表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

物好き

 翌日、銀行強盗という、凶悪な犯罪ジケンがおきたにもかかわらず、街はまるで、なにごともなかったかのように、いつもどおりであった。

 もっとウワサがひろまったり、しばらくのあいだ、イロイロと、さわがれてもいいようなものである。それなのに、平穏そのものであった。

(銀行強盗がおきたのに、そんなことはなかったかのように、いつもどおりか)

 このようなことをおもいながら、徳平は勤務先にむかい、あるいていた。

 その通勤の途中、銀行強盗のゲンバをとおったのだが、ゲンバ検証は、まだカンゼンにおわっていないのか、複数のケイサツ官がいた。

 だがしかし、銀行自体は、もうすでに営業を再開しており、銀行の行員は、いつもどおりはたらいていた。お客もいつもどおり、店にきている。

 職場に着いた徳平は、同僚とハナシをしていたのだが、「ほかの部署で、欠席者がいる」というハナシを聞いた。

(アイツ、たしか昨日は早退したみたいだけど、今日は出勤してないのか。なにかあったか?)

 昨日に早退した同僚が、今日になっても出勤していない。しかも、その同僚は、体調が悪そうでもなかったし、シゴトをズルやすみするタイプでもない。

(ということは、ヤッパリ、なにかあったか?)

 ちなみに、その休んだ同僚の上司は、その部署のニンゲンにたいして、とくべつ、くわしい説明をすることはなかったらしい。

 ただひとこと、

「斎藤は、今日は休みだ」

 と、いっただけであった。そこで、その部署のひとりが、

「斎藤さん、病気かなにかで、体調を崩したんですか?昨日に早退したときは、健康そうにみえたんですけど」

 と聞いたのだが、その上司は、

「いや、そういうワケじゃない。チョット急用ができたらしくて、ソレがまだ、おわってないらしい」

 と、ぐたいてきなことは一切いわず、このハナシは、ソレでおわったらしい。

 徳平は、欠席している斉藤と、「とくべつ仲がよい」というワケではない。ただ、帰り道がおなじ方向であり、その途中で会うことが、ときどきあった。そのために、「何度かハナシをした」という程度の関係性である。

 フダンであれば、斎藤のことを、あまり意識することはない。だがしかし、どうにも今日は、気になってくる。

(昨日、帰り道で銀行強盗があったけど、ちょうどこのジケンがおきた日に、斉藤は早退した。

 で、今日もまだケイサツは、ゲンバ検証かなにかをしてた。つまり、さすがに事後のショリまでは、すべておわってないらしい。

 もしかしたら、斉藤が昨日、早退をしたのは、銀行強盗がおきたからとか?

 昨日はケイサツから、ジケン解決の協力依頼がきた。だから早退した。で、まだ事後のショリが、すべておわってないから、今日もシゴトを休んだか?)

 この北山のかんがえは、世間一般のフツウの常識・感覚に基づくのであれば、まず100%ありえない。

 ケイサツが、「関係者でないニンゲンにたいして、銀行強盗ジケンの解決依頼をする」ということなど、あるはずがない。

 フツウであれば、この北山のかんがえは、あきらかに間違ったものである。

 だがしかし、この街にかぎっていえば、この北山のかんがえは、けっして「ありえない」とはいえない。

 つまり、この街では、「フツウの常識・かんがえ」というものが、通用しないケースがたくさんあるのだ。

(なんせアイツ、この街では、たしか、上位にはいるレベルの異能力者だっけか)

 結局のところ、この日、斉藤は、さいごまで職場にくることはなかった。一日のシゴトがおわり、徳平は、社宅にむかい帰っていった。

 その途中、銀行強盗があったゲンバを通ったのだが、このときには、もうケイサツはいなかった。

 すこしのあいだ、銀行のまわりをみていたのだが、フダンと変わったようすは、とくに感じられない。

(さすがにゲンバ検証は、もうおわったか)

「あれ、徳平さんじゃないですか。シゴト帰りですか?」

 と、とつぜん背後から、はなしかけられたのだ。すこしおどろいたのだが、聞きおぼえのある声であり、すぐにダレなのかわかった。

「悪趣味だよなあ。うしろからとつぜん声をかけて、あいてをおどろかすってのは」

 振りかえりながらこういった、徳平の視界にはいってきたのは、職場の後輩である岩羽であった。

「べつに悪趣味ではないですよ。たまたまワタシのほうが、うしろにいただけですから。うしろからはなしかけるのは、仕方ないじゃないですか。

 それとも、ワタシが走っていって、前にいってから、はなしかけたほうがよかったですか?」

「いや、そういうワケじゃないけれど」

「なら、べつにいいじゃないですか」

「そうなんだけどねえ」

「どうしたんですか。浮かないカオをしてるようですけど、なにかあったんですか?」

「そういうワケじゃないんだけど」

「じゃあ、どうしたんです?」

「大したことじゃないよ。昨日、あの銀行で、強盗ジケンがあったじゃない。で、オレはそのゲンバを、たまたま目撃したんだよね。

 銀行強盗って、けっこう大きなジケンのはずなんだけど、それなのにケイサツは、妙に落ちついてたんだよ。

 まあ犯人たちが、異能力者じゃないだろうっていうのが、大きいんだろうけど。

 で、昨日はたしか、斉藤が早退したらしい。だからもしかして、斉藤がこのジケンの解決に、一枚噛んでたのかとおもってね」

「そういえば斉藤さんって、昨日は早退されたんですよね。たしかに斉藤さんだったら、ケイサツから、ジケン解決の協力依頼がきても、フシギじゃないかもしれませんね。なんせ、あの斉藤さんですし」

「そうそう、あの斉藤だからね」

「でも、ソレがどうしたんです?」

「だからどうした。っていうワケじゃないんだけど。そういうことかなって、勝手ににおもってただけだよ」

「ふ~ん」

「こういう、どうでもいいことをかんがえてただけなんだけど。そんなにオレは、浮かないカオをしてたかなあ」

「どうでしょうかね」

 岩羽は、すこしわらいながら、徳平のカオをみていった。浮かないカオをしている徳平のことが、なにかオモシロいのであろうか。

「そういうことだから、大したことはないんだよ。そういえば岩羽さんは、どうしてここに?

 たしか、君が住んでる社宅は、コッチの方角じゃないとおもったけど」

「ワタシのほうも、大したことはないんですよ。徳平さんが今おっしゃっていた、銀行強盗があったっていうゲンバを、チョット見てみようかと、おもっただけなんです」

「ヤジウマ根性だなあ」

「そうなんです。ヤジウマ根性が、シゲキされちゃったんです」

「そういうオレも、ヒトのことはいえないけどねえ」

 徳平は、わらいながらいった。なぜならば、かれ自身もまた、その「ヤジウマ根性」というものを発揮したからこそ、銀行のまわりを、さっきまで見ていたのだから。

「じゃあ聞いてみるけど、そのヤジウマ根性を発揮した結果、岩羽さんは、なにか気づいたことはあったかい?」

「ん~、まあとくべつ、なにかに気づいた。っていうワケじゃないんです。アレだけの大ジケンがあったのに、翌日の今日には、いつもどおり、営業を再開してるっていうのが、チョット気になったくらいですかね。

 本来だったら、もっとゲンバ検証とかを、やるとおもうんですけどね。シロウトかんがえながら。

 だけど、一日経っただけで、なにごともなかったかのように、フダンどおり営業を再開してるっていうのは、チョット気にかかるかも。っていう感じでしょうか」

「じつはオレも、そうおもったんだよね」

「そういえば、さっき徳平さん、昨日の銀行強盗のゲンバを、目撃したとおっしゃってましたけど、どんなようすだったんですか?

 チョット聞いてみたいんですけど、おしえてくれません?ヤジウマ根性がシゲキされちゃうんです」

「大したことは見てないけどね。ゲンバにいた警官たちが、妙に落ちついてたっていうか。緊張感がなかったっていうか。

 そもそも銀行強盗って、けっこうな大ジケンのはずだけど、そんな雰囲気じゃなかった気がする」

「じゃあ、どういう雰囲気だったんです?」

「なんていうか、とつぜんおきた犯罪に、おどろいたり、とまどったり、こんらんしてる。っていうようすが、ほとんどなかった気がする。

 まるで、こういうことがおきるのを、あらかじめ、知ってたって感じすらする。あの緊張感のなさは」

「あらかじめ、知ってたって感じですか。この街だったら、そういうことも、十分ありえるかもしれませんけど」

「そうなんだよなあ。この街だったら、そういう予知みたいなことも、十分ありるかもしれない」

「ソレに、犯人たちが、異能力者じゃなかったってウワサを、ワタシも聞いたんですけど、ソレも関係してたかもしれませんね。警官たちの緊張感のなさは」

「そうなんだよなあ。異能のチカラをもってない、ただのフツウのニンゲンが、この街で、なにか悪さをしたり、犯罪をするっていうのは、ほとんど自殺行為なんだよ。

 取りしまる側のケイサツの気がぬけても、仕方ない気がする」

「でも、もしもケイサツが、ジケンが起こるのを、じぜんに知ってたとして、しかも、その犯人たちが、異能力者じゃない。っていうことまで知ってたとしたら、ダレがソレを予知したんでしょうね。

 予知の異能力者って、しょうじきなところ、ワタシは聞いたことがないんですよ。

 でもまあワタシも、この街にいるニンゲンのことを、すべて知ってるっていうワケじゃありませんけど」

「予知能力を持ってるニンゲンが、どこかにいたのか。それとも」

「それとも?」

「たんじゅんに、異能力を持ってないニンゲンが、あの日、あの時間に、あの銀行を襲うっていう情報を、じぜんにケイサツが、どこかから手にいれたとか」

「ん~、その可能性はたかそうですよね。っていうか、ソッチのほうが、げんじつてきな気がします」

「だったら、その情報は、カナリ信憑性がたかかった。っていうことになるか。フツウにかんがえれば、たんなるデマだとおもうだろうし。

 なんせ、この街で、異能力を持っていないニンゲンが、ああいう大げさな犯罪ジケンを仕出かすっていうのは、ほとんど自殺行為なんだから」

「そういう情報を、ジケンが起こるまえに、ケイサツが手にいれていたとして、コレは、信頼することができる。とおもったのであれば、ケイサツの側が、カナリ信用してるニンゲンからの情報。っていうことになりそうですね」

「どうだか。まあいかんせん、なんの根拠もなく言ってることだし、ハッキリしたことはわからんよ」

「ですよねえ、コレはぜんぶ、想像にすぎないんですから」

「でもって、なんでオレたちは、このジケンのことを、こんなにイロイロとはなしてるんだか。じぶんでもよくわからん」

「そういわれてみると、そうなんですよねえ。さっきからワタシたち、このジケンのことが、妙に気になってるみたいですね。なぜかしら。って、じぶん自身でもおもいます」

「ホントウに、なぜだろう」

「ヤッパリ、斉藤さんが、かんけいしてるかもしれない。っていうのが、その理由なんじゃでないしょうか?

 ワタシたちの知ってるヒトが、もしかしたら、かんけいしてるかもしれない。そうおもえば、気になってきて、アレコレかんがえちゃうのは仕方ないですよ」

「いわれてみれば、そのとおりかもしれん。ヤッパリ、じぶんの知ってるニンゲンが関わってるかも。っておもうから、ここまで気になるのか」

「そういうことじゃないですか?」

「まあ、そういうことにしとくよ」

「で、ギモンも解けたところで、っていうか、解けたってことにしておいて、徳平さんは、今からどうするんですか?このまま帰るんですか?」

「どうしようか、特にきめてない。今からやることはないし」

「じつは、ワタシもそうなんですよ。特にやることもないから、こうして、ヤジウマ根性にしたがってるってワケなんです」

「物好きだよねえ、おたがいに」

「そうですよね、おたがいに、どうしようもないですねえ」

 どうやら徳平は、岩羽との会話が、たのしくなってきたようである。そのために、ジケンのゲンバのことなど、もはや、どうでもよくなってしまった。

「これ以上、ここにいても仕方ないし、オレは社宅に帰るよ。岩羽さんは、どうするの?」

「ワタシですか?ん~どうしようかなあ。もうチョットだけ、ヤジウマ根性にしたがって、このあたりを、うろついてみようとおもいます」

「物好きだなあ。じゃあオレは帰るよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ