9:そしてスペインへ
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
今日戻ることは事前に留守電に入れてはおいたのだが、果たしてちゃんと伝わっているのだろうか?またもや不安であったが、まあ、伝わっていることを信じるしかない。この状況で、『もし彼女たちが不在の場合はどうしようか?』など余計な事は考えないようにした。というより疲労と熱による怠さのあまり考えられなかったと言うのが正しかった。
もし2人が不在の場合でも合鍵がある場所は知っていたため、とりあえず部屋の中に入り寛ぐことはできると思いながらベルを押した。頭がぼんやりしてきていて少し意識が朦朧としていた。反応がなくやはり居ないのかな?と一瞬思ったのだが、フランス語が聞こえてドアを開けたのはなんとジュリアだった。中に入ると、彼女はヨガウェア姿で「大丈夫?ヒデ?」と言っているのが聞こえた。今日戻ってくる事は留守電で知っていて、仕事の休みを取って待っていたと言うのだ。そして、ソフィアは重要な用事で他の場所に行っており、僕が戻ったら一緒に連れて来て欲しいと頼まれたのだと言う。全く状況がつかめない。僕はまず重いリュックを置いて、ひとまずリビングにどかっと座った。
疲れと安堵感で一瞬眠りに落ちてしまったようだった。ジュリアが呼んでる声が聞こえふと目を覚ました。
「ヒデ、大丈夫? ソフィアに会うために、私はあなたをスペインまで連れて行かなければいけないんだけど、あなたは協力してくれる?」
「しかし・・・なんで、スペインなの? まだこの旅行は3週間残っているから行くこと自体は問題ないし、どうせこの後イタリアに行くか?スペインに行くか?で迷っていて決めかねていたから、この際スペインにすればいいんだけどね。」
「スペインのアンダルシア地方にあるロンダという古い街があるんだけど、そこに行けばソフィアに会えるの。実は彼女も私もある重要な仕事を頼まれていて、その関係でそこに行かなければならないの。」
「その重要な仕事っていったいなんなの?」
「今は詳しく説明できないんだけど、とりあえずロンダに行けば詳しく説明できるから、帰ってきたばかりで申し訳ないけど、私が運転するから車でまずはアダンダルシアのミハスコスタに向かいたいの。」
「・・・まあ、これからスペインに行くことにすればいいんだけど、それって3週間で戻ってこられるの?」
「たぶん3週間はかからないと思うわ。あなたと私とで気楽な旅行に出かけると思ってもらえれば!」という会話が続き、彼女からは珍しく笑顔が見えた。
「なるほど。わかった。君とはグリエールに行った時しか話したことはないから、いろいろ話ができそうだね! よくはわからないけど、君達ツインズは大好きだしお世話にもなっているから協力するよ! でもなんでまたロンダではなくスペインのミハスコスタと言うところに行くの?」と聞くと、「これから出ても、ロンダに着くのは大変だから、その手前のミハスまで行って、深夜になるだろうからそこに泊まるつもりなの。」
なるほど、そこはツインズが持っているヴィラで地中海が目の前に広がるいわゆるリゾートマンションなのだと言う。という流れでようやく到着したばかりのビュルを出て、早速2人でスペインに向かうことになったのだった。
ジュリアは着替えて荷物を用意すると言って自分の部屋に戻っていった。その間に僕はシャワーを浴びさせてもらい、イギリスからドイツを通過してきた疲れを流した。『気安くいいよと言ってしまったのだが全く全貌がわからない中、助けるといっても、僕が一体未知らぬヨーロッパで何をすれば良いのか?果たしてそもそもそんな大事な事の為にお役に立つことができるのだろうか?』と不安にもなってきた。
しかしまあ、ジュリアと一緒に旅行できるんだからいいか!とお気楽に考える事にしてみた。そんな風にぼーと思いに耽っていたところにジュリアが登場した。「Wow! You are so COOL!!」と思わず言ってしまった。そのルックスはブラックストレッチのローライズスリムデニムパンツにタイトなブラックリネンシャツ、そしてそのインナーにはカーキのテレコタンクトップを着ている。靴はブラックレザーのサイドゴアアンクルブーツで、使い込んだカーキのキャンバスのミリタリーリュックを持っていた。そしてレイバンのティアドロップサングラスを頭に乗せていたのだ。このクールなミリタリー風スタイリングがジュリアの銀髪と透き通るような白い肌に反比例するかのように魅力を浮きただせていた。顔や背格好はソフィアと瓜二つではあるが、雰囲気は全く正反対な双子なのだ。この場でやっと気づいたことであるが、ソフィアの眼差しが柔らかく明るい光であるのに対して、ジュリアのそれは無表情で穏やかな光であった。
「それじゃ、じゃ行きましょう!」と言って外に出てプジョー205GTIに乗り込んだ。もちろんドライバーはジュリアだ。まずはジュネーブを抜けてフランスに入り、そのまま南下してリヨン、モンペリエ、トゥールーズと高速道路をかっ飛ばしていった。さすが205GTIは早い。ジュネーブ空港に迎えにきてくれたソフィアも飛ばしていたが、ジュリアはさらにスピード狂かもしれない。それとも時間がないからなのか? 移動中、彼女はほぼ口をきかず、代わりにラジオからフランスのBGMが流れていた。『えー これ、ミッシェル・ジョナスっていうんだ? 以外にいいじゃん! フランス語って雰囲気あるよなー』と思いながら僕も疲れていたせいか朧げな気持ちになり、折角の2人だけのドライブなのにいつの間にか寝入ってしまったのだった。
気がつくとサービスエリアのカフェテリアでジュリアはバゲットのサンドウィッチとカフェオレを2つづつ買って車に戻ってきた。それを車内で食べながら、「ジュリア、長い運転で疲れてない?」と聞いたが、「全然大丈夫よ。ずっと寝てたけど大丈夫?」と逆に聞かれてしまい「疲れて眠ってしまったね・・・ごめん! 少し復活したみたい。僕は大丈夫だよ。ソフィアはロンダにいるんだよね?」と再度確認した。「それはそうなんだけど・・・」と一瞬沈黙があり、「実はロンダにある『ゲート』があって、そこからさらに行かなければならないんだけど・・・説明が難しいから行ってから説明するわ。とりあえず今夜はミハスコスタに無事に着いてしっかりと休みましょう!」とやはりそれ以上詳しくは聞き出せなかったのだった。「残念ながらゆっくりは滞在できないんだけど、ミハスコスタの私達のマンションからは海がすぐ前に見下ろせて、バルコニーからの景色は最高なの! 私達はよくそのバルコニーでゆっくり時間を過ごすのよ。すぐ下のビーチまで歩いて行けば、ビーチレストランもあってそこのシーフードは最高なのよ!」と。この姉妹の稼ぎでスペインに別荘を持てるなんて、どういうことなんだろう? 両親がお金持ちなのか? ちょっと不思議ではあったのだが、まあでもイギリス人もよくスペインのアンダルシアにヴィラを持っているから、そんなノリなのかな? ということにしておいた。
再び205でスペインに向かった。走りに走り夜間のため渋滞はなくバルセロナ、アリカンテを通過し海沿いを走っているとマラガが見えてきた。「やっとマラガに着いたわ。ここからはフェンヒローラを過ぎたらミハスコスタまですぐよ! ミハスプエブロは昔からあるホワイトウォッシュの家々が並ぶまさにアンダルシアという観光地なんだけど、ミハスコスタは最近できたリゾート地なの。でも雰囲気は凄く良くて私は大好き!ヒデも気にいるといいんだけど。」と言っていたら、道沿いにパームツリーが並ぶ海沿いのリゾートタウン・フェンヒローラが見えてきた。深夜のため風景はよく見えないのだが、彼女が言うようにビーチリゾートの雰囲気が漂ってきた。右にそれてアンダルシア風のマンションが点在するエリアに入りすぐ坂を登ってレジデンシャルエリアに入っていった。
車が徐行速度になると、あたりは3階建てのスペインらしい趣があるマンションが見えてきた。高台の静かないい雰囲気の別荘地だ。そして突き当たりで車が止まり路肩に寄せた。「やっとついたわ! ここがうちのヴィラなの。」と言って降りた。風が心地よく吹き抜ける石段を数段上がり、彼女は木製のスペイン風の重厚な玄関ドアの鍵を開けた。暗くてよくは見えないがこの玄関前からは海が見下ろせるようだ。そして部屋の中に入り電気をつけひとまずリビングのソファーに座った。内装はスペインらしく、アンティーク風の照明に大理石のフロアーそして白い塗り壁、ダークブラウンのアンティーク調の重厚な家具で揃えてあった。「いやー ついたね! 君はずっと長時間運転してて凄く疲れたでしょう?」と言うと、「全然大丈夫よ!慣れているから。でも、もう明け方になってしまったわね。取り敢えず寝室は2つあるからゆっくり昼まで寝ていましょう。」そして僕らは別々に寝室に入って寝ることにした。僕の部屋は海が見える側で、ジュリアの部屋は逆側の先ほど車を停めたパティオが見える部屋であった。早速ベッドに入ってまだ空が暗いうちに寝ることにしたが、かすかに海の細波が聞こえた。しかし移動中はほぼ寝ていたのだが何故かまだ疲れていた。ジュリアはなぜ一日中運転しても平気なんだろうか?と不思議に思いながらもすぐに寝てしまったのだった。