白百合の祝福33
「エレナ先輩‼」
私は思わず叫ぶが、その声すら届いていない様子であった。
「ほう、ようやく時間切れか。随分とわかりやすいな」
大きな斧を右肩に担ぎながら、下卑た笑みを浮かべゆっくりと先輩に近づいていく。
「エレナ先輩、クソっ、どけ‼」
私は猛虎騎士団の連中に阻まれ、中々先輩の元へ近づくことができない。
ガバルディと先輩を一対一で対決させるために他の連中を引きつけておいたのがまさか裏目に出るとは思ってもいなかった。
倒しても、倒しても次々と現れる敵、焦りと苛立ちがどんどんと膨らみ続ける。
「じゃあなお嬢ちゃん、中々楽しめたぜ」
ガバルディは地面にうずくまり動けないエレナ先輩を見下ろし、残虐な薄ら笑いを浮かべている。
そしてその手に持っている巨大な斧をゆっくりと振り上げた。
「止めろーーー‼」
あらん限りの声で叫んだが、そんな言葉がガバルディに届くはずもなく
その断頭台のような斧が今振り下ろされようとしていた。
「マジックシールド‼」
ミランダさんの叫び声と共に、先輩の周りに半透明でドーム型シールドが展開された。
勢いよく振り下ろされた巨大な斧は、〈カーン〉という音を鳴らし、魔法結界に弾き返される。
「ハアハアハア、もう、完全に魔力が切れ……すっからかんよ」
残りの魔力を搾り出し、マジックシールド展開したミランダさんは
仰向けに倒れ込み地面に大の字になっていた。とりえず危機を脱した事に少しホッとした。
「マジックシールドがもっているうちに、早くエレナを」
思いのこもった言葉がこちらに伝わってきて、私は小さく頷いた。
「何だ、こりゃあ、魔法の結界か?うぜえな‼︎」
まるで食事を邪魔されたかのように、苛立つガバルディ。
仕切り直すように巨大な斧を両手で持ち直し、再び高々とかかげると、今度は目一杯の力を込めて振り下ろした。
勢いよく振り下ろされた斧は、甲高い衝突音を伴ってマジックシールドを直撃する
〈ピキッ〉という音と共にマジックシールドに亀裂が入る。
「嘘、私のマジックシールドが一撃で……何て馬鹿力なのよ」
あまりの怪力に驚きを隠せないミランダさん、しかし感心などしていられない
マジックシールドがそう長くはもたないことは誰の目にも明らかだからだ。
だが焦れば焦るほど上手くいかないのがこの世の常である。
気ばかり焦り中々前に進むことができない、次々と襲いかかってくる敵を薙ぎ払い
討ち倒していくが雲霞の如く湧いて出てくる敵に益々気が焦る。
ここまで何人の敵を倒してきたのか覚えていないが、そんな事はどうでもいい、早く先輩の元へ……
私のそんな気持ちなどガバルディにとってはどうでもいい事なのだろう。
不機嫌そうに目の前のマジックシールドに巨大な斧を何度も振り下ろす。
攻撃のたび亀裂はどんどんと広がり、いつの間にか半透明の結界はヒビだらけで真っ白になっていた。
そしてガバルディが六度目の攻撃を加えると、マジックシールドは〈パリーン〉という音を立てて砕け散った。
その瞬間、楽しそうな笑みを浮かべた。エレナ先輩は地面にうずくまりながらまだ動くこともできないでいる。
私は敵に阻まれ近づけない、魔力の切れたミランダさんは絶望的な表情でエレナ先輩を見つめていた。
もうダメだ……そんなセリフが頭をよぎる。
「殺すには少し惜しい見た目だが、回復されても面倒だ、プチッと殺してやるぜ、じゃあな」
残酷で非情な斧が先輩の小さな体に向かって振り下ろされた。私は思わず目を伏せる。
だがその時、〈キーン〉という金属音が鳴り響き、周囲から〈おおーー〉という歓声が上がった。
何が起きたのか?と恐る恐る目を開けると、エレナ先輩を庇うようにゼナおばさんが立ち塞がっていたのである。
絶体絶命の娘の危機に間一髪で間に合った救国の英雄は目の前の宿敵を睨みつけるように見上げていた。
「ほう、誰かと思えば国民的英雄様ではないですか、娘のピンチに駆けつけたという訳ですか?
美しい親子愛だねえ〜でも残念、おとぎ話とは違って、現実では、親子共々虫のように死んでしまうのでした……
のというがこの物語の結末だ」
ゼナおばさんの登場にもまるで動じないガバルディ、余裕綽々といった感じで相手を見下ろしていた。
「借り物の鎧で強者を気取るか、しれ者が。貴様の強さなどこの私が決して認めぬ‼」
「はあ?俺がいつテメエに認めてほしいと言った?寝言をほざいているんじゃねーぞ」
悪態を吐きながら、感情を乗せた力任せに大ぶりの一撃を繰り出す。
だが狙いはゼナおばさんではなく、動けなくなっているエレナ先輩だった。
巨漢のガバルディが、その怪力に任せて放った一撃は、もし直撃すれば絶命どころかエレナ先輩の小さな体は
原型をとどめないほど無惨な死体として弾け飛んでしまうかもしれない。
凄まじい質量の武器が殺気と狂気を伴い、無抵抗の少女の体に牙をむく。
唸りを上げて振り下ろされる凶器は一度放たれたら最後、受け止めることはまず不可能なのだ。
ガバルディがこの巨大な斧を主な武器としているのはその圧倒的な破壊力にある。
ガバルディほどの怪力の持ち主がこの斧で攻撃を繰り出せば
相手が普通に剣で受け止めようものならば、受け止めた剣ごとへし折られ、簡単に潰されてしまうのである。
唯一の回避手段はかわすこと。ガバルディの攻撃はスピードこそあるものの
超重量の武器を大振りで放つ為に隙も大きい、だから並の剣士ならばともかく
ゼナおばさんほどの腕を持っていれば攻撃をかわして反撃することはそれほど難しいことではない。
だが今回それはできないのだ。
なぜならばガバルディの狙いはあくまでエレナ先輩、ゼナおばさんがかわせばその巨大な凶器は
エレナ先輩を瞬時に肉塊へと変えてしまうだろう。
圧倒的に不利な条件下でゼナおばさんがとった手段は〈いなす〉という方法だった。
〈キーン〉という金属音が鳴り響き、振り下ろされた斧が軌道を変えられ地面を直撃する。
その瞬間ガバルディが驚きの表情を浮かべた。
「ほう、俺の攻撃の軌道を剣でそらしたのか?随分と器用な真似をするな。
だがそんな曲芸みたいな芸当がどこまで続けられるかな?」
サディスティックな笑みを浮かべ、ペロリと舌を出す。
そして次の瞬間、嵐のような連続攻撃が始まった。エレナ先輩を目標とした無慈悲で冷酷な攻撃が次々と繰り出される
その都度剣で軌道を逸らし、いなし続けるゼナおばさん。だが奴の言った事は残念ながら的を射ていた。
あれほどの威力と速度の攻撃に合わせて剣で軌道を逸らすなど、曲芸どころかこれも神業の域の技である
しかもそれを一度だけでなく、連続でおこなっているのだ。
一度でもタイミングか力加減を間違えれば、二人とも無残に潰されてしまうだろう。
それがわかっているガバルディは楽しくて仕方がないといった様子だった。
「オラオラオラ、まだまだいくぜ‼」
連続攻撃は益々激しさを増していく、ゼナおばさんも攻撃と攻撃の間に的確な反撃を加えるが
【ロンデリオンの鎧】は無情にそれを弾き返す。ガバルディにしてみれば動かない相手に向かって
攻撃のみに集中していればいいのだから、益々勢い付いていった。
これ以上ないほどの理不尽な攻防が続く中で、その様子を見ていたエレナ先輩は絶望的な表情を浮かべ小さな声でつぶやく。
「やめてよ、ママ……普通に戦ってよ、私のことはいいから……このままじゃあ……」
その先は言わなかった、いや言えなかったのかもしれない。
先輩ほどの達人であれば、今ゼナおばさんがやっている事がどれほど凄いことなのかも理解している
そしてそれがいつまでも続けられるようなモノでもない事も……
そしてその時は訪れた、ガバルディによる嵐のような猛攻により、ほんの一瞬体勢を崩したゼナおばさん
奴はそれを見逃さなかった
。
「これでトドメだ、死ね‼」
ガバルディによる渾身の一撃は、ゼナおばさんの体を直撃し、その巨大な凶器は左肩から体の中心近くまで到達した。
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