15:海上都市シンガポール
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
そして一夜が明けてまた今日の海も引き続き平和だ。やはりこの艇は海上の方が快適である。今更思うのだが、このホバージェットは本当に素晴らしい! 陸上・海上どこにでも行けて、中では小さいコンテナハウスのように生活ができるからだ。一応戦闘仕様なので、攻撃守備に関してはミニマムで十分な装備も整っているしちょっとした荷物も運べる。これをモバイルホームにしてもいいかなとも思えた。しかしやはり彼女がいうようにシャワーがない。ホバージェットで世界を放浪してシンガポールのような歓楽都市で息抜きしながら生きていくというのも凄く楽しそうに思えた。カーゴスペースには彼女の私物が沢山あるようだし、もしかしたらこれがこの世界でのジュリアの家なのかもしれないとも思えた。
そして今も何事もなく海上を航行している。実は見渡す限り海の状態に飽きてはいたのだが、シンガポールでの彼女との時間を想像してじっと我慢で瞑想に耽るような気持ちで過ごしていた。なるほど!ジュリアは多分仕事柄こんな時間が多いから瞑想に耽るということを好むようになったのかもしれないとはたと気がついた。そういえば、ヨーロッパ行きのスイス航空便は12時間かかったのだが、僕はなるたけ動きを遅くのんびりとすることによって時間をたっぷりと使い有意義に過ごした。多分そんな心境に似ているのだろう。そして外の大海原は少し熱帯の海のように薄い綺麗なブルーになってきていた。海の色が違うだけでも人間不思議と気持ちが明るくなる。沿岸を航行しているため遠くに陸地が絶えず見えているのであるが、所々に島々も見え風景が熱帯アジアな感じになっていた。僕らの世界でいうポリネシアの雰囲気に近いものがある。
「この辺りって僕らの世界の南国リゾートぽくていいねー!」 すると「そう思う?私もこの雰囲気が大好きなの! こんな場所の綺麗なビーチハウスに住んでみたいとも思うわ。まあここではそれは無理だけどね。海も汚染されているから。やっぱりヒデの世界は自然が素晴らしいわ。あの自然は何があっても守って欲しいと思ってるの。核戦争と地球温暖化は絶対に避けなければあなたの世界の宝物が失われてしまうわ。この世界にいるとそれが実感できるでしょ? 本当は私 ヒデの世界にずっと住みたいとも思うんだけど・・・この世界では、政府のような組織に所属しているからその仕事をこなしていれば生活は保証されているの。でもヒデの世界ではお金を稼がないと生活ができないから、ソフィアと一緒に部屋を借りて細々と住んでいるのよ。今のところ残念ながらあなたの世界では私の能力は必要とされていないから・・・」
「そうか なるほどね! じゃ、もしこの僕たちのカップルがうまくいったら僕の世界で住むというのもありなんだね?」と真面目な顔で問い掛けてみた。すると彼女の顔はそれを肯定して笑顔になったように見えた。「じゃ僕が稼いで、ジュリアは好きなことをすればいいんじゃない? 例えばマーシャルアートやヨガの道場を開くとか?」
「へーそれ楽しそうね! やりましょうよ!」というような思ってもいない会話の流れになっていった。僕はそれを絶対に実現させたいと心から思った。「となると、大学を卒業してから何をするかだねー 実はまだ決まっていないんだ。そもそもジュリアはどこに住みたいの?」「そうねー 私自然が好きだからスイスも好きだけど、どちらかというと暖かいところの方の雰囲気が好きかな? 泳ぎたいとかじゃないんだけど、綺麗な海が見えるところが理想かな?だから国はどこでもいいわ。そうそうあのミハスコスタのアパートなんかは一つの理想ね。でももっとトロピカルな雰囲気のところもいいかも。」 「そうだよねー あの場所とあのアパートは最高だったね! もっとトロピカルねー ただそんな場所で、僕は何をやれば稼げるんだろうか?」外国に住むのは僕の小さい頃からの夢だったんだけど・・・卒業してすぐに仕事がゲットできるとは思えないし。「まずは日本じゃだめ?」、「日本でもいいわよ。でも海沿いがいいのかな。日本は行ったことがないからよくわからないんだけど、海沿いは綺麗なの?」「そうだね。場所によるかな。沖縄といって日本の南端に熱帯の島があるんだけど、それこそトロピカルだよ! だけど、そこで仕事を探すのはちょっと難しいかもしれないけどね。沖縄の離島で石垣島っていうのがあって、その島とか最高だと思うよ。カビラ湾というマンタがいる海がすっごく綺麗なんだよね。」
「わかった! じゃこのミッションが無事終わったら、どこか探してみましょうか?」と言って彼女はニッコリ笑った。こんな笑顔は初めて見たような気がした。
クールな外見から出る笑顔はとてもチャーミングだった。彼女のルックスの特徴は、なんと言っても整った小さい顔を覆う無造作なショートボブカットだ。男性並みに全くヘアスタイルに気を遣っていないように見えるが、そのボブが逆に彼女を引き立てていた。厳密にいうとプラチナブロンドの髪が白い肌とベストマッチして、まるで妖精のような雰囲気を醸し出している。これで耳が尖っていればまさにエルフだ。そしてあまり大きくない胸に筋肉質ではあるがフィットな体格で、僕的には顔より太ももが少し太いぐらいのバランスがとてもセクシーに見えるのでベストバランスだと思う。しかもそのバランスで170センチ未満の身長ながら8頭身の小顔なのだ。これは日本女性ではまずあり得ないプロポーションなのだろう。西洋人でもコンパクトな身長での実現は難しいと思う。どうしても長身になってしまうからだ。例えていうならばオタクが好きなフィギュアのお人形のような体型をしている。そんな妖精のような女性が実は物凄く強い! これが僕的には萌えるのである。もしかしたら変態か?とも思うのだが、嗜好は変えられないし逆にそんなリアルな女性はほぼ皆無だとも思える。そしてその無造作なヘアスタイルに今彼女が着用しているブラックアーマーが物凄く似合っているのだ。これで愛用のロングソードを持つとまさに20世紀のジャンヌ・ダルクなのだ。
そんな甘美な瞑想に耽っていると、空はピンクに海はブルーに光りピンクからブルーへの絶妙なグラデーションが浮かび上がって美しい日没となってきていた。そろそろシンポールが近づいてきている。煌々と輝く高層ビル、海から突き出ているシンガポールタワーが見えてきた。そして海からの侵入路を示すガイドライトのヴイが点滅し我々を導いている。ジュリアはタワーの管制塔にアクセスし認識番号と彼女の認識コードをインプットした。すると我々の位置が認識され、赤く点滅していた誘導灯が青に変わった。
どうやら誘導灯を辿っていけば格納庫に着くらしい。シンガポールタワーに近づきほぼ下に着けたところで見上げるとタワーの先端が雲に隠れていた。あの距離から見えていたのだから相当な高さの建築物なのであろう。まさに歴史に出てくる海上のバベルの塔のような印象を受けた。そしてタワーは海の暗闇の中で色とりどりに幻想的に輝いていた。そんな光が写し込まれているコライドスコープのような海面を徐行し進んでいくとガイドランプの先にゲートが見えてきた。「やっと着いたわ!これで無事到着ね! いつものゲートだからよかったわ。」と彼女はここにはたびたびきているようであった。
海面からスロープに上がり艇を停めた。ゲート内は個別のガレージになっており入場した時点でライトが点きガレージ内の設備が確認できた。艇のリアゲートを開けて、まずジュリアが降り僕も後に続いた。燃料を補給し充電池も充電している間に僕らはまた艇に戻り、熱帯の気温に合う普通の夏服に着替えることにした。ここに滞在している間に僕らのアーマーをクリーニングするのも1つの目的だからだ。クリーニングの設備はガレージ内に装備されており、その中にアーマースーツを掛ければ出発するまでにクリーニングされているのだという。とにかく僕らのような冒険者にとっては有り難く行き届いたサービスである。
「久々に普通の服は気持ちいいよねー」と言いながら、彼女の着替えを妨げないように外に出てリュックに入っているカーゴショーツとブラックのポケ付きヘビーウェイトTシャツに着替えた。ジュリアはカーゴルームにある彼女のワードローブから服を選んで、なんとブラックラメジョーゼットのホルターネックワンピースに着替えて出てきた。小ぶりなシルバーのショルダーバッグを首から斜めにかけてシューズはヒールが低いワンストラップがあるシルバーグリッターのパンプスであった。その瞬間電気ショックが僕の体を駆け巡った。『やばい! まるでフィギュアだ』と思った。ジュリアはいつもパンツ姿なのでそれには慣れていたのだが、初めてのワンピース姿を見てしまったのだ。首から肩へかけてのホルターのラインとウェストからヒップにかけて広がるAラインのフレア具合が絶妙に合っていてノックアウト状態になってしまった。レングスは膝上で、薄く黒いガーターストッキングも履いていた。ここは歓楽街なので、ジュリアもそれに合わせてみたのか? 僕とのデートだからもしかしたら・・・これが彼女のデート仕様なのか? いずれにしても、心臓の鼓動が高鳴り思わず唾を飲み込んだ。
これから中に入るのであるが、ボディーチェックを受けるため武器関連は持っていけないそうだ。もちろん彼女の宝物のロングソードも該当するので残していきガリオンがまたもや留守番担当となった。
「そのホルタードレス本当に似合うね! すっごく綺麗だよ! ドレス姿は初めて見るからなんか緊張しちゃうな。そうそう、今からカップルなんだよね? 本当に僕でいいの?」「そうよ!勿論よ。よろしくね! 私を男達から守ってね!」と皮肉ぽくニッコリと笑ってからかわれた。彼女が暗証番号を入れて、僕が金属の無骨な重いドアを開けてると不夜城の幻想的な空間が広がった。僕らはまるでカップルのように手を繋ぎドキドキしながらその中に吸い込まれて行った。
さすが不夜城! 世界中の人種でごった返してまさにお祭り騒ぎの雰囲気だ。間接照明の空間にイルミネーションがそこかしこにまるでクリスマスのように輝いており気分を盛り上げていた。『ここは、どこかで感じたことがある雰囲気だ。うーん どこだろう? 』湿度が高くて少しむーっとしたこの空気 そう日本の夏祭りを思い出すような空気感であった。装飾も良く見てみるとアジアンな感じでもあり金襴緞子という表現がぴったりの空間にもなっている。パブやバー、ディスコやクラブ・カラオケなどの世界のナイトライフを満喫できるメインストリートがある。やはり色々な人種の若い派手目な女性が多くそれを目当てに男どもが周りにたむろして陽気にはしゃいでいる光景が広がっていた。僕らはまずホテルフロントに行きチェックインした。部屋は海底へと伸びているエリアにあり、海中が見えるエレベーターで地下20階まで降りていった。地下部分は円形の建物になっているため金色の廊下がラウンドして赤いカーペットが敷かれている、まるで竜宮城というような演出である。僕らは232号室を探して部屋に入った。
室内はゴシック教会の中にいるような石造りのインテリアでステンドグラスが映し出されている。天蓋があるキングサイズベッドが中央にあり、壁面に3人掛けソファーが置いてあった。部屋の照明はシャンデリアとウォールランプだけで照度を落とした間接照明になっている独特な空間であり、まるで中世ヨーロッパにでもタイムスリップしたかのような錯覚に陥った。
「これでやっとバスタブに浸かれるわね! ヒデも一緒に入る?」とまたもやジュリアに誘われ意表を突かれてドキッとした。「えっ カップルになったばかりだから・・・まだ少し恥ずかしいかな…まずジュリアがゆっくり入りなよ。」ととっさに答えてしまったので、チャンスを逃した気持ちにもなりひどく後悔した。
「有難う!じゃ先に入るわね。ゆっくりくつろいでいてね!」と笑顔で言ってバスルームに入って行った。僕はソファーに横になり部屋を眺めていた。『ということは・・・またベッドが1つとソファーだ・・・これは僕がソファーで寝るということなのか?それとも今晩はカップルだから2人で1つのベッドに寝るということなのか・・・』とまたしても考えた。あの砂漠の部屋でも取り敢えず一緒に寝たのだから、まあカップルとなった今はやはり一緒のベッドだろうと思った。がしかし成り行きに任せようと焦らないことに決めた。僕もジュリアの後にバスに入り2人ともいい匂いでスッキリとした気分になれた。
もうすでに夕食の時間になっていたため、地上に戻り雰囲気のいいレストランを探しているところだ。「何食べたい? と言ってもヒデはこの世界の人じゃないから良くわからないか? 私がここにきた時に良く行くところがあるんだけどそこでもいい?」「いいけど、魚はダメだよ! イカやエビは食べられるけど魚類はダメだからね。あと肉類の内臓もダメだね。」「大丈夫! わかっているわよ! この世界はほとんどがベジミートだから。じゃあそこに行くわね。」と言って僕の手を引っ張って先に立って歩いた。
なるほどここは僕らの世界でいうとポリネシアンな雰囲気のレストランで暗い室内には観葉植物が生い茂っているように見える。プリミティブなデザインの木製のテーブルセットが20席以上とカウンター席があり、僕らはテーブル席に着いた。テーブルにはアジアンなランタンが真ん中に置いてありテーブルの中心だけが明るい仕掛けである。珍しくBGMもポリネシアの民族音楽のようなものが流れていた。
「へー 雰囲気いいね! なんかゆっくりできそう。ここにはよく来るの?」
「そうね。こことあまり時間がない時はヒデの世界でいうデリみたいなカフェがあるからそこに行くかどっちかね。」ランタンの光でメニューを照らしながら、僕はガモンステーキのようなものがあったので、それと久々にグリーンサラダと赤ワインを頼んだ。ジュリアはローストチキンとやはりグリーンサラダに白ワインを頼んだ。久々にワインで乾杯だ! 僕は赤ワインの渋みが好きで主にメルローやカルメネールが好物であるが、ここのワインも種類はよくわからないが風合が良いので彼女と一緒にもう一杯頼んだ。この不夜城にいる間は僕らはカップルだと思うと緊張のあまり胸がドキドキと高鳴っていた。しかし、勇気を振り絞って「ねえ、僕らはカップルなんだから食事の後はどうするの?」とわざとらしくお姉さんに尋ねてみると、「そうねー食べたら 取り敢えずバーにカクテルでも呑みに行きましょうか? 時間はたっぷりあるからね。」と席をたった。久々のちゃんとした美味しい食事のため僕らはあっという間に平らげてしまっていたのだ。
「美味しかったわね! じゃ次に行きましょうか?」「うん 美味しかったね! 行こう!行こう!」
そしてレストランを出て、少し先にあるバーに入った。ここの雰囲気はあのレストランとは全く違い、無機質な直線で構成された金属質なモノトーンな空間であった。またこのクールな雰囲気にジュリアのクールな外見が溶け込んでおり尚更イケてる女性となっていた。これじゃ男性に絡まれるのは当たり前でしょー!と思った。「しかし・・・君はこのバーにもすごく似合ってるよ! これじゃ誰でも声をかけるでしょ! 僕だってそうするよ。」と、「あら、そう? 私もここの雰囲気がとても気に入っているの。でもあそこに見たことがある男がいるのよねー。」と目で指した。「もしあいつがこっちにきたら、私達カップルなんだからキスしてね!」と言った。バーカウンターで僕はウイスキーのストレートをそして彼女はジントニックを頼んで小さい丸テーブルがあるスツール席に座った。向かい合って座るためテーブルに肘をつくとお互いの顔がくっつきそうな距離となる設定なのだ。
乾杯して2人で話していると、やはり彼女が心配したように例の男が近づいてきた。
「やー ジュリア! 久々だね? 仕事忙しそうだね。」と彼女の隣に立った。身長180センチ以上はあるだろうか? 顔が整った細マッチョなイケメンで同性の僕が見てもカッコいい男だった。
「ハーイ、エリック! そうね あなたも元気だった?」「元気 元気! また君に会えて嬉しいよ! お隣の男の子は?」「あー 彼は私の彼氏なの! キュートでしょ?」と言って僕にキスをした。僕もカップルという設定を守るために少しディープめに彼女のキスを受けて、「ハーイ エリック 初めまして 僕はヒデだよ!」と軽く付け足した。エリックはいきなり不愉快な表情に変わり、「そうか 君はトイボーイが趣味だったのか・・・ じゃ僕には今夜はチャンスはないね?」と残念そうに呟き、そして僕に「ヒデ 僕の代わりにジュリアとエンジョイしな!いい女だよ!」と意味ありげなことを言って暗い表情で仲間のところに戻って行ったのだった。
彼女はやれやれという表情で「あいつに会うといつもしつこいのよ。ヒデがいてくれてよかったわ。あのキスもよかったわよ!」と手を握ってニッコリと笑った。そして僕はまたカウンターに行きお酒のおかわりを2人分もらってきた。彼女とのキスで実はあまりにも動揺していたのでそれを隠すためでもあったのだ。そしてあたかも動揺なんかしていないような素振りで「結構お酒飲むんだね? スイスではあまり飲んでいるところ見たことがなかったから少し驚きかな?」「そうね お酒好きよ。でも雰囲気によるかな。ヒデも結構飲めるのね?」「僕もお酒を味わうのは好きだけど、量はあまり飲めないんだ。でもあのエリックさ、かっこいいじゃない?なんでダメなの?」と不思議に思い聞いてみた。「うーん 私は彼が言うようにキュートな男性が好きなのかも。なんていうか母性本能をくすぐるっていう感じなのかな?」「えー じゃ僕はそのキュートな男性に入るのね?」「もちろんよ、そうじゃなければ限定でもカップルはやらないわよ!」「えー本当? 僕も君みたいなクールで美しくて、おまけに強い女性が大好きなんだ。じゃ僕たちベストカップルになれるかもね?」と酔ってきた勢いでギャグぽく追い打ちをかけてみた。「スイスにいたときはあまり話す機会がなかったから、君のことよくわからなかったんだけど、もう何日も2人だけで一緒に24時間いるから、今はよくわかるんだ。本当に大好きだよ!」とも勢いに任せて熱く告白してみたのだった。「あーら 嬉しいわ!ありがとう! じゃ今夜はとことん楽しみましょう!」と軽く流されたような感じとなったのだが、心情的にはさらにドキドキの夜となって行ったのであった。しかしやはり僕は西洋の男性と比べるとキュートボーイになるんだなと当たり前のことではあるがある意味残念にも思った。まあアジア系の若い男だったらしょうがないことなんだろうなと今のところは諦める事にした。
そして今度は3人組の筋骨隆々の男どもがバーに入ってきて、ジュリアに気づいたらしく近づいてきた。テーブルの近くに来て、「よー ジュリア! 久々! その彼は彼氏?」とニヤニヤしながら言ってきた。「そうよ! 可愛いでしょ!」と間髪を入れずに笑顔で言い返していた。「ほー 坊やが好みなんだな 楽しみな! また今度なー。」と言いながら奥のテーブルに行ってしまった。ジュリアはまたかーという顔をして相手を見ずに手を振っていた。
「もうたっぷり呑んだからそろそろ帰りましょうか?」と僕らはバーを後にした。今日は数人しか会わなかったが、本当にジュリアはここの男どもに大人気のようだ。確かに1人でいるとしつこく絡まれるのであろうことがよくわかった。
繁華街のストリートで手を繋いて歩いていると、柄の悪い男2人が近づいてきた。また知り合いなのかなと思ったのだが彼女の反応がない。「よー ねえちゃん ホットだね! 俺らに少し付き合わねえかー?」ナンパなのかと思ったら、いきなり僕をどついてジュリアの腕を掴んで連れて行こうとしていた。ジュリアは「ヒデはそこにいて待ってて! こっちに来ないでね!」と冷静に言い放って、その男の腕を振り払った。「なんだ ねえちゃん 俺の言うこと聞けねえのか? じゃちょっとお仕置きしねえとわからねえのかなー!」と言ってその男2人はジュリアを挟んだ。ジュリアは剣は強いのだが、今は武器を持っていないのでどうなるかとても心配になった。しかし情けないが僕が彼ら相手に喧嘩をしても体格からして全く勝ち目はなさそうだし、待っててくれと言われれば待った方がいいと恥ずかしながら判断した。
彼女は本気になったようで、しょうがないわねという仕草で首をぐるっと回して空手のような構えをした。「へー ねえちゃん 構えかっこいいじゃん! でも俺たちのようなデカい男2人に勝てるんかな?」と言っていきなり殴りかかってきた。それを彼女をすっと避けて代わりにカンフーのように凄い速さで2段蹴りがでた。その男はそれをまともに顔面に食らって吹っ飛んだ。もう一人が、また殴りかかってきたのだが、これもスッとよけて今度はツキ一発と回し蹴りを喰らわせていた。この男もよろけて倒れた。彼女は跳躍をしながら次の攻撃に備えていた。彼女はドレスを着ていたので、まさにスカート部分がバレリーナのようにヒラヒラと宙に舞っていた。やられた男どもは、舐めてかかったがこれは勝ち目がないと判断したようで、よろけながら「アバズレ! 覚えてろよ! 今度会ったらボコボコにしてやるからなー!」という捨て台詞を残して去っていったのだった。
「ジュリア大丈夫?」と駆け寄っていった。「全然大丈夫よ、人間だから手加減したからね」と余裕の返答であった。そうか彼女はいつもはロボット相手に戦っているのだから、素手で戦うこともあるのであろうと今更ながら思った。「ああいう輩が多いのよー 本当に迷惑なの。普通はカップルだと絡んでこないんだけど・・・」そうか僕は見るからに弱いから、そうなったんだなと恥ずかしかった。「ごめんね ジュリア! 僕だと役に立たなかったね・・・」と役目を全うできず謝罪したのだが、「いいのよ 全然 こんなことは折り込み済みだから。ヒデは全然気を使わなくていいのよ! 」とまた僕らは気を取り直して今度は腕を組んでホテルまで急いだ。「さっきの空手の技 かっこよかったよ! 空手もできるんだね?」と言うと「そう、私あなたの世界ではブルース・リーが大好きで映画を観ながら学んだのよ。彼は本当にいい先生だわ。」と。本当に惚れ惚れするようなカッコ良さでますます好きになってしまった。こんな強い彼女に恋焦がれる男は情けないのであろうか?と思うと同時に、僕はやはり強くてカッコ良い女性が大好きなんだと己の性癖を自覚したのだった。
ホテルに着き部屋に戻った。「酔いが覚めちゃったわね。あいつらがいなければ良かったんだけど、でも楽しかったわね?」と言われ、「そうだね。僕は強いジュリアが見れて幸せな気分だよ。本当に映画を観ているような感じでカッコよかったよ!」とポジティブに労った。シャワーを浴びて僕らはベッドで寛いでいたのだが、ジュリアがいきなり、「ヒデ、あなたは本当にキュートよ。私もう・・・ソフィアが最初に知り合ったから、遠慮していたんだけど。今回の旅で2人だけの時間も長かったし、こうなるのも仕方ないわよね。きっとソフィアも理解してくれるわ。」と自分に言い聞かせるように言った。そして僕はベッドの上に押し倒された。彼女は裸になり僕も裸にされて快感と気持ちの高鳴りで全身が痺れていった。生まれて初めてこんな猛烈な快感を感じた。彼女もやり切った満足感があり、すでに横になり僕は彼女の背中に胸を当てて抱擁していた。僕らの初めての夜はこうして始まり続くことになったのだった。
そしていつの間にか朝になっていた。窓がないため時間が分からず、すでに7時を過ぎていた。彼女は珍しくまだ寝ているようである。僕の警護でずっと気が張っていたから疲れたのであろう。そう思うと気持ちが昂ってきて寝顔がとても可愛かったので思わずキスをした。すると彼女は目を覚まし眠そうに目をこすりながら僕を引きよせキスをしてくれた。そして僕らはもう一度昨晩のようになった。これで彼女も目を覚まし、「これで私達本当のカップルなのね!」と意味あり気に笑みを浮かべて言った。「うん、これからも宜しくね!もう絶対に君を離さないからね!」と僕も満面の笑みで返した。「わかったわ! これで私達決まりね!」と、なんと僕らは自分でも信じられないのだが、この少しの時間でお試しカップルから本当のカップルへと進化したのであった。本当にフワフワとした夢のような心境になっていた。そしてそうなってから彼女はまた変わった。僕に対しては、まるで彼女の弟か子供のようにさらに大切に優しく扱ってくれるようになったのだ。本当の姉のように面倒を見てくれるのだ。今までのように少し構えたムードとは全く異なっている。そして、いまだに信じられないのであるが、今日から僕達はカップルとしてまた残りの冒険をスタートすることになったのだった。
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