白百合の祝福31
指揮をとるゼナおばさんが独り言のようにつぶやき唇を噛む。その時である
突然後方から〈ワアーーー〉という大きな声が聞こえてきた、何事かと思いそちらに視線を向けると
ある集団が猛烈な勢いで突撃を仕掛けていたのだ。
私も先輩も何が起きているのかわからず呆然とその光景を見ていた。
私達と同じくゼナおばさんをはじめ呆気にとられる白百合の騎士達
すると息を切らせたミランダさんがこちらに近づいてきた。
「ハアハアハア、やっと来たか……女をこんなに待たせるなんて、しょうがないわね」
「どういう事ですか?あの集団は一体……」
「あれは金獅子騎士団よ、私が昨夜のうちに魔法のメッセンジャーバタフライを使って伝言を送っておいたの。
アイツらがどこにいるのか正確な位置はわからなかったから
〈ここら辺に居そう〉という場所にあてずっぽうで数匹放っておいたのよ。
賭けではあったけれど、どうやら無事に届いたようね」
この絶体絶命の状況で思わぬ援軍、しかもこれ以上ないほどの心強い味方の登場に湧き立つ団員達。
だが一つ心に引っかかることがあった。
「でもガバルディは金獅子騎士団を抑えるために、支部長を人質に取ったのですよね?
それなのにどうして金獅子騎士団は私達の味方をしてくれるのですか?」
ミランダさんは実にアッサリと答えてくれた。
「ああ、その事?理由は簡単、シュナウゼルにはその事を伝えていないもの」
「は?どういう事ですか?」
「どうもこうもないわよ、シュナウゼルには
〈ガバルディが国王陛下と宰相閣下を人質にとって軍事クーデターを画策している
白百合騎士団はこれを阻止するために戦うので、貴殿も早急に戻られたし〉とだけ伝えただけだもの」
まるでそれが当然とばかりにあっけらかんとしていた。
「えっ、じゃあ金獅子騎士団に嘘を教えたのですか?」
「別に嘘は言っていないじゃない、一部の情報を伝えなかったというだけの話よ。それに
〈店長が人質に取られている〉というのはあくまで推測でしょう?
確定情報じゃないモノを伝えなかった、それだけの話よ」
呆気にとられている私と先輩を尻目に、〈それのどこが悪いの?〉とばかりに言い放つ
こういうのを確信犯というのだろう。だが我々にとって有難い事には変わらなかった。
「ゲルハルト・シュナウゼル、ここに推参‼国家に仇なす反逆者に正義の鉄槌を喰らわすため戻ってきたぞ、ガバルディはどこだ‼」
騎士団長であるシュナウゼルを先頭に、凄まじい勢いで突き進む金獅子騎士団。
元々我々を殲滅するために包囲陣を敷いていた正規兵達は、金獅子騎士団に横腹をつかれる形となり
次々と打ち倒されていった。
「凄い……」
金獅子騎士団の戦いを見るのは初めてで、その強さに思わず息を呑む。
その統率の取れた戦闘力は凄まじく、狂気に染まっている正規兵などものともしない。
まるで農作物でも刈り取るように群がる正規兵を斬り倒し、破竹の勢いで進撃していった。
するとその勢いに釣られるように、私達の周りにいた正規兵も金獅子騎士団の方へと向かって行ったのである。
それを見たゼナおばさんが剣を高々と掲げ大声で叫んだ。
「千載一遇のチャンスだ、今こそガバルディの首をとるぞ、私につづけ‼」
意気消沈しかけていた白百合の騎士達の目に力が戻る。
〈おおーーー〉という声と共に再び息を吹き返した。
一方で、思わぬ展開に焦り始めるガバルディ。怒鳴りつけるように部下に問いかけた。
「どうして金獅子騎士団の奴らがこんなに早く帰ってくるのだ⁉︎
それに何で正規兵の奴らは、白百合の連中を放っておいて勝手に金獅子騎士団の方へと向かって行きやがるのだ?」
苛立ちを隠せず、吐き捨てるように問いかけた。部下達は顔を見合わせ
どう答えていいか模索していたが、ガバルディの顔色を伺うように恐る恐る答える。
「奴らがどうしてこんなに早く帰って来たのかはわかりません。
ですが正規兵の奴らは薬物投与により判断力が低下しており、一種の興奮状態になっています。
ですから本能的に、既に死に体の白百合の連中より、勢いのある金獅子騎士団の奴らの方に自然と向かっていってしまったのだろうと思われます」
部下の言葉に思わず舌打ちする。
「ちっ、薬物投与が裏目に出たという訳か、命令を聞かない兵士とか、クソの役に立たん」
悪態をつきながらも、ジッと戦場を見つめながら考え込んでいるようだった。そして吹っ切れたように次の命令を下す。
「人質として捕らえているラウンデルのジジイをさっさと連れて来い
金獅子騎士団への抑止力になるはずだ。それと正規兵はもうアテにできない
俺たち猛虎騎士団で白百合の連中を殲滅する。相手は数も少ない脆弱な女だ
まとめてなぶり殺しにしてやる、いくぞ、野郎共‼」
〈おおーーー〉という歓声と共に猛虎騎士団が動き出す。
当初の作戦通りようやく白百合騎士団VS猛虎騎士団という形に持ち込むことができた。
しかしここまでの戦いでかなりの損失を出している我々はまともに戦える人間は五百人ほどしかいない。
それに対し猛虎騎士団は無傷の精鋭が三千人いて状況的には圧倒的に不利である。
だがようやくガバルディの首までもう一歩というところまで来たのだ。
耐えに耐えてようやく訪れたチャンス。体は熱くなり興奮が抑えきれない。
私ははやる気持ちを抑えながら腰の剣を引き抜き戦闘準備に入る。
「ここからは私も戦います、絶対にガバルディの奴をエレナ先輩の前に引きずり出してやりますから」
私が思いの丈を伝えると、エレナ先輩も自分の剣を引き抜いた。
「私も戦うわ」
決意のこもった言葉と眼差しで、私を見つめてきた。
「えっ、でも先輩には限界時間が……」
「大丈夫よ、リアちゃんとママの援護があれば、この人数ならば
八分くらいで目標のガバルディのところまで辿り着けるはず。残り二分あればガバルディを倒してみせるから」
決意と自信に裏打ちされたその言葉と目を見た時、私は反論する必要性を感じなかった。
初めてこの戦いに参戦することになった私達は今まで溜め込んできたモノを一気に吐き出すかのように暴れ回る。
とりわけエレナ先輩の戦いぶりは凄まじく、以前見た時よりも更に凄みを増しその動きは完全に人間の域を超越していた。
小柄な体をさらに低くし、たった一人で敵のど真ん中へと飛び込んでいく。
その姿はさながら猫科の動物を彷彿とさせた。しなやかな体捌きと敏捷な動きで次々と襲い来る攻撃を紙一重で交わし
一陣の風のように敵の横をすり抜けて行く。そしてすれ違った敵は
何が起きたのかも理解できないまま首筋から血を流してバタバタと倒れていったのである。
まさに目にも止まらぬ速さと強さ、腕っ節自慢の猛虎騎士団の連中が
何もできないまま意思のない肉塊へと変えられ地面に崩れ落ちていく。
それは人ではない何かの所業、大袈裟な言葉ではなくまさに鬼神の如き強さを見せつけたのである。
「お、お頭……あの小さい女は何ですか⁉︎」
勇猛で怖いもの知らずの猛虎騎士団の連中も、エレナ先輩のあまりの強さにビビり始める
人数的には向こう側が圧倒的に多いが、形勢は完全にこちらに傾いていた。
今回エレナ先輩は上から下まで全身真っ白な白装束で戦いに挑んでいた
それが白百合と共に戦うことの意思の表れなのか、死に装束としての決意の証明なのかはわからない
だがこれほど敵の血を流させながらも、一滴の返り血も浴びていないのだ。
それがどのくらい凄いことなのか私には想像もつかない
しかしこんなことができるのは世界でもエレナ先輩一人だけだろう。
純白の衣装を身にまとった可憐な少女が、華麗に戦場を舞う姿は畏怖を通り越して神々しさすら覚える
それは見る者にとって、戦装束というより花嫁衣装に見えるかもしれない。
軽々しく使う言葉ではないがこれが〈神業〉というやつなのだろう。
「あんな小娘一人にどいつもこいつも情けねえ、もういい、あの小さい女は俺が片付ける。
お前らは他の白百合の相手をしろ‼」
痺れを切らしたガバルディが部下達に命令を下す。その瞬間私は心で〈勝った〉と叫んだ。
いくらガバルディが強かろうと、エレナ先輩にかかれば一分ともたないだろう。
猛虎騎士団はガバルディの絶対的な強さによって成り立っている組織だ
つまり首謀者である奴さえ倒せばこの軍事クーデター計画は瓦解する。私は思いを込めて叫んだ。
「エレナ先輩、他の雑魚どもは私が引き受けますから、ガバルディを‼」
前を走っていたエレナ先輩は首だけこちらに振り向き、ニコリと笑って小さく頷いた。
敵の陣形が真っ二つに割れ、まるで誘っているかのように道ができあがる
そこを疾風の如く駆け抜けるエレナ先輩、向かう先には銀の全身鎧に身を包んだガバルディが不敵な笑みを浮かべながら待ち構えている。
「逆賊ガバルディ、貴様の野望もここで終わりだ、覚悟‼」
「ちょこざいな、小娘風情に何ができる。ガキは家でおママごとでもしていな‼️」
あっという間にガバルディの元へと辿り着いたエレナ先輩は勢いそのままに体勢を低くし
上目遣いで敵を見上げながら、一気に間合いを詰めにかかる。
それに対し、斧のような巨大な武器を振り上げ、エレナ先輩を見下ろしながら狙いを定めるガバルディ。
小柄な先輩と巨漢のガバルディでは大人と子供以上の体格差がある
エレナ先輩から見れば相手は山のように大きく見えるだろう。
だがそこで怯む先輩ではない、減速どころかさらに加速し、躊躇することなく一気に間合いを詰め懐に飛び込んだ。
「消し飛べ、ゴミムシが‼」
ガバルディの振り上げた巨大な斧が、唸りを上げてエレナ先輩に向かって振り下ろされる
巻き起こる風圧だけで先輩の髪がなびくほどの凄まじい一撃
だがそれも当たらなければ風を起こすだけの虚しい空振りである。
もちろんエレナ先輩がそんな大雑把な一撃を食らうはずもない
体を捻ってその凄まじい一撃をかわすと、その勢いのまま
きりもみ状に体を回転させガバルディの首筋に正確な一撃を与えた。
「勝った‼」
私は思わず叫ぶ、エレナ先輩の放った一撃は、ガバルディの全身鎧の繋ぎ目部分に滑り込ませるように入ったのだ。
どれほど全身を鎧で守ろうと、鎧には必ず繋ぎ目がある、そこに正確な一撃を加えられるエレナ先輩には
全身鎧など全くの無意味だった。私は勝ちを確信し、思わず顔がほころぶ。
だが次の瞬間、信じられないことが起こった。〈パリーン〉という音とともにエレナ先輩の剣が砕けたのだ
信じられないとばかりに大きく目を見開くエレナ先輩。
「残念だったな、お嬢ちゃん」
ガバルディはニヤリと笑うと、懐に飛びこんできていたエレナ先輩を無理矢理引き剥がそうと
腕を振り回して払い除けた。
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