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白百合の祝福35

「カッコつけているんじゃねーぞ‼」


 威嚇するように吠えるガバルディ、目の前に立つと本当に大きく、まるで飢えた猛獣だ。


「リア、その構えは……」


 どうやらエレナも戸惑っているようだ。それもそのはず、これはいつかエレナを倒すために密かに考案し


練習していた技なのだ。全身のバネを使い、全体重と全ての思いを込めて放つ一撃、その名も【一滴】


 そして、エレナや、ゼナおばさんは、ただ闇雲に攻撃していたのではなかった


全身を【ロンデリオンの鎧】で覆われているガバルディに隙はない


ならば攻撃を一点に集中して、攻略しようという意図があった事を、私は知っている。


狙うはガバルディの喉元ただ一点。目をこらして見ないと、気付かないほどの傷が目印として残っている。


全神経を集中し、私の全てをこの一撃に賭けると決心し、覚悟を決めた。


不思議と周りからは何も聞こえない、驚くほど静かだ。視界に入ってくるのは目の前の敵のみで


他には何も目に入ってこない。静寂の中で自分の心臓の音だけが聞こえてくるが、決して高揚はしていない


信じられないほど冷静な自分がいた。神経を研ぎ澄ましているせいか、全身の筋肉と神経の伝達すら感じられる


それどころか相手の呼吸と筋肉、そして血液の流れすらわかる気がした。


「死ね、クソアマ‼」


 巨大な斧を振り上げたガバルディが猛然と突進してくる、だが私にはその動きがスローモーションのように見えた


このまま目を閉じてもいいと思えるほど、相手の攻撃と思考が把握できた。


 ガバルディが大きく振りかぶり、力任せの凄まじい一撃を放つ。


体勢を低くしている私の脳天目がけ、唸りを上げて襲ってくる凶悪な凶器。


「今だ」


 私は相手の突進に合わせて【一滴】を放った、迷いなど微塵もない


かわされることも弾き返されることも考えていない、〈必ず貫く〉その思いだけ込めた、生涯最高の一撃。


 巨大な斧と母の剣が空中で交差する、ガバルディの斧が振り下ろされるほんの少しだけ前


私の剣が狙った喉元へと到達した、その差は一瞬、刹那の時、時間にしてコンマゼロ秒以下であろう、だが確実に私の剣が速かった。


〈ガキーーーン〉という甲高い金属音と共に砕け散る【ロンデリオンの鎧】、やった‼


「ば、馬鹿な、【ロンデリオンの鎧】が砕かれるなど……」


 驚きを隠せないガバルディ、だがこの一撃に全てを賭けていた私は、追撃には移れないため反射的に叫んだ。


「エレナ‼」


 叫びながら後ろを振り向こうとした時、エレナはすでに私の横を駆け抜けていく


あっという間にガバルディの懐に飛び込むと、もう必殺の間合いに入っていた。


「ちょ、ちょっと待っ……」


 慌てて何かを言おうとしていたが、それを待ってやる義理はない、次の瞬間にはガバルディの首が空中に舞っていた。


「お、お頭がやられた」


「畜生、許さねえぞ‼」


「お頭の敵だ‼」


 団長を討ち取られ、怒り狂った猛虎騎士団の連中は、私たちに向かって来た。


だが指揮官を失い統率の取れない残党共など、私たちにとってはただの烏合の衆でしかなかった。


その戦いを少し離れたところで聞いていたゼナおばさん、完全に目は見えなくなり


その命の灯火が消えかかっており、最後の時を迎えようとしていた。


「ローザ、見ているか?私たちの娘があんなに立派に戦っているぞ……これで私も……」


 そう言い残し、ゼナおばさんは息を引き取った


誰よりも国と白百合と娘のことを思い、戦い抜いた救国の英雄は、ここに波乱の人生を閉じ、相棒である母の元へと旅立って行った。


 金獅子騎士団の活躍もあり、クーデターは失敗に終わった。


反乱を鎮圧し、私たちが駆けつけたときにはゼナおばさんはすでに亡くなっていた。


地面に横たわる母の亡骸に、縋り付くように泣きじゃくるエレナ。


私も泣きたかったが、エレナを前にして私が泣くわけにはいかないと、必死で耐えた。


だが、とめどなくあふれてくる涙で視界が曇り何も見えない。


「救国の英雄、ベルトラン・ゼナ殿に敬礼‼」


シュナウゼルと金獅子騎士団の騎士達が一列に並び、ゼナおばさんに哀悼の意を表す。


クーデターの全てを鎮圧し終えた頃にはすでに夕方になっていた。


その嫌味なほど赤い夕日が、流した血の多さを物語っているようにも見えた。


 捕えられていた国王陛下と宰相閣下を解放し、改めて白百合騎士団の潔白は証明される。


だが騎士団長であるゼナおばさんをはじめ、白百合騎士団の総数二千五百人のうちの八割近く


千九百人以上もの犠牲者を出した。あまりにも失ったものが多い戦いであった。



 一夜明け、ずっと母親のそばから離れなかったエレナがようやく霊安室から出てきた。


血に染まった服を着替えることもせず、目を腫らし、随分と衰弱しているように見えた。


「大丈夫ですか?」


 私が声をかけるとエレナは力なく笑う。


「うん、大丈夫だよ」


 その言葉とは裏腹に、とても大丈夫とは思えない乾いた笑いを見せる。


その姿はあまりに痛々しく、ミランダさんは声もかけられないでいた。


「すまなかった、私が捕まったせいで……」


 解放された支部長が、エレナに深々と頭を下げる。


「ううん、いいのよ、マスターが悪いわけじゃないし……でも今日一日だけは、一人にしてくれないかな」


 もちろん反対することなどできない、エレナは再び霊安室へと戻っていった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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