13:初めての戦い
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
航路は砂丘の地形から峡谷の地形に変わってきていた。そして進むに従い砂の壁はどんどん切り立ってきていた。しかし道はこれしかない・・・何故か嫌な予感がしてきた。「ジュリア、この道なんか嫌じゃない? ここでバンディット達に襲われたらヤバいよね?」「私もそう思ってたの。何かあったらヒデはこのフネを守るのを優先してね!これがやられたらこの高温では私たちは生きられないから。」「わかった!頑張るよ!今のうちに席を変わろうか? 僕が操縦できるように。」「そうね!そうしましょう!」と言って僕の第6感を信じて席を交換した。ジュリアにもそれが伝わったのか?カーゴルームに行って装備を身につけている。ついでに念のためにガリオンも起こしたようだ。
すると、どんどん道が狭くなってきていたと思ったその時、突然崖の上からネットが垂れ幕のように下がってきたのだった。「トラップだ!」僕は急ブレーキをかけて艇はギリギリその網に引っかかる直前で止まった。その網の前方を見るとジュリアが言っていた武装したヒューマノイドロボットが5体歩いてきている。ジュリアは「ヒデ、よろしくね!」と言いヘルメットも装備し後部ハッチからガリオンと共に出て行った。僕は手に汗握るながらレーザー砲をそのロボットたちに向けて撃ったが、ネットが邪魔しレーザーを遮ってしまった。それに気付いたジュリアはすかさずロングソードでその網を切り裂き、裂け目を抜けてまずガリオンが敵に向かって突っ込んで行った。その後に続いてジュリアももの凄い速さで飛び石を飛ぶようにジグザグに走って突っ込んで行ったのだった。敵のロボット達もレーザーガンで彼女らを狙っていたが、あまりの素早さであたらない。僕も無我夢中で再度レーザーガンを撃ってまず先頭のロボットに当てることができた。その瞬間を逃さずジュリアのロングソードがロボットに振り下ろされた。一瞬で首が跳ねられて倒れた。その間2台目のロボットにガリオンは尻尾のブラスターガンを撃ち、一瞬動きが止まったところで横腹のレーザーブレードで片足を切断した。そのロボットはバランスを崩して倒れたところガリオンはアイアンファングスで首を噛み切っていた。あと残り3体だ。すでにジュリアは3体目の首にロングソードを振り下ろしている。その直後4体目が彼女目掛けてレーザーガンを発射したが、彼女は左手に装備していた小型シールドで遮り、その間ジャンプしたガリオンがブレードで3体目の首を切り落とした。僕も4体目を撃って運よく命中した。ちょうどそれがブラスターガンを撃とうとしていたところだったのだが動きが止まり、彼女はまずその手首を切り落としその延長線上にある首にソードが振り上げられて首がすっ飛んでいったのだった。最後の5体目は、ガリオンに襲われ首が噛み砕かれていた。あっと言う間の戦いで完全に僕らの圧勝であった。この戦いは、彼女とガリオンのコンビネーションの凄さの一言であった。まさに人間業とは思えないのだが、彼女の自信はこういうことだったのかと身をもって納得できたのだった。急襲する素早い鍛錬度とガリオンとの連携プレーの一瞬の出来事であった。生まれて初めての戦闘経験で体が硬っていたが、少なくともこのロボット程度では彼女らのスピードに歯が立たないのであろうと納得した。
ジュリアは半端に掛かっていた網をロングソードで切り落としてホバージェットが通れるようにして戻ってきた。「凄いねー 本当に強かったよ!!ありがとう!」と感謝を込めてお礼を言った。僕も初めての戦闘で心臓が飛び出るぐらいに興奮していたのだった。すると驚くことにジュリアはヘルメットを解除して僕を抱きしめてくれた。「ヒデ、タイミングよかったわよ! 初めてなのに凄いわ!私達ベストコンビになれるわね!」と驚くことに笑顔で褒めてくれたのであった。「しかし物凄く動きが早かったけど、いつも鍛えているからなの?」と尋ねてみると「そうね!私は身体能力が元々高いからね。」と笑顔で答えてはぐらかされた。
しかし彼女の戦い方は美しかった。まるでバレリーナやフィギュアスケートのようにスピンしながらも動きに全く無駄がなく、まるで踊っているかのように弧を描きながら剣を振り回していた。この動きで自然と遠心力でロングソードに重力がかかり切れ味が増すのであろうか? 初めて見た獣型ロボットのガリオンの襲いぷりも凄かった。獣型戦闘ロボットって『凄まじく怖い』の一言だ。そして僕たちはマニュアルモードをキープしまずはこの渓谷を少しでも早く抜け出すことにした。そして抜けたところで一旦止まりホバージェットの点検と久々に戦ったガリオンも一緒に点検もした。
渓谷を抜けた後は2度目の攻撃を受けることもなく砂丘を進行し紅海に入ってからは海上運航に切り替わった。海峡を通過する場合はまた狭まった地形となり襲撃される可能性が高まる。僕らはそれを避けるように再度上陸しサウジアラビアを横切ってアラビア海に出るルートに修正した。外気はすでに50度を軽く上回っていた。太陽が昇っても空は相変わらず霞んでおり、その暑さはフロントシールド越しにもジリジリと感じられるようになっていた。
昼頃になったので、また彼女はカーゴルームに行き食事用トロリーの中の2人分のトレーを加熱した。それと一緒にチコリコーヒーも入れてくれたので、機内に香ばしい香りが漂い空腹だったことを思い出した。ミハスコスタを発ってから今日で3日目となる。僕らはその間ろくな食事をしていないことに気がついた。やはり緊張した状況下では生きるのが精一杯で美味しいものを食べるなどの余裕がなかったのだ。そんな中、機内食風とはいえこのちゃんとした食事は本当に嬉しかった。これはなんだろう? オムレツのようなパイのようなもので焦げ目がついて香ばしくコクもあり、コーヒーとの相性もとても良い。「これ美味しいね!」と自然に言葉が出てしまった。彼女はニッコリ笑って「そうでしょう。これもほとんど豆類で作られていてアーティフィシャルな味になってはいるんだけど、まあそれがわからないくらい私も美味しいと思うわ。というか、こちらの世界の人達にはこれが一般的なんだけどね。」と言った。
という流れで、2人だけの『冒険』いや『戦い』を通して、少しづつではあるが僕らの距離が縮まっていくのを感じ取れた。そして、時間はたっぷりあるので、思い出してはポツリポツリとどうでもいい会話をして過ごした。
その中でも大切な話はありこの世界の日本に関しての話だった。
日本は直接核爆弾の攻撃は受けなかったものの、アジア大陸からの汚染された黄砂や大気汚染の被害を受けた。さらに地球温暖化の影響で、そもそも山がちな地形の中の僅かな沿岸平野部が海に飲み込まれてしまい、沿岸部にあった東京、横浜、大阪、名古屋、神戸などの大都市も水没を免れずに廃墟と化してしまったという。まあその前に日本は超高齢化社会になっており、同時に円安が長引き外国からの労働力にも頼れず、幸か不幸か、ロボットやAIによる労働力確保を大企業と政府が一体となって進めていった。若年層においても先行きの不安から子供を持つことを望まず、また世代の特徴からもなかなか結婚をしない社会となっていったようだ。よって出生率もどんどん下がっていき国家存続の危機にも晒されたとか。今では、ヨーロッパの小国と同じような規模の人口一億人をはるかに下回る国家となってしまったらしい。ただ権威主義国家からの防衛に関しては、軍事兵器開発やロボット・AI化を推し進めて行ったのが功を奏して、他国へ攻めることはしないまでも防衛に関しては鉄壁の守りとなった。そもそも稼ぎ頭であった家電や自動車産業が中国にシェアを奪われ輸出に依存していた日本経済は官民一体となってロボットを中心とする軍需産業に参入していった。特に日本製軍事ロボットは世界のトップシェアを誇り、その稼ぎで国土の完全防衛体制も可能になったのだ。それを期に国内で生産できない品目のみを、かつての『出島』のように制限された輸入に頼り基本的に鎖国体制に入った。そして国内の治安も含め第1次・第2次・第3次全ての産業においてAIとロボットが実労を担い人がロボットと共存する社会が実現していたのだった。
災害後は、東京に代わる都市として、人間が住める気候や動植物が計画的に増やせる条件をクリアできる場所に移されることになり、なんとそれが新潟県の越後湯沢となったのだった。そして湯沢は日本の政治経済の中枢が集まる都市国家に変貌したようだ。かつて山に囲まれた環境の中で都内から新幹線で行けるスキーリゾート地として栄えたインフラベースがあったため、その山間地のわずかな平地に香港島のように沢山のタワーマンションが建設されていった。今では温暖化により豪雪地帯ではなくなっている。
彼女が言うには、交通はほぼ乗用ドローンでの空の交通がメインとなり、一般の地上道路は産業道路としてのみ使用されているようだ。そして1棟のタワマンが1つの政治ユニットとなり市町村に代わる存在となった。人々は基本的にマンション内で街に住むように生活し衣食住遊休知美に関するほとんどが施設内でカバーされていると言う。
日本国内の道路や上下水の配管、電気の送電線、都市ガスの配管などは50年を経て経年劣化するため、国内全てのインフラを刷新するのはそもそも限界があるとは思っていた。狭い土地に集約しかつ上に伸ばした限定された土地だけにインフラを充実させると言うことは、この人口が激減した日本であるから可能になったのだろう。そしてその場所からコンピューターを駆使し、日本全国に広がる産業ロボットのネットワークへ司令を出しているのだと言う。
なるほど、労働人口が減少した欧米では、移民などを積極的に受け入れて労働力を確保していた。そこでは今回あの旅で見たように異文化という名の副産物である別の社会構造が形成されることになった。ダイバーシティをうまく取り入れて、垣根がない1つの社会として維持できるのであれば、それはそれで人類史上成し得なかった偉業となるのであろう。しかしながら経済がうまく回っていない環境下では社会は右翼化し、宗教や民族そして文化などを理由にして対立が生まれる。そこにどこかで紛争のトリガーが引かれると戦争が各地で没発して行く。移民を受け入れていた社会に争いが蔓延する可能性が高いということが、事前に今回のヨーロッパ旅行で学べた事でもあったので納得ができた。
日本では先進国が辿った逆の道を辿り偶然功を奏したようだ。これはこれで『神風』であったのだろうか? 人口減少しかも世界1、2位を争う高齢化に円安がプラスされ輸入に頼れなくなる。まさに負のスパイラルに陥ったのだった。そこに可能な限り自給自足の江戸時代に戻ったかのような生活の貧困化が起こった。日本も階層が2極分化したことにより低所得の国民は自分達だけの生活もままならず、もちろん子供もつくることも避けることになる。そうした社会で月日は経ち、まずは高齢者層が消えていった。残りの世代の高所得者層は、教育等のクウォリティを重視するため子供は1名が一般的となり、単純に考えても2人で1人を産むということは、世代が代わると人口は半分となるというようなシナリオで急激な人口減少が起こったのだと推察した。
ドメスティックな経済活動においては、我慢して利益を削り売り上げをキープしようとしていた一般企業は人口減少とともに縮小し消えていった。各業界では、資本力や国際競争力がある大手企業も淘汰されていき、生き残った巨大企業グループが政府と手を結んで寡占する経済が出来上がったのだ。企業は行政を味方につけて地方にてほぼ無人の工場をネットワーク化した産業ロボットで運営し、また食物も国が運営するオートメーション化した超大規模な農場で、これも産業ロボット達により作られ、コンピューターが制御しているロジスティックスにて都市国家に物品がもたらされるフローとなったのだ。そんな社会では、一体人間は何をしているのだろうか?という疑問も生まれてきた。
これからの日本社会はどうなるのでしょうか?
これが僕の予想です。




