの違和感や不自然さだとかが、どうにも消えなくなりまして。というか、むしろ、ドンドンおおきくなりまして」
「だろうね、オレでもたぶん、そうなるとおもう」
「それで、あのジケンのゲンバを、あとになって見にいったら、そこには、なにやらこのジケンについて、イロイロとかんがえてそうな、徳平さんがいたんですよ。なので」
「なので、オレに話しかけたと」
「そういうことです。それで、徳平さんとハナシをしているうちに、ワタシがアタマのなかで感じていた、『違和感』や『不自然』というコトバがでてきたので」
「それで、今にいたると」
「そういうことなんです」
岩羽は、キッパリとそういった。そこには、些細ことであっても、けっして見逃さないのであろう、聡明さが表情にでている、賢そうなニンゲンのカオがあった。