白百合の祝福4
その後、私は店から歩いて三分ほどの家を紹介され、そこで生活をすることになった。
その家は一年前に一人暮らしのお年寄りが亡くなり、今では誰も居なくなった空き家らしい。
「今は誰も住んでいないから、ここに住めばいいんじゃないかな?」
という理由らしい。所有権とか相続権とかどうなっているのだ?
いくら田舎だとはいえ、法治国家である以上、法や規則は守らなければいけないはずだ
そもそも軍人としての立場上、我々は法や規則を守らせる側のはずだが……
まあいい、もしそんなことを言うとエレナ先輩に〈じゃあ私と一緒に住もうよ〉とか言い出されても面倒だ。
あの人のことは嫌いじゃないが、家にいる時まであのテンションで来られると正直身が持たない
それに変に情が移ってしまうと離れる時にお互い辛くなるかもしれない、あの人とは一定の距離を保っていこうと決めていた。
翌日、私が極東支部へと出勤するとエレナ先輩がホクホク顔で待っていた
始業時間の三十分前に出勤したはずなのに既に万全の体制で待ち構えていたのだ。この人は何時に出勤してきたのだろうか?
「おはよ〜いい朝だね。じゃあ、今日はここでの仕事を教えるね。まずは掃除から、この店では……」
いつものように超ハイテンションで説明を始めるエレナ先輩、なぜ後輩に店の掃除を教える事がそんなに嬉しいのか、甚だ疑問である。
その後は店での商品の受け渡しと支払いについて、飲食店としての接客対応
仕入れ先の説明など店での働き方が主な説明であり軍に関しての説明は一切なかった。
予想はしていたがこれは軍人としての法規規定ではなく店員に向けての教育実習に過ぎないのでは?と思ってしまった、まあ今更ではあるが……
お昼は支部長がまかないを作ってくれた、右手一本の慣れない手つきで料理する姿は見ていても危なっかしさを覚える
〈マスターの料理は凄く美味しいのだよ〉というエレナ先輩の言葉もあって少なからず期待していたのだが、正直あまり美味しいものではなかった。
「口に合わないかな?」
「いえ、そんなことは……」
言葉は濁したがはっきり言って口に合わない、私が作った方が何倍も美味しいものが作れるだろう。
ふと横を見るとエレナ先輩が嬉しそうにバクバク料理を食べていた。
あの人にとってはこれが好みの味なのだろうか?ていうか、女性が二人もいるのだから、片腕しかない上司に料理をつくらせていないで自分で作れよ‼︎と心の中で叫んだ。
それから二日後には私が料理することとなった、ある意味これは自然の流れともいえよう。
それ以来、エレナ先輩が村人に私を紹介する際に〈料理も凄く上手くて、美味しいのだよ〉という説明文が加わった。
赴任してから三日間が過ぎたが当然の如く何も起きない、びっくりするぐらいの平穏な日々
〈早く母やゼナ騎士団長のように人々を守れるような強くて立派な騎士になりたい〉と思っている私はこの緩やかな日常に逆に苛立ちを感じていた。
そんなことを思っていた三日目の午後、店の扉が勢いよく開いて雪崩れ込むように一人の中年男性が入ってきた。
「た、助けてくれ‼」
ひどく慌てた様子で息を切らせる姿は、何か緊急事態が起きた事を予感させた。
「どうしました、何かあったのですか?」
私はすぐさまその男性に近づくと取り急ぎ事情を聞くことにした。まさか〈国境を越えてロデリア連邦の兵が攻めてきた〉とか
〈凶悪な魔獣が出現した〉とかの非常事態ではないのか?と思ったからである。
するとその男性は私の手を握りニマリと笑った。何だ、何があった?
すると次の瞬間、パーンという金属音が響きその中年男性が頭を押さえていた。
何事かと思って見てみればエレナ先輩がシルバーと呼ばれる金属製のお盆でその男性の頭頂部を叩いた音だった。
「いい加減にしなさい、ロッソさん。どうせリアちゃんの評判を聞き付けてきたのでしょう」
「ち、違うよ、エレナちゃん、俺は本当に殺されそうになったからここに逃げてきたんだ」
必死に訴えかけるロッソと呼ばれる中年男性だったが、エレナ先輩は終始呆れ顔のまま彼をジト目で見つめている。
「どうせまた浮気をして、奥さんを怒らせたのでしょう?」
「浮気なんかしていない、ちょっと若い子をデートに誘っただけだ
それなのにウチのカミさんは〈今度こそ殺す‼〉とか言って包丁を持ち出してきたのだよ、これって殺人未遂だよね?何とかしてよ、エレナちゃん」
「もういっそ殺された方が奥さんにとっても幸せなのじゃないかな?
さっさとウチに帰って奥さんに謝ってきなさい。いつまでもここに居座られても困るし
出ていかないのなら〈旦那さんがここにいますよ〉って奥さんに知らせちゃうよ」
その言葉を聞いたロッソさんは慌てて立ち上がると、そそくさと店を出て行く。
私は何が起きたのかわからず、ただただ呆然としてしまう。
「びっくりした?ロッソさんはいつもあんな感じなの。とんでもない女好きで浮気ばかりしているのよ。
私も何度かお尻を触られたわ。でも安心して、奥さんに殺されるとか言っているけれど
奥さんはロッソさんのこと凄く愛しているから、そんなことにはならないから。
私から見たらあんな浮気者のどこがいいのかわからないけれどね」
今起きた状況をニコニコしながら説明してくれるエレナ先輩
ラウンデル支部長やミランダさんも平然としている様子を見ると本当に日常茶飯事の出来事だったようだ。
それを知った私は安堵どころか沸々と怒りが込み上げてきた。
「リアちゃんも気をつけてね、ロッソさんはリアちゃんみたいな美人には目がないから
色々とちょっかいをかけてくるはずよ、あまりしつこいようなら私に言って……」
「いい加減にしてください‼」
私はエレナ先輩の言葉を途中で遮るように叫んだ。
「どうしたの、リアちゃん?急に大きな声を出して……」
突然ブチ切れた私に驚くエレナ先輩、支部長やミランダさんも私の急変に驚いていた。
しかし私の溢れ出る気持ちは止まらなかった。
「何なのですかここは、仮にも軍の施設なのですよ、軍人である我々は国民の生命と財産を守る義務があります
こうしている間にも色々な所で我が国の兵士や騎士は敵国と戦っているはずです。
それなのにあなた方は何をやっているのですか‼」
「だから私たちはこの村を守って……」
「この村に守る価値があるのですか?敵が攻めてくるわけでもない、こんな戦略的に何の価値のない村を守る意味が……
私は御免です。私には使命があるのです、母のように立派な騎士になるという使命が、こんなところであなた方と遊んでいる暇はないのです‼」
「ちょっと、落ち着いてリアちゃん。前にも言ったけれどお母さんはお母さんだよ
あなたはあなたの人生を生きればいい、そこまで頑なにならなくても……」
「先輩は黙っていてください、あなたなんかには私の気持ちはわからないですよ‼
私は一刻も早く立派な騎士にならなくてはいけないのです。
私は強い、そしてもっと強くならなければいけないのです。
戦って、戦って、戦い抜いて、もっと強くなって人守れる騎士になる……それが私の責務なのです
だからこんな所で油を打っている暇はないのですよ、能天気で頭がお花畑のエレナ先輩とは違うのです‼」
言ってしまった、自分の不満と鬱憤を何の関係もないエレナ先輩にぶつけて……最低だ、でも今の私は……
「リア、言い過ぎだ。エレナは……」
支部長が何かを言いかけた時、エレナ先輩がそれを制した。
「いいのよ、マスター。リアちゃんは強い、そしてもっと強くなりたい、そうよね?」
「ええ」
「じゃあ何で騎士団長はリアちゃんをここに来させたと思う?」
「知りません、〈今の私には学ぶものがある〉と言われましたが、正直ここにそんなものがあるとは思えません
おそらく命令を無視した私を左遷させるための口実でしょう」
私はふて腐れ気味に答えた、つくづくどうしようもない性格だとは思うのだが
ここで素直に頭を下げられるならば、こんな所に飛ばされてはいないだろう。
するとエレナ先輩から思わぬ提案があったのである。
「そう……わかった、じゃあ私と模擬戦をしてみる?」
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