14:砂漠の摩天楼
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
僕にとっては仮想現実のようなこの異世界であれこれと空想するのにそろそろ疲れてきてしまった。気持ちを切り替えようと思いジュリアに話しかけてみた。これまでの彼女と会話で気付いたことは、聞いたことに対して的確な答えは返ってくるものの会話に遊びというものがないことだ。それはそもそもあまり社交的ではないからなのか?と思っていたのだがそうでもなさそうである。無駄を省いた性格なのだろうか? それとも僕との距離感がまだ影響しているのか?と疑問が残った。スペインから日本まで確か14000キロはあると思う。それをこのホバージェットで平均130キロのスピードでほぼノンストップで移動しているため流石に体も動かせず飽きてきてしまっていた。とは言っても見渡す限りの砂漠なのでどうすることもできない。目下僕たちのミッションは紅海を横切りサウジアラビアを抜けてそのうちアラビア海にでるルートが最短距離のようであるが、ジュリアが、「移動しながら寝ると疲れが溜まるでしょう?」と僕に気を遣ってくれたのであった。そして「このまま南下するとイエメンあたりの砂漠の山の上に面白い街があるのよ。そこに行って今夜は体を伸ばして泊まってみる?」と提案してくれたのだ。会話が簡単な割りには僕の気持ちを理解してくれているんだなとある意味驚き「そうなんだ。なんか面白そうだね! 行ってみようよ。」ということで少しルートを外れてしまうのではあるが南下することにしたのだった。そしてハイドラマウト地方にあるシバームの城塞が行き先となったのだ。
しばらく砂漠を走っていると砂丘の山に囲まれた1区画がニューヨークのマンハッタンのように空に突き出ている景観が見えてきた。『これはすごい!』と思った。「すごい街だね! これはいったい何なの?」と聞いた。「ここは古い歴史があってすごく昔は東西の交易で栄えた街なの。今はそんな交易はほとんどないんだけど、廃棄民というのかな?どの国にも政府にも属さない流浪者が集まっている街で、また犯罪者たちの定宿にもなっているのよ。あの建物は泥煉瓦でできてるから豪雨が降ると崩れてしまうのよね。今のところ大丈夫みたいけど、気候変動が激しくなってきているから、この街もこれからはどうなるかわからないわね。だからそうなる前に連れてきたのよ。いい経験でしょ?」「ありがとう! ほんとすごいわ! 放浪者と言うと・・・この辺りだとアラブ系がメインなのかな?」「そうね。そもそもはそうだったんだけど。今は人種のルツボになっているかな。ある程度の危険はあるけど、この街の自警団もいるから、まあ自由が欲しくてギリギリ生活するにはそれなりに楽しいところだと思うわ。」
街が砂漠の続きのように見えて建物も含め全てがサンドカラーになっている。その土の建造物の高層部分は白い石灰で塗られていてアクセントになっているがそれによって熱を反射しているのであろう。僕らは5階から9階建ての建物が並んでいるメインストリートに入り、スピーダーやホバージェットなどが並んで駐車されている広場に停めた。またここでもガリオンは留守番である。「ここは放射能の心配はないからヘルメットはいらないけど、ボディアーマーはそのまま着ていてね。一応何かあると面倒だから武器と荷物は持っていきましょう。」と彼女が諸々と準備して僕らは艇を後にした。しかしこの街は本当に色々な人々がいて人種のルツボであった。しかも怪しそうな輩で溢れている。露天商がひしめく中通行人はほとんどが移動の途中にここに立ち寄った出立ちでボディアーマーを着ている奴らが多い。それを見ているうちにここに泊まると言ってるけれど・・・こんな土の街で食事ができて泊まれる場所は本当にあるんだろうか?と少し不安になってきた。
ジュリアはどんどん路地を進んで行き、7階建ての建物が並ぶエリアにあるホテルらしき建物に入っていった。アラブ系の男が立つフロントで空き部屋を訪ねると7階のスイートルームだけが空いていたのでその部屋をもらった。しかしこのビル?にはエレベーターがないのだ。まあ土でできているのだから当たり前なんだろうけれど、僕らは7階まで土の階段をやっとこ上がって部屋に入った。小さな窓がいくつかあり最上階のため周りが綺麗に見渡せた。本当にここだけまるでニューヨークのマンハッタンのように土のビルが乱立しており、高層の市街地は城壁に囲われている今までに見たことがない絶景であった。「ホテルは泥レンガでできているから最上階のスイートルームにしかシャワーはないの。屋上のタンクに雨水を溜めて浄化したものだと思うけど。ただ水と一緒に少し砂も混じっているんだけどね。でもまあそれなりにさっぱりできるわよ。まず私が先にシャワー浴びてみるわね。」と言いアーマーを脱いでシャワーを浴びに行った。アーマーの下は下着だけなので脱いだときに彼女の下着姿がチラッと見えたのだが白い肌で本当に綺麗な容姿であった。僕はまたワクワクしながら外を眺めて待っていた。「ヒデ、出たわよ! ぬるいけどシャワーは大丈夫そうよ! 入ってみて。石鹸もあるわよ。」と言いながらアーマーを着ずに普通の服に着替えていた。今回はデニムのホットパンツにマルチボーダーのキャミソール姿でその上にカーキのシャツを羽織っていたが、すごく似合っていてとてもセクシーだった。ソフィアとは反対でこういったボーイズライクなアーミー系ファッションが白い肌と対照的にでとても似合うのだ。僕もアーマーを脱いでシャワーを浴びたが、やはり彼女が言っていたように砂混じりであった。まあそれでも汗を流せて久々に気持ちが良かった。そして僕もデニムのショートパンツにカーキのシャツを着たので2人はまるでカップルように見えた。
僕らはまずは久々にレストランで食事を取ることになり、一応護身用のブラスターガンだけ腰に下げて出かけた。そしてジュリアが入ったところは『ピデ』がメインのレストランだった。僕らの世界ではピデはピザの先祖のような食べ物で地中海料理として有名である。それとほぼ同じで、舟型の薄いパイ生地の中にチーズ・ひき肉や卵が入っており熱々で美味しそうである。彼女はそれと赤ワインを2セット頼んで、「ヒデ、あそこの席に座って待ってて。」と言い出来上がりをカウンターで待っていた。僕は言われた通り2人がけの席に座り店内を見回した。このレストランの中はアーマーを着ているやつもいるが、普段着の奴らも多いからホテルに滞在している客なんだろうか?しかもほぼ男達で、女性も混じってはいるものの体格が男性並みの男のような女性である。
焼き上がりを持って彼女も席に座った。「ここに来たときはよくこれを食べるのよ。結構美味しいのよ。多分お腹にも大丈夫だと思うわ。」僕たちはワインで乾杯をしてから焦げたいい匂いのピデにかぶりついた。確かに久々の出来立て熱々の料理はとても美味しかった。「これ本当に美味しいね! 機内食も悪くないけど、やっぱり出来立てのものには敵わないよね! しかし周りはほんとに怪しい奴らが多いね?」とジュリアの目を見てニッコリ笑って言った。「そうね。ここにはバウンティハンターが多いの。罪人の逃亡者が隠れているから、そいつらを狩って賞金を稼いでいる輩が多いのよ。だいたいアーマーを着てパーティーでいる奴らはそうよ。」と彼女は言って目で向こうを指した。確かに体格がいい男女四人のグループであった。ここにいる女性に比べるとジュリアは普通のお嬢様に見えてくるが、それは外見だけで、奴らはジュリアの強さを知ったら驚くだろうなと密かに思った。
食べながら彼らをチラ見していると、何やらこちらを見ているようで笑って何かを話している。嫌な予感がしたのだが、案の定 奴らのうちの1人の体格が良い女性がこちらに向かって歩きながら言った。「おまえさん達カップルなのかい? お嬢ちゃんとお坊ちゃんでお似合いだこと。そんなお前らにこんな街で何のようがあるんだい?」と聞かれた。ジュリアが「そうね、ここには何度かきているけど日本まで行くのにちょっと立ち寄っただけ。」とつっけんどんに答えた。そしたらその女が「2人で日本に行くんだ? 遠いんじゃないの? まあアジアのどこにあるかはわからないんだけどね。ロボットに支配された国とは聞くけどさ・・・ ところで、私らバウンティハンターなんだけど、ここに居る間ちょっと手伝わないかい?」といきなり聞いてきた。「ごめんなさい!私たち先を急ぐから無理ね。泊まるのは今夜だけだしね。」とジュリアが軽く流した。すると、その女は怒った表情に変わり「おまえ、見た目が綺麗だからって、ちょっと生意気ね! 下手に出ていればデカい態度をとりやがって!」と言いながらジュリアの首元を掴んだ。するとジュリアはスラリと立ち上がりその腕を払い、女の後ろに回り込んで逆に奴の腕を後ろに回して締め付けた。「うう、痛い!」とその女が叫んだ。ジュリアが「あなたが失礼なことをするからよ!」と落ち着いた声で言いながら、「私はレジスタンス連合のバトルエースなんだけど、あなたのレベルでは相手にならないわよ。」と脅した。「えっ あんたはそんなに細いのにあの連合のバトルエースなのかい?」と驚いて、「ごめん、ごめん、そうとは知らず、仲間が声かけてこいっていうからさー。悪かったわ!忘れて!」と言って、腕を振り解いて元のテーブルに戻って行った。なるほど、日本人の僕にはジュリアのボディは筋肉質に見えるけど、ああいう輩にとっては細く見えるんだなと実感した。そしてそれだからこそジュリアの美貌は一際目立つのだった。
「ほんと、私は何故かああいう奴らに絡まれやすいのよね。見た目があまり強そうにに見えないのかしら?」、「君はすごく綺麗だから、まさか戦うとは誰も思わないんじゃないのかな? 僕はすごく強いのを知ってんるんだけどね!」とウインクをした。「この前 ロボット達と戦った時は、なんていうか? フィギュアスケートをやっているような・・・バレエを踊っているような感じで、戦い方が美しかったんだよね。スピンしながらソードで切っているような感じに見えたよ。」と僕が言ったら、「そうね。私は体が大きくはないから、金属は回転する力を利用して切りつけないと切れないのよ。あとは跳躍が得意だから飛んだり跳ねたりする戦い方が多くて瞬発力が命ね。」と説明してくれた。「連合のバトルエースと聞いてアイツは凄くビビってたけど、それってどれぐらい凄いの?」、「そうね、泣く子も黙るというか、レジスタンスに属しているバトルタイプの中でトップクラスの称号で敵を一度に100体以上破壊した精鋭をそう呼ぶらしいのよ。私の場合はロボット専門なんだけどね。」、「100体?・・・すっ凄いんだね!君は!!」と驚いた。そうか凄そうだなとは思っていたけれども100体以上もやっつけているとは・・・そんな精鋭に僕は守ってもらっているんだと思うと気持ちがとても楽になったのと同時に、ますます強い彼女が好きになった。そしてジュリアが、「あいつ、うちのバウンティハンターにならないかとか言ってたでしょ? それって、よくあることなんだけど、仲間に入れたふりをして追い剥ぎみたいに襲うのよ。だからもしかしたら私たちお金持ちに見えたのかも?」と言ってクスクスと笑っていた。
外に出るとすでに夜になっていた。しかし、ここでは普通に外を歩けることが不思議だ。たまたま核汚染がないのだ。そしてある程度高緯度にあることにより、昼は砂漠のため40度を優に超えるのだが、この砂の街はいわば洞窟のような役割を果たしている。夜は逆に冷え込むためそれで1日のバランスが絶妙に取れているとか。だからボディアーマーを着て体温調整をしなくてもギリギリ生活ができるのだ。久々にボディーアーマーを着用しない生活は体が軽くなった気分で生きている実感が湧いて心地よい。食後は空気が涼しくなってきていたのでホテルの部屋に戻った。
この部屋は一応スイートルームではあるのだが、まあ泥レンガのビルなので通常の部屋よりは若干大きく最上階にある眺めが良いだけの部屋であった。それとなんとベッドも簡素なダブルベッドが一つだけである。僕らは2人で1つのベッドに寝るのだろうか?それとも僕がソファに寝た方がいいのであろうか? まあ寝る時に確かめよう。しかし良いところもあり窓から夜空を見上げると物凄くドラマティックな景色が広がっていた。街の照明は松明の光りだけのためあたりは暗闇が降りている。月も三日月のせいか夜空が見たこともないような深い群青色の世界になっていた。黒ではなく紺に近い夜空は生まれて初めて見た。そこに無数の星が散りばめられており、天の川にも本当に星の川のようにはっきりと無数の星が流れているようであった。実は今更宇宙にはこんなにも星が多かったのかととても驚いた。「ここの夜空ってすごく綺麗だね!」とジュリアに言った。「そうね。空気が汚染されていないから星空が見えて綺麗なのよ。ヒデの世界でもスイスの夜空はこんな星空が見えるのよ。」
そうなんだ。生まれてこの方あまり夜空を見上げることがなかったので、というか見えない場所に生まれ育ったからそういう習慣がなかったのかなと思った。ここは砂漠に浮かぶ中世アラブの城塞都市。その上に広がる宇宙空間の幻想的な光景を見て、僕はアラビアンナイトのように、やっと本当に異世界に来たんだなと実感したのであった。
「寒くなってきたわね。チコリコーヒーがあるから飲んであったまる?」とジュリアが言った。「うん、そうしようか。」と答えた。「この部屋は電気が来ていないから、このガスコンロで水を温めて入れるのよ。」と言われて初めて気がついたが、この世界ではガスコンロというものが珍しいのだ。
彼女は淹れるのに慣れており手際よく2人分を淹れてくれた。「私コーヒー好きなの。なんかほっとするのよね。飲みましょう!」と言って3人がけのソファーに座ってくつろいだ。僕もコーヒーを持って隣に座って、「この街は面白いね。こんなところは初めて来たよ。まるでスターウォーズでも見ているみたい。いろんな人種がいてしかも怪しい奴らばかりだし。ここに泊まって賞金稼ぎっていう人生も意外に面白いのかもね。僕は全然戦いに慣れていないからダメだけど。僕でも鍛えれば少しは強くなるのかな?」笑いながら言った。「うーん。私は昔から鍛えているからねー どうなんだろう? 向き不向きもあるから・・・」とあっさり切られた。「でも、それじゃいつになっても僕は君に守られてばかりいるじゃん。かっこ悪いよ。」と少しムキになって言い返すと、「あなたはあなたの得意なところがあるんだから、それを伸ばせばいいんじゃないのかしら? 私が守ってあげるから大丈夫よ!」とニコッと意地悪ぽい笑顔で答えた。まるで僕らの世界での価値観とは正反対で綺麗な女性に守られるか弱い男性という設定になってしまったのだが、ジュリアはその関係が逆に気に入っているように感じた。この場では不本意ながら良しとすることにした。
ゆっくりとコーヒーを飲み終わると、3人がけのソファの両端に僕らは座っていた。彼女はソファの真ん中の空いている座面を叩いて、ここに座りなさいよというそぶりを見せた。そうだよね、わざわざ両端に座ることもないかと思い、彼女の隣に座り直したら長い腕を僕に回してきて抱き寄せた。「こうやってしていると落ち着くのよね。人の温もりっていいわよね。」と言ってきたのだった。僕はいつのもジュリアから出る言葉ではないので耳を疑って驚いてしまった。そして彼女の体の温もりを心地よく感じながら目を瞑った。『あんなクールで男を寄せ付けない雰囲気のジュリアなのに、なぜ僕には・・・あの戦いでのチームプレーで認めてもらえたのかな? そんな単純なことではないだろうし・・・いずれにしても一歩前進したのかな?』僕は彼女の隣で興奮気味にドキドキしながらじっと目を閉じていた。興奮の中で疲れと気持ち良さでいつしか僕らは寄り添って寝入ってしまったのだった。
どんどん夜は寒くなってきていた。砂漠の夜は寒いのだ。僕らも寒さを感じるようになり目を覚ました。「あら、寝ちゃったわね。寒くなってきたからベッドに入りましょう。」とジュリアは部屋の照明を消して服を脱いでダブルベッドに入った。そして「何しているの、早くきなさいよ!」とどこに寝ようかと立ちすくんでいる僕に声をかけた。「えー 一緒にいいの?」、「ソファでもベッドでもたいして変わりないでしょ?それにここは暖房がないから夜は寒くなるし2人の方が暖かく寝られるわよ。」とまるで男女が一緒に寝るのを普通のことのように返してきたのだった。せっかくのチャンスなので意識しないことにして下着だけになりベッドに入った。まあフリースブランケットをかぶっているのでそれほど寒くはなかったのだが、彼女が寄ってきてまるで抱き枕のように僕を後ろから抱くような体制になって寄り添った。背中には彼女の胸の柔らかさを感じられた。確かにこの方が温かさを感じるようにはなったが、女性の肌と柔らかい胸を感じて僕は極度に興奮状態に陥り身体の血がドクドク巡って寝るどころではなくなってしまったのだった。人生上あまり母親の愛を感じたこともなかったし、子供の頃も抱いてもらうことなどなかったため今日のこの出来事は人生初の記念すべきことになった。そして子供の頃に綺麗なお姉さんがいたらよかったなーとか思ったことを思い出した。まさにこの関係はそんな快感もあり寄り添って慕う相手としても完璧である。
ジュリアとはこれからどんな関係になるのだろうか? ソフィアから始まったこの姉妹との関係であるが、一緒にいる時間が長かったせいか今はジュリアの方が親しみや『愛』というものまでも間近に感じるようになってきていた。もうジュリアは寝てしまったようで、僕は引き続き抱き枕のようになっている。僕もドキドキしていた気持ちが何故かコージーな気分に変わっていきいつしか夢の中に入ってしまった。
そして早朝の寒さを感じるようになり目を覚ました。体を起こしてみると、すでに彼女は起きていて、肘枕をして僕のことを眺めていた。「おはよう、ヒデ。ぐっすり眠れた? ずっとホバージェットで寝ていたからね。」と。「ああ、おはよう! 一緒に寝られたから温かくて気持ちよかった。ありがとう!」と顔を赤らめて答えた。「じゃまたホバージェットの旅が始まるからコーヒーでも飲んで戻りましょうか?」といいながら服を着がえた。僕も服を着て、昨日彼女がやっていたようにコーヒーを淹れてあげた。
陽は出ていたが、まだ遠くの山々に遮られているため気温は涼しかった。ここの良いところは人間として普通に住める気候なんだと実感した。スペインでは汚染と高温で地下に住むしかなく、地表は汚染された砂漠のために住める環境ではなかった。それを考えるとまさにこの街は奇跡の街なのだ。僕らは早々とホバージェットに戻った。ガリオンが番をしてくれており燃料を補給しまた出発となった。まあこの艇内もこじんまりしたキャンピングカーだと思えば悪くはないが、やはり直立できないのと、絶えず騒音があるのが玉に瑕なのだ。僕らは城塞都市から出て、砂漠の山を下って行きいつもの砂漠をまた進んで行った。
しばらく砂漠を進んで行ったが、前方に移動物体を示すアラームが鳴り出した。対岸の国がペルシャにあたり、イスラム圏を牛耳る国家があるらしいので、多分そこのパトロールロボットではないか?とジュリアは言っている。それもこの前のヒューマノイドロボットよりもかなり大きめな個体が2体ゆっくりとこちらにむかってきているのだ。本当は見つからずにやり過ごしたいのだが、見渡す限りの砂漠のため砂煙だけでもやつらに発見されてしまう。ジュリアは一旦この艇を停めてエンジンも停止した。そして、バニッシュモードという化学迷彩で周囲が映り込み消えて見える仕掛けでやつらが通り過ぎるのを待った。暫くすると前方より大型の人型ロボットが2体姿を表してきた。勿論初めて見る型だが、大きさ的に5、6メートルぐらいであろうか。人の3倍ぐらいに見えるがっしりとした無骨な体型のまさに歩く戦車のような外見である。重装備のため歩く速さは早くはない。そのためこのホバージェットであれば、逃げ切れるスピード差はありそうではあるがその分攻撃力は高い。背後からレーザー砲を撃たれて命中した場合、破壊されてしまうぐらいの強力なレーザーキャノン砲を装備しているのだ。ジュリアでさえも少し焦っているようにも感じた。
僕らはもしもの場合に備えてヘルメットをかぶり、彼女は静かに後部ハッチを開けた。念の為に装備として持ってきたアーチェリーセットを手に持っていた。長距離飛びそうな弓と矢の先に地雷のような小型爆弾がセットされたものを4本持っている。僕はいつでもエンジンスターターが押せるようにし、またこちらのレーザー砲も使えるようにセッティングし彼らが通過するのをじっと息を殺して待っていた。僕はあまりにも圧倒的に強そうなロボットを前にして汗が流れ心臓がバクバクしてきた。「あれを操縦してるのも人型ドローンよ。」とジュリアが小声で言った。丁度30メートルぐらい前でその2体は止まった。そして頭部中央にあるスコープが回り熱感知シールドのフィルターに変わった。
ジュリアが「まずい、見つかったわ!」と言って、ガリオンを外に出して敵めがけて走らせた。ロボット達はガリオンに照準を定めてレーザーキャノンを撃ったが、ガリオンの動きが速すぎて当たらなかった。その間ジュリアは弓をいっぱいに引いて放った。左前方のロボットの左膝部に命中し爆音が轟いた。彼女はすでに2発目を引いて放っていた。またそのロボットの右膝部に命中し爆音が轟いた。そしてそのロボットは膝がガクッと崩れて跪いた態勢となった。またその間彼女は同じように左後方のロボットにも攻撃し2体とも動けなくなった。ひざまずいて低姿勢となったレーザーを発射する左腕部目掛けてガリオンはアタックし、レーザーブレードで切り落とした。2体目も同じように切り落とされた。これも一瞬の出来事であった。そして彼女は指笛を吹いてガリオンを呼び戻した。その間に艇に戻り、「ヒデ、シールドをオンにしてエンジンをかけてバックして!」叫んだ。僕はその通り実行した。ガリオンが戻り、前方のシールド面を敵に向けてバックで全速力で逃げた。ロボット達は僕らめがけてブラスターマシンガンを連射してきたのだが、シールドがそれを防ぎ、ある程度距離が開いた時点で旋回し通常走行に戻してマックススピードでアラビア海目掛けて走っていった。「良かった!すぐにやっつけられて!私のガリオン最高でしょ! でも深追いは禁物なのよ。援軍がくるから。」と言ってガリオンを撫でていた。しかしあの厳ついロボット相手に、またもや素晴らしいチームプレーだった。僕らは席を交換して、ジュリアの操縦で海を目指した。何故あのロボット達に感知されてしまったかというと、ガリオンの心臓部のパルスが探知機に引っ掛かかり、それが原因で熱探知されたのではないかとということだ。僕らは追っ手が来る前にアラビア海に入った。一応これで一安心ではあるが、またしばらく海上のため海賊に見つからないように沿岸近くを航行することになった。これからインドの南端を周ってベンガル湾に入りシンガポールを目指すことにした。
海面も幸いなことに穏やかで順調に航行している。僕らは月の光の下でシンガポールの話をした。
「シンガポールは僕らの世界ではクリーンな都市国家として発展しているんだけど、こっちの世界でも沈んでいないんだね?」
「こっちでは沈んでいるわよ。でも今は海上都市としてもの凄く繁栄しているの。独立都市国家という立場で、海上の商業や海運の拠点となっているの。それと国営カジノもあってギャンブルと快楽の場所でもあるのよ。世界の美女達が集まっていて、それを目当てに男達もたむろしているわ。建物施設は海中と海上で構成されていて、海の中はさほど暑くはなくレジデンシャルエリアになっててホテルもそこにあるの。海上の施設の方は商業施設が並ぶコマーシャルエリアになってる不夜城ってとこかな?」
「そうなんだね! なんかド派手そうで楽しそうなところだね? 何があるのか色々と見てまわりたいなー でも危なくはないのかな?」
「そうねー 危ないわよ! 女の子には。だからヒデにお願いがあるの。
私達明日の夜はシンガポールに泊まろうと思ってるの。今まで順調にきたし、ホバージェットの燃料も補給しないといけないしね、それに久々にバスタブに浸かりたくない? バーにも行ってお酒呑んで息抜きしたりとかもね! でも、若い女性は目立っちゃってねー悪い男の子達にからまれちゃうのよー。だからシンガポールではカップルということにしてほしいの! お願いできる?」
「えっ・・・ わかった わかったよ! ジュリアがよければもちろんオーケーだよ。というかカップルって凄く楽しそう!」「じゃシンガポールからカップルの練習しようよ! 本当にカップルになっちゃったりして?」と気持ちを伝えるチャンスだと思いちょっと冗談ぽく仕掛けてみた。ここ数日間は生死を共にした1日1日を2人だけで過ごしている。なぜか彼女が隣にいる空間が心地よく不思議と自然に感じていたのだ。多分彼女も同じような気持ちでいるのに違いないと踏んだからだ。
すると、「いいわよ そうしましょう! でもソフィアには内緒よ!」と一瞬耳を疑ったのだが驚く事にすんなりとまとまってしまったのだった。本意で言っているのかどうか定かではないので『なぜ僕ならいいのか?』聞いてみたくはあったものの、いわばお試しカップルみたいなものなので野暮はよしてこの貴重な時間を悔いがないように全力で向かい合おうと思った。
もしかしたら今後の生死もわからないわけだし、ジュリアも僕より少し年上ではあるが、僕としても年上のお姉さんのようなカノジョも全然問題ないのだ。なんせ男性としてどうかとは思うけれど強くて綺麗なお姉さんは憧れなのだ。この会話をきっかけに彼女の表情がなんとなく柔らかくなったような気がした。これまではいつもの寡黙なジュリアであったのが、顔の表情が和らぎ僕に向ける顔が絶えず笑顔になったような気もした。
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