白百合の祝福36
あれから三日が経ち、ゼナおばさんと白百合の騎士たちの国葬が行われることになった。
城の周りは国民で溢れかえり、誰も英雄の死を悲しんだ。
城の前にはゼナおばさんの銅像が建てられ、亡くなった白百合の者たちの慰霊碑も建てられる。
こうして二度も国を救い、命を落としたゼナおばさんと白百合の騎士達は伝説となった。
そして想定外のことが起きた、それは新しい白百合の騎士団長にエレナが、そして副団長に私が任命されたのである。
今回の活躍はもちろんだが〈二人の英雄の娘〉という肩書きは、国民を納得させるには都合がよかったようだ。
国民は若くて美しい新たな英雄の誕生を大いに歓迎し、喜んだ。
そう、あれほどエレナを忌み嫌い、排除しようとしていた国民は、その事を忘れたかのように無邪気に歓喜し
〈これで我が国は安泰だ〉と無責任に祭り上げたのである。
都合がいいというか自分勝手というか……まあ事情を知らない一般市民など、そんなものなのだろう
そう思わないとやっていられない。
国葬の時はエレナも喪主として立派に勤め上げた。この異様な持ち上げられ方には、私も釈然としなかったが
エレナが納得している以上、私がどうこう言うのは筋違いだと思い何も言わなかった。
「エレナ、喪主として立派でしたよ、疲れてはいませんか?」
つつがなく国葬が終わり、労いの言葉をかける、ゼナおばさんの死を乗り越え
なんとか元気を取り戻したエレナは私の言葉にニコリと笑う。
「うん、ありがとう、もう大丈夫よ。それにしてもようやく呼んでくれたね、エレナって」
「ええ、まあ……気に触るようでしたらまた戻しますが?」
「ううん、それでいいよ、いや、それがいいの。これからもよろしくね、リア」
「もちろんです、私たちはパートナー、唯一無二の相棒ですから、地獄の底までついていきますよ」
私たちは顔を見合わせ、思わず笑った。
「明日は新生白百合騎士団の任命式です、新騎士団長としての挨拶もあるでしょうし
しっかり頼みますよ、私も副団長として支えていきますから」
「うん、そうだね……」
どこか寂しげな表情で俯くエレナ。私たちは明日に備えて早めに寝ることにして
それぞれ用意された部屋へと戻った。
そして翌日、澄み渡る青空の下、新生白百合騎士団の任命式が始まった。
今回の件で猛虎騎士団は解体された為、警備と式典の為に金獅子騎士団が横一列に並ぶ中、儀式は盛大に執り行われた。
城の前には動けないほどの国民が詰めかけ、新しい英雄の勇姿を一目見ようと、ワクワクしながら今か今かと待っていた。
だがその国民の期待は見事に裏切られる。どういうことかというと、任命式にエレナは現れなかったのである。
国王陛下や宰相閣下を始め、関係者は何がどうなっているのかわからず、慌てふためき完全に混乱していた。
いつまで経っても姿を見せない新しい英雄に、駆け付けた国民たちは疑問と不満の声を上げ一時は暴動にまで発展しそうになる。
政府側は事態の収集に相当苦労したらしい。後からその話を聞いて、少し胸がスッとした。
同じ時刻、誰もいないはずの店の扉が開き、一人の人間が入ってきた
すべてのカーテンが閉められているので店内は薄暗く、しばらく留守にしていたせいか少し埃っぽい。
カーテンと窓を開けると、眩しい日の光と爽やかな風が入ってきて店内の空気を一新する。
それを味わうように目を閉じたのは、本来ここにいるはずのないエレナであった。
そしてゆっくりと店のカウンターに近づき、どこか懐かしむように店内を眺めていた。
「やっぱり、ここに来ていたのですね」
「えっ、どうしてリアがここに居るの?」
私が声をかけると、エレナは目を丸くして驚いていた。
「どうせこんなことだろうと思って、私も戻って来ていたのですよ」
「答えになっていないよ、任命式はどうするのよ」
「それをあなたが言いますか?」
「私は〈リアがいれば任せても大丈夫だろう〉と思って戻ってきたのよ、それを……」
「面倒な事は私に丸投げですか?」
「そういうつもりじゃないけれど……」
エレナは驚きと戸惑いで困惑している様子であった。
「まあいいじゃないですか、なるようになりますよ」
「そんないい加減な……でもどうしてリアまでここに戻ってきたの?あんなに白百合に戻りたがっていたじゃない」
「理由など簡単です、それはここにエレナがいるから……エレナがいるところが私の居場所です、何せ相棒ですから」
エレナは少し唇を震わせると、咄嗟に顔を逸らす。
「本当にそれでいいの?こんな田舎に戻ってきても、特に何もないよ?」
「ありますよ、エレナとの生活が、ミランダさんとの掛け合いが、支部長との会話が
そして村の人たちとの暮らしがあるじゃないですか。それよりもエレナの方こそいいのですか?
ゼナおばさんの意志を継ぎ、白百合を立て直すという仕事は?」
エレナはゆっくりと首を振った。
「私はふさわしくないよ、白百合はママが作ったモノ、私じゃない。
新しい白百合には突然現れた私が騎士団長をやるより、今までいたメンバーの中から選ばれるべきだよ」
「同感ですが、本当にそれでいいのですか?」
「うん、ママも納得してくれると思う」
予想はしていたものの、思い通りの展開に思わずうれしくなる
やはりエレナはこういう人間なのだ。こういう人だからこそ私は……
「騎士団長より雑貨屋の看板娘ですか?エレナらしいといえばらしいですね」
「何よ、それ?それって褒めているの?」
「褒めていますよ、つくづく面白い人だなあって」
「褒めてないじゃん、でも私には騎士団長よりも、この店があっているよ
帝都も何か息苦しいし、この村が一番だよ」
屈託のない笑顔で答えるエレナは本当に美しかった、少し前まで
〈早く強くならなければ〉と、焦っていた自分が馬鹿馬鹿しく思えるほどに……
「でもいいのですか?エレナがその姿で店に立てば、ロッソさんが毎日セクハラに来ますよ」
「うっ、それは嫌だな……せっかく年相応の体になったのに、待っているのがロッソさんのセクハラとか……」
「まあ、そのくらいは我慢するしかないですね、それともロッソさんを切り捨てますか?」
「そんな事、するわけないじゃん‼それに体が急に大きくなったせいで、何か邪魔なのよ……
リアに言ってもしょうがないかもしれないけれど」
エレナはそう言って両手で自分の胸を触る。だが、その言い回しに何か含みがあるようで、少しカチンときた。
「まあ、その牛みたいにやたら目立つバストがあれば
エレナが大好きな男どもが嫌でも寄ってきますよ、よかったですね」
「何、その言い方?もしかして嫉妬しているの?」
「するわけないでしょ‼そんなデカい胸部とか、戦いにおいて邪魔でしかないですよ
そもそもそんな胸部の脂肪の量でマウント取るとか、勘違いも甚だしいです」
「胸が大きいからって戦いに不向きとは限らないじゃん、それにこれからは戦いよりもお店優先
お店の看板娘としては女子力が高い方がいいでしょ?」
「何が女子力ですか、エレナは料理もできないし、片付けもしない
洗濯も下手だし、掃除も雑、ガサツだし、そんなあなたが女子力とか笑わせないでください」
「はあ?リアなんか女の子っぽいこと全然しないじゃん、剣術バカだし、可愛げはないし
女子力っていうのは見た目と印象が一番重要じゃないの?」
「私はこれでも男性から告白されたことが三回ありますよ、エレナはないでしょう?」
「うっ、それはないけれど……でもリアも男性と付き合った事はないよね?私と同じじゃん」
「全然同じじゃないです、女子としては見た目も中身も私の方が上ですよ」
「リアは私の事を尊敬しているって言ってなかったっけ?それなのにひどくない⁉」
「尊敬しているのは〈剣士として〉です、人間性はともかく、女子としては、ねえ……」
嫌味っぽく言うとエレナは不貞腐れたように後ろを向き、独り言のようにボソリと呟いた。
「リアなんか、おっぱい小さいくせに……」
「は?何か言いましたか⁉︎」
「別に」
プイッと横を向いてわかりやすく拗ねる、何だ、この会話は?おかしいな、少し前までいい感じだったはずなのに……
すると〈カランコロン〉という音とともに店の扉が開き、誰かが入ってきた。
「やっぱりアンタら、ここに居たか」
「仕方がないなお前らは、まあそうだろうと思ってはいたがな」
「マスター、ミランダも?どうしてここに⁉︎」
そう、入ってきたのは支部長とミランダさんだった。
「お二人とも戻って来てしまったのですか、式典には出席しなかったのですか?」
私の質問に、思わず苦笑いを浮かべる二人。
「どうしてと言われても……今回、俺は捕まって人質にされていただけだからな
そんな俺が式典にノコノコ出ていったら、単に恥の上塗りをするだけだ」
「で、でもミランダは今回大活躍だったじゃない、どうして帝都に残らなかったの?」
「あんな硬っ苦しいところごめんよ、それに私はアメリア人
帝都なんかにいたら、いつ刺されるかわかったものじゃないからね」
あっけらかんと答えるミランダさんと呆れ顔のエレナ
そんなどうでもいい日常会話がなぜか心地良く、心底ホッとしている自分がいた。
「さあ、しばらく店を空けていたからな、みんな開店準備だ、急げ」
「はーい」
支部長の号令を皮切りに、皆が同時に動き出した。店の看板を外に出し楽しそうに商品を並べるエレナ
金庫と帳簿を出して中身を確認する支部長、いきなりカウンターで酒を飲み出すミランダさん。
それぞれが見慣れた光景、いつもの空気、ああ、帰ってきたのだと心から思える瞬間だった。
「リア、奥からホウキと雑巾持ってきて、店内の掃除しよう」
「わかりました、でも掃除は私の指示に従ってください」
「何それ、またさっきの続き?」
「違いますよ、私の掃除の方が、効率がいいというだけです。そんなに構えないでください
お昼はエレナの好きなオムライスを作ってあげますから」
「やったーー、じゃあがんばるね」
嬉しそうに微笑むエレナを暖かく見つめる支部長とミランダさん
いつもの会話、この緩い空気感、取り立てて珍しい事じゃない日常
しかしそれがいかに大事な事なのか、ここで学んだ。ゼナおばさんのいう通り
〈今のお前には学ぶものがあるはずだ〉という言葉を今噛み締めている。ここに来て本当に良かった。
「あれ、今日は開けているの?」
扉の開く〈カランコロン〉という音とともに一人の客が入ってきた
りんご農家のノゲルさんだ。それを見た私とエレナは同時に口を開いた。
「いらっしゃいませ‼」
この話はリアとエレナ二人の絆というテーマで書きました。書いている間も結構楽しく自分では気に入っている作品です、皆さんにも楽しんでいただけたら幸いです。
次の作品も投稿していますので良かったらご覧ください。
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2535234/
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