11:ロンダ地下施設
この物語はSFカテゴリーにて投稿中の『光と陰-織りなす夢の形-』のプロローグです。主人公”ヒデ”の視点でソフィアとジュリアのBLANC TWINSが描かれている日記をお楽しみください。
《あらすじ》
1980年代のある夏の暑い日に偶然上野公園で1人の金髪美女に出会う。まるでアニメフィギュアのような容姿のソフィアにノックアウトされてしまった。生まれて初めて情熱を感じるようになった理屈っぽい性格の大学生のヒデ。そして今までろくに1人で国内旅行もしたこともない彼だが、それがきっかけで夢を探すヨーロッパへの一人旅が始まった。ヨーロッパの国々で過ごすとともに異文化や価値観の違い、また真のライフスタイルというものを実感する事になる。しかし、その先には予想もしていなかったことが起こるのであった。さて異文化の果てとは一体どんなことろなのであろうか?
日本での価値観しか知らないヒデは、スイス・フランス・イギリスと放浪しつつその国のカルチャーや価値観の違いを体感し少しずつ異文化を理解し吸収していく。
そしてその異文化の果てには・・・
その先には驚くべきパラレルワールドがあったのだ。ソフィアとジュリアの謎の双子美人姉妹 Blanc Twins との関係が深まり吸い込まれるようにSF体験をしていくのだが…
モラトリアム期間にいる思春期のヒデは『いったい自分の夢のかたちとはなんなのか?』という問いかけに悩みながら自分なりの将来を模索していく。
荒廃したパラレルワールドを舞台に水陸両用の移動ヴィークルであるホバージェットでヒデと一緒に旅をする美人姉妹の妹ジュリア。彼女と一緒に行く先々で戦いに巻き込まれながら“剣姫ジュリア”に惹かれていく。
そして2人はお互い同じ価値観を持っている事に気が付き愛が芽生えていくのだが…
ジュリアは、「これからそのパラレルワールドに入るけど心の準備はかしら?」と一応僕の意思を再確認するような質問をしてきた。「わかった。大丈夫だよ。何か準備するものはあるの?」と聞いたが、とりあえずこのまま行ってしまってよさそうであった。あの年配の女性はこの拠点を守るゲートキーパーのような存在のようだ。石造りの古い家で一応住める雰囲気ではあるが、僕的にはあまり住みたいとは思えない湿った居住空間である。下に降りる石造りの古い階段があり暗い地下空間へと繋がっている。ガス灯時代から使っているアンティークな照明が微かに足元を照らし僕らは階下にゆっくりと降りていった。不規則な螺旋状に回わる階段を降りて古代からあるであろう不気味な装飾が際立つ場所に立った。その場所の中央付近を見つめてみると微かなパープルカラーに時空が歪んで空間が波打っているかのように見える場所があった。なるほど、そこがパラレルワールドの入り口なんだろうなと察した。
「ヒデ、ここから入るの。」とジュリアが言った。「出る時も、ここから出てくるの?」と念の為確認すると、「そうよ! ここが異世界への唯一の出入り口になっていて、相当長く調査をしているけど、いまだにここしか異世界へのドアは見つかってないの。」と言いながら、いきなり入っていこうとしていた。僕は一瞬世界の終わりがきたかのような不安に襲われしまった。「ちょっと待って!」と彼女を引っ張り止めた。再度確認だ。「本当に戻ってこられるのんだよね?」と確認した。「大丈夫よ!私があなたを守るから安心して!入ったらたぶん眩暈がするから倒れないように気をつけてね。」と行って僕の手を握って一緒に入って行ったのだった。
暗闇のトンネルの中でいきなり眩暈がして色々なカラーの歪んだ形が見え隠れしていたように思えたのだが、ジュリアの予想通り見事に倒れてしまったらしい。気が付いたら簡易ベッドの上に横たわっていた。気付くとジュリアは近くで男性達とスペイン語で話し込んでいた。『そうかここはもうパラレルワールドなんだ。』と我に返って現状を認識し体を起こした。
ジュリアがそれに気づいて「ヒデ、大丈夫? やっぱり最初だから眩暈がした?」と聞かれた。「そうだね。まだ吐き気がして気持ち悪いよ。」と今の気持ちを正直に伝えた。そしてその男達もスペイン語で何かを伝えようとしていたが、やはり全く理解ができなかったので笑顔でごまかした。
僕らの世界から異世界に入った空間は引き続き洞窟のような場所で非常灯の照明だけが灯っていた。しかもこの場所は閉鎖されているようだ。きっとジュリアと話している筋骨隆々な男達はここのゲートガードなんだろう。
よくよくジュリアを見るとアームドスーツのようなものを着ているではないか。アニメや未来を舞台にした映画に登場するヒロインが着るような戦闘用のゴツいボディスーツで彼女が着ているととてもカッコ良かった。オールブラックで女性用とわかる胸の谷間の山が作られており、たぶん構造的には伸びる素材のボディスーツの上に頑丈な強化パーツが胸周り腰回り、肩、アームの外側、レッグの太ももとスネの部分をカバーしており、その下にも細かく組み合わされた硬い特殊パーツのようなもので身体のラインに沿いセクシーに組み合わされていた。特殊なブーツとグラブも装着しそのデザインに合うフルフェイスになるヘルメットもフードのように備わっていた。
「これからソフィアがいるところに行くんだけど、ここから一歩出ると戦闘地域になるからアーマーが必要なの。そう私が着ているようなこれね。ちょっと重いけど、放射能除去システムと体温と体の状態を維持するスーツの外側には、レーザービームやブラスターガンの攻撃も拡散するアーマーシェルが付いているの。ヒデも安全のために着て欲しいの! 硬そうに見えるけど、このスーツと体の間には高性能ナノジェルが挟まれているから、それで結構着心地も悪くないのよ。」
僕は重い体を起こし下着になって着用してみた。なるほど意外に着心地が良いのに驚いた。そして最初はボディースーツ内のジェルがひんやりとしていたのだが、体温に適合してきて気持ちが良い温度になってきた。そしてジュリアはこの空間の奥で自分の荷物を漁っていたようでロングソードとガンを2丁そしてアローと爆薬がヘッドに付いている矢を何本か持って現れた。
「準備ができたから、こちらの世界に入るわね!」と言って、また僕の手を取ってこの空間の出口にあたるゲートに連れて行った。先ほどの男4名がそのゲート前で待っており、1人は覗き窓のようなところからドアの外を確認しゲートを開けた。そして僕とジュリアが外に出たところでそのゲートはすぐに閉まってしまった。閉まる前に、男の1人が英語で「彼女は超強いから大丈夫だよ!」と僕に言ったのがわかった。ジュリアが持っていた装備の中の見たこともないガン2丁の1つを僕に渡してくれてホルスターを腰に巻くように指示した。彼女もそれを腰に巻いて、ロングソードを忍者のように背中にさし柄が右側に来るように装備し左側には弓矢のボウとアローもクロスに装備した。「このガンはブラスターガンの一種で、人間だったらショックで死ぬまではいかないけど気を失うわ。ロボットだったら一瞬動きが止まるの。だから何か危険が迫ったら遠慮なくこれで撃ってね。」「このサイドにあるレバーが安全装置で、撃つ時はこれがトリガーだから簡単でしょ!?」「わかった。ありがとう。あとで練習させてね。」と言って変わったガンを確認してから腰に装着した。
そこは人気がない地下の細い通路で照明もまばらであり暗かった。突き当たりまで行くと細い階段がありそれを降りて行った。またその突き当たりにドアがありジュリアがパスワードを入れて開いた。その時僕らが通過してきたパラレルワールドの入り口は関係者以外に知られないように厳重に管理されているのだと気がついた。そして先に出てみると予想もしなかった広い地下街が広がっていたのだった。人通りが多く通路の両脇には色々な施設や店が立ち並び活気に溢れている。
戦時下ということはここの人々を見ればよくわかった。ほとんどの男女が僕らのようなアーマーを着用しており、有事の際には戦闘に出るのだと思えるからだ。僕らは通路を歩いて移動したが、途中に地下菜園があったり地下家畜育成施設のようなものもあり、太陽光をどこからか取り入れながら、また太陽光と同じ効果がある無数の照明を使い食材を育成しているようである。僕らはショップに行き、ジュリアは旅客機の食事に出てくるようなトレーが沢山入ったトロリーを受け取りミネラルウォータータンクも5個その上に置いたもらった。そして僕はそのトロリーを押しながら彼女の後に付いていった。ジムやアミューズメント、シアターのようなところもあり、ここでは必要充分な生活が可能であることがよく理解できた。
「ここはロンダの地下、南ヨーロッパのコーカソイド系の人々が集まっている1つの地下コロニーでレジスタンスの人達なの。」「この世界では、第2次世界大戦後、権威主義国家の力が強まり帝国となり強大な勢力となったの。他の資本主義国家は最初は連携して抵抗していたんだけど、権威主義国家からすでに移住していたアラブ系移民を使ってテロを起こさせたのね。そして国内の安全を維持するために警察や軍まで投入して内戦になって外敵からの抵抗力も弱くなったところで、なんと核爆弾が北米と西ヨーロッパの大都市に撃ち込まれてしまったの。それで大半は死んだんだけど、残った人達が地下に逃れて居住空間を創り核の汚染が弱まった段階で地表に出ようと計画していていたの・・・しかし今度は地球温暖化が激しくなってね、極地の氷が溶けて沿岸都市や平地にある都市部が海に飲み込まれてしまったのよ。ロンダは歴史的にもかなり昔からあった街だから、標高と海からの距離との兼ね合いで生き残ったの。」と彼女からの説明を聞いているうちにエレベーターホールに到着した。「エレベーターもあるんだね!」と僕が言うと、「そう これで地表にある格納庫に出るの。」と彼女は言いボタンを押して、しばらくすると大型リフトが降りてきた。
上昇しドアが開くと目の前には長い通路があった。僕はカートを押しながら彼女の後に付いていくと、彼女はしばらく行ったところで立ち止まった。そして再度パスワードを入れてドアを開けてみるとその先は広いガレージになっていた。ジュリアの専用ガレージのようで2台の乗り物が停まっている。1台はスピーダーと言って2人乗りの小さな空飛ぶバイクのようなもので、もう1台は戦車のようなポバークラフトであった。
「実はソフィアとはこの世界の東京に行かないと会えないの。だから私たちはこれからこのホバージェットで向かうんだけど1週間ぐらいはかかると思う。地表は暑くて摂氏50度以上になるの。だから私たちはこのスーツを着ているんだけど、これから外に出たらホバージェットの外に出る時は必ずヘルメットも装着して欲しいの。」
僕は、「えっ、ここからまた東京へ行くの?? 物凄い距離じゃない? どうやっていくわけ?」とひどく驚いて確認した。「乗り込んだらナビで説明するから、ヒデはこの食料を後部ハッチを開けて乗せたら左側のデバイスにセットして欲しいの。私は水素燃料を満タンにするから。」「ハッチを開けて食料コンテナを乗せると自動でリフトアップするからそれで中に入れられるからね。」 と言われ左側のコンテナコーナーに突っ込んでみるとガシッと音がしてセットされた。内部は立てるほどのヘッドクリアランスはないのだが頭を屈むと移動できる広めのカーゴスペースになっていた。カーゴスペースの隣には冷蔵庫とオーブンが付いており、右側にはトイレスペースがドア付きであった。その横はジュリアの武器のストックスペースのようである。このカーゴスペースの前方には4名が乗れるコックピットが見えた。僕は降りて、彼女を手伝おうとしたのだが、水をタンクに入れてくれと言われて水道からホースで満タンにした。ジュリアは燃料を満タンするとこのガレージの中の必要なグッズを入れ込んで出発の準備をしていた。
しかし初めて見るホバージェットとやらはすごい乗り物だ。まずカラーはアーミーグリーンの艶消しのボディに後ろに2機のジェットファンが付いていた。それで前方に推進するのだろう。と言うことはこのボディを浮かせるための大型のファンが下についているのだと思う。フロントからサイドにかけて視界が良さそうなパネルガラスが回っており、ルーフには小ぶりの砲塔が載っていた。
「どお 私のブルータスは? 気に入った? これはもちろん水陸両用でレーザー砲のディフューザーボディになっているの。まあ私の頼りになる相棒でクルーザーみたいなものかな。」
僕は圧倒されていた。
「すごいねー かっこいいよ! ほんとこれで泊まりながら色々なところに行けそうだね。冒険するのが楽しみになってきたよ!」と今までとは気分が変わってシンプルに感激してしまったのだった。
「じゃ時間がないから乗り込んで移動しながら説明するわね。」と言われ、僕たちは後部ハッチから乗り込みフロントシートに座った。彼女は左席に座りエンジンボタンを押した。するとまず2機の下部ジェットファンが『ブロロロロロー』という轟音と共にボディが宙に浮いた。ステアリングはF1で使用されているような小ぶりなものが付いている。電気系統もオンになりフロントのナビ画面に航路が映し出された。それはスペインのロンダから東京までの道のりを表した世界地図で、基本ルートによるとまず地中海に抜けてアラビア半島あたりに上陸し、また太平洋に抜けてそのまま海上を東京湾にいくという行程ルートであった。海が7割ぐらいと多いのだが、陸上のルートは高温になるのだと言う。そして次に後部の推進用のジェットファンが作動しさらにブオーっと言う轟音がガレージ内に響いた。
「それじゃ出発するわよ! 準備はいい?」と言われ、「いいよ わかった 行こう!」と流れに巻かれて緊張しながら答えた。ジュリアがアクセルを踏むと機は前方に進んで行き、リモコンを押してガレージのシャッターが開いたのだった。
さあ、やっとヒデとジュリアの旅のスタートです! 2人だけの旅、日本までどんな旅となるのでしょうか??