16:エー・アイ国家日本
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
艇に戻りまたボディアーマーを着用するため、残念ながらしばらくジュリアのドレス姿は見納めとなってしまった。そして僕らの記念すべき思い出の地シンガポールに別れを告げホバージェットのエンジンをスタートさせた。ここからは東シナ海、フィリピン海を抜けて太平洋側から一気に東京湾に入るルートだ。
陽が昇りすでに気温は50度以上に上昇していた。今日も海上は穏やかで綺麗なブルーに光っている。そしてここからは海上航行のためスピードをマックスに保ち、またレーダーに敵の影もないため予定よりも早く東京湾ゲートに着くプランに上書きされた。僕らは艇内で、本当にカップルであるように、キスをしたり、ジャレたり、トランプで遊んだりと、まるで夢のような甘い時間が過ぎていった。これで東京に着いたら2人だけの時間と空間が一旦終わるのかと思うと寂しくて、またジュリアの気持ちも変わるのではないかという不安な気持ちもよぎった。ついにスイスを出てから7日目の夕方に日本が見えてきたのだ。道すがら沿岸部の平野は海に沈んでいることが確認できた。なぜなら、高層ビルが水没し海の中から突き出ている光景を目の前にしているからだ。そして僕らはかつての東京湾の中に進んでいき、タンカーや大小の船舶が繋がれた桟橋やホバークラフトが入るゲートが見えてきた。
「やっとついたわねー これで今回の旅はゴールインよ! 無事に来られて本当に良かったわ。ヒデも相当疲れたでしょ?お疲れ様でした!!」と彼女が僕の頭を撫でながら言ってくれた。僕は、「敵と戦った時は死ぬかと思ったけど、君と一緒にいられて凄く幸せで楽しかったよ。」とこの関係が続くように祈りながら笑顔で答えたのだった。「これから上陸してソフィアがいるキャピタルに向かうんだけど、日本はあまり大気汚染が深刻じゃないから、普段着に着替えて荷物をまとめましょう。もちろんガリオンはここで留守番だし、私達も武器は持ち込めないの。」
かなり東京湾は暑そうなのだが、僕はひとまずまたデニムとピンクのポロシャツに着替えた。ジュリアはスペインに向かった時と同じブラックシャツにブラックデニムで、ミリタリーリュックに諸々と詰め込んでいた。「しかし 武器がなにもないと何かあったとき不安よね? でも日本はヒデの世界でもそうだと思うけど、細かく検査されるし、高性能だからすぐ引っかかるちゃうの。だけど私は仕事柄少し不安だからこのオモチャは持っていくのよ! 今まで使ったことはないけどね。」と木製のスリングショットを見せてくれた。それはいわゆる僕らが子供のころに遊んだパチンコだった。「へぇー そんなのが役に立つの?」「あらあら知らないの? パチンコ玉が幾つかあるのと小石でもあれば、意外と人が死んじゃうぐらいの威力があるのよ。当てるのは難しいんだけどね。」
と言うことで、ぼくらの武器はパチンコだけということになり、イミグレでボディチェックや荷物検査を受けてこの港から出ているリニアモーターカーに乗った。頻繁に出ているようだが、僕らがのったものは丁度バスぐらいの大きさの特急車両で1時間もかからず越後湯沢に着くらしい。初めて乗るリニアモータカーはもの凄いスピードで滑っていった。水没したエリアは低地で平野だが、残った土地は山がちなため、谷間に沿って蛇行するとトップスピードか稼げないため、殆ど地下トンネルを直線で走って行った。たまに垣間見える外の風景は山また山でスペインとは違った緑のジャングルが夕焼けの中に確認できた。しかし日本がこんなに変わるなんて・・・言葉もなかった。主に気候変動による温暖化や津波の被害で沿岸エリアの平野が水没してしまった光景なのだ。まるで縄文時代の日本の国土に戻ってしまったかのようだ。そして豪雪地帯のはずの新潟の湯沢が適温となり雪もなくなった。そもそも全国の地方都市は急激な人口減少と生活インフラの老朽化により空き家が問題となり、無数にある空き家も経年劣化により自然崩壊したものや、危険なため取り壊しになったものも多く、建物はほとんどなくなり土地は荒廃してしまっていた。早くも長い関越トンネルに入ったらしい。そしてトンネルを抜けると煌々と光る高層都市が見えてきた。
『なるほど、これが今や日本の首都なのか。』湯沢が首都と初めて聞いた時は耳を疑ったのだが、確かにリゾート地で標高が高く高層ビルが建築できる平地もあり、広域で食料が作れるような自然に囲まれた環境、そして自然災害もなく他国からの襲撃にも備えて沿岸部から距離があるという町は希少だと思った。おまけに僕らが乗っているように、外国からの限定的な物資が届く東京湾からこのリニアモーターカーで1時間でアプローチできるのは素晴らしい。
ジュリアはこの日本にはきたことがあるのだろうか? 「ジュリア、君は僕の世界の日本にはきたことがないけど、ここにはきたことがあるの?」と聞いた。「うーん、もちろんあるわよ。この世界の日本はスイスみたいに一応中立を保っているから、私達みたいな国境を越えた組織の人間にはハブになっている場所なの。」「そもそも日本人はコンピューターが好きな国民性があったから、倫理面でもさほど問題にならずに AI化がどんどん進んでいったの。そして、北の権威主義国家の脅威に晒され、アメリカの弱体化による同盟国としての援護もなくなってきたから、そもそも腐っていた政治が実力者によって一新されたの。サムライの復活を唱えた軍団が史上初の革命を起こして政治をコントロールすることになったのよ。すごいでしょ! で、この新しいサムライ達は、私情や私腹に囚われず本当に聖人君子のように政治を行なっていったの。すでにアメリカからの影響力は少なくなっていたから金を拠り所としたジュー○ッシュの影響力も弱くなり、ドメスティックな経済を再建するために政治・官僚・企業組織など全て刷新できて国家を1つの公共的な大企業のような体制を作り上げたの。その中心になった現代のサムライは7人いたから、その人達は『7人のサムライ』と言われているのよ。ヒデの世界にも映画があるんでしょ? これって面白い話よね〜」「へー この世界の日本はすごいね! 僕の世界の日本も見習ってほしいわ! 多分日本人としての理想と情熱を持った人材が途絶えなかったのと、この戦争と環境の変化で起こったカオスをうまく利用できたんだろうね! すごい!すごい!」と感動した。「そうねー 私とソフィアは日本のような理想国家を世界にどんどん作り上げていく世界機構のエージェントなの。だから日本のトップとも繋がっていて、ここではVIP的な扱いだから全てフリーサービスなの。その代わりミッションを受けたり情報も全て共有しているけどね。」「トップと交渉するのはソフィアの仕事で・・・私はもっぱら護衛サポートやバトル専門なんだけどね、まあ それはそれで気ままで結構気に入ってるわ。今回もヒデの護衛で始まった仕事だけど、これがきっかけであなたともカップルになれたしね!」と笑顔で頬にキスしてくれた。本当にジュリアは僕と実際カップルになってから僕に接する態度が変わった。こんなにも気さくで親しくて、スキンシップも増えて、第一印象のクールでサバサバした人を寄せ付けない感じは今では全く無くなっていた。
リニアモーターカーは地下ホームに到着した。まずはソフィアに会うためにガバメントビルの最上階に行く予定になっている。AIホログラムの女性の案内に従ってエレベーターコンコースに着いた。乗るとガラス張りで湯沢の風景が見渡せた。三国連山の背景が微かに見えてはいるが、見渡す限りニョキニョキと生えたような高層ビルがまるで香港のように建っていた。そして2人乗りのドローンが空中を行き交っている。結構なスピードでエレベーターは上昇して行ったので耳がキーンとなり一気に最上階に着いた。ドアが開くと日本人らしくないエスピーの男性が数人立っていた。ジュリアだとわかると手を挙げて「お待ちしておりました!」と挨拶し「属代表とソフィアさんは第1会議室にてお待ちしております。」と言って僕らを案内した。
グレーのカーペットが敷かれ壁面がダークウッドの通路を通り会議室に入った。この部屋も全面がガラス張りのため湯沢の夜景が綺麗に見えている。男性が歩み寄って来て、「ヒデさんですね! はるばる異世界から我々の世界の日本にようこそお越し頂きました。道中大変だったでしょう? この国のマネージメントダイレクターを務めている属と申します。ソフィアさんよりヒデさんがとても貴重な能力をお持ちだと聞きまして、是非この国、日本の将来に役立てて頂きたいとお願いしお越しいただくことになりました。」と挨拶をした。彼はいわゆる企業のプレジデントの国家版の役職にいるらしく40代ぐらいだろうか。もう1人はソフィアだった。なんとブラックスーツを着ているのでいつもとは雰囲気が全く違っていた。「ヒデ! 久しぶり、今回は本当に私のわがままを聞いてくれてありがとう!本当に本当に感謝してるわ。ジュリアからはすでに色々と聞いてくれたかと思うけど、これが私達の本当の仕事なの。」と言ってハグをした。そしてソフィアとジュリアも久々の再会という感じで強くハグをした。そしてジュリアに「あなた、ヒデと親しくなっちゃったようね!2人の雰囲気でわかるわよ。まあしょうがないわね、2人での時間が長かったからね。そもそも私がお願いしたことだし…やられちゃったわね・・・私も狙っていたんだけどね。」と言ってとても残念そうに苦笑いしている。ジュリアの方はそうねというジャスチャーと一緒にごめんねという雰囲気が伝わる表情を向けた。そして属代表が「実はヒデくんの遺伝子はこの国の将来に絶対必要な領域を形成するのに必要なんだ。今日本はAIやロボットで様々な業務が運営されていて、人間の能力が必要な分野はその機械をコントロールするマネージメント能力になっているんだよ。つまりイレギュラーが起こった未知の分野でメリット・デメリットを天秤にかけ深く考察し、その時に最善だと思う施策を実行に移す能力なんだ。ただそれだけだと将来を見通せない。現状での最善を考えコントルールすることに始終してしまう・・・我々人類ができてAIができないことは、実はヴィジョナリーなんだということがわかったんだ。将来を想像し、我々が行く道を切り開く船頭のような能力が必要とされているんだ。AIは今あることには効率を計算しベストな答えを導き出すが、未知の世界にはほぼ役に立たないんだよ。どうしても過去のデータ検証と確率の計算になってしまい可能性がある芽を潰してしまう・・・未知の事柄は確立ではなく、夢の実現に向けての情熱の熱量だと思うんだよ。」と代表が熱く語った。
「よくわかります。でも・・・僕がこの日本で役に立つという保証はないんじゃないですか? 一体どこからそれが?」すると属氏が、「実は誠に申し訳ないとは思ったのだが、僕らは君の遺伝子を持っていて、すでにそれを研究し、君の持つ素晴らしい能力は分析済みなんだ。君は実は何億分の1の確率の予知能力に長けた遺伝子を持っているんだよ。それはソフィアから君の遺伝子をもらって実験した結果わかったんだ。」僕はいつの間に僕の遺伝子を取られたんだろう?と狐に摘まれたような表情になっていたのだと思う。するとソフィアが「ヒデ、ごめん!あなたが1年先のファッションの流行りがよくわかると話していたの覚えてる?それでピンときて、ヒデと一緒に寝た時に戴いたものなの。」と属代表とソフィアの説明があからさまであったため顔を赤らめた。そうか!あの時だったのか? じゃあれはやっぱり夢じゃなかったんだ! 残念! 夢でなかったとしたらソフィアは僕に好意を持ってくれて、その成り行きで起こったことなのかなと微かに思っていたのであるが、それが奇しくも崩壊してしまったような気がした。「あーあの時だったんだね・・・」と僕は残念そうに答えた。「君の遺伝子を研究分析させてもらって、その遺伝子構造に予知能力があることがわかったんだ。これは本当に稀であり素晴らしい能力になるんだよ。この国を今のところうまくコントロールしてはいるけれど、これからさらにAIが発達していく場合、AIを凌駕する人類の能力が必要になってきているが、なかなか予知という点では準備ができていなかったのだよ。まさに人類であるからこそできることではあるんだけどね」 「ただその遺伝子だけではダメでその遺伝子を司る器となる人間の脳の動きも同時に必要になることも研究の結果わかったんだよ。」 そしてソフィアが付け加えた。「それで私はここを離れられなかったから、ジュリアにお願いしてヒデをここまで連れてきてもらったのよ。」
さらに代表が付け加えた。「それとこの国は実は遺伝子操作を行なって必要な人間だけを産んでいるのと、それによって人口を増やさずコントロールしているんだよ。この件は倫理的に色々と問題が生じるという懸念もあったのだけれども、とにかく人口が3000万人以下に減少してきてしまい、1世代ごとに半数に減少してきていた絶滅の脅威と、その人口構造の中でAIやロボットを実働用に導入してきていたから、人間が必要な分野が限られてきてしまっていたんだ。それで私達はこの国で必要な能力を持つ人間しか産まないことに国民の総意で決定したんだ。近い将来にASIと言われる人口超知能のAIにこの国の基幹システムをコントロールさせていくため、そのAIをコントロールできる知能を持った人間が必要不可欠になったんだ。現状は各組織のトップに人間が居て、汎用人工知能レベルのAIによるデータ分析と施策提案の下にその人間が決定し仕事をこなして行っているんだよ。人間同士の結婚に置いても、AIが導き出す確率の下にアプリを通してお見合いがされ、男女双方の合意があっての結婚となるんだが、またAIが双方の遺伝子も分析し、そのままの場合もあるが、操作が必要な場合は操作も加えて、国家が必要な人材を産んでいくという流れに現在落ち着いている状況なんだ。ここ首都の湯沢には約2千万人が居て、その内5百万人ぐらいは交代で国家機関である全国各種主要施設を3年周期で巡回している。残りの1500万人ぐらいが関西圏、その残りが北海道という都市国家連合のような様相となっているんだ。
当初心配していた人間性の点では、今のところAIが暴走していないのと、AIのアドバイスを国民が素直に受け入れてくれているので特に主だった問題は発生していないし、そして夫婦間の仲もAIの分析データを受け入れてくれているので、確実性が高いお見合いというイメージになっているのかなと思っている。そして君の遺伝子はなかなか発見できなくAIも苦手分野であるこれからの能力としてのプレコグニションつまり予知能力を有しているので物凄く希少なんだよ。」
なるほど それで今に至る経緯がやっとわかったような気がした。「わかりました。でも僕の遺伝子がこの世界で役に立つのであれば、それを利用してもらってもいいけれど、一つ条件があります。僕もこの世界を理解していきたいので、この世界に滞在している間はソフィア達のようにストレスなく居られるようにしてもらえないでしょうか?」と少し学生のようなセコい要求を突きつけてみた。すると属代表は、「もちろんです! 君は日本の救世主になるわけですからお安いご用ですよ! それと異世界の日本代表としてこの世界の国づくりに参画してもらえると逆に有難いとも思っていますよ。そう、それと彼女達と同じようにあなたが自由に使える部屋もすでにご用意していますよ。」との返答があった。僕はそれで納得することにした。なぜならこの世界に結構興味が出てきたからだ。なんと驚くことに少し滞在してみて気に入れば住んでしまってもいいのかもと思い始めていたのだ。
「じゃー早速だけど・・・物凄く疲れているとは思うんだけど、このビルの中にラボがあるから、そこでヒデの脳波や思考時のパルスなどを取らせてもらいたいの。ごめんね! この世界の日本を助けると思って協力してもらえればありがたいわ!」とソフィアが熱心にお願いしてきた。「せっかくここまで来たんだから、この世界の日本に役立てるわけでしょ? わかったよ。協力するよ。」と言いラボに移動した。
シートに座り色々な計器やスクリーンがある室内で僕はリクライニングされたシートに座った。ヘッドギアのような脳波測定器を被り、様々な場面がスクリーンに映し出されるたびに端末のボタンを押して約30分が過ぎた。「これでもうデータは大丈夫みたい。ヒデ!本当にありがとう!」 やっとこの一件から解放されることになったのだと思った。
しかし疲れがどっと押し寄せてきた。僕らは隣のタワーマンションにある居住区間に移動した。ソフィアもジュリアもこのタワマンに部屋があるらしい。僕もフロアーは違うがこのマンションに部屋をもらうことになったようだ。「ヒデ、本当にありがとう! これが部屋のマスターカードよ」と言ってソフィアがカードを渡してくれた。私達の部屋は29階になるの、緊急時に30階屋上からドローンがすぐ飛べるからなんだけど、ヒデは28階の部屋になるから、何かあったら私達の部屋に連絡してね!」と言って2人の番号が書いてあるカードももらった。「あっ でも私達夕食まだだったわね? すっかり忘れてたわ! 折角だからこのタワーの最上階30階のスカイラウンジレストランでお食事しましょうよ!」 ということになり一旦別れた。
なんとこの世界では、タワーマンションの28階の部屋が僕のものとなったのだ。未来都市のような夜景がガラス越しに広がっている。ホテルのスイートルームのような間取りで、大きな1ルームの中に30畳ぐらいのリビング・ダイニングがある。右手のドアを開けると広いベッドルームの中にキングサイズベッドが置かれ、奥はウォーキングクローゼットになっておりまるでホテルのスウィートのようであった。そしてバスルームからも湯沢の夜景が一望できた。暖かみのある間接照明でダークウッドのインテリアにスレートグレーのカーペットが敷かれていた。壁はグレーイッシュアイボリーでシルバーの金属で無骨にデザインされたシャンデリアがリビングの上に控え目に光っている。ニッケルとダークウッドのマッチングにセンスの良さを感じるマニッシュな雰囲気の内装であった。この空間は学生の僕の身分としては元世界では絶対不可能な居住空間だと思いなぜかいきなり嬉しさが込み上げてきた。まずは10人ぐらい座れそうな広いコの字型のソファに唯一の荷物であるリュックを置いた。そのアンバランスな光景を見て不思議に思った。リュックが日本を出る前の僕で、ソファーが今の僕なのかと思い、『人ってちょっとした人生の変化でこうも変わるのかな!?』と思ったのだった。




