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3/21

3:モントルーデート

この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。


 《あらすじ》

1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?


日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。

そしてその異文化の果てには・・・


その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…


モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。


荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。

そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…

翌日もソフィアが「仕事から帰ったら夕食がてらモントルーのカジノに連れて行ってあげる。」ということになり、「5時までには戻ってきてね」と言って仕事に出掛けて行った。スイス国内はすでに日帰りで行けるところは行ってしまったので、「じゃ今日はどうしようかな?」と思いを巡らせていたのだ。


『モントルーのカジノか? ギャンブルには全く興味はないけど、まあソフィアとの2人だけのお食事デートのようなものだし楽しみになってきたな。』そういえば、モントルーはジャズフェスを開催する所でもあり、その先にシヨン城がある。レマン湖に佇むシヨン城はヴィジュアル的にもカメラでおさえたい一心ですでに訪問していたのであった。観光写真通りの小さな古城で入場券を買って城内も見学した。所持金に限りがあるため、よっぽど魅力がある観光先でないと入場料は払わないことにしていたのだが、このシヨン城は教科書的にも有名なところなので内部も一度見てみたかったのだった。当時の家具調度品も展示されており中世を感じることができたが、一番驚いたことは主寝室にあるダブルベッドが現代の子供サイズに近かったことである。なるほどヨーロッパ人と言えども中世の人々はこんなに小さかったのだなと思い本当に驚いた。僕も身長が高くはなく170センチぐらいなのであるが、この時代に行けば高身長になるのであろうと考えると少し嬉しかった。そう姉妹の身長も僕と同じぐらいの170センチぐらいだと思う。全体的にフレンチスイスの人々は、体は大きくなく特に若い女性は細めのイメージだ。そして色白でヨーロッパで流行っているブリーチしたアイスブルーのデニムがよく似合っていた。


「今日はこれからどうしようか?」 まずはレコードでも聴くか!と思い、彼女らのレコードを漁ってみると、ジャズフュージョン系のレコードが沢山出てきたのだ。なんとスラップベースの神様『マーカス・ミラー』もあった。ソフィアに初めて会った時にジャズフュージョン系が好きだと言っており、「音楽の趣味が合うね!」と盛り上がったのを思い出したが、まさかマニアックなマーカス・ミラーのレコードを持っているとは驚きであった。それにチャック・ブラウン&ソウルサーチャーズもあり結構趣味性が高いようだ。それを聴きながら今日のこれからの予定をまとめてみたが・・・


いずれにしても夕方からソフィアと外出するため、たまにはゆっくりと生活しているかの如く時間を過ごすのもいいかなという気分にもなってきたのだ。まずは荷物を整理し、溜まった洗濯物も手洗いして干した。そして昼食はゆっくり散歩しながら定番のジュリアのレストランに行きランチメニューを頼んだ。すでにかなり通っているので、僕が食べられそうなランチメニューは全て制覇していたのだが、その中でもお気に入りになったパスタが入っているクリームシチューのランチをオーダーした。もちろんカフェオレと一緒に。スイスの次はまずはパリに出てその後はイギリスに渡る予定なので、事前リサーチとしてガイドブックを片手に熟読しながらゆっくりと時を過ごした。


レストランを出ると駅の周りを散策してからビュルの旧市街も散策してみた。石畳の小道にフランス風の可愛い家々が並んでおり、その前には可愛い自動車が駐車されている。この街で一番気に入っているまるでポストカードのような風景の1コマである。僕が大好きなフランス車のシトロエン2CVチャールストンやルノー4や5が並んでいる。特に2CVチャールストンはこの小径と雰囲気がとても合っていてエレガントでロマンティックな絵になっていた。さすがフランス語圏と思ったが、よくよく見るとほとんどの車がフランス車であった。やはりラテンの血は同族愛が強いのだろうかとも実感したのだった。


マンションに戻り、小1時間ぐらいソファーで寝てしまったようで、ソフィアがドアを開ける音で目を覚ました。そしてまるで昼寝などしていなかった顔で出迎えると彼女は生き生きとした快活な姿でそこに立っていた。仕事終わりでも疲れた表情はない。「今晩は楽しみねー! ちょっと着替えてくるからね」と言って彼女の部屋に入って行った。僕はリビングでソワソワしながら待っていたのだが、ソフィアは女性なのに驚くほど身支度が早い。膝丈のサーモンピンクのクラッシュサテンドレスに着替えて、今日は珍しく簡単なメイクもして部屋から出てきた。とても雰囲気に合って綺麗だった。見惚れているともう着替えていいよと言われ、僕も彼女と交代で部屋に入り素早く着替えた。そのカジノにはドレスコードはないとは言っていたのだが、彼女がドレス姿だから僕も少しは綺麗めな感じの方がいいのだろうと思い、日本から持ってきた服の中で一番小綺麗に見える薄いグレーブルーのボタンダウンシャツを出して、それに合うライトベージュのチノパンツを合わせた。いつもはデニムだから、これだったら年下で子供に見えがちの東洋人の僕でも少しは大人ぽく綺麗めに見えるだろうと思ったからだ。


今日のソフィアのルックスは凄く綺麗だ。ゴールドのピアスにネックレス、バングルもしている。そしてベージュゴールドのヒールにそのヴィンテージのサーモンピンクドレスがとてもよくコーディネートされていた。ドレスのデザインはベビードール風でアンティークレースが所々に叩かれており、それがソフィアのブロンドヘアーと一体感を持っていた。仕事がヘアドレッサーでファッション大好きっ子だからやはりセンスの良さが滲み出ていた。僕は財布だけ、ソフィアは薄いピンクサテンのポシェットだけを持ってプジョー205で出かけた。


車に乗った時はヨーロッパの夏時間のためまだ明るかったのだが、モントルーに向かう山道を走っているうちに少しずつ夕暮れになっていた。そしてレマン湖付近にきた時には湖畔のライトアップが綺麗に見える程度に夜の帳が降りていた。遠くにはこの前行ったシヨン城がライトアップされて小さく見えている。彼女は見るからにホテルのカジノといった構えのパーキングに駐車しまずはホテルの中のレストランに向かった。


そしてソフィアがリードしてくれてレストランの窓際席に座った。室内は間接照明でクラシックバーのような雰囲気のある空間になっている。やはりここでの会話はフランス語なので僕がリードできるわけもなく、彼女もそれを理解しているため僕は素直に甘えてしまった。通常欧米なら男性が女性をエスコートするのが当然なのだろうが、まあ今回は学生旅行者だししょうがないと割り切って甘えることにしたのだった。フランス語がメインのメニューではあるが英語版もあり、僕はせっかくだから奮発してビールとフィレミニョンステーキをウェルダンで頼み、ソフィアは白ワインと白身魚料理をオーダーした。


もしかしたら、これはついに待ちに待った2人だけのデートなのではないのか!?とはたと気がつき、おまけに今夜の彼女はとびきり美しいので気後れしている自分がいた。


久々に美味しい食事を摂りながら僕はこれまでのスイス旅の話と、これからの旅のプランをソフィアに細かく説明していた。それから、スイスに到着した初日の話題に出てきた「私達姉妹もパリに行く用があるから、行く時だけ一緒に行かない?」という話を具体的に詰め出していた。「3人だったら楽しそうじゃない!一緒にTGVに乗ってパリに行こうよ!」と話はまとまり、今は泊まるホテルの話になっている。 


カルチェラタンのエリアにある朝食付き安ホテルが良さそうなので彼女にもガイドブックを見せてみた。そこの売りはなんと朝はクロワッサンとカフェオレをメイドさんが部屋まで持ってきてくれるとか。彼女らはやはりフランス語圏なのでパリにはよく行っており主にソフィアのヘアドレッサー研修が多いらしい。その時は研修先がホテルを手配してくれるため自分で好きなホテルには泊まれないのだと言う。そのためこういった観光客向けのホテルは初めてのようで珍しがっている。明日ジュリアにも確認し、ホテルに連絡して2部屋押さえてくれるらしいのだ。ガイドブックによるとこの手の安ホテルは当日朝ホテルに行ってフロントで空き部屋を確認し確保するという仕組みのようだ。つまり事前予約は受け付けていないようなことが書いてはあるのだが、まあ同じフランス語を話す者同士なのでなんとかなるのであろうか?それとフランスの後はイギリスに行くのは決まっているのだが、その後はイタリアなのか?スペインまで足を伸ばすか?に迷っていることも話した。


決断の参考意見としてそのことも彼女に聞いてみたのだが・・・なんと研修でロンドンには行ったことはあるが、他のヨーロッパはそれほど行ってはいないようなのだ。その反面日本などの異文化に興味があるため南アフリカにも行ったことがあるらしいのだ。例外的にバカンスではスペイン・コスタデルソルへはよく行くのだが、イタリアには行ったことがないとのことであった。まあ、残念ながらあまり参考意見にはならなかったわけだが、こういう旅行の話をする時のソフィアの表情は楽しそうに輝いている。テーブルキャンドルで照らされたその表情を見ているだけで幸せな気分になれるのだった。彼女もやはり僕と同じように冒険的で未知なことに憧れていることがよく理解できた。


食後はホテルのメインであるカジノに2人で行ってみた。レストランと同じように落とされた照明の下に広いシックなカジノの空間が広がっている。カジノという場所には初めてきたのだが、やはりテレビや映画で観るようなアメリカのカジノと一味違って古い歴史ある空間に品よくまとまっていた。ここは観光客に開かれているため服装にコードはないのだが、それなりの着飾ったスイスいやフランス人なのか?のフランス語がそこかしこに聞こえていた。そんな雰囲気の中「少しやってみる?」とソフィアが言いルーレットの空いている席に座った。僕は彼女の後ろに立って眺めていた。「せっかく来たから数回だけ」と言って3回ぐらいトライしてみた。 もちろん当たらなかったが雰囲気は楽しめたと思う。僕は現金に余裕があまりないことを彼女も知っていたので無理強いはしなかったのが救いだった。なぜなら今夜のディナーはいつもお世話になっているため僕が支払ったのだった。もちろんヨーロッパでは男性だから当たり前の話ではあるのだが・・・


そして僕らはほろ酔い気分でこのホテルを後にした。もちろん帰りの運転もソフィアであるがスイスでは少しの飲酒は気にしないようなのだ。僕は帰り道に今夜は楽しかったので連れてきてくれてありがとうと伝え、また今日のドレスがすごく似合っていてとってもビューティフルだとも伝えた。ソフィアは運転しながらはにかんで微笑みを浮かべてくれて「有難う! 私も久々のデートで楽しかったわよ」と言ってくれた。このディナーデートで僕らは以前より距離が縮まった感じがした。しかし日本ではもっぱら僕が運転するので、女性が運転する車の助手席に座るのは何度乗っても不思議と良い気分になった。この気分って、もしかしたら奉仕してもらっているというような言わばメイドのサービス的な優越感によるものなのか?とぼんやりと空想の中に浸っているとマンションについてしまった。


10時近くになっていたので、朝が早いジュリアはすでに自分の部屋に戻っており物音も聞こえてこなかった。まず静かに僕がシャワーを浴びて次はソフィアが浴びた。スイスといえども夏なので微妙に汗をかいていたのだ。そしてミネラルウォーターをもらい僕も寝室に入って照明を消した。いつの間にか雷が激しくなり、暗い部屋の中の格子窓の外に稲妻と雷鳴がこだましていた。部屋を暗くして稲妻を鑑賞するのも乙なものだなと思いながらいつの間にか眠りに落ちていた。


ベッドが若干沈みブランケットの中で僕の体に触れる温もりを感じた。驚いて目を開けてみると、ソフィアが僕の隣に裸で体を寄せてきたのである。驚いて僕が話そうすると、人差し指を口に持っていき、『シー』という仕草をした。ジュリアに聞かれたくないんだと即座に理解した。そこには美しくやわらかい裸体が僕の横に横たわっていた。匂いも石鹸のような心地よい匂いがしていた。部屋は暗いため、時折外で光る稲妻の光に彼女の体の輪郭が映し出されるだけであり、逆に余計に神経が研ぎ澄まされて肌の感触を感じながら彼女を感じた。顔が近付いてきて、彼女の唇が僕の唇に触れてお互い貪るようにキスをした。そして彼女の体が覆い被さり柔らかい乳房が乗ってきた。暖かくて柔らかな何とも幸せな感覚だった。彼女は無言のまま覆い被さり、僕は為されるがままに放心状態となっていった。感触はまさに天国にいるような快感に心臓の鼓動が全身を覆った。そして彼女は僕の横に横たわりそのまま2人で寝てしまったようだ。


翌朝目を覚ますとすでに彼女はいなくなっていた。『もしかしたらあれは雷鳴の中の夢だったのだろうか』とも思わせる感覚が残った。もし仮に夢であったとしても幸せな朝を迎えることができた。すでに双子は起きて朝食の準備をしている音が聞こえている。僕も着替えて部屋を出たが、ソフィアになんて声をかけたらいいのか?まるで対処法が浮かばなかったため向こうの出方をみることにした。


「おはよう!」と2人に声をかけた。ソフィアはまるで何事もなかったかのように「おはよう!よく眠れた?」と言って微笑んだ。『そうだ、今日はスイス最終日になるのだ。明日は3人でパリ。』いつものように朝食が終わり、2人は仕事に出かけた。昨晩の余韻が残る中、僕は半ば放心状態でボーッと今日どうしたものか?と少し悩んでいたのだが、総集編として一度行って良かったこのエリアの州都でもあるフリブールにおさらいがてらに行くことに決めた。何故か無性に目に焼き付けておきたいと思ったのだった。


観光ガイド的には、サリーヌ河畔の高台にツェーリンゲン公が築いた中世都市であり美しい古都の面影を今にとどめているという。上下に分かれた旧市街は、石畳の小道や屋根付木造橋、彫像がある泉、市庁舎など13〜16世紀の建物や町並がそのまま残されておりまるでタイムスリップしたような雰囲気なのだ。また荘厳な大聖堂や修道院、教会、礼拝堂などでは貴重な宗教芸術を見ることもできるということで、まさにこの地域のダイジェスト版のように凝縮された綺麗な町なのだ。まあ、わかりやすく表現すると洒落たフランス文化と小綺麗なスイスの景観がうまくミックスした古都である。眼鏡橋がかかる川の両岸に古い中世風の街が広がり緑の木々と同居しているため歩いていても気持ちが良い街並みとなっている。スイスの起伏がある土地柄なのか、ヨーロッパでは起伏がある場所に街を作るのか? わざわざ美観を創造するために上手く斜面を利用して家々を造り立体的に町を演出しているところが、我々日本人には真似ができない価値観と造型力だと思った。日本では山や森が深いためなのか丘陵地にわざわざ家を建てて街を造っていくという概念はないのだろう。


旧市街はほぼ全て中世風集合住宅であり、素材・カラー・意匠全てがトータルコーディネートされており、オレンジブラウンの屋根瓦にアイボリーカラーの壁面そして同じ大きさの面格子付きの長方形の窓が規則的に並んでいる。もちろん道は綺麗に並んだ石畳である。本当にコンパクトにまとまっていて美しい。そして自然の中に溶け込んだ中世の街並みの中で暮らす人々がいる。この土地柄でも不思議と田舎臭さや古臭さは感じず、うまく色々なテイストが同居しながら全てが小綺麗にまとまっていた。最初に訪れた場所がスイスであって良かったと思った。何故なら僕が潜在的に持っているヨーロッパのイメージそのものであったからだ。


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