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白百合の祝福8

 ラウンデル支部長がボソリとつぶやく。


「そろそろって、何が、ですか?」


 私が質問をぶつけた瞬間、その時は訪れた。先ほどまで戦場を縦横無尽に駆け回っていたエレナ先輩が急にピタリと止まったのである。


「えっ?何が……」


 今の今まで息一つ乱さずに涼しい顔で無双していたエレナ先輩が急に膝から崩れ落ち、止まってしまったのだ。


顔から大量の汗が吹き出し、ハアハアと息を乱しながら地面にうずくまるエレナ先輩


顔からは血の気が引いていて、真っ青な表情で動けなくなっていた。


「チアノーゼを起こしている、一体何が……」


 エレナ先輩の突然の失速に頭が追い付かない、何が起こったというのだ?


 敵兵もエレナ先輩の異変に気が付き始める、先ほどまではパニックを起こし混乱していた敵兵だったが


鬼人のごとく暴れまわっていた相手が急に失速し、動けなくなっている状況を見て、一斉に襲い掛かってきたのである。


「ミランダ‼」


「あいよ、マジックシールド」


 ミランダさんは掛け声とともに右手の故をかざして魔法を放つ


するとエレナ先輩を囲むように半透明のドーム状の結界が展開された。


地面に両手を突き、動けなくなっているエレナ先輩に次々と攻撃を加える敵兵だったが


マジックシールドはその全てを跳ね返す。


「凄い、あれが魔法の盾……」


 初めて見る魔法に思わず見とれてしまう。


「マジックシールドもそう長くは持たないわ、あとはお願いね」


「わかった、行くぞ、リア‼」


「えっ、はい」


 支部長の掛け声とともに私も戦線に参加する、先ほどの


〈我々の出番は必ず来る、これはそういう戦いなのだ。いつでも戦えるように心の準備をしておいてくれ〉


という言葉の意味はこういう事だったのか。気が付くと前を走る支部長の左手にはいつの間にか剣が装着されていた。


「義手?しかもロングソード」


 左手のない支部長は、右手に普通の剣を持ち、左手にはロングソードをはめ込んで、二刀流の構えで敵陣に切り込んでいった。


「エレナに手を出す奴は俺が皆殺しにしてやる、死にたい奴だけかかって来い‼」


 支部長は二本の剣を振り回し、敵の兵を次々と切り倒していく


エレナ先輩がしなやかで、華麗な剣さばきだとすれば、支部長のそれは豪快そのものだった。


その姿はまるで小型の竜巻のようでもあり、斬られた敵兵の手足や首が吹き飛んでいく


敵兵の血で地面は真っ赤に染まり、血と臓物の臭いが辺りに充満していく、そうか、これが本当の戦場……


 それにしても支部長の戦闘力はすさまじいものであった


いくら相手が混乱しているとはいえたった一人であれほどの数を相手に無双状態をつづけていた。


「左手に剣を装着し二刀で戦う、それってどこかで……」


 私は敵兵と戦いながら頭を回らせていた、そして一つの答えに辿り着く。


「左手にロングソードを装着した二刀の剣士、そんな人物は二人といない。


もしかして支部長は元金獅子騎士団の騎士団長、【軍神】と呼ばれたソードマスター、あのベルハルト・ラウンデルなの?」


 よくよく考えればラウンデルという名前からもっと早く気づくべきだった


だが過去に【大聖剣舞祭】を二度も優勝し、国の危機を何度も救ったことがある【軍神】がこんな辺鄙な村にいるとは想像もできなかったのだ。


元々指揮官が殺され混乱していたロデリア兵達は、支部長の強さを目の当たりにしてパニック状態に陥る。


そして一人が逃げ出すと、それに釣られるように多くの敵兵が雪崩を打って敗走を始めた。


「ミランダ‼」


「わかっているって」


 支部長が何かの合図を送るように声をかけ、ミランダさんがそれに応える。


「蒼き生命の灯火よ、今まさに紅き情熱の糧へと誘わん」


 ミランダさんが魔法の詠唱を口ずさむと、国境沿いに植えてあった無数の青いバラが突然ウネウネと動き始める


そしてそれは鞭のように空を切り裂き、次々とロデリア兵の体に巻き付いていった。


「な、何だ?このバラは」


「ちくしょう、体に巻きついて取れないぞ」


「う、動けない」


 無数のバラに絡め取られ、身動きの取れなくなったロデリア兵は困惑していた


すると一人の兵が突然叫び声を上げる。


「ぎゃあああああああああーー――」


 よく見るとその兵の体には無数のバラの棘が突き刺さっていた、そしてその兵の体はみるみる内に干からびていったのだ。


「な、何が起こって……」


 現状を把握できない私が困惑していると、ロデリア兵を襲ったバラの花びらが青から赤く変化しているのに気づく


そして十秒もしないうちにそのロデリア兵はミイラとなってしまったのだ。



「アレはまさか、血を吸っているのですか?」


 私の疑問に支部長が小さく頷く。


「ああ、アレは吸血花の一種で【ブラディローズ】という花だ、それをミランダが魔術錬成で強化した物、いわば天然のトラップだ」


 ブラディローズに吸血され、一瞬で干からびた仲間を見てパニックを起こすロデリア兵


だがいくらもがいてもバラの呪縛からは逃れられない


まるで生きているかのように次々と敵兵を捕食している青いバラ。


抵抗も空しく、一人また一人とバラに血を吸われミイラと化していく、バラに捕らえられた敵兵が全てミイラと化すのに三分もかからなかった。


 完全に勝敗は決した、もはや逃げられないと察して無理を承知で向かってくる者や


祖国へ逃げ帰ろうとしてバラに捕まる者、それぞれであったが


ロデリア連邦の方向とは全く別の方角へと逃げ出す者も現れた、それを見た支部長がひどく慌てた様子で叫ぶ。


「いかん、そいつを絶対に逃すな‼」


 もはや勝利は確定しているのだから、逃げ出す者まで殺す必要があるのか?


という疑問はあったが、私は命令に従い逃亡兵を追う。逃亡した者も怯え切っていたせいか


足をもつれさせながら逃げていた為、すぐに追いつくことができた。


「貴様も一国の兵ならば正々堂々と戦え‼」


 逃げる敵兵追いつき、私が背中から声をかけると、相手はもう逃げられないと観念したのか


私の声に反応するようにクルリと反転し剣を振るってきた。


「甘い」


 怯えたまま闇雲に振り回してきた剣などくらうはずもなく


私はその剣をあっさりと跳ね飛ばし、相手の顔に剣先を突きつけた。


「ここまでだ、最後くらい潔く……」


 そう言いかけた時、私は目の前にいる敵兵を見て愕然としてしまう。


「た、助けてください……」

 涙目でガタガタと震えながら、尻餅をついて命乞いをする敵兵は、私よりもずっと幼い少年兵であったのだ。


「まだ子供じゃないか……」


 どうしてこんな年端もいかない子供が戦場に?私は咄嗟に地面に倒れている他のロデリア兵達に視線を移した。


先ほどまでは初めての実戦ということもあり、夢中で剣を振るっていて気がつかなかったのだが


今改めて見てみると倒されている敵兵は少年兵や老兵ばかりであった。


「死にたくない、助けて……」


 もう戦う気力も無くし、ただただ怯えている少年兵を見て、私はどうしても剣を振り下ろすことができなかった。


「行け」


 私は顔を背け、少年兵に逃げることを促す、少年兵は慌てて立ち上がると急いで逃げ出した。


「ダメだ、そいつを逃すな‼」


 支部長が叫ぶが、私はそれを拒否した。


「できません、逃げる者を後ろから斬るなど騎士道に反します、ましてや相手はまだ子供じゃないですか‼」


「説明している暇はない、早くそいつを」


「できません‼」


 頑なに拒否する私を見て、唇を噛む支部長。


「仕方がない、ミランダ‼」


「あいよ、ファイヤーアロー」


 ミランダさんが逃げ出した少年兵に向かって炎の矢を放つ


燃え盛る炎の矢が的確に少年兵の背中へと向かっていく、だが私は咄嗟にその炎の矢を剣で弾いた。


「どうしてそこまでするのですか、逃げる者まで殺す必要はないでしょう‼」


 だが支部長は私の言葉に耳を貸す気配もなく、再び叫ぶ。


「ミランダ、追撃を‼」


 しかしミランダさんは残念そうに目を閉じると、ゆっくり首を振った。


「もう射程外へと逃げられたわ……」


 その言葉を聞いて支部長はがっくりと膝を落とした。歴戦の勇士たる支部長が


どうして逃げた少年兵一人にこれほどまでこだわったのか、私には皆目見当がつかなかった。


「説明してください、何がどうなっているのか、私にはさっぱりわかりません」


 私が問いかけると、支部長はゆっくりと立ち上がり、力なく口を開いた。


「その件は店に帰ってからゆっくりと話そう、まずは後片付けだ」


 支部長の言葉に呼応するようにミランダさんがパチンと指を鳴らす


すると地面に横たわっている無数のロデリア兵の死体が青い炎に包まれ数秒後には跡形もなく消え去った。


先ほどまでここで激しい戦闘が行われていたとは思えないいつも通りの光景に戻る。


私はすでに気を失っているエレナ先輩をおぶってそのまま店へと引き返す。


 戦争など無縁の平和な所だと思っていたこの村で突如巻き起こった国防戦は


私にとっても衝撃的な出来事であった。周りには何事もなかったかのように真っ赤に咲き誇るバラが


一層不気味さを感じさせた、こうして私はエレナ先輩の抱える闇の一部を垣間見たのである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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